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   2020年のCO2排出量予測
        07.14.2013
        1990年比プラスマイナス0が良いところ?




C先生:東日本大震災以来、地球温暖化防止のために努力するという「人類の義務」を忘れたフリをしている日本人であるが、実のところ、状況は悪くなっているし、国際的圧力は相当高い。米国は、2020年の排出量を、2005年比で17%削減すると行動計画の中で宣言。発電所に対して新たな厳しい規制を導入し、石炭・石油を天然ガスに切り替えることを促す。水力、太陽光などが再生可能エネルギーの主力になるようだが、いずれにしても倍増計画を実現する予定。原子力は、出力が30万kW以下の小型モジュラー炉を導入を推進するつもりのようだ。この炉は、途中で燃料を交換することをしないで、生成するプルトニウムも燃料として使う方式。非常事態になったらスッポリ水漬けにするといった安全面での対策も、通常の軽水炉よりは、取りやすい。

A君:これまで環境・エネルギー後進国だと日本の環境派が批判してきた米国に比べても、いまや数歩遅れてしまった感触。それが日本の現状。

B君:東日本大震災、福島原発事故の影響で、2015年までは対策遅れになっても免罪符があると言えなくもない。しかし、2015年には、2020年以降の枠組みが決定される予定なので、2030年(?)目標を作らなければならない。

A君:もう検討するにもほとんど時間がない。各国が自主的に削減目標を設定し、事前に互いに審査する案で先進国の意見がすでに一致していて、EUは、2014年1月までに次の目標を作るようにと主張、米国は2015年6月頃までに作ると主張している。
 一方、途上国は、先進国の自主的な案では緩いと反発している。そのこころは、途上国にもっと金を出せ。

B君:日本の現状を見れば、一般市民は誰も気にしていないビジネスマンに未だに存在しているかなり多数は、温暖化懐疑論を未だに信じている
 当面、2020年の目標も一応作る必要があって、その数値としては、鳩山政権のときの1990年比25%削減という信じられないほど非現実的な目標は、ゼロベースで見直すことにはなっているけれど、具体的な数値は決まっていない。

A君:結論を先に述べれば、1990年比プラスマイナスゼロぐらいが、原発ゼロならかなり頑張った目標値。これは、2012年度までの第一約束期間のマイナス6%とも比較できない惨めな値。

C先生:2020年の削減目標については、稼働している原発の基数が大きなパラメータになってしまうことは、すでに
http://www.yasuienv.net/NPSGHG.htm 別ウィンドウで
で議論をしている。今回、原発を除外したときの、2020年への見通しを、もう少々詳細に検討してみたい。

A君:前回は、エイヤとばかり、2020年のGHG排出量が12億5千万トンになると推測して、これを元に、稼働している原発の基数をパラメータとして、式1と式2を出したのですが、今回は、その12億5千万トンが本当に可能なのか、といった観点からの検討をすることになります。エイヤと出した値だとは言っても、それなりの検討はしているのですが、その詳細版ということになります。

式1:
温室効果ガスGHG排出量(百万t-CO2)
=1250−3.7×原発稼働基数(100万kW級)


式2:
削減率%
=10/12.6+3.7/12.6*原発稼働基数(ただし100万kW級)
≒0.8+0.3*原発稼働基数(ただし100万kW級)



検討の方法論

B君:さて、どのような方法論を採用するのか、というところから。

A君:一応、実績ベースで行きたいと思います。2007年度から2011年度までのエネルギー需給実績を資源エネルギー庁のデータから取ります。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/result-1.htm 別ウィンドウで
 1990年度を100とした指数で表現されているデータです。

B君:この図が隣にあるけれど、なぜか、この図は1995年度を100とする指数表示になっている。


図 GDPと一次エネルギー国内供給  資源エネルギー庁

A君:このデータを使う場合には、いくつか問題があります。まず、2011年度までしかデータがないこと。2011年は東日本大震災の年ですから、かなり特殊な年。本当のところは、2012年度、2013年度ぐらいの状況を見ないと、将来の予測がかなり難しい。
 勿論、2008年のリーマンショックによって、2009年は大きな影響を受けていますから、ここ数年間のデータは余り信頼出来ないということです。

B君:2007年までは、まあ、なんとか動向を見出すためのデータとして使える。2007年までのデータから何を読み取るか。

A君:まずは、この図が1995年度を100としているお陰で分かり安いのですが、1995年頃から、GDPはほぼ直線的に伸びているのに、一次エネルギー供給量が平坦になっていることです。1990年から1995年までの6年間は、GDPの伸びの方が、一次エネルギー供給量よりも小さいことと対象的。

B君:GDPが伸びるには、一般にエネルギー消費量の伸びが必須で、もっとも簡単には、GDP∝エネルギー消費量、と仮定することが半ば常識となっている。

A君:1990年は、バブル経済まっただ中だったので、その10年で起きたことは、と言えば、車の台数が1.6倍ぐらいになった。軽も増えたが、普通車は大型化した。一家に1台だったエアコンが、複数台になった。しかし、普通車は燃費がもろに悪くなり、エアコンの燃費も丁度それまで使っていた特定フロンが使えなくなって、新しい冷媒への適応などをしなければならない時代だったためと、高効率化などが見向きもされなかった時代だったので、効率は95年ぐらいまで向上していない。

