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  「低炭素社会計画」で足らないこと  08.31.2008
     



 夏休みは、色々な本を読む時間が多少あったもので、最近出版された「反環境本」の解析などをしていたもので、この行動計画にコメントをするのが遅れた。

 ブログにおける反応に対して、若干のコメントを行うこととする。



 前回の丸山氏の温暖化懐疑本に対するコメントとして意外だったのは、「科学者にも経済学者にも、二酸化炭素が温暖化の原因ではないと主張している人はいない」、というコメントがメールで入ったことである。発信人は、どうやらネット上では有名人らしい。

 講談社が8月31日の朝日新聞に出した広告の一部を示す。


写真1:講談社の別の丸山本広告。田原さんも、いい加減にして欲しい。驚愕の「科学的事実」とは何なのか?

 地球温暖化の原因はCO2ではない! こういう広告をだされて、丸山氏が講談社に対してなんら抗議をしないのであれば、それはいかなることなのか。本心は、二酸化炭素が温暖化の原因ではないと信じているのだろうか。むしろ、著書の中の記述が嘘だと解釈すべきなのか。

 それにしても、「反環境本」を批判すると、それに対して「自分でもっと調べてからコメントしろ」と思うものが来ることはあきらめるとしても、「誤解に満ちた反論」が帰ってくるのはなんとかして欲しい。誤解で最悪なのは、本HPでしっかり説明していることをきちんと読んでいないとしか思われない反論が来ることである。

 本HPでは「1日30分以上点灯される場所なら白熱電球よりも電球型蛍光灯。それ以下なら白熱電球を継続して使用」、というガイドラインを提案しているのだが。
http://www.yasuienv.net/FluoroDenkyu.htm

 ということで、以下本論。



C先生:低炭素社会という言葉、英語では、low carbon societyというようだが、この妙な言葉は、先日の洞爺湖G8サミットで一応国際的な認知を得たようだ。

A君:「低炭素社会つくり行動計画」ですが、本来は、内閣府が作った文書です。
7月29日に閣議決定されています。それは、内閣総理大臣が本部長になっている地球温暖化対策推進本部というものから出された文書だからです。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/
しかし、当然各省庁が当然ながら関与していて、例えば、
経済産業省: http://www.meti.go.jp/press/20080729003/20080729003.html
環境省: http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=10025

などなどの説明文書があります。

B君:それだけに、弱点があって、内閣府独自の政策がある訳ではない。そんな批判もしばしば聞こえてくる。例えば、
http://www.jri.co.jp/thinktank/research/eye/2008/0804.pdf

A君:新聞もさまざまな反応をしている。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/113915_all.html

B君:ブログも反応をしている。
http://d.hatena.ne.jp/rdaneelolivaw/20080726/1217093639

C先生:しかし、意外に少ないな。もっとあるのかと思った。新聞記者も、あるいは、一般のブログもこの話題をあまり取り扱っていない。
 自分の暮らし向きに対して関係があるという実感が無いのではないだろうか。すなわち、自分の暮らしが便利になるのか、不便になるのか、あるいは、やりたいことができなくなるのか、あるいは、新しいことができるようになるのか、そのあたりの感覚を得るのが難しいのかもしれない。

A君:そろそろ、実証的に見ていく必要があるようです。
 内閣府のサイトから、2種類の文書が入手できますが、簡単な方の文書、「低炭素社会つくり行動計画ポイント」というPDFファイルを見ていきましょう。全部で11ページしか無いから。

 1ページに「1.我が国の目標」というものが整理されています。

<長期目標> 2050年までに現状から60〜80%の削減を行う。
<中期目標> 2009年のしかるべき時期に国別総量目標を発表する。
<世界各国の取り組みに対する支援> 5年間累計100億ドル程度の資金供給を可能とするクールアース・パートナーシップを推進。

