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    未来を覗く書籍の評価  07.21.2018
       ダボス会議創設者の「第四次産業革命」

               




 書籍名が、まさしく、「第四次産業革命」そして、副題が、「ダボス会議が予測する未来」であり、その著者クラウス・シュワブ氏は、ダボス会議の創設者。スイスの経済学者、ビジネスマン、慈善活動家。もともとドイツ人らしいので、シュワブではなくて、シュヴァーブ氏と呼ばなければならないようだ。
 ダボス会議には、事務局があって、未来技術予測のようなことをやっていたり、これまでもしばしば引用している、世界のリスクのランキングを作成したりしているので、恐らく、基本的な情報は事務局が集めたものだろうと思われる。すなわち、個人としてシュヴァーブ氏がどのぐらいの寄与をしているのか、それも本書を読み込む過程で解析してみたいと思う。
 しかし、ざっと目を通した段階で、この序文を書いているけれど、不思議なことに、パリ協定なる記述、あるいは、COの排出削減などといった言葉が一切見つからない。例えば、鉄鋼業などがどのようにして、第四次産業革命に乗ることができるのか、といった記述はないのである。その意味では、本Webサイトをお読みの方々にとっては、情報不足であることは否めない。
 この欠陥が本質的なものだと思わない方々にとっては、それほど悪い本であるとは思えない。それぞれの未来技術に対して、一般的に理解すべき項目は、ほぼもれなくカバーしているし、その記述を読んだときに分かる、執筆者の科学的なバックグラウンドも、奇妙なものではない。多くの、読者にとって、参考になる書籍だと思われる。
 まあ、問題点は、と言えば、この第四次産業革命全体に興味のある方々は極めて少数派で、個別の項目についてだけ興味があるというような場合には、いささか掘り下げが浅いように思えることぐらいである。どこまで掘り下げるのか、それは、非常に難しい課題である。なんといっても、まだ技術が完成していないのだから。
 それに加えて、もう一つの問題点は、すでに述べたことではなるけれど、既存の産業、例えば、鉄鋼業とかセメント製造業といった非常に伝統的な産業であるにも関わらず、パリ協定によって、2050年までに、その存立の形態が大幅に変わってしまうような産業に対する記述はほとんどないために、例えば、2040年から2050年の日本の産業構造を書いてみようといった、国レベルでの思考にも余り有用ではない。。
 ということで、この本をお勧めする対象となる方とはと言えば、多分、こんな方々である。とにかく、現在存在していない新しい技術や産業が、2050年に、どのような形になっているか、その推測について、正しいかどうかは別として、何はともあれ知って起きたいという方々である。


C先生:ダボス会議には行ったことが無いけれど、ここまであの会議を世界的にした功績は、このシュワブ氏、正式な発音だと、シュヴァーブ氏にあるのではないか、と想像している。
 そして、今回のこの書籍であるが、どう考えても、ダボス会議の事務局が項目を選択したのではないだろうか。しかも、未来的な視点だけを選択基準にして。

A君:まあ、その前に、一般的な書籍のご紹介から。
第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来 単行本(ソフトカバー) 2016/10/15
クラウス・シュワブ (著)
, 世界経済フォーラム (翻訳)出版社: 日本経済新聞出版社 (2016/10/15)
言語: 日本語
ISBN-10: 4532321115
ISBN-13: 978-4532321116

B君:この本のamazon情報によれば、
マーク・ベニオフ(salesforce.com会長兼CEO)
ムーター・ケント(コカ・コーラカンパニー会長兼CEO)
アンヘル・グリア(OECD事務総長)
L・ラファエル・リーフ(MIT学長)
カール・ヘンリク・スバンベリ(BP会長)
が、賛辞を寄せている。シュワブ氏が個人で書いたという可能性はあるようにも思うが。

A君:非常に忙しいと思われる方が、全部自分で書くことは無いと思う。まあ、しかし、これは余り大きな問題ではなくて、情報の収集などが組織的に行われることも、恐らく、その書籍の価値の一つですから、「どのようにして書かれたか」、は書籍の本質的な価値ではないのでしょうね。

B君:なんだ。ちょっと「はじめに」を読んだら、そこに答えが書かれている。
 「本書で取り上げた情報や私自身の分析の大半は、世界経済フォーラムが現在進めているプロジェクトとイニシアティブに基づくものであり、フォーラムの最近の会合で詳しく説明され、協議され、活発に議論が重ねられたものだ。」

A君:なるほど。そして、まだ続きますね。「つまり本書は、世界経済フォーラムの最近の会合で詳しく説明され、協議され、活発に議論が行われたものだ。つまり、本書は、世界経済フォーラム(以下、「ダボス会議」)の将来の活動を方向づける枠組みを提供するものである」。

B君:となると、製鉄業やセメント業など、パリ協定対応がほぼ不可能と考えられるようなCO大量排出企業は、ダボス会議に出ても無意味ということを意味しないか。そもそも議論の対象になっていない。

