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     IPCC AR5統合報告書の読み方 
   11.15.2014
          CO2を廃棄物とすれば、地球の状況は、東京都中央防波堤最終処分場と同じである




 11月2日に発表されたIPCC AR5の統合報告書(Synthesis Report)をどう読むべきか検討してみたい。

 本Webサイト流の読み方は、「二酸化炭素などの温室効果ガスをゴミだとみなせば、地球の状況は、東京都民が出すゴミと東京都中央防波堤最終処分場との関係と同じである。そのココロは、数十年後には満杯になって、それから先、ゴミを捨てることはできない。しかし、誰もその深刻さを考えていない。東京都すらそう見える!」



C先生:まずは、情報の整理から。

A君:現在入手できる文書は、11月11日現在ですが、

■環境省のサイトから、
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/
政策決定者のための要約版(SPM=Summary for Policy Makers)の日本語仮訳が入手可能。英語版のSPMには若干の図はあるけれど、日本語版は部分的な和訳のみで、図はない上に、内容もありきたりなので、読む価値はない。

■IPCCのサイトから
http://www.ipcc.ch/
Synthesis ReportのLong Versionが入手可能。英語版のSPMが40ページですが、Long Versionは116ページと3倍。図の枚数がかなり違うので、こちらの方がお奨め。

B君:この統合報告書だけれど、個別の検討は、ワーキンググループWGで行われていて、WG1はThe Physical Science Basisが題名で、昨年の9月に、また、WG2はImpacts, Adaptation and Vulnerabilityが題名で、今年の3月に、そして、WG3はMitigation of Climate Changeで今年の4月に報告書がでているので、統合レポートといっても、データについては、新規性がある訳ではない。

A君:要するに、まとめ方を変えて、より分かりやすい図などを作ったということでしょうか。

B君:となると、どの図がもっとも重要かということになる。

A君:ペラペラとめくった限りでは、次のこの図ではないでしょうか。この図が分かってしまえば、はっきり言って、今回の統合報告書のほぼすべてが分かったことになる。


図1 AR5 SyRのSPMの図2.3 

B君:確かにこの図はWG1の元の図よりも情報量が増えている。。

A君:WG3の報告書の中にも同様の図があってもよいはずなのですが、実際にはありません。この図は、WG1の報告書の中にその大元がある図から作成したものなのですが、その図は、本Webサイトの評価は、「AR5の図の中では、最高のお奨め品」で、図2に再度示します。



図2 WG1のSPMの図SPM.10

B君:単に、AR5の中のベストではなくて、この図が意味することは、これまでの温暖化研究の中で、最大のインパクトを持っているとも言えるだろう。それは何か、と言えば、2100年程度までを想定すれば、すなわち100年オーダーで考えれば、将来のある時点の温度上昇は、1870年からその時点までの二酸化炭素排出量の累積量だけで決まってしまう。なぜなら、地球が大気からCO2を吸収する速度は余り速くないこと、その一方で、大気中に増加した二酸化炭素量に対する温度の上昇のレスポンスはかなり速いので、そのように見えるということだ。

A君:ということはですね、「地球は人間が排出した二酸化炭素を吸収する能力があるので、多少の二酸化炭素を排出したところで、そのうち地球が吸収してくれるから、気温なども元に戻る」ということは単なる思い込みだった。しかも、非常に大きな誤解に基づく思い込みだった。すなわち、100年オーダーの議論をするときには、これは間違った考え方だった、ということになりますね。

B君:ということだ。言ってみれば、CO2などの温室効果ガスがゴミで、地球の状態は東京都の中央防波堤最終処分場の状態と変わらないということだ。

A君:なるほど。最終処分地の残余容量を年間の焼却灰などによる埋め立て量で割れば、満杯になるまであと何年しか無いかが分かる。そして、満杯になってしまえば、埋め立てができないので、ゴミを捨てることはできない。これと同じことが、今の地球の場合にも起きている。

B君:その通りで、もしも残余年数を2倍にしたいと思えば、埋め立て量を半分にしなければならない。

A君:ただ、最終処分地の規制を変えるという方法もありますね。詳しくは知りませんが、羽田空港の飛行機の経路があるので、多分海面上10mぐらいが許容されていると思いますが、それを20mまで高く積めるように変えれば、ざっくり言えば、残余年数は2倍になる。

