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  2020年燃費基準の効果予測 
  09.04.2011
    



 昨日は、台風12号が四国を手前にしながらモタモタしていたとき、名古屋大学へCREST研究のサイトビジットで出かけていた。わざわざ強風にも耐えそうな長い傘を持って行ったのに、それがお守りになったのか、雨は降らなかった。

 先週の日曜日の朝にインドネシアから帰国。現地では、ちょっとお腹がおかしいか、と思った程度だったのだが、ほとんど問題なく帰国し、実際、日曜日、月曜日と何事も起きず平気だった。ところが、火曜日あたりから多少不調になって、その状況が金曜日まで4日間ほど継続した。なんらかの細菌もしくはウイルス感染であったと思われるが、こんな経験は久しぶりのことである。対応は、毎度のことながら、通常に生活しつつ自然治癒のみ。今回の原因を考えると、アイスコーヒーなどで氷を摂取したためか。しかし、このところ途上国に行くチャンスが減ったのが本当の原因だろう。

 部屋から雲の流れを見ていたら、突然、瑞雲あるいは彩雲(要するに雲の虹)が見えたので、望遠レンズを付けて撮影しました。400mmはちょっと大げさすぎたようです。


9月4日 17時頃 目黒区より

 さて、本日の話題は、総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会自動車判断基準小委員会・交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会自動車燃費基準小委員会という長い長い名前の委員会2つが合同した会議で決めた中間とりまとめ案が出たことである。

 その内容は、2020年の自動車燃費の基準を格段に向上させることを意図した案である。現在、パブコメ中で本文は、ここにあるので、ダウンロードしてお読みいただきたい。
http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110819001/20110819001-3.pdf



C先生:どうやら2020年に向けて、世界でもっとも高度な自動車燃費基準案が提出されたようだ。その概要を紹介するのが、本日の目的だ。

A君:現在2010年基準が達成され、その先のものとして2015年基準が存在していて、これまでの10−15モードに加えて、JC08モードというエンジンが冷えている状態からの走行モードと暖機完了後のモードとを1:3で重み付けして平均したモードに対する新基準が採用されます。

B君:しかし、現状は、と言えば、自動車メーカーによっては、特に、輸入車は、JC08モードでの燃費がまだ公表されていないのが大部分という状況。

A君:これまで、燃費基準に対しては、かなり早い段階で達成されてしまうというのが普通だった。もしも、あるメーカーの自動車が、目標とされる年度になっても燃費基準値が達成されていない場合には、そのメーカー名の公表や勧告、さらには命令が行われ、命令にも従わないと罰金が課せられる。罰金は僅か100万円。

B君:日本国内の状況から言えば、メーカーは、命令に従わないと大変だ、と思うのが普通だった。少なくとも日本メーカーはそうだった。しかし、今後、100万円程度の罰金なら支払っても良いと考えるメーカーが出てくることが予想される。

A君:そのためかどうか、今回の2020年基準では、米国で行われているCAFE方式が採用されることになった。CAFEとは企業別平均燃費基準方式(Corporate Average Fuel Economy)が採用されることになった。

B君:重量、正確には等価慣性重量というもので、車は15階層に分類される。これを重量区分と呼ぶ。あるメーカーが様々な車を生産し出荷したとして、出荷した車の燃費の荷重調和平均燃費値、これをCAFE値と呼ぶが、これをまず計算する。その出荷台数と燃費目標値をもとに、同じようにして算出したCAFE基準値と比較し、CAFE値がCAFE基準値を下回らないことが要求される。

A君:調和平均とは、燃費の場合であれば、その逆数を台数に応じて加重平均し、その結果の逆数を求める方法です。

B君:なぜ調和平均などを用いるのか。

A君:それは燃費をそのまま平均しても余り意味がないから。
 例えば、2台の車を持っている企業があったとして、1台(A車)の燃費が5km/Lだとして、もう1台(B車)が20km/Lだとする。単純に考えれば、(5+25)/2で、平均燃費は12.5km/L。これで良いのだろうか。
 この2台を月に1000kmずつ走らせると、A車は200Lのガソリンを消費するが、B車は50Lのガソリンを消費する。合計で、250L。走行距離は合計2000kmだから、2000km/250L=8km/Lが本当の意味での平均燃費ではないか。
 この8km/Lという数値を出すには、調和平均という方法を用いなければならない。その値をXとすると、
 1/X=(1/5+1/20)/2

B君:ガソリン車とディーゼル車、LPガス車などはどうやって換算するのか。

A君:これも物理的に妥当な換算だと思われる、エネルギー換算、すなわち、発熱量を用いて同等の燃費目標値を定めるとされています。具体的数値としては、ディーゼル車は、燃費値を1.10で割る。LPガス車は、燃費値を0.78で割る。

