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 未来の読み方その1 
  05.09.2015
   ミチオ・カク流の未来の読み方は? 




 2030年のベストミックスとCOP21に提出する約束草案の数値がほぼ固まりました。15年も先の目標ですから、ある意味で画期的です。もっとも1997年のCOP3で決まった削減目標は、2008〜2012年が目標期間だったので、似たような未来について約束をしたという意味では、同じようなものでした。

 しかし、今回の目標値は、数値的にかなり踏み込みましたので、かなり道のりは厳しいものと思います。相当のイノベーションを進めることによって、やっとなんとか目標達成ができるか、といった感触です。

 どうやってイノベーションを進めるか。イノベーションは、社会的ニーズによって駆動されるものではありますので、削減量を国際的水準の目標値に決めたことが、イノベーションを進める原動力になるものと思います。

 しかし、2030年は目標年ではありますが、それから先があるのです。2050年に世界全体として40〜70%の温室効果ガスの削減。先進国については、図1に示すように、80%の削減。そして、2080年頃には、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロを目標にすることになります。


図1 2030年と2050年の削減目標

 そんなことができるのでしょうか。

 本日の話題は、「未来の読み方その1」として、米国の日系教授であるミチオ・カクの2011年に書かれた著書、「2100年の科学ライフ」を取り上げたいと思ったのは、この時点ですでに、ほぼ同様の国際的な温室効果ガス削減の目標値は存在していた訳ですので、その克服のために、どのようなアイディアを出しているだろうか、そのアイディアはどのような解析や発想に基づくものなのだろうか、それを明らかにしてみたいと思ったからです。

 ということで、「2100年の科学ライフ」の第5章「エネルギーの未来 恒星からのエネルギー」を検討してみたいと思います。



C先生:まずは、ミチオ・カクの紹介から頼む。

A君:日本語のWikiの情報で良いのでは。一文だけ引用すれば、「ミチオ・カクは1947年1月24日にカリフォルニア州サンフランシスコで生まれた。幼年時代を振り返って、自分は日系3世で、祖父はサンフランシスコ大地震(1906年)の後片付けのためにアメリカへ来て、父親はアメリカ生まれだが日本で教育を受けたので英語はあまり話さず、両親ともに太平洋戦争中にテュール・レイク(Tule Lake)などの日系人の強制収容所に入れられていた時に知り合い結婚し、兄はそこで生まれた、と語っている」。日本語名は、加來 道雄のようですね。

B君:http://mkaku.org/というカク氏のサイトをみると、CNNでは、キャスター役を務めているようだ。最近では、ネパールの地震についてコメントをしている。さらに、テスラの家庭用バッテリーやTOYOTAのiRoadなどを取り上げている。守備範囲の広さは驚異的と言えるかもしれない。

A君:まず、本書のご紹介。
 2100年の科学ライフ
 単行本: 480ページ
 出版社: NHK出版 (2012/9/25)
 ISBN-10: 4140815728
 ミチオ・カク (著), 斉藤 隆央 (翻訳)

 そして、本日ご紹介する第5章、「エネルギーの未来」ですが、p268−p322でして、そのイントロが、ゼウスの真の姿を見ることを望んだセメレが、ゼウスから放出される宇宙のエネルギーで焼きつくされてしまった、という神話になっています。
 そして、「今世紀中に、我々は、神のエネルギーの源である恒星のエネルギーを使いこなすようになるだろう。これは短期的には化石燃料に変わり、太陽光や水素などによる発電の時代を迎えることを意味する」、と記述しています。

B君:我々の考え方も、この部分はほぼ同様。ただ、その意義の表現法が多少違う。現在使っている化石燃料とは、光合成能力をもった植物などが、最長4億年間に渡って溜め込んだエネルギー源。見方を変えれば、最長4億年掛けて、地球の大気に溜まっていた二酸化炭素を光合成によって吸収して作ったエネルギー。それを250年ぐらいで放出しようとしている。160万分の1に時間的を縮めたら、それは、妙なことが起きるに決っている。

A君:そして、別の観点を述べれば、地球に貯まっているストックとしての化石燃料を使うのではなく、フローとしてのエネルギー源である恒星=太陽からのエネルギーを使うことの意義は大きい。なぜならば、これは、地下資源の場合ように所有者はいない。万人に公平なエネルギーであることから、持つ国と持たざる国との不公平といった経済的な枠組みも大いに変わる可能性がある。それが個人レベルにうまく波及すれば、産業革命によって、経済的格差が生じ始めたのだけれど、その解消も狙えるぐらいのインパクトがある新しい時代が来るかもしれない。

