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  日本らしいポスト京都への提案 02.11.2008
     



 ポスト京都の枠組みは、2009年末まで決まらないのだが、洞爺湖サミットで、その時点での首相がなんらかの具体的提案をしなければならないとするのなら、もっとも日本らしい提案が良いだろう。

 もっとも日本らしいとは何か。しばしば提案をしていることと重なるのだが、今回は、ドイツ、英国、日本、アメリカの温室効果ガス排出量、エネルギー消費量を解析し、なんらかの結論を導いてみたい。


C先生:ほぼ同じ原稿を日経エコロミーに書いているので、ご了解いただきたい。あちらは、通常の文章。こちらは会話形式になっているので、脱線が自由自在なところが少し違うだけ。

A君:今回の目玉といえるかどうか。日米独英の比較データを中心に議論します。データは、時間的な推移だけなので、細かい排出の起源やエネルギーの用途などの議論は、そのうちということで、今回は含まれて居ません。

B君:協力してデータを作ったが、そのデータの出典は、ワールドバンクのデータベースWDIというもの。個人がアクセスすると、1年間に$100の使用量を支払わなければならない。

C先生:国連大学に居たときには、オフィスからならタダでアクセスできるのだが、ところが、反応が滅茶苦茶悪い。週末にアクセスすると、時間帯もずれているためだろうが、かなり効率が高いために、過去数年にわたって、このアクセスのために個人的な出費をしてきたのだ。

A君:そんなことはどうでも良いこと。早速データの説明をしますが、基本的には、
 1990年から2003年までの
(1)国の二酸化炭素排出量
(2)国のエネルギー使用量
 加えて、1975年から2003年の
(3)一人当たりのGDPと一人当たりのエネルギー使用量


B君:まずは、四ヶ国のCO2排出量推移を図1に示す。ただし、通常の図ではなくて、1990年における排出量や使用量を1として規格化した図。



図1 各国のCO2排出量推移 1990年=1 

A君:この図は、しばしば提示される図で、これから見ると、英独はよくやっているが、日本とアメリカは駄目という結論になりがち

B君:もっとも英国の排出量は、それほど下がっている訳ではない。

C先生:欧米の家庭でのエネルギー使用量は、暖房が圧倒的に多い。欧州では、フランスなどもエアコンがある家庭は少数だった。米国でも、ニューヨーク州の北部オルバニーの近くに1975年から2年間住んでいたが、エアコンは不必要だった。ところが、もう5年以上前になるが、久々にその地域を訪問したら、エアコンが必須になっているとのことだった。

A君:同じような検討をしている環境省の結果
http://www.env.go.jp/council/06earth/y061-09/ref04.pdf
では、気候の補正をしたということになっている。そして、この1991年や1996年の英国のピークは出てこない。どうやら、これらの年は、かなり寒冷で、そのため、各家庭が石炭ストーブを復活させてどんどんと焚いたのではないだろうか。

B君:この文書は、なかなか中味が濃くて、政策などの効果によって何%削減されたかという解析が行われている。

A君:もっともどうやってそんな割合を貼り付けたか、となると手法的には疑問が無い訳でもない。

B君:まあそれはそうだ。そして、結論としては、今後、京都議定書の目標を達成するには、英国ではさらなる政策的な追加策が必要だということになっていて、EUのキャップ&トレード(C&T)だけでは、なかなか社会は変わらないことを主張している。

A君:しかし、それなら何を追加すべきなのか、という積極的な提案がなされている訳でもない。

C先生:日本の問題点は、環境省側は、EU的なC&Tをまず導入し、それだけでは不足するだろうから、何か追加策が必要だ、というスタンスなのだが、経産省側は、まずは、本質的な削減策を提案し、それでは不十分だということになれば、C&Tも検討するという逆方向を向いているように見えることか。

A君:どちらを先に、という話ではなくて、ポスト京都の話になると、どうしても両方が必要。同時に入れる方法論を考えるべきだ、というのが本HPの主張。

B君:そろそろ次の図に行く。図2は、二酸化炭素ではなくて、エネルギー消費量で示したものだ。



図2 各国のエネルギー消費量 1990年=1

A君:これを見ると、ドイツはまあまあ健闘して余り増やさない状態をキープしているけど、他の3ヶ国は、エネルギー使用量が増えている。

B君:それも当然で、日本は、1987年ぐらいからバブル景気の余波で、エネルギー消費量を一人3トンレベルから4トンレベルに上げている。その増加だが、1992年にバブル景気ははじけるのだが、エネルギー消費量は慣性があってしばらく続き、1995・6年まで継続するのだ。