A君:地球全体としての提案である「クールアース50」との整合性が十分検討されていないのは事実

B君:それは、今回はパス。とすれば、ここまでは、まあ、本当の外枠。100億ドルの資金は、円借款でやるようだ。特に議論をするような問題はなさそう。

A君:「2.革新的技術開発」に行きます。2ページ目です。

*CCS(二酸化炭素回収貯留):2009年度以降早期に大規模実証。2020年mでに実用化を目指す。現状4200円/トンの分離・回収コストを2015年に2000円台/L、2020年代に1000円台/L。
*石炭のクリーン燃焼技術:発電効率を2015年に48%とする。
*革新的太陽光発電:2030年以降に初d年効率40%超かつ発電7円/kWh。
*燃料電池:2020〜2030年頃に、現在400〜500万円/kWhのシステム価格を40万円/kWh、耐久性を現在の4万時間から9万時間まで向上。
*空調・給湯用の超高効率ヒートポンプを2030年にコストを現状の3/4、効率を1.5倍。

C先生:そろそろ議論を開始することになるのだが、今回で、問題にしたいのは、このような技術が進歩すること自体が問題ということではない。技術はいくら進歩してコストが下がっても、必ず普及するというものでもない。社会に普及するには、普及するような仕組みが社会に内包された状態へと進化しなければならない。

A君:その観点だと、この2.のところにはまだ明確には分からない。

C先生:それならもう一つ追加するか。技術に関して、なんらかの副作用があるものは、それを考慮した社会システムをあらかじめ準備するといったことも必要という表現ならどうだ。

B君:(1)副作用を考慮した社会システムとは何か、(2)普及のための社会システムとは何か、この2種類の議論を準備する。

A君:了解。この2.までの段階では、普及のための社会システムという議論ではなくて、副作用という議論でしょう。この言葉なら、CCSでしょうか。

B君:CCSの副作用とはいっても、貯留した二酸化炭素が漏れ出したり、あるいは、何か危険なことが起きるということではない。それらの可能性はもちろん皆無ではないが、それらはリスク、すなわち、確率の議論になる。そうではなくて、CCSに絶対的に付随する副作用は、化石燃料の絶対的な使用量が増えることだ。

A君:CCSはかなり昔から実証実験がおこなわれているのですが、少なくとも、関西電力を中心として行った実証実験によれば、化石燃料使用量が30%増えるという結果でした。

C先生:現時点でいささか治まったが、最高価格145ドルにもなった原油価格の上昇は、当然のことながら、サブプライムローンが破綻して、行き場を失った投機マネーが、資源関連に向かったことに原因の大部分があった。
 温暖化抑制のためには、CO2を削減しなければならないとなったとき、方法論はいくつかあるが、大別すれば、(a)高効率化、(b)低効率化の2種類があって、(a)には、省エネや高効率発電、電熱同時利用などが入るが、(b)に入るものがあって、それがCCS。

A君:昔の話になるのですが、ディーゼルエンジンからのNOxの発生抑制を行う方法としては、EGR(排ガス循環装置)というものがありました。NOxは燃焼温度が高いと発生するもので、空気に排ガスを混ぜることによって、酸素濃度を下げ、それによって燃焼温度を下げて、それでNOx発生を抑えるという装置でした。そのお蔭でNOxは下がったのですが、不完全燃焼をさせることと同じことだったので、PM(スス)が増えて黒煙を噴き出すようなディーゼルエンジンが日本では主流でした。

B君:EGRでは、結局のところ、燃費も悪くなっていたものと思われる。すなわち、低効率化を意図的に起こすことによって、ある一部の性能だけを満たそうということであって、EGRは、もはや旧式の技術ということになるのだろう。

A君:最近のクリーンディーゼルという技術は、燃料噴射の圧力を高め、筒内に直接噴射することで燃料の液滴のサイズを小さくして完全燃焼を狙う。しかし、どうやら、黒煙はでないものの、PM2.5といった非常に細かい微粒子はでているかもしれない。NOxは出てしまうのだが、それは触媒などで対処する。