B君:そして、本文は、「石油の終焉?」から始まる。これはお決まりだけれど、シェルのエンジニアだった、M・キング・ハバートの1956年の予言から始まっている。そして、結論としてそれほど明確に示されている訳ではないけれど、「石油は枯渇して終わる」と言いたいような気がする。なぜなら、次の近未来のところで、太陽電池や風力発電がそのうち主役になるだろう。なぜなら、その発電コストが、徐々に上がる化石燃料よりも割安になるだろう、と書かれているから。

A君:しかし、現時点では、多少進化しました。IPCCのAR5がきっかけとなって、最近の論文では、「少なくとも、石炭は使い切れない。気候変動限界が先に来てしまうので、80%程度は地中に余ったまま」だろう、という主張が多くなっています。石油の場合には、それほど残るという訳ではないのですが、問題は、中東地域の産油国が、石油がもし売れなくなったら、経済的に非常に不安定になることが確実。むしろ、中東の経済的・政治的な安定性を維持するために、油田で石油を水素とCO2に分けて、COはEOR(石油増進回収法)として、地中に圧入する。こんな枠組みが進められるのではないでしょうか。

B君:さて、自然エネルギーだが、ドイツなどは風力を大量導入している。ところが、日本は風力がダメなのだ。そもそも風車がグルグル回るだけでも、視覚的公害だという人が多い。低周波音も問題。さらに、バード・ストライクを過度に問題視する人々も多い。しかし、本当のダメな理由は、これらではなくて、風況なのだ。山が多いこと、急峻であることが最大の要因なのだけれど、とにかく風向が安定しない。ドイツ・イギリスなどが風力を大量導入できる理由は、偏西風が安定して吹いているから。そもそも大問題の台風も来ないし。

A君:したがって、日本の風力は、最終的には風況が安定している洋上風力に行かざるを得ない。ところが、洋上の場合になると、そもそも、設備費用が非常に高くなる。さらに、漁業権問題が起きますね。これをなんとか解決しなければならない。費用がさらにかさむ。おまけに、洋上風力からの電力を海底電線で陸上まで持ってこようとすると、長距離の場合には、直流送電にしなければならないので、そのコストがまたまた大問題です。

B君:ヨーロッパは、北に存在しているため太陽光には不利なのだが、風力という太陽光よりは遥かに頼りになる方法が活用できるのだ。

A君:アメリカ、ヨーロッパだと、太陽光ではなくて、太陽熱発電も結構検討されていますね。その理由は雨量ですね。日本の平均的な年間雨量が、東京だと1466mm。スペインだと、中央部は700mm以下で、場所によっては400mmといったところが多い。アメリカであれば、いわゆる砂漠が多い。

C先生:この本を読んで、日、欧、米を比較すると日本の自然エネルギーへの転換が遅れていると批判するのはたやすいが、それは、自分の知識が偏っているということを証明している発言だと思った方が良い。しかし、やはり日本でも自然エネルギーへの転換を行う以外に、フロー経済への転換という観点から言えば、最終的な方法は無いのだ。

A君:この後、自動車の話になって、テスラの電気自動車が礼賛され、そして、水素燃料電池車を開発したGMが同じく礼賛されています。やはり、日系三世とは言っても、米国人のようです。

B君:テスラの電気自動車は、大量の電池を積み過ぎているので、フル充電が大変なのだ。日本の家庭のように、200Vで充電する環境では、36時間ぐらい掛かるので、買う対象にはならないんだけど。

A君:次の話題が核分裂です。執筆時期を見れば当たり前なのですが、まだ福島第一原発事故のことは、記述されていません。しかし、問題点の指摘は、かなり正しいです。特に、核の拡散について、かなり心配しています。どうみても、原子炉を作れるぐらいの技術力を持てば、核爆弾を作ることは可能です。それほど、高度な技術がなくても、特に、爆発力は大したことはなくて、放射性物質を撒き散らすことを目的とした核爆弾というものは簡単に作れそうなので、非常に厄介なものだと思います。という意味からも、原子力への依存は、できれば徐々に下げるのでしょう。しかし、化石燃料が気候変動への影響から使えなくなり、しかも、自然エネルギーのコストが下がりにくい国である日本にとって、2040年から2100年ぐらいにエネルギーの選択肢が無い状態になってしまうので、やはりある程度、最低限の量の原発を確保するのでしょうね。