B君:その通り。許容する温度上昇が、丁度、その高さに相当する。これまで2℃を考えてきたが、もし3℃までの上昇を許容するとすれば、その約1.5倍の1500GtCが総排出可能量=総埋立可能量になって、すでに排出してしまった500GtCを差し引いたもの1000GtCが、残余容量になる。

A君:そのように理解するには、図2の読み方を説明しないとだめですね。

B君:その通りで、1870年からの温度上昇許容値として、2℃だと図2から分かるように、大体1000GtC(炭素で勘定してギガトンが単位)が総埋立可能量で、それからすでに排出してしまった約500GtCを差し引いた500GtCが残余容量となる。もしも、排出量が一定なら、その排出量で割れば、残余年数になる。

A君:さらに考えなければならないことは、最終処分地の場合と何が同じかということです。残余年数が0になってしまえば、その最終処分地は閉鎖される。すなわち、地球の大気へのCO2排出も、「閉鎖」されてゼロにしなければならない。

B君:まさにその通り。図2は1870年以降ということだが、次の図は1750年以降の化石燃料燃焼による二酸化炭素の排出の累積量を示している。
http://www.earth-policy.org/indicators/C52/carbon_emissions_2013

図3 世界全体の化石燃料燃焼によるCO2累積排出量

A君:1750年からといっても、実際にCO2の排出量が見える程度になるのは、1850年以降です。ということは、図2の横軸が1870年からの累積積算量ということは、歴史上、人類が燃やした化石燃料のすべてを含んでいるということですね。

B君:その通り。排出量の傾向を見ると、1950年頃から急増している。この年は、食糧生産量が急増し、人口も急増した年だ。より具体的には、ハーバーボッシュ法によって作られたアンモニアが化学肥料に使えるほどのコストになった年だ。そこで、排出量を三角形で近似すれば、1850年から1940年までの三角形(黄色)と1940年から2012年までの排出量(緑色)に分けてみれば、前者が約80GtC、後者が350GtCで、合計430GtC。図2のデータとほぼ一致する。


図4 三角形で近似して、排出量を推定 2012年まで

A君:さて、問題は、今後の排出動向になります。もしも現時点と全く同じ量を2080年まで排出し続けるとすると、図5のように、700GtCの追加になって、累計排出量が1130GtCになり、これは、GtCO2に直すには、3.67倍すれば良いので、約4000GtCO2。この数字と図2を使って温度上昇を推定すると、約2.5℃。



図5 2012年から2080年ぐらいまで現在のCO2排出量が維持されてしまった場合の排出量。

A君:そして、もしも現在の増加傾向が継続するとしたら、排出量は、図6のピンクの部分が加わるので、追加分が1050GtCになって、累計排出量は2080年で、1480GtCとなります。



図6 2012年までの排出の増加傾向が、今後、2080年ぐらいまで継続すると仮定した場合。

B君:1480GtCが何度に相当するかを図2を使って推定すると、約3℃の上昇になる。

A君:3℃の上昇だと、ちょっと厳しい。

B君:その通りなんだ。以前から2℃以内の上昇ならば、極めておかしな現象が地球上を覆い尽くすようなことはない、と言われてきた。しかし、2℃はもはや実現不可能で、現時点からすぐに一定になることも、難しいので、最良でも2℃+アルファになってしまう。このアルファをいくつにできるか、それが最大の問題だ。

A君:次の図6の上部左に示しているものが、その情報に近いかもしれない。左から、Unique & threatened systems, Extreme weather events, Distribution of impacts, Global aggregate impacts, Large-scale singular events となっていますが、それぞれの意味は、大体次のようなものです。

Unique & threatened systems
 生態系などで、極めて貴重なもの、もしくは、すでに危機的状態に近いシステムを意味する。
Extreme weather events
 言うまでもなく、異常気象。
Distribution of impacts
 様々な異常現象が、人もしくは地域にどのように分布するか。
Global aggregate impacts
 生態系などへの影響が、温度の上昇によって、どのように累積的になるか。
Large-scale singular events
 いわゆるTipping Elementsで、ある温度を超すと、停めることのできない地球規模の特異的な悪影響が発生すること。例えば、グリーランドや南極の氷の融解による海面上昇が起きること。



図6 Synthesis Reportより。それこそ、様々な図をSynthesisした最終結論。

B君:この最後のTipping Elementsは1℃以上の温度変化で何かが起きる可能性もあるけれど、問題になるのは2℃を超えたときから。そして、ひどくなるのが、2.5℃を超えたときぐらいという感じだと受け取れば良いと思う。

