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   再度 ゴールと目標の違い   11.28.2015
             外務省の翻訳でもニュアンスが違う        




 この10月と11月は、なぜか大量の(1週間に1回程度の)講演依頼が舞い込んできていて、非常に忙しい秋でした。

 今週12月6日金曜日の大阪産業廃棄物協会が主催する3R推進フォーラムが一応の「締め」になります。すでに申し込みは不可のようですが、ustreamでの配信が行われるようです。
http://www.ustream.tv/channel/forum-3r

 この秋から積極的に話をしているのが、今週から始まるCOP21でも中心的な話題になるであろう”2℃目標”というものです。この2℃目標は実行不可能だから目標とすべきでない、といった日本の産業界の議論が聞こえてきますが、すでに述べているように2℃は”ゴールであって、目標ではない”のです。

 もう一度、エルマウG7サミット合意文書の英文と、それに対する外務省の仮訳とをチェックして、しっかりと検討してみた、というのが、今回の記事になります。

 前回の記事はここにあります。
http://www.yasuienv.net/GoalTarget.htm
 今回、議論をさらに深化させるために、現地で撮影してきたルーマニア・ボロネッツ修道院の外壁にある最後の審判のフレスコ画をPhotoShopでいじって長方形に編集しなおしましたので、今回は、その写真から始まります。



C先生:まずは、次の写真から見ていただきたい。この絵は、全体図の上部を切り出したもので、3層に分かれている。その中層の右側に、これから最後の審判を受ける人々が列を作っている。中層の左側では、死者が運ばれて来ている。


図1: 最後の審判の核心部

 上層の真ん中には神が存在しているようで、そのすぐ下になにやら木製のベッドのようなものがあるけれど、どうやら、これが実は判定器兼移送器ではないか、と想像している。
 神が「天国へ」と判定を下すと、その人は、上層部に移動して、光背を背負う。「地獄へ」と判定を下すと、下層部に裸で移動する。



図2: 最後の審判の一部 左上の判定器のようなものから地獄に落ちた人々

A君:死者であっても、一旦蘇ってその判定を受けることになるのですが、このあたりの話になると、我々3名を含めて、多神教民族には分からないことですね。

B君:しかし、なかなか合理的だと思うのは、その判定基準。まず、最後の審判が行われた後には、地上というものは無くなってしまって、天国と地獄だけになってしまうので、死後にその人が行ったとみなすことができる善行や正義は再評価する必要がある。例えば、その人の書籍が死後に大々的に評価されたとか、学説が死後に認められたとか、遺産が寄付されて、それが有効活用されて様々な良い結果を残したとか、そのようなことを含めて再評価される。そのために一旦蘇る。これは平等なのではないか。

A君:勿論、最後の審判の時点で生きている人々は、全員、神に判定されて、この装置で天国か地獄に送られる。

B君:最後の審判の後では、地獄に落ちると、そこで永遠に生き続けることになるので、永遠に苦しみ続けることを意味する。天国でもやはり永遠の命を受けることになるので、永遠に安楽に生きることになる。

A君:そのあたりの説明ですが、これが本当に正しいのかどうか、そのチェックをしていませんが、Wikiで公審判と検索すると、そこに、次の文章を含んだ説明があります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E5%AF%A9%E5%88%A4

 その根拠となる聖書箇所は「墓の中なる人々悉く天主の声を聞く時来らんとす。斯くて善を為しし人は出でて生命に至らんが為に復活し、悪を行いし人は審判を受けんが為に復活せん」(ヨハネ 5:28-29)である。
 肉身が復活するのは、人の善業と悪業とは霊魂と肉身とで行ったので、肉身も共に審判を受けて終なく賞せられ、或は罰せられるために復活する。
 肉身の復活の後に公審判があり、その聖書箇所はマタイ24:30-33、マルコ13:26である。公審判の後に、善人は、霊魂、肉身ともに天国に行き、永遠に楽しむのであり、これを終なき生命(いのち)と呼び、その聖書箇所は 「来れ、我父に祝せられたる者よ、世界開闢より汝等のために備えられたる国を得よ」(マタイ25:34)である。
 公審判の後に、悪人は霊魂、肉身ともに地獄に行き、永遠に苦しむ。これは終なき死と呼ばれ、その聖書箇所は「詛(のろ)われたる者よ、我を離れて、悪魔と其使等との為に備えられたる永遠の火に入れ」(マタイ25:41)である。
 公審判の行われる目的は、1.天主の智慧と正義とがすべての人に認められ、2.イエス・キリストがすべての被造物の前に光栄を得、3.善人と悪人とはそれに値する名誉叉は恥辱を受けるためである。