世紀の半ば 2030〜2070年まで

B君:次が2030年から2070年の「世紀半ば」という記述になっている。化石燃料経済の影響が、地球温暖化として完全に現れるはずだ。地球が暖かくなっていることは、もはや議論の余地はない、と結論している。
A君:気候変動による災害が起きそうな地域として、バングラデシュ、ベトナムのメコン川デルタ地帯、エジプトのナイル川デルタ地帯の三箇所がIPCCによっても指摘されているのですが、カク氏は、特に、バングラデシュの状況が悪い、なぜなら、地球温暖化がなくても、常に暴風雨の影響を受けているから、と記述しています。

B君:我々も、バングラデシュからの報告によれば、将来海面上昇が起きると、1700万人が難民になる、という数値を紹介している。

A君:米国の国防総省が行なった調査の結果として、最悪のシナリオの一つとして、地球温暖化によって、何百万人の難民が国境を越えれば、政府は支配力を失って倒れ、国は無秩序状態になる。この絶望的な状態の中で、何百万人もの暴徒化した難民が流入し、パキスタン、インド、中国が難民、共有河川、耕地を巡って、国境で衝突したらどうなるか、というものがあるそうです。

B君:パキスタン、インド、中国はいずれも核保有国だ。

A君:カク氏の提案する温暖化の技術的な解決策が以下のものです。

◆大気に汚染物質を打ち上げる
 1991年に起きたピナツボ山の大噴火のようなことを人為的に行う。

B君:これは冗談だと思った方が良い。なぜなら、ピナツボ山が上層大気まで飛ばした固形物の量は、100億トンと言われている。それで地球の平均気温が0.6℃下がったとされているのだ。今、問題にしている温度変化は、2℃上昇ならまあまあ、3℃上昇になるとかなり飛んでもない。3℃上昇を1℃さげて2℃上昇にするには、150億トンの固形物を打ち上げるが、それには、ロケットを何機飛ばすのだ。しかし、なのだ。「ピナツボ山の影響は、何か月も残留した」、となっているけれど、これは、わざわざ打ち上げるという立場から言えば、数ヶ月しか持たないということを意味する。温度低下のグラフを次に示してみるけど、次のようなものだ。


図1 ピナツボ山の噴火による気温の低下。

A君:気温低下が維持されれば良いのだけれど。まあ、血圧を下げる薬を飲んでも、一時的には下がっても、薬を飲まなければ、元に戻るようなものですね。

B君:その通りで、痛みの強い末期がんへの対応にモルヒネを使うようなものだと、言われている。カク氏もそれは分かっているようだ。

◆藻類を大繁殖させる
 鉄をベースとした栄養素を海に散布することで藻類を大繁殖させて、二酸化炭素を吸収させる。

A君:これは、下手をすると、大規模な海洋汚染の原因を作るようなものなので、環境面からみたら有り得ないですね。

B君:米国のプランクトス社がこれをやろうとした。しかし、海洋投棄を規制するロンドン条約の加盟国のいくつかが反対し、国連のある部会も、この実験の一次凍結を求めた。

A君:これも有り得ないでしょうね。

◆CCS:炭素隔離貯留
 これはお馴染み。

B君:しかし、これも実現するのはなかなか難しい。日本が排出する二酸化炭素の量が14億トン。これを圧縮・冷却して液化し、専用のタンカーのようなもので、目的海域まで運び、そこで、海底の地下に導入する。

A君:14億トンの液体という量ですが、日本が輸入する石油が2億トン程度。その7倍もあるのです。しかも運ぶのが液化炭酸なので、圧力容器か真空断熱した魔法瓶型式の容器が必要です。

◆遺伝子組換え
 二酸化炭素を大量に吸収するような植物などを遺伝子組換え技術で作る。

B君:これは、反対者が多そうだ。やはり、未知の危険性をはらんでいる。

A君:ということで、カク氏は、◆核融合発電を次に記述しています。今世紀の中頃までには、もっとも実用性の高いものになっているはずで、選択肢として実用化されるだろう、と述べている。

B君:核廃棄物の量が少ないのが一つの利点であることは認めるべきだろう。しかも、半減期が比較的短いので、100年ほど放置しておけば、また再生して使えるだろう。

A君:核融合には、過去、インチキが多かったという記述が面白いですね。アルゼンチンのファン・ペロン大統領を騙したロナルド・リヒターの話とか、常温核融合のポンズとフライシュマンの話とか。

B君:高温核融合が本当に実用になっているだろうか。現時点でITERプロジェクトが動いているが、果たして成功といえる成果を出せるだろうか。

A君:現状だと、500秒間で5億ワットの熱出力を出すのが目標。これができたからといって、実用炉ができるとは限らない。やはり、自然エネルギーを使いこなす方が本来のゴールであるという主張の方が、説得力があるようにも思います。

