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   大飯原発に”活断層?” 
  11.11.2012




 昨日は、早稲田大学大学院の国際コースで、「英語による持続可能性科学」の講義を4コマ分消化。ちょっと準備が間に合わず、多少ドタバタしたけれど、熱心に聞いてくれるので、こちらも楽しめる。

 本日は、タイ出張中に発症した肩の状況がまあまあになってきたので、今回はオリジナルの原稿を書いてみることにしたい。

 このところ気になるのは、原子力規制委員会による大飯原発の1・2号機と3・4号機の間を通過しているF6破砕帯が活断層なのかどうか、という検討会である。

 そこで、多少の勉強をしてみることにした。このような領域の勉強を行うことはほぼ始めてに等しいので、その記録を残しつつ、記述をすることにしたい。



ステップ1:準備と基礎知識の確認

 新しく手慣れない話題を記事にするときには、まずは、取り敢えず基礎的な知識と用語の再確認をすることから始めることになる。そこで、信頼できそうな組織によって作られている資料を探す。

 当然検索はGoogleを使う。キーワードは、活断層、地震。

 検索結果から、公的な機関、研究所とか大学などのものを探す。

 その結果、見つかったのが、以下の通り。
★産総研の活断層・地震研究センター。
http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/
ここは、活断層データベースで有名な研究センターである。それぞれの活断層は、どのぐらいの危険性があるか、データベース化されている。
http://riodb02.ibase.aist.go.jp/activefault/index.html

★地震調査研究推進本部事務局
http://www.jishin.go.jp/main/p_hyoka02.htm
 文部科学省の地震長期評価を行なっており、を発表している。その中では、圧倒的に危険な活断層として牛伏寺断層が指摘されている。
 ここでは、「日本の地震防災 活断層」というPDFファイルを公開している。
http://www.jishin.go.jp/main/pamphlet/katsudanso/index.htm

▲Wikipedia 「活断層」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%AD%E5%B1%A4
 その概要を知るには、Wikipediaを活用することがもっとも簡単。内容の信頼性もまあまあのものが多い。しかし、これをコピペしてレポートを書くと最近ではバレル仕組みができたので学生さんは注意。


 このあたりの資料を読むことで、大体の感覚はつかめる。

 活断層の定義は、どうやら以下のようなものらしい。

定義:「新編日本の活断層」(活断層研究会編、1991年)では、「第四紀(約200万年前から現在まで)に繰り返し動いた断層を活断層とする」。



ステップ2:具体的な活断層を調べる

 以上の調査で、
「東北地方太平洋沖地震後の活断層の長期評価について」
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/11sep_chouki/chouki.pdf
によれば、もっとも危険性の高い活断層は、中部牛伏寺断層で、30年以内に14%の確率で発生すると予測。その理由は、地震後経過率というもので判断をする。その定義は「地震後経過率:最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値」。牛伏寺断層については、その値が1.2、すでにいつ起きてもおかしくない状態である。

 といった記述が見つかる。どうやら牛伏寺断層がもっとも危険性の高い断層だと指摘されていることが分かる。

 先ほど紹介した「活断層データベース」で調べてみる。このようなデータが出力された。



図 牛伏寺断層のデータ

 なんと平均変位速度が1000年間で9.1mも動いているようだ。左横ずれ型の断層で、平均活動間隔は700年なので、1回の地震で、6.4mも左右にずれて動くようだこれは大変だ。

 そもそもどんなところなのだろうか。写真を探してみることにした。

 見つかったのが、こんなブログである。
http://naganoken.blog86.fc2.com/blog-entry-1283.html

 地図によって場所が分かる。さらに、傾斜部分が今ではコンクリートで覆われているけれど、その上に足場を作って作られた家の写真があり(必見!)、この家は相当な被害を受けるだろうということが記述されている。




ステップ3:大飯原発のF6破砕帯の検討会

 現在進行中の原子力規制委員会による検討会のデータは、
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/ooi_hasaitai/index.html
で見ることができる。会議映像まで公開されているが、時間的余裕が無いので見ていない。

 ちなみに出席者であるが、原子力規制委員会の委員長代理として島崎邦彦氏、その他に有識者として4名の専門家が参加している。
それぞれの現職およびキャリアは以下の通り。全員、地震、断層の専門家。

島崎邦彦氏(67歳):東京大学地震研究所教授、日本地震学会会長、地震予知連絡会会長を経て、現在東京大学名誉教授、原子力規制委員会委員長代理。防災功労者防災担当大臣表彰。

岡田篤正氏(70歳):立命館グローバル・イノベーション研究機構 / 歴史都市防災研究センター 教授。1971年03月 東京大学大学院理学系研究科理学系研究科地理学専攻 博士課程 修了。日本活断層学会 会長(2007.09〜)。京都大学理学部教授。