B君:一時期ガソリン車で流行った直接噴射型のエンジンが消えた。どうやら燃費が思うほど稼げなかったためらしいが、そのときも、PM2.5の排出は噂されていた。

C先生:そろそろCCSの話に戻ると、どうしても、二酸化炭素を排ガスから分離するプロセスと、さらに液化して地中に押し込むプロセスで、相当のエネルギーを必要とするのは事実だろう。かつて実証実験が行われたときには、30%増しということだったようだ。すなわち、この方法は、地球温暖化を防止するにはきわめて有効だが、逆に、化石燃料の枯渇を早める。となると、本当に使うべき技術なのだろうか、という話になる。30%増しというのは、技術が進歩すれば、もちろん、改善されるだろうが。

A君:いささか前までは、本HPのスタンスは、化石燃料というものは、地球が人類に与えてくれた限られた貴重な資産なのだから、大切に大切に使え、という議論の方向性だったのですが、最近、C先生は、考え方を変えてしまったようにも見えるのですよ。

B君:まあ、ある種の悟りに入ったのかもしれないが。

C先生:その考え方を一部取り入れるようになったのは、実は、養老先生の主張を読んでからなのだが、化石燃料など無くなっても、人類はそれほど困らないのではないか、と思い始めたのは事実だ。こんなにも便利なものがあるために、かえって世の中が狂う。ある種の麻薬というか、非常においしい食材というか、そんなものが化石燃料なのではないか、と思い始めたとも言える。

A君:全く別の見方をしてみよう。もしもCCSをすべての石炭を大量に利用する設備に導入すると、どうなるか。比較の対象としては、CCSを導入しないで、省エネ技術だけで乗り切る場合を考える。

B君:その検討はなかなか面白い。ただし前提として、われわれの「クールアース50シナリオ」すなわち、地球全体からの二酸化炭素の排出は、2020年ぐらいからピークアウトして、2030年からは急速に抑制して、そして、2050年には半減というシナリオは守るものとすべきだろう。

A君:そのシナリオでも、定量的な検討をすぐ行うのはちょっと不可能なので、単純に、もしもCCSを導入すると石炭の消費量は30%増になる、と仮定しますか。

B君:それでは不十分なのは目に見えているのだ。たとえば、CCSの導入を禁止して、省エネだけでやれといわれても難しいとなると、二酸化炭素の排出原単位が低い天然ガスへの転換などがおこなわれる。

A君:確かに。だけど、それは価格次第でどうなるかなどという予測はよく分からない。

B君:それも事実。だから、簡単に考えるのに反対という訳ではない。

A君:それなら。石炭の燃焼効率を高めて、その結果として二酸化炭素を減らすという技術導入はかなり高価である。したがって、むりやりでも「クールアース」をやろうとすると、先進国からの大量の資金援助が途上国に移転されない限り無理。そして、石炭の価格は、省エネがおこなわれて需要が減るので、価格は下がる。となると、価格が下がれば、石炭の消費を減らすインセンティブはなくなる。だから、このシナリオは成立しそうもない

B君:CCSを導入するとどうなるか。石炭の消費量が単純に30%増える。となると、石炭の価格は高騰して、省エネマインドが高まる。そうなれば、CCSの適用が不可能な分野でも、それまで躊躇されてしまったような高価な省エネ技術導入も考慮されるようになる。

C先生:EUが描いているシナリオはどうもそんなような気がする。日本という国にとっても、実のところ、経済的な影響から言えば、エネルギー価格は高くなった方が良い。ただし、そうなったときもっとも儲かるのは、エネルギー産出国でかなり癪に障るのは事実だが。

A君:オイルマネーは、2030年頃には、いかに石油産出量は減っているとは言っても、価格が高くなっているだろうから、まだまだ健在。しかし、そのころには、コールマネーが相当量はびこっているものと考えられる。

B君:いずれにしても、エネルギー資源のある国は良いなあ、という話か。

A君:結論的には、CCSは、石炭という化石燃料の寿命を30%ぐらい縮める可能性があるのだが、その結果、石炭の価格が高騰し、思ったよりも寿命を縮めないのではないか。日本にとっては、エネルギー価格が高騰することは、エネルギー技術を開発するポテンシャルさえ維持していれば、かえって有利だろうから、まあ行くしかないのだろうか。