B君:一神教の思想は、イスラム教でも似ている。ジハードあるいは聖戦であれば、人を殺しても良い、という解釈もあり得るようだ。もっともキリスト教が、そのレベルを越したのは、宗教改革の後の30年戦争が終結してから、ということなのだろう。

A君:日本にも宗教戦争はあったし、オウム真理教でも、人を殺すことを正当化する部分が含まれていた。

B君:オウム真理教も一神教だったからね。

C先生:という訳で、ボロネッツ修道院で、この絵を見ていたキリスト教徒は、恐らく、自分が天国・地獄のどちらに行くのだろうか、と考えていたのではないだろうか。そのため、とにかく、真剣な目でジーっと絵を見つめているのだ。

A君:それで、「ゴール」と「目標」の話になりますが、前回の記事では、ゴールとはそちらに向かう姿勢を継続することが正義であるために意義があり、それに対し、目標とはほぼ数値目標に近く、そこの到達することに意義がある。

B君:ところで、我々、エルマウのG7の合意文書を再度チェックする必要があるのではないか。どのような表現だったのか。

A君:了解です。英文の合意文書のp12にありますね。こんな文章です。

This should enable all countries to follow a low-carbon and resilient development pathway in line with the global goal to holdthe increase in global average temperature below 2 ℃.
http://www.mofa.go.jp/files/000084020.pdf

B君:それに対して、公式の日本語訳というものは存在しないのだけれど、外務省の仮訳はどうなっている。

A君:こうなっています。

これにより,全ての国が,世界の平均気温の上昇を摂氏2度未満に抑えるという世界全体の目標に沿って,低炭素かつ強じんな開発の道を進むことが可能となる。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html

B君:やっぱり。外務省の仮訳では、goalが目標と訳されている。この文章は、次のように変えなければならないのではないか。

これにより,全ての国が,世界の平均気温の上昇を摂氏2度未満に抑えるという世界全体のゴールに向けて,低炭素かつ強じんな開発の道を進むという正義を実行することが可能となる。

C先生:やはりそうだったな。外務省的には、ゴールという言葉は外来語だから、正式には使いにくいのではないだろうか。

A君:いやいや、仮訳にも外来語は多用されていますよ。こんな文章もあります。この文章の本当の意味は不明ですね。

このため,我々はまた,長期的な各国の低炭素戦略を策定することにコミットする。

原文は、次の文章です。

To this end we also commit to develop long term national low-carbon strategies.

 endという言葉は、どうもgoalより強いように思うのですが、日本語には訳されていないですね。個人的に訳してみれば、「このゴールへの到達のために」ぐらいではないでしょうか。

 「コミットする」ということは、これも日本語には無い単語だと思いますが、「嫌がられても、それに強く関与する」ぐらいでしょうかね。

B君:Webをチェックしてみたら、ライザップのCMに出てくる「結果にコミットするの意味が分かりにくい、とか言っている記事があった。
 「ライザップは、嫌がられても、結果がでるように強く関与する」ぐらいの意味だと思うけど。

A君:しかし、「ご本人様のコミットがなければ、結果は出ませんよ」、という意味を含む。

C先生:targetという言葉は使われていないのか。

A君:いえ、これもあります。この文書でも目標=targetという言葉は使われていまして、2℃ゴールのすぐ前の文章がそれです。

The agreement should enhance transparency and accountability including through binding rules at its core to track progress towards achieving targets, which should promote increased ambition over time.

B君:外務省仮訳だと、次のようになっている。

この合意は,時間の経過に伴い野心の向上を促進する目標の達成に向けた進展をたどるために,その中核としての拘束力のあるルールを含め,透明性と説明責任を強化するべきである。

A君:かなり分かりにくい訳ですね。次の自分の訳も、かなり苦しいのですが。

「拘束力をそのコアとして含むルールを作ることを含め、目標達成に向けた進化が順調に進展していかどうかをたどることができるようにするために、透明性と説明責任を強化する合意がなされるべきである。その合意がなされれば、野心的な対応が自動的に増進されることになるだろう」。