A君:ということは、アルファをなんとかして、0.5℃以内に収めたい。

C先生:その2.5℃以内という数値だけれども、日本で地球温暖化問題が真剣に検討されるようになった2004〜5年頃から、最終ターゲットとして目指すべき数値は2.5℃以内ではないか、と言ってきた。しかし、EUやUNEPをはじめとする国際機関は、2℃を目標にすべきだという見解だった。これは、無理もないことで、もしも2.5℃を目標にすると、それなら、3℃ぐらいまでならそれほどの問題はない、と考える人が多いことを考えての2℃だった。

A君:いよいよ時代が進んで、真剣に「最悪でも2.5℃を目指す」という動きにならなければいけない。しかし、2010年にメキシコで行われたCOP16でのカンクン合意がそのまま実施されたとしても、その目標年である2020年の排出量は、図3で示した1940年から直線的に増大する線上を動くだけ。少しも変わらない。

B君:やはり世界全体で、2030年ぐらいまで排出量が増大しないぐらいの目標を立てないとダメなのだろう。

日本が今後できること

A君:とはいえ、日本の排出量だって、2005年ぐらからほとんど減っていません。しかも、日本がこれまで減らしてきたのは、よく言われるように、乾いた雑巾をさらに絞るような省エネで減らしたとも言える状態で、残るジャボジャボしている部分がどこかあるか、と言われれば、個人用としては、無用に大きく重い乗用車、断熱の悪い家やビル、非常に古い家電製品、それに省エネマインドの全く無い人々ぐらいなものでは。

B君:古い冷蔵庫、プラズマテレビ、古い液晶テレビの買い替えは是非とも進めたい。

A君:エコポイントを復活させることは、需要の先取りにしかならないので反対。むしろ、古い冷蔵庫、プラズマテレビ、古い液晶テレビのエコ下取り政策をやるべきかもしれない。少なくとも、リサイクル料金の2倍ぐらいの支援。

C先生:省エネも、すでにかなり進んでしまったこの国では、さらなる普及は難しい。環境省の買い替えの省エネ経済性を比較するソフト、”しんきゅうくん”があるが、それで、次のような比較をしてみてくれ。
 旧冷蔵庫:2000年製、410L
 新冷蔵庫:2014年製、510L
なぜ、新冷蔵庫の容量が大なのか、というと、外寸がほぼ同じなので、買い換えるとこんな選択になる可能性が強いからだ。

A君:了解です。新冷蔵庫は、東芝のものを入力しました。
 その結果、年間消費電力が490〜570kWhほど節約されて、年間電気代が、10780〜12540円お得になる、とのこと。
 この冷蔵庫を10年間使ったとすれば、前の冷蔵庫よりも10〜12万円程度の節約になる。これは、まあまあ買い替えの効果があったと言えます。それは、2000年製の410Lの冷蔵庫の年間消費電力は690〜770kWhもあったが、2014年製の年間消費電力は、なんとなんと200kWhぐらいなのです。

B君:確かに、現時点での古い冷蔵庫や、プラズマテレビなどは、買い替えると、かなり財布にも有効なのだ。ところがだ。次に買うであろう冷蔵庫の消費電力は、新しい冷蔵庫の半分ぐらいになったとしても、1年間で節約できる電力は、100kWhに過ぎない。これは、年間2、200円、10年で2万2千円の節約にしかならない。

A君:要するに、ある製品のエネルギー効率が2倍、2倍、2倍、2倍と上がったと考えてみます。最初のモデルの消費電力が年間1000kWhあったとして、それを新製品に買い替えて500kWhになれば、500kWhの節約になる。しかし、次の製品の消費電力は、前のモデルとの差は、250kWhしかない。そして、最新モデルとその前のモデルとの差は、125kWhしかない。
 要するに、エネルギー効率とは、経済的な効果で見ると、飽和してしまうのです。

C先生:残る問題は、自然エネルギーの導入がどのぐらい可能なのか。原子力を安全性を高めながら導入すること。これらは、別途、記事にしてみたい。

B君:ざっくり言うと、こんな感じになるのでは。日本の場合、再生可能エネルギーの導入だが、太陽光発電については、FITの屋台骨がぐらぐらするほどの状況にはなったものの、他の分野では全くといってよいほど動いていない。

