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  安倍首相の大胆提案と実現可能性 05.26.2007
     



 安倍首相は、5月24日の夜、アロヨ・フィリピン大統領などが参加した会議「アジアの未来」で講演、2050年までに全世界の二酸化炭素など温室効果ガスを現状から半減させることを全世界の共通の目標として掲げ、ポスト京都となる13年以降には、米国、中国、インドなどのすべての主要排出国が参加できる枠組み作りを提唱した。
 同時に、12年までに90年比で6%削減するとした目標の達成に向け、計画を見直す考えを示した。
 これを実現するため、経済成長と排出削減を同時に追及できる「革新的技術の開発」「低炭素社会づくり」を掲げ、原子力発電技術の安全で平和的な利用拡大などを挙げた。
 また、途上国からの参加を促すために、日本などが排出削減に熱心な途上国を支援する「資金メカニズム」の構築を目指すことを表明。
 日本向けのメッセージとしては、排出を「1人1日1キログラム」減らすことを家庭や職場の努力を呼びかける、と語った。

C先生:実は、一昨日24日の午後、日経ホールでレスター・ブラウン氏と講演会をやっていた。ブラウン氏が1時間、私が1時間の講演を行い、その後、参加予定者からすでに貰ってあった質問を中心に、45分間に渡ってかなり広範な議論をすることができた。最初の講演で、安倍さんが、いつかのタイミングで、2050年排出量半減の発表をするだろうと、述べた。その夜、安倍首相が実際にそんな発表をするとは、夢にも思わなかった
 勿論、それらしきリーク記事はあった。ブログで、5月9日の日経と朝日の記事についてコメントを書いたが、
http://mntrav.cocolog-nifty.com/kankyo/2007/05/post_54f9.html 
そのときは、余りの意外性にガセネタだと思った。しかし、そのフォローをするような状況が起きているようでもあり、さらに、5月18日の日経に、こんな記事も出たので、
http://mntrav.cocolog-nifty.com/kankyo/2007/05/post_4be8.html
ひょっとすると本気かな、と思っていたところだ。しかし、それにしても、こんなにも早く発表をするとは思わなかった。

A君:まあ、安倍首相も欧州の政治家のように、環境の未来についてなんらかの対応を表明することが一つの役割だと考えるようになったのではないか。

B君:英国のブレア首相、ドイツのメルケル首相に会って、かなり変わったという噂は本当だったのだろう。

C先生:今回の発言だが、米・英・独の首脳と電話によるすり合わせが行われているという報道もある(日経新聞の記事)。

A君:まあ、やっと日本の環境も先進国並みになりつつある。

B君:米国の環境対応が、実は非常に速いのではないか、という逆の懸念があった。すなわち、日本だけが置いて行かれるのではないか、という懸念だった。まだ安心はできないが、なんとか一人置いてきぼりの事態は避けられたかもしれない。現状だと、カナダが多少気の毒かもしれないが。

C先生:しかし、まだまだ問題解決という訳ではない。まず、来年から始まる第一約束期間(2012年まで)の5年間で、6%マイナスを達成できる可能性が非常に低い。家庭、オフィスなどからの排出量を下げることは難しいからだ。

A君:交通関係は、まだ目に見える部分があるのですが、オフィス内や家庭内はなかなか見え難いですね。

B君:ニューヨーク市長のブルームバーグ氏が、2012年までに、全タクシーをハイブリッドにする、と宣言したけど、東京だってやっても良い。

C先生:ブラウン氏の講演によれば、米国では、大統領の意向とは全く無関係に、400もの市で、二酸化炭素の排出削減政策が始まった。州レベルでは、勿論、シュワちゃんのカリフォルニアが有名。日本でも、自治体が削減目標を作って、そのために条例を決めるという方法が有効だと思われる。

A君:東京都も都庁からの排出は10%削減するといった方針はあるようで、これまでの実績が報告されいたりしますね。http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/sgw/totyouplan/2005%20tochou-plan_1.pdf

B君:石原さんもブルームバーグ市長を超さないと。

C先生:安倍さんの講演に戻るが、とりあえず目前の目標として、「1日1人1kgの二酸化炭素排出削減」をという提案がされているのだが、これがどのぐらいのことを意味するのか、普通の人には分からないだろう。