B君:要するに、目標達成に向けた取組が進化することが、本来の目標だということで、あって、数値目標に到達すべきだとは言っていない

C先生:今回の検討によって分かったこととしては、原文だと、やはり、goalとtargetがかなり厳密に使い分けられている。ところが、外務省の仮訳だと、そのあたりが無視されていて、2℃そのものが目標だというイメージの日本語の文章になっている。

A君:「2℃目標」に反対する前に、エルマウの合意文書の英文を自分で訳してみることが必要不可欠ですね。まあ、3ページしかないのですから。

B君:「2℃目標」に反対するのは、先日も述べたように、経団連の別働隊が多いけれど、彼らは、合意文書を訳しているのだろうか。

A君:それは無いでしょう。反対だと主張するのが目的ですから。

C先生:現在、COP21関連で国内で問題になっているのが、石炭を巡る話だ。これも前回の記事に述べている。すでに「危ない燃料」、まるで「覚せい剤扱い」という極論も紹介している。

A君:そして、前回の記事で紹介していないことが、GPIFが国連の責任投資原則に署名したこと

B君:この記事だな。
http://www.gpif.go.jp/topics/2015/pdf/0928_signatory_UN_PRI.pdf

C先生:GPIFは、日本の独立行政法人でGovernment Pension Investiment Fundだ。
 長期的な観点から安全かつ効率的な運用を行うために、外国株式 25%、国内株式25%、外国債権15%、国内債券35%を基本ポートフォリオにしている。運用資産が128兆円前後ある。
 このような公的な資金が株式市場に入った。それが、国連の責任投資原則に署名した。
 そして、次のように言っている。
 投資先企業のESG投資(環境・社会・ガバナンス)を適切に考慮することは、「被保険者のために中長期的な投資リターンの拡大を図る」ための基礎となる「企業価値の向上や持続的成長」に資するものと考える。
 このように述べている。具体的には、投資対象の主体に対してESG課題について適切な開示を求めるとしているのだ。
 実際には、運用受託機関があるので、そこを経由して、投資先企業に影響が伝わることになる。

A君:となると、一般的な企業でも、GPIFの運用資産からの投資を受けようと思ったら、石炭発電などはやっていられない可能性が高くなった、ということですね。

B君:欧米の一流企業は、かなり前からそのような状況になっていた。だから、彼らは、すでに「石炭は覚せい剤なみ」というマインドになっている。

A君:日本がどのぐらいの速度で欧米の一流企業を追いかけることになるのでしょうね。

B君:意外と速いと思う。GPIFは毎年度国連責任投資原則で報告を求められるので、報告書を作らなければならない。したがって、今年度の最後には、そのような問い合わせが運用受託機関に送られるはずだ。

A君:今年は見逃しますが、ということで済むかもしれないけれど、2回目以上の見逃しはダメでしょうね。となると、まあ、丸二年ぐらいでかなり変わるということを意味しますか。

B君:最近、SRI(社会的責任投資)を実施しているコンサルなどが、企業に対して、「貴社はESG(環境、社会、統治)に関心がありますか」、といったアンケートを出すらしいが、これではその企業の本質は分からない。折角アンケートを出すなら、「貴社の社長は株主総会で、ESGの重要性をどのように自分の言葉で説明しましたか?」といった問にする必要があると思うよ。

C先生:現在、国連責任投資に署名している企業のリストが、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E6%8A%95%E8%B3%87%E5%8E%9F%E5%89%87
にある。当然のことながら、金融系や保険などだが、これらの金融系や生命保険系企業からの投資を受けるときには、すでにESGに対する対応を聞かれているのだろう。それがGPIFのような国の機関が参加することで、さらに強化されるということになるし、場合によっては、公的年金機関が動いたということで、かなりその方向への変化速度が早くなることだろう。

A君:さきほどからの話で、エルマウサミットの合意事項ですが、政府、各省がこの方向を向いているということなのですが、一部の企業が別の方向を向いているということは、別に法律に反している訳ではないので、問題は無いのでしょうが、国からの補助金などを受けるときには、やはり、エルマウサミットの合意についても合意するといったしばりを掛けるべきでは。

C先生:補助金にESG投資基準を適用することは、理論的には今でもできるだろう。しかし、それ以上は難しいところだ。なにはともあれ、政府がそのような方針を定めることがまず最初だろう。いずれにしても、COP21が終わって2030年までの国際情勢の大勢が決まったときに、あらゆる動きが加速するのではないだろうか。すでに、いくつかの動きは出ているように思えるので。まあ、本日はこんなところか。