B君:確かに、それはそうなのだ。高温核融合では、重水素+三重水素をヘリウムに変えて、エネルギーを得る。その原料になる重水素は、天然の水から重水を物理的に分離して作るが、三重水素は原子炉中でリチウムに中性子を照射して、ヘリウムとトリチウムに変える方法で生産するのが効率的。現時点で、ヘリウムの用途が増えているのに、天然産の生産量が減っている。高温核融合が実用化されれば、ヘリウムの副生の手段として、こんな方法が使われるかもしれない。

A君:そして、最後が◆卓上核融合。これは、しばらく前に話題にしましたが、すでに小型の装置で中性子を出すことには成功しています。「フューザー」と呼ばれています。

B君:ロッキード・マーチンが開発していると言われる小型核融合炉は、それに似た形式なのだろうか。
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPKCN0I509K20141016


遠い未来 2070〜2100年

A君:この時代は、電気の時代というよりも、磁気の時代になると主張しています。常温超電導体を手に入れることができるだろう、という主張のようです。

B君:うーん。材料というものは、狙ってできるというものでもない。物理学者は、このあたりになると見通しが甘い。「いつかはできる」という可能性はある。しかし、それが2070〜2100年にできるということを断言するほどの確実性は無いと思う。

A君:しかし、常温超電導体が実用になれば、磁気浮上の列車とか自動車とかが視野に入ってきて、無摩擦の輸送が不可能ではなくなる。摩擦が無い輸送が実現できれば、消費エネルギーはほとんどゼロになる。

B君:もし、常温超電導体が実用化されれば、JR東海のリニアモーターカーの製品寿命が極めて短いということになるかも。

A君:宇宙からのエネルギー=宇宙発電の話が次の話題。太陽電池を大量に人工衛星で打ち上げて、発電した電力をマイクロ波で地上に送るという話で、これは昔から言われています。マイクロ波を受けるアンテナが、東京ドームぐらいのサイズ。

B君:マイクロ波というと電子レンジなので、その中をハトが飛ぶと、反対側に出てきたときには、黒く焦げてカラスになっている、という冗談がよく言われていた。

A君:カク氏の判断によれば、ロケットの価格が大幅に下がらないとダメだということのようです。

B君:カク氏の本に記述は無いのだけれど、宇宙エレベータが実現できれば、それを送電線に使うという方法は無いだろうか。

A君:太陽電池を大量に積んだ静止衛星を打ち上げて、そこから地上まで、なんらかの強靭なケーブルでつなぐ、ということですよね。

B君:地球の場合、赤道上の高度約35786kmの円軌道が静止衛星の条件。3万6千キロだから遠いね。エレベータが時速1000kmで動いたとして、36時間掛かる。

A君:36時間だと、まあ、南米の僻地まで飛行機で行くと、そのぐらいの時間になりますか。なんとかなるかも。

B君:海底光ケーブルの総延長は現在、80万キロ分ぐらいらしいので、長さだけを考えれば、無理とも言えない。超電導ケーブルをそんなに長く作ることができるだろうか。

A君:まあ、いずれにしても、材料は最終的な問題になりそうですね。

C先生:こんなところだろう。ところで、最後に、このミチオ・カク氏の未来予測の手法について、若干議論をしてみよう。そもそも、どうやってこんな記事を書いているのだろうか。

A君:第5章のエネルギーのところだけで、参考文献が28件ですね。それほど、大量に集めているという訳ではない。

B君:参考文献のリストを詳細にみると、レスター・ブラウンのプランBが4回も出てくる。

A君:ということは、なにか他人の記述を参考にして書いているというものでも無さそうですね。

B君:恐らくだけれど、かなり多くの人々のインタビューをしているのではないだろうか。

A君:調べてみたら、その通りですよ。p462からに、インタビューに応じてくれた、あるいは、議論をさせてくれた300人以上の科学者に感謝する、という言葉があります。どうも、BBCとかディスカバリーチャネルとかのテレビクルーを連れていって番組を製作する目的でインタビューをやっているようですね。

C先生:大体のところは分かった。このような手法で予測される未来が正しいと主張するその根拠は、多くの専門家の持っている感覚が共通のものだと言えれば、その感覚は正しく、したがって、その感覚に基づく未来予測は実現される可能性が高いということなのだろう。しかし、本日の記事でも指摘したように、材料開発には、まだまだそのレベルになっていないような部分が残っていると思う。したがって、新材料に依存しなければならないような技術、あるいは、イノベーションの未来は、他の技術に依存している技術、イノベーションに比較すると、不確実性が高いように思える。要するに、物理学が分かったとしても、そのような特性をもった材料を作成するには、材料側になぜか依存してしまう、という材料屋的、感想を述べさせて貰った。