C先生:社会の動きには大きな慣性がある。イナーシャというべきものだ。バブル期にどんな建物を作ったかを考えれば、すぐにでも分かる話。個人的には、最悪だったのが東京国際フォーラムの建物。1997年1月10日に開館している。設計思想はまさにバブル。冷暖房のエネルギーなどといった考え方が皆無の建物。こんな建物を長く使うこと自体、「Cool Earth」から程遠い。

A君:英国も着実にエネルギー消費量を増やしている。

B君:もっとも面白いのは、図2を1997年=1として示すことだ。



図3 各国のエネルギー消費量 1997年=1

A君:ドイツはまだ健闘しているように見えるのだが、日本の状況もそんなに悪くは無い。米国はかなり上に行っているが、日本の状況は、英国よりも良く見える。

B君:こんなところに、EU流のC&Tだけでは、ものは片付かないということを伺い知ることが可能。

C先生:EU流のC&Tというと、産業界に対して厳しく対処しているように思い込みがちなのだが、実際には、製造業には緩い。余りきついC&Tを課せば、企業競争力の阻害要因になることを充分に理解しているのだ。言っていることと、やっていることが違うのだ。だから、産業界からの排出量の削減も、それほど、効果的にも進行しない。

B君:ついでに1997年=1とした二酸化炭素を図4に示す。



図4 各国の二酸化炭素排出量 1997年=1

A君:この図を見ると、二酸化炭素排出量の増大などは、1997年以降、ドイツはやや飛びぬけているが、他の3ヶ国は、そんなにも違わない

B君:これから、先は、それぞれの国について、二酸化炭素排出量とエネルギー消費量の両方を見比べよう。図5〜図8がそれだ。



図5 ドイツの場合

A君:ドイツの場合だと、エネルギーの消費量はなんとかキープしながら、二酸化炭素を減らしている。エネルギーと二酸化炭素の排出は、表裏一体の関係にあるとは言いながら、

(1)化石燃料の種類、石炭<石油<天然ガスという順番で、二酸化炭素排出量が減る。
(2)バイオマス、水力、太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、CO2はゼロと勘定される。
(3)原子力によるエネルギーは、CO2はゼロではないが、かなりゼロに近い。


ということなので、これらの要素をどのぐらい組み込んだかで状況が違う。

B君:ドイツの場合、まずは、石炭を天然ガスへ転換しながら、東ドイツの効率の悪いエネルギー設備を徐々に新しい効率の良い設備に切り替えて言ったというシナリオが正しそうなグラフになっている。

C先生:ベルリンの壁が崩壊したのが1987年だが、実際、東ドイツはエネルギー効率が大変悪かったようだ。



図6 イギリスの場合

A君:イギリスだと、エネルギー消費量は継続して増加傾向。しかし、二酸化炭素の発生量は、どうも、ときどきピークがあるものの、1994年ぐらいまでに減らして、それから1999年までは維持したが、それから先は増加傾向。

B君:やはり、石炭を天然ガスに転換したのだが、それから先は、エネルギー消費量が増えるものだから、そろそろほころびが見え始めている。

C先生:新たなる追加対策が必要ということだろう。



図7 日本の場合

A君:日本の場合には、バブルが収まった後は、まずまずのエネルギー消費量。二酸化炭素の方はと言えば、最初の段階で、かなり減少したものの、1998年のディップを最後に、増加傾向。

B君:それもこれも、実は原子力。今停止中の刈羽の発電所だが、第一号機が1985年、それ以後、90年、93年、94年、96年、97年と増強されている。

A君:そして、1998年というのは、原発が実に旨く動作していた年として知られている。それ以後、様々な事件、例えば、データ捏造とか色々なことがあって、原発の稼働率が下がっている。

B君:日本の場合だと、原発が奇跡的に旨く運転できることが重要だということになるのだろうか。



図8 米国の場合

A君:米国は簡単。エネルギー供給構造にほとんど変化が無い。石油を中心とした化石燃料に多くを依存しているのだろう。

C先生:すでに、日本の場合には、解析を終わっているが、一人当たりのGDPと一人当たりのエネルギー使用量との関係がなかなか面白かった。

A君:一般的には、開発が進展している国々だと、GDPを増加させるには、エネルギーの使用が不可欠

B君:日本でも、一人あたり3トン(石油換算)ぐらいまでは、ほとんど一直線で使用量が伸びて、丁度そのときに石油ショックが来て、そして、しばらくは一定量の消費でありながら、効率を改善して、経済成長を行っている。ところが、バブル景気に入って、一人あたり3トンが4トンまで増えてしまった。その後は、1995年ぐらいからは、なんとかエネルギー消費量を増やさずに微妙な経済成長をしている。