A君:地熱は有望だと言っても、ポテンシャルの90%ぐらいが国立公園内にあって、環境省の言う斜め掘りでは地熱資源の探索をするにしてもコストが高くて、やる人が少ない。

B君:風力は、やはり洋上風力以外は揺らぎが大きくて大問題。日本だと海が急に深くなっているので、オフショアの洋上風力は、浮体型にならざるを得ないけれど、これをいくら高くついてもよいから、やる以外にはないのだろう。

A君:そのとき、漁業権の問題が非常に大きいかもしれない。

B君:状況は良く知らないが、領海である12海里以内であれば、漁業権が設定されている可能性がある。

A君:12海里というと22kmですね。水深は当然100m以上でしょうね。

B君:もしもデンマークからポーランドあたりのバルト海みたいな水深だと、洋上風力も楽なのだが。

A君:バードストライクの問題が日本では大きいですね。洋上風力なら大丈夫なのでしょうか。

B君:バードストライクだと、渡り鳥の経路を避ければ良いという理解が一般的だ。日本でもっとも問題になっている鳥は、オジロワシとオオワシか。両種とも、北海道を越冬地とするワシだけれど、個体数が減っている。

A君:九州大学の大屋裕二教授が開発した風レンズを付けた風車は、その視認性が優れているためか、バードストライクを防止するのに有効とのこと。

B君:最近のモデルは、コストを考えて風レンズが小型になっているが、それでも、通常のタイプの2倍の出力が確保できるという話。

A君:本当にバードストライクが少ないのであれば、北海道などの風力適地へ設置してみると良いですね。ただし、この方式ではMW級は作れないのかもしれません。

C先生:という訳で、自然エネルギーもそれほど有効だとは言えない。やるのならば、すべての個人に蓄電池でも買ってもらって、実現するといった方法論になるかもしれない。省エネがダメ、自然エネルギーも限界があるとすれば、残りは原子力。ところが、原子力も完璧なシステムとは程遠い。やはり、化石燃料を使う発電などの方法に比べると、完成度が低い。

A君:そういうことになると、最後は、化石燃料にCCSを付けるということで対応する以外に方法が無くなってしまう。

B君:CCSは、原理的には可能なのだけれど、CO2を隔離する場所の問題が日本では厳しい。理論的なポテンシャルは、1400億トンぐらい。年間発生量の100年分ぐらいにはなるが、現実に使える量は、10年分ぐらいではないだろうか。

C先生:今回のAR5でもっとも重要な図として示した図1と図2だが、その解釈として次の2点を示すことが重要だという結論になる。
(1)現時点からのCO2排出量の削減がほとんど進まなければ、今世紀後半には、排出許容量がゼロになる。
(2)もしも、多少早めに削減が実現できれば、2100年になっても、現時点の10%ぐらいの排出量は可能になる。

A君:ということは、排出量ゼロ、排出量を一人当たりにして、現時点の10%という二点をゴールとしたバックキャストを行わないと本質的な解決に至るのは難しい

B君:その通りだ。排出量ゼロというのは、ほとんど不可能。となると、若干の排出量+ネガティブエミッションという方法になって、具体的には、CCS付のバイオマス発電を多用することになるが、現実には、かなり難しい。

A君:というと、排出量を比較的早めに削減した上で、2100年でも一人当たりの排出量を今の10%まで減らすということが現実的なゴールになって、そこからのバックキャストで話を進めることが必要になる。

C先生:その話は、また機会を改めてやろう。細かい話を別にすれば、やはり、最後の最後は、自然エネルギーへの大量依存しかない、という結論が変わる訳ではないので。これは理論的に当たり前で、地球のもっているストックを使うという方法には限界があって、決して、定常状態には到達できないからだ。2100年にはほぼ定常状態を目指そうということをしばしば言っているが、それは、自然エネルギー、すなわち、「フローのエネルギー」=「毎日毎日太陽が与えてくれる太陽光エネルギーとそれが元になっている風力などのエネルギー」を使う以外に、今後、万年オーダーで続く社会を作ることはできないからだ。
 本日の結論として、21世紀中にCO2排出量をゼロから1/10にしなければならない日がやってくる。そのときにどうするのか。そこまで、考え方を拡張しなければならない、という意識にさせる図、それが、AR5の図だということだ。