B君:その1995年ぐらいから、日本の一次エネルギーの国内供給量がほとんど増えなくなった。その理由は、1992年の地球サミットがきっかけとなって、地球環境問題が世間に知られるようになった。1997年の京都議定書もあって、「地球温暖化」は誰でも知るようになった。これに反対する本を書けば売れると思う著者が何人も出たが、まともな企業は、排出量削減をするのが正しい行動だと考えた。そのため、製造業からの排出量はかなり抑えられ、自動車の燃費も競争になったが、2004年ぐらいから家庭部門、民生部門でのエネルギー使用量が増加し続けた。そして、リーマンショックに突入。

A君:このような簡単な図でも、中身を考えると、色々と面白い現象があったことを思い出すことができますね。

C先生:このWebサイトもとうとう17年目だが、この図を見ると、スタートした1997年は、地球レベルの環境問題の知識がやっと一般化した年だったと言える。

A君:それでは、この限られたデータから何が言えるのか、年次を未来に伸ばしてみますか。


図 GDPと一次エネルギー供給量を2030年まで延長したとき

B君:延長といっても、経済成長率とエネルギー需要とはラフに言えば比例関係にある。ということは、アベノミクスで日本の経済が復活すると、当然、エネルギー需要も増大するということになる。

A君:その通りで、ここでは、経済成長が年率2%というかなり大きい値にしてあります。2%成長を普通にすると、エネルギーが莫大に必要になりますので、エネルギー使用量を削減するには、省エネが必要。そして、再生可能エネルギーによって作られるエネルギー量はいくら使ってもゼロと考えることもできるので、再エネ化も重要。省エネ&再エネの増大が、経済成長率を上回れば、GHGの発生量は実質的に下がることになる。ここで示したグラフは、省エネor再エネが年率2.8%で増大する場合です。


省エネはどうか

B君:それでは、若干個別に検討しよう。省エネから行くか。

A君:省エネは、車の燃費が向上していること、特に、軽自動車の燃費が向上していることが大きいと思いますね。ハイブリッドの普及も当然ですが。

B君:軽自動車のエンジンなど、動けば良いという程度のエンジンがずーーっと使われてきたが、販売トップ10の半数以上が軽自動車になったもので、やっと燃費を配慮したエンジンを作ることができるようになった。

A君:家電製品の二大エネルギー食いは、冷蔵庫とエアコン(含む暖房)ですが、そろそろ限界まで高効率化が進んでしまった。

B君:そんな感じ。これ以上進めようとすると、やはりシステムの変更が必要で、地下水を使ったエアコンが普及することが望まれる。これが実現すれば、北海道の冬も、エアコンで暖房が可能になるかもしれない。そうすれば、風力発電の普及が進展するかもしれない。地下水の利用が進まない理由は、水道局を管轄している地方自治体の無理解と反発が大きいので、国が方針を決めれば突破できる可能性が高い。

A君:2030年まで考えると、いくらハイブリッド車が売れているとは言っても、日本の車の半分ぐらいがプラグインハイブリッドになっていることが条件でしょう。なぜか。それは、電力貯蔵専用の電池は高価だと思う人が多いけど、電気自動車用となると、コストの高さが目立たない。

B君:ただし、充電用に石炭火力を動かしていたら何にもならないので、充電量なら不安定な電力でも良いので、大量の風力発電が自動車充電用に動いているといった状況が実現できるかどうか。


再エネは導入されるのか

A君:となると、北海道や東北の暖房が風力発電になるための条件として、プラグイン・ハイブリッド車が普及していること。これは、面白いですが、プラグインは北国には適正が低いので、どうなりますか。なんといっても、冬の暖房が電気の敵ですから。

B君:ハイブリッド車でも、北海道の冬は、通常のガソリン車的な使い方になるのは仕方がない。純粋の電気自動車に、灯油を燃料とするFF式の暖房機を積むよりは、エンジンを多目的に使う方が合理的なので。それでも、通常のガソリン車よりは、高効率が期待できる。むしろ、電池を積んでいることで、風力発電を加速することに貢献できる可能性が高い。

A君:それには、国民の多額な省エネ投資が必要だという結論になります。省エネ投資と言うより、リチウム電池投資と言った方が適切かもしれません。

B君:ということは、再エネの導入は難しいということか。

A君:太陽光だけは行くでしょう。バイオマスもまあまあ。しかし、風力は、環境アセスが過大という新聞記事が出たように、環境省内部にも抵抗勢力があるようですし、地熱も同様であることに加えて、温泉事業者の抵抗が激しい。温泉発電などという小規模な地熱はなんとかなりますが。