A君:このHPでは、2005年3月に同様の情報をだしています。
http://www.yasuienv.net/ReduceCO2Personal.htm

B君:是非とも、1kgの二酸化炭素排出を抑えるということはどういうことなのか、見直していただきたい

C先生:もう一つの問題は、すでに議論した国立環境研の温暖化防止2050のための準備が本当に進んでいるのか、という点。
http://www.yasuienv.net/NIES70Cut.htm

A君:それに、安倍さんは日本の省エネ技術で世界に貢献するということを主張しているが、日本の技術は本当に世界でトップなのか、ということも問題。

B君:かつて、良かったことは事実。

C先生:ブラウン氏から講演後に、発表につかったPPTファイルが欲しいと言われた。今回のファイルには、多少英語を加えてあるためだが。本日は、当日の発表内容をご紹介してみたい。

ここからダウンロードをお願いします。
http://www.yasuienv.net/PPT/GlobalEnvNewestAndMeasures.PPT

PPTファイル
1〜10.ノルウェーにおける持続可能性の議論をきっかけに。
 「ノルウェーはエネルギー使用量を下げずに、二酸化炭素をゼロにする」(再生可能エネルギーと中国、インドなどでの風力をスワップ)

A君:やはり、エネルギーの消費量は下げざるを得ないのではないか、が結論ですか。

C先生:現時点だと、温暖化の回避だけが目標になっている。確かに、温暖化は、21世紀の問題。化石燃料の枯渇は、部分的に21世紀に始まるが、全面枯渇は23世紀の問題だ十分な余裕をもって、化石燃料から離脱するためには、化石燃料をいかに効果的に使うか、これが人類全体にとって重要な戦略。だから、図のように、二酸化炭素の排出量も下げるが、エネルギーの使用量そのものを下げる必要があるだろう。これが主張。

PPTファイル
11.〜13.IPCC第3ワーキンググループの第四次報告書による価格別二酸化炭素削減可能性。
 「1トンのCO2の削減に20ドルをかける場合、50ドル、100ドルの場合に、どのような分野に削減できる可能性があるか」。特に、次の図を基本にして、それぞれの日本の状況を解説。



図 IPCC、AR4、WG3報告書より

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14.〜16.輸送
 20ドル以下で対策がほぼ完了する。その内容は、
(1)低燃費車の導入。ハイブリッド、そして電気自動車。水素自動車は考えられていない。
(2)途上国におけるガソリンの補助金の廃止。
(3)バイオエタノールなどは、ある程度は有効だが、農業政策だと思うべき。


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17.〜21.建物と付帯設備
 20ドル以下で最大の削減量を実現できる領域。断熱などは当然重要であるが、エアコン、給湯、照明など、日本の技術を生かす可能性がある。
 ところで、日本の省エネ技術は優れているのか。18.に示す電気機器の省エネの進展であるが、1970年代の石油ショック対策では、圧倒的な省エネが実現された。しかし、その後もエアコンの効率化は進行した。図19にCOP(効率係数)の進展を示すが、トップランナー基準の導入(正式には1999年4月)前後から、再度急速な効率化が実現されている。そして、現時点まで継続中。

http://www.eccj.or.jp/top_runner/index.html


A君:トップランナー基準は、日本が世界に誇るに足るシステムだと思う。製品を細かく分類し(区分という)、それぞれについて達成すべき消費エネルギー量を決め、その基準を何%上回ったか、というラベルを表示する。エアコンだと、現在、32の区分。ただし、小型エアコン以外の効率が上がらないため、2010冷凍年からは、4区分に整理される。

B君:照明では、LEDに期待があるようだが、現状では、消費エネルギーあたりの光の量とその分布で言えば、まだ蛍光灯に優位性がある。もっと効率が上がらないと、室内用照明としては実用にはならない。

A君:ただ、自動車のヘッドライトのように、ある方向にだけ光を出せば良いような用途には、向いている。家庭用としては、まずは、スポットやダウンライトなど用だろう。業務用なら交換が難しい高いところに付いているスポットライトなどから始めるべき。

C先生:21.のスライドにLEDのスタンドを示すが、5Wの消費電力で、机の上の明るさは10W級の蛍光灯並み。しかし、その方向以外には、光は全く出ない。LEDの効率が倍になれば、といったところだろう。