A君:確かにダボス会議なるものの存在理由は、既存の重工業のようなものの未来を語るものではないですね。

B君:しかし一方で、ダボス会議では、毎年の世界における重大なリスクの解析は連続して行っている。解析というよりは、実は、有力な経営者などにアンケートを送って、その結果をまとめているらしいのだけれど、いずれにしても、世界の経営層が、何をリスクだと思っているか、それを知ることは、ダボス会議でも不可能ではない。

A君:えーと、余り記憶が鮮明ではないのですが、フォーラムは会員制だったような。名簿がwebで見られたような気がします。世界の重工業のような企業のメンバーがいるかどうか、チェックしてみますか。

B君:ここにメンバーリストがある。
https://jp.weforum.org/about/industry-affiliations

A君:鉄鋼業だと、世界最大のアルセロール・ミタルは、、、ああ、メンバーですね。

B君:新日鉄住金は、英語の正式名称は、NIPPON STEEL & SUMITOMO METAL CORPORATIONだけど、、、、見つからない。ローソンなどがメンバーなのに。

A君:結局、パリ協定対応によるCOの大幅削減など、これから実は、第四次産業革命を本当に起こさなければならない企業の技術については、この本は何も書いていない。

B君:まあ、日本でも類書を読めば、シンギュラリティのような話、要するに、特異点があって、世の中が、なんらかの技術的な進展によって、ガラッと変わるといった話だけがカバーされているのが普通で、これからの世界の状況を考えると、まだまだ途上国が発展をするには、鉄とかセメントとか基礎的な素材が不可欠だなどという地味な技術論は、やらない。なぜか、それは、特定の企業だけが影響を受けるし、儲けも出せる、何か、今のうちに考えて置かないと、ここで遅れを取る可能性がある、といった話題が、ダボス会議でも中心だということだ。できるだけ多くのメンバーが、自分でも考えてみようという気になることで、翌年もダボスに集結する。これがダボス会議にとっては、もっとも追求すべきメンバーサービスなのだから。

A君:これは日本でも日経などの未来本では同じ傾向ですか、まあ、当たり前のことだと理解すれば良いのでしょうね。
 ということで、目次を見ると、このような傾向が歴然という本です。しかも、読者が多いようなテーマが取り上げられている傾向は顕著。

B君:第一章から行けば、第四次産業革命とは何か、から始まる。人類の活動で言えば、産業革命以前に、狩猟生活から農耕生活への変化があって、家畜を使うことによって、農業に変革が起きた。そして、食糧生産も増加傾向になって、人口が増大。
 この農業革命に続いて、18世紀後半からのいわゆる産業革命が起きた。その特徴は、これまでもしばしば指摘しているように、動力革命だった。まずは、蒸気機関が発明され、鉱山などのポンプなどがこれで運転された。また、移動手段にも蒸気機関が活用できる状況になった。

A君:これが第一次産業革命(1760年から1840年)。そして、次に来たのが、電気による第二次革命。電気が動力になると、その制御の容易さや排気ガスなどが無いことが決定的な要因になって、細かい自動化が行われた結果として、大量生産が可能になった。第二次産業革命がこれ。

B君:そして、第三次産業革命は、メインフレームコンピュータ、パーソナルコンピュータ、そして、インターネット。コンピュータ革命、あるいは、デジタル革命と呼ぶのが適当。

A君:第一次産業革命が、人力から蒸気力への転換、第二次産業革命が、同じものを大量に作るということ。すなわち、人力ではできない「制御されたスピード」を得た。そして、第三次産業革命では、人間の脳では処理が不可能な情報処理能力・情報伝達能力の向上によって、コンピュータが実現した変化。

B君:そして、第四次になるのだけれど、実は、第三次との区別が非常に難しい。むしろ、機器の小型化が一つあり、ヒトという生物の持つ情報能力を真似ていたコンピュータが、人間の思考の単純さを暴いてしまったし、もともと、記憶能力やデータへのアクセス速度では勝っていたコンピュータが人間だけができると勝手に考えられてたい仕事をするようになるということ。

A君:人間の判断は、かなりいい加減なので、間違う可能性がある。しかし、大量のデータを一瞬で分析することが重要な仕事であれば、判断を間違わない機械ができる可能性があるということか。

B君:シュワブ氏も、第四次産業革命の定義は難しい、としている。非常に範囲が広い。例えば、遺伝子解析のような技術が生み出す大量の情報の活用、再生可能エネルギーの利用技術、量子コンピュータによるより短時間でも最適選択技術、などなどがあって、実は、これらが様々な領域で相互作用を持つことによって、起きる産業革命だと考えているようだ。

A君:どうも、第四次産業革命を目前にしている、という気分は無い訳ではないのですが、もっと違う説明があっても良いのでは、という気がします。第一次産業革命は、明らかに、動力源としての人力が不要になったこと。第二次産業革命は、実は、電気革命と言った方が良いのでは、と思うのです。電気以外のエネルギーだとやりにくい仕事ができるようになった。そして、第三次産業革命は、情報のハンドリング。コンピュータは当然として、遺伝子などの情報解析によって、ヒトの病気というものの治療法(むしろ修理法に近いけど)ができたこと。
 そして、第四次とは、人間の仕事が変わること。複雑なロジックの処理ができるようになったので、定型的な判断は機械の方が正確という時代。人間のやるべき判断は、すべからく感情的な判断をどのように正当化できるかだけになる。これが人間の仕事。これが第四次産業革命の最終定義になると思っています。