重松紀生氏(46歳):産業総合技術研究所 活断層・地震研究センター地震素過程研究チーム主任研究員、東京大学博士 (理学)、早稲田大学教育学部助手、 イギリス・リバプール大学研究員、産総研地球科学情報研究部門特別研究員

廣内大輔氏(41歳):信州大学教育学部 准教授、名古屋大学大学院修了博士(地理学)、名古屋大学大学院環境学研究科研究員、愛知工業大学地域防災研究センター研究員

渡辺満久氏(56歳):東洋大学社会学部 教授、1980年東京大学理学部卒業。1989年、東京大学大学院理学系研究科地理学専攻博士課程修了、理学博士。東洋大学講師などを経て、現職。




ステップ4:原子力規制委員会の外部有識者の透明性・中立性を確保する要件を発見
http://www.nsr.go.jp/committee/kisei/data/0004_13.pdf


@ 任命前直近3年間における電気事業者等の役員、従業者等の経歴の有無について
A 任命前直近3年間における同一の電気事業者等からの、個人として、1年度あた
り50万円以上の報酬等の受領の有無について
B 任命前直近3年間における個人の研究又は所属する研究室等に対する電気事業
者等からの寄附等の有無について(その提供者及び金額も記載のこと。)


 これに関して、島崎委員長代理が、事前会合の冒頭、次のような発言をしている。

 「この会合では、科学的な判断が必要となります。というか、それのみが重要でありますので、再稼働だとかエネルギーだとか経済だとか社会的な問題だとか、そういうことは一切考えずに、純粋に科学的な御判断、科学的な意見をお願いしたいと思います。調査の後の会合ではぜひその御判断を、わからないということも含めて、はっきりお示しいただきたいと思います。
 当然、科学者としての責任がそこに生じることになりますので、万一科学的でないような判断をなされた場合には、これは糾弾されることになるかと思います。当然そういうことはないと思いますけれども、科学者としての責任が生じる御判断をいただくことになる。その判断を踏まえて、原子力規制委員会がいろいろ議論をして判断をしていくことになりますので、行政的な責任はあくまでも原子力規制委員会にあるというふうに考えます。ですが、皆様は、当然、科学者としての責任があると思います。」

 あたり前の発言であるが、果たして、各委員の発言はいかに。




ステップ5:有識者会合による検討の経緯

事前会合  平成24年10月23日
現地調査  平成24年11月2日
評価会合1 平成24年11月4日
評価会合2 平成24年11月7日

 最終的に参考になる資料が評価会合2の有識者説明資料だと思われる。4名の資料が合本になっている。ただ、やはり分かりにくい。
http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/ooi_hasaitai/data/0003_02.pdf

 その説明は、評価会合1で行われているので、この会議での個別資料と議事録の両方を見る方が良いかもしれない。


廣内氏の解析:現時点では、この断層がいつ動いたのか、データがない。関西電力が主張する地すべりの地形であると結論するのは難しい。


重松氏の解析:大飯原発付近でどのような応力が掛かっているかということ。さらに、活断層かどうか、どう判定するのかが難しいケース。後期更新世以降の地形面や地層があれば、はっきりと活断層だと言えるが、ここにはそれがない。総合的にといっても何をやったらよいのか。破砕帯だけから判断するのは無茶な要求。
 なぜ活断層が繰り返し変位をするのか、と言えば、後期更新世以降、同じ応力場にあったから繰り返す。今現在の応力場を解析し、破砕帯が現時点の応力場に支配されているのであれば、それは活断層だと見なせる証拠であろう。
 ただし、以下のような検討が必要である。
●1日のみ調査による結論では無理
●破砕帯の三次元的な全体構造を知ることが必要
●ボーリングコアにもとづくデータの追加が必要
●応力場の変化を検討することが必要


渡辺氏の解析:9万5000年前の火山灰が上にあるので、その下の方は、それよりも古い地層である。(筆者注:恐らく、問題となっている断層が動いたのは、それ以前だということ)。動いた堆積物は12〜13万年前のもので、これは活断層であると判断した。(筆者注:活断層の定義がどうなっているのか、やや疑問。どうも20万年以前に動いたものは活断層ではないという考え方か? 原発関係ではこのような定義なのか、要調査)
 今回の調査で、大飯原発敷地内には活断層があることが分かった。
 今後の原子力関連施設における活断層評価においては、科学的定義と同等か、むしろ安全側に配慮した定義を定めるべきであると思う。


岡田氏の解析:トレンチの南法面には、地層が動いたという形跡はない。北法面とは状況が違う。また、F6のボーリング試料を触ってみても、全く動いているような形跡がなかった。固結している破砕帯のように見えた。


 どうやら意見は活断層断定が渡辺氏、逆が岡田氏。2名はまだ調査必要派のようである。

その後の議論はスレ違い。

渡辺:この断層が12〜13万年以降に動いていないという証拠はないということ。この一点がもっとも重要。

岡田:地すべりによっても、同じような地層はできる可能性があるので、その一点だけが問題ということではない。




ステップ6:疑問発生=原発関係での活断層の定義は、科学的な定義と違うのか?