B君:もう一つ、非常に大きな変化があったと思う。これまで、ハイブリッド車の燃費は良いに決まっているから、その車がハイブリッド車だということだけで、エコ車として認定されているという状態だった。
 しかし、今回、ハイブリッド車も通常の車となって、CAFE値の計算に含まれることとなった。そして、燃費目標値も、ハイブリッド車の一定程度の導入を前提として決められた。

A君:しかし、電気自動車、プラグイン・ハイブリッド車は、依然として特別扱い。

B君:さて、2020年基準の数値はどう評価すべきなのだろう。

A君:取り敢えず新旧比較をしますか。まず、次の表に、2020年基準値と2015年基準との改善率などを示します。



表 2020年基準値


表 2015年基準と2020年基準の比較 改善率は、重量車ほど高い

B君:重量車は結構厳しいことになる。車の車重を減らすことで対処するという方法が重要になるということなのかもしれない。

A君:日本車全体として小型軽量化を目指すというのは正解だと思いますから、まあ、そういう方向性なのでしょう。

C先生:さて、車の開発は、かなり長期間かかるというので、今後、5〜6年で、相当の技術開発が行われなければならない、ということになる。特に、重量車は、ほとんどをハイブリッド車にする以外の選択肢は無いように思える。

A君:小型車であれば、燃費改善率が15%前後とそれほど大きい訳ではないので、様々な技術を導入して対応することも可能。

B君:今回ご紹介した文書にも、p20に燃費改善要因と燃費改善率という表がある。これを次に示す。


表 燃費改善要因及び燃費改善率

B君:例えば最初のエンジンの改良だと、ミラーサイクルを導入し、電磁動弁系にしただけでも、16%の改善率が期待できて、その他、細々した技術を導入することで、20%ぐらいまでの改善はなんとでもなりそうな気がする。さらに、アイドリングストップを入れれば、25%改善は実現可能なのではないだろうか。

A君:となると、1.5トン級の車までは、ハイブリッド化しなくても、達成が不可能ではない。それ以上になると、やはりハイブリッド化が必須という考え方で良いのでしょうかね。

B君:多分そんな解決方法になるのではないだろうか。

C先生:現時点での燃費基準は2015年基準だが、その基準への適合状況が国土交通相から発表されている。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/index.html
 これらのデータを眺めて、各社がどう対応してくるか、これを予想、いや、予想まで行かないだろうから、想像するか。対象はガソリン乗用車(普通・小型)で行くこととする。この資料には、すでにどのような技術が搭載されているか、も記述されている。その表記法については、
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/koumoku.pdf
を参照していただきたい。

A君:困ったことに、2010年基準の10−15モードがまだ生き残っていて、JC08モードのデータを出していないメーカーがまだまだ多い。特に、輸入車では、それが目立ちます。

B君:10−15モードの値とJC08モードの値の変換は、厳密には不可能。しかし、エイヤで良いのなら、大体10−15モードを0.9倍すればJC08の推測値としては使えるのではないか。

A君:すでにぎりぎりまで改善されてしまった車は、JC08にすると低下率が高いような気はしますが、これから比較するのは、現状で余り改善が進んでいない車種が多いので、そ0.9倍で良いのではないですか。

B君:それでは、そろそろ未来予測ではなく、未来想像を始めるか。
 まずは、ドイツ車がどうなるか。メルセデス・ベンツの場合
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou/mercedes.pdf

A君:メルセデスも、10−15のデータしか出していないのですね。導入技術としても、極めて保守的で、Aタイプ、Bタイプなどでは、CとEPすなわち、自動無段変速と電動パワーステアリングを導入している程度。2010年基準で、燃費達成レベルが105止まり。もしもJC08だとすると、A180クラスの小型車だと11.7km/L。2020年基準が19km/Lなので、遠く及ばない。これはエンジンなどの全面的な見直しが必須でしょう。
 CクラスやEクラスになると、CGIが燃費達成率が120%台になっていますが、この基準で言えば、150%達成ぐらいが求められるので、これも難しい。

B君:ドイツ車は、一般に燃費が良くない。しかし、本当に良くないか、というと、10−15モードに合わせたチューニングをしていないという側面もあるようで、実燃費がカタログ値から余り落ちない。しかし、カタログ値が勝負になるのが、燃費基準というものなので、ドイツ車は相当色々な対策をしないと、日本国内で売るのが難しくなるのではないだろうか。特に、重量級が大きな改善が必須なので、さてどうするのか。

A君:メルセデスにも、ハイブリッドが無い訳ではないですね。S400HYBRIDというものがある。しかし、2010年燃費が11.2km/Lか。これをJC08モードに変換して、約10km/L。2020年基準値が12.7km/Lなので、このままでは通らない。

B君:ちょっと見ると、BMWも厳しい状況のようだ。やはり、ドイツ高級車に厳しいという基準が2020年基準なのかもしれない。

A君:同じドイツ製ながら、フォルクスワーゲン・アウディグループは、TSIという技術があって、このところ、そこそこの燃費ですね。これは、エンジンをターボとかスーパーチャージャーを付けて小型化して、軽量化をすると同時に、燃費を稼ぐもの。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou/audi.pdf
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou/volks.pdf