PPTファイル
22.〜24.製造業
この部分の主張は、すでにした通り。トップランナー基準の思想を導入すべきだということ。具体的には、「ある国である素材の製造の二酸化炭素排出原単位が低かったとする。その値までの排出は×1として計算するが、それを超した排出は、×3(別に×5でも良いのだが)として計算する」。
 例えば、現在、鉄鋼の場合、日本が100、EUが110だとすると、EUと日本の差については×3して、日本100:EU130と計算する。


C先生:こんな発言をすると、「日本は技術があるからそんなことを言う」と世界から怒られるといった危惧が一部にはあるようだが、安心して大丈夫。
 現在鉄鋼業における主要な省エネ技術としては、(1)コークス乾式消火設備、(2)高炉炉頂圧回収設備、(3)転炉ガス回収設備、の3つがあるが、日本では、これらの回収によって得られる電力の価格が高いから、導入が行われており、海外では、電力の価格が低いから導入されていないのが現状。別に、日本にだけ技術があるという訳でも無い。
A君:ちなみに、日本は上記3技術について、導入率が85〜100%。しかし、ドイツだと、33%,24%,0%といった状況。
B君:経済的に合う仕組みを作れば良いだけだという主張ができる。すなわち、排出量取引を加速させるだけで良い。

C先生:日本における鉄鋼業の省エネ投資は、1995年ぐらいまでに終わっていて、それ以後、余り大した投資が行われていない。これを加速しないと、世界トップの座は維持不能なのだ。技術的に特に優れていて、安泰などということは全く無いのだ。

A君:先日、神戸製鋼が新しい製鉄技術をインドに移転するという新聞記事がありましたが、全く新しい技術のようで、1990年代から開発をしていたとのこと。これも、90年代前半に出来ていたのかもしれませんが。

B君:エネルギー効率がどのぐらい高いのか、あるいは高くは無いのか、そのあたり不明。要調査。


PPTファイル
25.から27.発電効率
 日本の火力発電所の発電効率は、1995年ぐらいから徐々に上がっているが、約38%ぐらいで、世界的に見ても、特に高いというものでもない。
 技術的には、コンバインドサイクルの設計効率は1998年の段階で50%に迫っているが、導入が進まない。
 理由は、電気代は世界的にもっとも高い国の一つだから。


C先生:家庭用電力料金だと、日本は19.6セント(2004年)で、デンマークが28.3セントともっとも高い。オランダも22.1セントと高い。ドイツは日本とほぼ同じ。安い国だと、カナダが6.8セント、韓国でも7.8セント。米国が9.0セント。

A君:産業用ということになると、日本は12.7セント。イタリアが先進国としては世界最高で、16.2セント。デンマークは、家庭用では世界最高だけど、産業用だと9.6セントと日本よりも安い。ドイツも7.7セント。フランスは原発のお陰か5.0セント。米国も5.3セント。

B君:本日の新聞によれば、安倍内閣としては、省エネ家電の普及を図って家庭内での二酸化炭素排出量を減らしたいという意向らしい。確かに、エアコンなどは、高級品の方がエネルギー効率は高く、安物はエネルギー効率が低い。買うときに多少高めの買い物をして貰えば、エネルギー消費量は下がる。

A君:しかし、エアコンは、買い替えではなくて、追加になることが多い。古いエアコンを子ども部屋に移す。

B君:やはり家庭用、オフィス用の電気代への課徴金ではないか。例えば、1kWhあたりの電気代の50%分値上げ。産業用は据え置き。これを、電力事業者が、再生可能エネルギー導入のための追加費用、例えば、再生可能エネルギーの購入価格を3倍にして、ドイツなみにするとか、電力網を格段に強化して、大量の再生可能エネルギーが導入できるようにする、火力発電なら高効率発電を導入するなどの特定目的に使用することを義務付ける。

A君:ただ、それをやるなら、ガス代、灯油代などへも、電気代ほどではないにしても、課徴金が必要。そうでないと、法律の穴をくぐる人々が増えるから。

B君:電気、ガス、灯油を抑えれば、家庭用エネルギーとしては十分だろう。

A君:乗用車、個人用商用車用のガソリン、軽油代にも課徴金が必要リットルあたり100円ぐらい。こうなれば、これまで本HPで攻撃してきた大型自家用車、燃費の悪い軽などが多少減る。ただ、この収入を何に使うか、それが難しい。地方自治体の公共交通(新路面電車)の新設などによる都市構造の根本的変更に使うのが良いのかもしれない。大都市なら、電気自動車を使ったカーシェアリングとかいったのはどうでしょう。