B君:大規模地熱になると、電気事業者が原発を諦めて自分で取り組むということにならないと多分普及しないだろうと思う。

A君:通常国会の最終日に、「発送電分離」の第一歩と考えられていた電気事業法改正案が、生活、社民、みどりの風が提出した首相の問責決議案と、法案採決の順番を巡る与野党の対立で流れた。野党は、一体何を考えていたのだろう。世界観が全くない、としか言えないですね。


産業構造の変化

B君:省エネといっても、今使っているエネルギーを高効率化するだけでは若干難しい部分もあって、産業構造が大幅に変化するということがやはり決定的に利く。

A君:CO2大量発生産業というと、やはり日本の得意技の製造業で、三大巨頭は、製鉄業、化学工業、セメント製造業。これがどうなるかは大きいです。2030年というと、まだまだ15年以上先の話ですから、製鉄業については、今後、日本国内の高炉の基数は減るのか、化学工業については、エチレンプラントは減るのか、セメントについては、土木工事がどのぐらい続くのか。

B君:このところ、高炉の国内での削減が進んでいる。新日鉄住金が君津の高炉1基をH28年までに休止する。神戸製鋼も、神戸製鉄所の高炉を2017年度を目処に休止。このような動きは、現在、中国の製鉄能力が多くなりすぎて、世界的に鉄の価格が低下しているのに、中国は黙って生産を続けているから。需給バランスを考えない国、それが中国で、世界の製鉄業を潰す。これは、中国の常套手段で、価格を下げてでも過剰に供給をして、相手を潰し、そして、その後値上げをして利益を確保する。

A君:そう言えば、レアアースのときにも中国は同じ手法を使って、米国のモリコープを潰した。もっとも、その後のレアアース高騰で、モリコープが復活して、中国は痛い目を見ましたが。

B君:結局、共倒れになるのは見えているはずなのだが。

A君:途上国が経済発展するには、車が増え、建築物も増大し、なおかつ土木工事が必要ですが、世界全体の鉄鋼蓄積量は、一人あたり7〜8トンといったところになると、それで飽和して、それから先は、スクラップを使うことになる。そんな時代が2050年頃には来るのではないか、と予想しています。

C先生:「地球の破綻」には、そういう見方を記述した。こんな簡単なことが読めない人類であれば、破綻する。これが趣旨。

A君:まあ「地球の破綻」は未来の読み方を書いた本ですからね。

B君:となると、結果的に、日本国内の高炉の基数は減ると考えて良いことになる。

A君:そうでしょう。鉄鋼連盟の記述によれば、2013年の5月の実績で、
http://www.jisf.or.jp/data/seisan/month.html 別ウィンドウで
○銑鉄生産は721.9万トン。
○高炉稼働機数は33基中の27基。

B君:鉄鋼の二酸化炭素排出源単位は、1トンあたり熱間圧延鋼材であれば、2.65t−CO2/t。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/com04/ref02.pdf 別ウィンドウで
 ということは、もしも国内での鉄鋼生産量が1000万トン減少すれば、2650万トンのCO2排出量が削減されることになる。これは、国内排出量を13億トンとすれば、その約2%に相当する。

A君:製鉄業の影響は実に莫大。それに比べれば、減るのが確実なエチレンプラントと、しばらくは復興で大量に使用されるセメントですが、いずれもまあまあでしょう。


2020年の排出量削減は?

B君:2020年排出目標をどうするか。これは、原発ゼロを仮定した値で、1990年比で0.8%削減が良いところ、と前回の記事では示した。
http://www.yasuienv.net/NPSGHG.htm  別ウィンドウで

A君:その根拠を前回余り示していなかったので、今回はそちらに重点を置いた記述になりました。

B君:いずれにしても、厳しい。すごく厳しい状況だ。

A君:その他に、森林吸収による削減で3%ぐらいが狙えるかもしれないけど、これも相当なお金がかかる。間伐の処理コストを税金で負担しなければならないから。

C先生:今回も再び示した式1、式2をじっくり見ていただきたい。1990年比で10%削減を言うのは、誰が見ても、絶対に無理のように思える。京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年度)でマイナス6%が実現できたのは、やはり、(1)排出量をかなり買い込んだこと。(2)原発が前半は動いていたこと。(3)リーマン・ショックがあったこと。以上3つの要因があったからだと再確認せざるを得ない状況だ。
 日本は、京都議定書の延長から離脱したので、(1)は使えない。それ自身は良いことだけど。(2)は不明。(3)は無いことを希望したい。
 米国の2005年比17%削減目標が眩しく見えますよ。
 ということで、どうします。いつの間にか遅れた国になった日本の皆さん????



参考資料

資源エネルギー庁 エネルギー需給実績
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/result-1.htm

総合資源エネルギー調査会
http://www.meti.go.jp/committee/materials/g80208aj.html

麻生政権時代の需給見通し
http://www.meti.go.jp/report/data/g90902aj.html

エネルギー環境会議の2030年
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/sentakushi/database/gaiyo_seicho+teiseicho.pdf