 これについては、事前会合の議事録を調べると、説明があった。

 「原子力発電所を設計するに当っては、「耐震設計上考慮する活断層」という概念を導入しております」。

 「耐震設計上考慮する活断層としては、後期更新世以降、約12.6万年前以降の活動が否定できないものとする。なお、その認定に際しましては、最終間氷期の地層、または、地形面に断層による変位・変形が認められるか否かによることができる」。

 「こちらの最終間氷期というのは大体7〜13万年前ということでございますけれども、後期更新世の地層がなかなか難しいということであれば、同じような時期である最終間氷期の地層によって判断をするということもできるというふうに記載されております」。

 やはり特殊な定義をしていた。




ステップ7:感想

 まだまだ理解が不十分なので、以下のような感想をもって暫定的な結論としたい

 まず、全体として、科学的な議論ができているが、渡辺氏の発言には、一部政治的な判断が含まれている。最初に島崎委員長代理が述べているこの有識者会合の取り決めを逸脱しているようにも思える。

 議論の内容は、専門的すぎて、とてもとても理解不能である。

 しかし、どうやら約12.6万年前以後に動いたかどうか、という基準に対して、まさしく地質学的な検討が行われており、このような検討が、大飯原発に対してこの破砕帯がもたらすリスクがどのぐらいのものであるのか、を検討する会合とは程遠い。まず、これからやろうということなのだと思われる。

 法律的(?)に約12.6万年という基準が決まった経緯は分からないが、現時点での議論は、今後、大飯原発が設計されたとき、この基準が守られたかどうか、という法律論で議論され、結論が出されることを意味しているように思える。

 日本の他の原発の状況を知らないが、恐らく、このF6破砕帯程度の地形は、どこにでも有りそうに思える。大飯が存在している地域は、三方五湖に行った経験から判断して、なかなかの景勝地ではないか、と思われるが、このような景勝地は単に侵食が起きたとも思えない複雑な地形であって、その複雑な地形は、恐らく複雑な地殻変動によって作られたものと思われるので、景勝地を探せばいくらでも出てきそうに思える。

 本来何を知りたいのか。それは、原発を再稼働し、その後漸減するとしたとき、今後30〜40年という原発の寿命の間に、どのようなリスクがあるかというの評価だろう。

 すでに示したように、牛臥寺断層のように、700年毎に動いていて、最後の活動がら1200年も経過しているといった断層がある。この断層が今後30年で動く確率は、産総研によれば、図で示したように、BPT分布モデルによる計算では25%となっている。

 12.6万年以後に動いたかどうか、などという議論をいくらやっても、40年程度以内に、この断層が動くのか、といったリスクを定量的に評価する議論につながるとも思えない。

 30〜40年という時間は、12.6万年と比較すれば0.03〜0.04%に過ぎない。

 このままの議論が続けば、結局は、日本人特有のゼロリスクを求める「肌感覚的結論」に陥ってしまいそうに思える。

 重松氏が行なっているような、応力場を考え、現在の応力場がこの断層を動かすのかどうか、といった議論が、リスク屋にとっては、もっとも理解しやすいものであった。

 リスク屋的な感覚から言えば、重要なことは、もしもこれが断層であって、それが動いたとして、どのような影響がでるかを評価することだろう。それによって、原発事故を引き起こすかどうかに関するリスクをどのぐらい増大するのか、ということである。

 そのような議論はこれからだろうが、この断層によって破壊される可能性のある装置は何か。もしも、地図に見られるように非常用の海水の緊急取水路のようであるが、これが失われたとき、余裕をもって低温停止状態になるかどうか。既設の発電所の再稼働に関しては、このような判断を先に行うことも、有りうるのではないだろうか。

追加:

 こう主張すると、原発推進派だと思われるようだが、本音は全面推進派ではない。原発全廃を余りにも急ぐと、別のリスクが大きすぎる。主として、高い化石燃料を買わされる経済的なリスクと、東日本大震災のために、国際的に立ち遅れてしまった気候変動問題への対応が引き起こすリスクである。この後者については、2017年頃までには、さすがに、かなり問題になっていることだろう。

 個人的なゴールは、やはりエネルギー安全保障。その最終形は、2050年頃には、原発なしでエネルギー自給率(自然エネルギー)を50%以上(現時点で4%)にするのが、必須だと考えている。