C先生:いずれにしても、日本のこれまでの環境技術で自慢ができるようなものは、実は、ダイオキシン対策をした焼却炉ではないか、などと半分本音半分皮肉で思うのだが、省エネ関係となると、ヒートポンプ利用機器とハイブリッド車ぐらいしか無いのではないか。残りの技術は、例えば、待機電力削減技術のように、贅肉削りの技術だった。それが悪いというのではなく、それはそれで必要不可欠。例えば、割り箸、レジ袋も同様。割り箸・レジ袋は環境負荷の絶対量は低いから無視してよいというメンタリティーでは、環境負荷半減といった大技術の開発などがでる可能性は無いからだ。細かいものでも、無駄は無駄、と思うメンタリティーが最終的に大きな効果をもつ技術を生み出す。

A君:ハイブリッドはプリウスが主役だったわけですが、最近のハイブリッド開発では、小さな無駄をひとつずつ潰すような作業をしている。そして、そこから、次の大技術を生み出そうとしているように見えます。

B君:割り箸、レジ袋は、それを無駄、モッタイナイと思えるかどうか、メンタリティーの判定材料のようなものだ。

C先生:個人的には、モッタイナイかどうか、それは有効に使われている時間の長さが問題のように思える。ラーメン屋の割り箸でも、レジ袋でも数分間。しかし、同じ割り箸でも、高級日本料理店であれば、3時間。レジ袋も、モッタイナイと考えて、ゴミ処理用などに有効に使われていれば、余り大きな問題だとは思っていない。メンタリティーの問題だということは同意。ゴミ問題やリサイクル全体についても、そんな感触。ゴミを捨てるときに、無駄をしたと抵抗感を感じるかどうか、そこが根本的な問題のように思えるのだ。

A君:不法投棄をすれば、さらに無駄の上塗りになる、と思えるかどうか。

C先生:先日、ブログの方で、割り箸を不愉快な本だと評した。ゴミの有料化が行われた地域とまだ無料の地域の境目での住民が、不法投棄をやっているというクローズアップ現代の放映があったが、割り箸はスケープゴートだという考え方は、下手をすると、そのような不法投棄をする住民のメンタリティーと繋がっているような気がするのだ。


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28.
 エコ技術2.0が必要。

C先生:これが今回の主題。メンタリティーを高めて、そして、一気にブレークスルーあるいはイノベーションが起きる必要がある。そして、そのターゲットは、2倍。エネルギー効率2倍、資源効率2倍。


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29.〜37.ライフスタイル
 個人としてできることは、
(1)省エネ・省資源
(2)廃棄物≒0
(3)分別
(4)新しい価値観
*新モッタイナイ=エコプレミアム
*プレミアム・ビンテージ
*15〜30年先を考える消費(家、車、家具)

C先生:新しい価値観として、プレミアム・ビンテージを導入した。判断基準は、買った趣味的な製品が15年後にも動作するかどうか。デジカメとかデジタルオーディオなどなどが対象。動作するような製品を「プレミアム・ビンテージ製品」と呼びたい。現行のiPODも、コンパクトデジカメも無理だろう。なぜならば、電池が無い。iPODのように分解しないと電池が交換できない製品は論外。やはり、単三、単四で動く製品、あるいは、リチウム電池、Ni−H電池には新規格が必要。


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38.〜42.超長期見通し。
 化石燃料は、後300年ぐらいですべてを使い尽くす。しかし、使い尽くすこと自体が不幸な訳ではない。現代の生活の方が、人類史的な観点からは、化石燃料文明とでも呼ぶべき生活をしていて異常事態。2300年頃までには構築しなければならない、再生可能エネルギー文明の準備のために、有効に化石燃料を使えないとしたら、それが不幸なこと。
 化石燃料文明は、先進国に経済的な発展をもたらしたが、温暖化などの副作用を生んだ。その被害は、先進国よりも、途上国に起きる。それを黙って見過ごすことは、先進国の住民として許されないことである。
 その割には、日本のメンタリティーは内向きで、保守主義との細かいすり合わせが必要な社会になっている。

C先生:もっとフットワークの良い社会を。そして、哲学性のある社会を作らないと。