B君:いずれにしても、単純な話ではない。単に、二酸化炭素を減らせばよいというような単純な発想で議論しても、間違った結論しか出ないだろう。

C先生:これらがCCSの副作用。これはしっかりと議論をする必要があるだろう。残りは良いだろうか。まあ、次に行こう。

A君:3−1.「既存先進技術の普及」(3ページ)です。

 目指すべき姿として、
*ゼロエミッション電源の割合を50%以上にする。具体的には、太陽光発電、原子力発電について、いわゆるRPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)の次期目標を2010年度中までに開始。
*風力、水力発電、地熱発電、廃棄物発電などの一層の推進。
*地方自治体などによる小水力の活用などの地産地消型の新エネルギーの推進。
*太陽発電を2020年に10倍、2030年に40倍。3〜5年後に太陽光発電のシステム価格を現在の半額。

*具体的な取り組み
○メガソーラー建設計画などに対する思い切った支援策。
○再生可能エネルギーの導入と系統安定化に要するコスト負担の考え方について、2009年春を目途に結論を得る。
○ドイツを含めた諸外国の再生可能エネルギーについての政策を参考に、新たな料金システム等を検討

B君:そろそろ副作用ではなくて、(2)普及のための社会システムの議論になるようだ。

A君:その通り。たとえば、小水力の活用といったことをやろうとすると、起きるもめごとは何か、というと、既得権の一種である水利権。比較的勾配が急な農業用水などに小水力を仕込むと、それこそ数軒分の発電ができたりするのですが、やはりかなり面倒なことが起きる。そこで、地方自治体にその面倒なところを解決させようということでしょう。

B君:昔から、発電用の水、農業用水、水道用の水などというように細かく水の権利は決まっていた。それが、そんなのどうでもよいじゃないかという程度の規模の場合でも、既得権がしゃしゃり出る。

C先生:小水力のような方法論は、日本では余り普及しないのかもしれないが、実は途上国においては、最善の方法論であったりする。ただし、乾燥地帯では難しい。日本でも、プロトタイプとしての意味は相当にあるので、是非とも推進したいものの一つ。

A君:再生可能エネルギー、特に太陽光発電を2030年に40倍にするということですが、それに応じて、系統連係の強化が必要。内閣府の文書では、系統安定化に要するコスト負担という言葉になっていますが、これはきわめて重要。

B君:ヨーロッパ諸国だと、FIT(フィードインタリフ:固定価格による電力の買い入れ義務化)で対応していて、これは、ある程度までの導入を促進するにはベストだと思われる方法だけれど、スペインのように、本当に無期限に買い入れるというシステムが生存できるとは思えない。

A君:やはり、最初のxMWまでの設置については、いくら、次のyMWまでの設置についてはいくら、といった順番で決めるのが妥当なのでは。

B君:もしも系統安定化を最大の問題とするのならば、たとえば、SOFC(固体酸化物系燃料電池)を使って、家庭内マイクログリッドによって不安定な系統を安定化して電力を使うといった方法だってあるのだから、技術的にはなんとでもなる。

C先生:われわれの主張は、電力会社とガス会社が関西での事例のように、オール電化を巡って角を突き合わせているような状態は最悪。むしろ、地域における総合エネルギー供給会社のようなものにしないと、本当の意味での最適化ができない。

A君:そんなことを言い出すと、公正取引委員会は反対でしょうね。

B君:その可能性もあるが、もともと、電力会社などは、水道と同様に、半官半民のところなのだから、その国の国民にとって、もっとも望ましい姿にすればよい。

C先生:なんらかの暴走を始めたと認定されたら、国がそれを止めればよい。ガスあるいは石油という化石燃料燃焼型と電力という異なったエネルギーが、純粋に高効率を追求するという姿が望ましいとなると、やはり合体するのが望ましいのではないだろうか。

A君:しかし、そんなことは、向こう35年ぐらい起きそうもないですね。

B君:それこそ、マインドセットがすっかりと入れ替わらないと。

C先生:35年はちょっと長すぎるかもしれないが、2025年ぐらいまでに、そんなことが起きればよいのではないだろうか。まだまだ17年ほどもある。

A君:もう一回の文字数をはるかに超えました。

C先生:それでは、次回以降に回そう。次は、4ページの記述から検討を開始したい。