B君:その説明って、初めて聴いたけど、いつからそんなことを考えてたの。

A君:いや、そんな感覚は大分前から有ったのだけれど、実は、このシュワブ氏の本を読んでいて、たった一箇所だけ同意できたところが、ありました。それが、p59にあるもっとも自動化されにくい商売の表でした。

 失業の可能性    職種
 0.0031 ソーシャルワーカー
 0.0040 振付師
 0.0042 内科医、外科医
 0.0043 心理学者
 0.0055 人事担当マネージャー
 0.0065 コンピュータシステムアナリスト
 0.0077 人類学者&考古学者
 0.0100 船舶機関士、造船技師
 0.0130 セールスマネージャー
 0.0150 最高経営責任者

B君:なるほど。この表から、何が共通要素であるかを探ったのか。

A君:この種の商売であることに同意できなかったのが、船舶機関士、造船技師ですね。これは、結構、機械化が可能だと思います。ほとんど、これまでのデータ(気象データを含む)依存で行けそうに思うので。それ以外の職種の共通点を探したら、やはり、心理的なハンドリング。具体的には、感情的な判断をどのように正当化するか、という課題。

B君:たしかに、この59ページあたりが、この本の密度が高いところかもしれない。

A君:そうなんです。その後、どんどんとつまらなくなる。その理由は、具体的な記述が増えてきて、そんなことは常識だろ、というようなものがメインになるので。

B君:チラチラと見てみるか。ちょっと気になったのが、p134の「問われる倫理観」というコラム。この記述もなぜか十分ではないように思うな。

A君:その次のp136あたりの記述、それは、大学院生ぐらいまでの年齢層のアンプラグド(インターネットと切断された状態)の時間が余りにも短いということが重大な問題であるということの指摘もその通り。こんなことをしていたら、人の心の機微などが理解できなくなってしまう。となると、本当に皮相的な判断しかできなくなって、そのような人間性では、一番始めに失業者になってしまう。AIの判断の方が、人間性が高いと言われたら、その人の「生命としてのヒトの存在意義」は無いので。

C先生:そろそろ終わりにしないと、分量が多すぎなのだが、付章である「ディープシスト」の説明だけはやって貰いたい。

A君:このディープシフトという意味は、これから起きる大幅な変化といった意味だと思うのですね。それぞれがシフト1からシフト23までで記述されていまして、シフト1が「体内埋め込み技術」、そして、最後のシフト23が「ニューロテクノロジー」。たまたまなのですが、最初と最後は、肉体改造と脳改造の技術です。

B君:人間が物理的にどこまで人工物になるか、という話。ニューロテクノロジーだと、情報は外部から伝達できることになるので、そもそも人間とはなにか、あるいは、そのような人間はどのような感情を持つのか、これが良くわからない。

C先生:OK。ここまでで十分だろう。これまで話を聴いてきて、様々なことが盛り込まれているが、確かに、最初の指摘であった、パリ協定を遵守するというスタンスから言うと、どうやってCO削減技術を開発するのか、そもそもどのようなCO削減技術がありうるのか、という地球上における人間生存にとってもっとも重要な技術なり革命が書かれていないのは、どうにも視野が偏っているとしか言えない。まあ、経済界の人々にとっては、化石燃料というものの便益は最高なので、できるだけ、触りたくない課題なのだろう。
 シュワブ氏の言う第一次産業革命は、明らかに、化石燃料の利用技術の開発だった。そのために、人類は急速に進化して、現在の快適な生活が実現できた。しかし、良く良く考えてみると、化石燃料というのは、大金持ちだった先祖(実は地球上の植物)が土蔵(地中深く)に蓄えてくれた骨董品のようなもので、必要になったら、いくつかを持って骨董屋に行くと、生活費になる(快適な生活ができる)。しかし、その骨董品には、害があった。実は、その表面には、有害物質が付着していたため、それを触るたびに、その人は、病気になる。しかし、生活上、大変に便利だから辞められない。ということで、その家には、人が居なくなった。
 第四次産業革命は、実は、このような事態にならないような革命を目指さなければならないのだ。しかし、先祖の金持ちが貯めてくれた財宝である化石燃料に比べれば、自然エネルギーは、使い勝手は悪い。その悪さを克服する新しい技術を作ることができれば、それはそれでも良い。しかし、地球上の資源が有限であることは考えておかなければならない。やはり、人類と地球との戦いでは、最後の最後には、人類側が、やはり、人類側の利便性だけを考えていては、本当の解決策を実現できそうもないですね、と言わされると思っている。まあ、人口次第でもあるのだが。
 このような感性をもった人間を作ること、それは、恐らく第一次感性革命と呼ばれることなのかもしれないが、それが必要なのが、今世紀の後半のどこか。果たしてどうなるやら。