B君:韓国などだと、ほとんど一直線に4.5トンぐらいのところに到達している。

C先生:韓国と日本は似たような国だと思われるかもしれないが、暖房に関して言うと、全く違った文化だ。オンドルによるセントラルヒーティングの国なのだ。だから、エネルギー消費形態は、むしろ、ヨーロッパ的だ。

A君:さて、それはそれとして、ドイツとイギリスの一人当たりのGDPと一人当たりのエネルギー消費量を見ますか。

B君:図9と図10がそれだ。



図9 ドイツにおける一人当たりのGDPと一人当たりのエネルギー消費量



図10 イギリスにおける一人当たりのGDPと一人当たりのエネルギー消費量


A君:ドイツは、第二次石油ショックによる一時期の景気の後退も見えますが、それ以後、特に最近は、順調にエネルギー消費量を下げながら、経済成長をしていますね。これは、省エネが普及していると自称している日本ですらなし得なかったことで、大したもの。

B君:英国は、一時期やはり景気の後退も見えますが、その後は、増加傾向、やっとこのところ、水平になっている。それでも経済成長は続いている。



図11 米国における一人当たりのGDPと一人当たりのエネルギー消費量

C先生:図11に米国の例を。やはり同様に、第二次石油ショックの影響が見える。しかし、このショックによって、米国車は、小さくなった。羽が生えたように見えるキャデラックなども、小さくなった。それ以後は、まあ、微増といったところで収まっている。このところ米国の景気は良かったが、それでもエネルギー消費量は余り増えていない。それは、米国産業のソフト化が効いているのではないだろうか。

A君:そろそろ結論ですか。

C先生:そこはすでに毎回主張しているので、繰り返しになるのだが、アジアの国々、インドを含めてだが、世界の工場としてしばらく経済成長をしていくこれらの国々は、省エネで製品を作ることができれば、それはコスト的に有利でもある。製品価格が多少高くはなるが、それを買ってくれるのであれば、鉄やセメントなどの素材の製造による二酸化炭素排出量を下げるインセンティブになる。

A君:ヨーロッパでは、EuP指令なるものができていて、「製品のライフサイクルを通しての環境アセスメントの実施」が義務化されます。これがラベル的な役割を果たせば、生産国としては、省エネ的な製品を作ることができるかどうかが競争力になる。

B君:日本のトップランナーのような仕組みと排出権取引との組み合わせが、恐らく究極の方法で、それが、すべての国にとって有効な方策ではないか。

C先生:図12を見て貰おう。トップランナーから最終ランナーまで、様々な温室効果ガスの排出原単位で製品を作っているものとする。トップランナーは排出権を獲得し、最終ランナーは排出権を買わなければならなくなるのだが、その取引量が等しくなるようなところに世界平均を設定する。そして、様々な製品のセクターごとに、トップランナーと最終ランナーなどのデータを集め、世界平均を決める、というやり方。



図12 トップランナーを含めたトレードのイメージ。

A君:これだと、現在のEU流のC&Tのように、排出権に余剰がでることもない。また、排出権が安すぎて、省エネへの投資が阻害されることもない。

B君:現在のEUの排出権だが、すでに、EU内では、目標達成に充分な排出権を買い込んだとも言われている。これから、まだ買い込んでいない日本をカモにして、高い排出権を売りつけようと待っているようだ。

A君:そのためもあって、日本は、ハンガリーやロシアからのホットエアを買う方向に方針を転換しているようにも見える。旧共産圏の諸国には、山ほどホットエアが余っているから。

B君:それを買うことで辻褄はあうが、まあ、免罪符のようなもので、買ったからといって、地球上の二酸化炭素排出量が減るというものでもない。

C先生:そうなのだ。ロシアを相手にするのであれば、ジョイントイニシャティブ(JI)の枠組みを使うべきだと思うのだが、それだと高く付きすぎる。すなわち、排出権がある故に、二酸化排出量が減らないという症候群にもはや陥っていて、それが現在の排出権の仕組み上の最大の問題点のように思える。