B君:例えば、1.4LのTSIエンジン搭載車は、2010年基準で125%を達成している。例えば、アウディのA1の1.4TFSIだと、19.4km/Lと立派な値ではあるが、JCO8換算だと17.5km/Lぐらい。2020年基準が20.3km/Lだから、これは多少の改善でなんとか行ける。

A君:その車が導入している技術が、I,V,D,EP,AM,Bとなっていて、アイドリングストップ、可変バルブタイミング機構、直噴エンジン、電動パワステ、自動MT化、充電制御とかなり多数に登ります。まあ、小型車は燃費競争が逆に厳しいとも言えますから、当然なのかもしれないですが。

B君:突然、ヒュンダイを見る。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou/hyundai.pdf
このメーカーの車は、2010年基準すら達成していない。低排出ガス認定レベルも、ほとんど達成していない。燃費改善技術も、可変バルブタイミングがちょっとあるだけ。

A君:米国では、価格面での優位性で販売を伸ばしているヒュンダイだが、燃費技術ではまだまだ。日本は、ヒュンダイの侵入を阻止すべく、2020年基準を決めたとも言えそうな感触がありますね。

B君:プジョーを見るか。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou/peugeot.pdf
 このメーカーも、燃費をまだそれほど重視しているという訳ではなさそう。日本に入れるには、相当苦労することだろう。

A君:ルノーはどうでしょう。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou/renault.pdf
まあ、フランスは大体同じようなもの。

B君:国によって導入技術レベルが違うのかもしれない。ドイツはメーカーによって違うことが明らかだったが。

A君:イタリアを見ますか。フィアットは予想外。
http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/gjou/fiat.pdf
 かなりアウディと同程度の燃費技術を導入している。

B君:たしかに、結構良い線を行っている。このぐらいなら、多少の改善で、2020年基準に適合できるかもしれない。

A君:米国車も、燃費向上に関して、ほとんど技術導入をしていない。相当のコスト高になることでしょうね。もっとも、日本で買う人は極少数派。

B君:ということで、これまでの検討から見て、2020年基準の設定は、ドイツ車対策、ならびに、ヒュンダイを意識した対策なのではないか、と想像できる。

A君:国内メーカーの比較もやりますか。

B君:日本国内も、軽重点のメーカー、小型車重点のメーカー、全クラスカバーのメーカーと違うので、戦略の違いがでるでしょうね。

C先生:それはその通り。しかし、個別のメーカーに対して特別の考察をすることは、特に必要ないだろう。B君が述べているように、傾向が明らかだからだ。小型車は、多少の技術の追加で、2020年基準を満たすことが不可能ではなさそう。ただし、かなりの開発費が必要だし、結果的にコスト高になるから、メーカーの実力が明らかになってしまうだろう。
 一方、重量車については、ハイブリッド車をどのぐらい導入できるかに掛かってくる。したがって、トヨタ、ホンダが有利であることは間違いがない。他のメーカーは、ハイブリッドを開発するか、あるいは、重量車は諦めるという戦略にでる以外に方法が無さそうだ。
 2020年基準が達成されるころになると、2.5L級以上は、ほとんどがハイブリッド車になっているような気がする。

A君:電気自動車やプラグインハイブリッド車をどのように導入し、どのような取り扱いになるのか、そのあたりが決まらないと、本当のところは分からないような気もするのですが。

B君:ただ、電気自動車は、もともと原発頼みの車だった。深夜電力を活用して走るのが電気自動車だったからだ。日本の電力の状況がどうなるかによって、また状況が大きく変わることだろう。

C先生:その通りだろう。当面、深夜電力の料金体系が崩れるとしたら、電気自動車はしばらく苦しい。その後、不安定型の自然エネルギーである風力と太陽光がかなり普及し、これ以上電力網に入れることができない、という状況になるかどうか、それが分かれ目かもしれない。もしそうなれば、不安定型の自然エネルギーだけで、充電用不安定電力供給電力網が別途出来上がる可能性が無いとも言えない。
 いずれにしても、電気自動車はしばらく様子を見る必要がある。プラグインハイブリッドは、当初の予定通りであれば、来年の始め頃には、トヨタがプラグインプリウスを売り出すはず。それがどのぐらい売れるか。むしろ、どのぐらい生産できるかによって、普及台数が決まる可能性が高い。プリウスαの7人乗り仕様が品薄だが、それは、このモデル用のリチウム電池の供給が不足しているからだと言われているので、もしも、似たような状況が起きるとしたら、プラグインプリウスの普及台数は、極めて限定的ということになる。
 ということで、2020年燃費基準について、色々と見てきたが、日本のハイブリッド技術が、ひょっとするとドイツ車などのヨーロッパ車に対して、非関税バリアーの役割を果たすチャンスがやっと来たというのが、そのもっとも重要な意味なのかもしれない。