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  アガリクスとは何だ 2.19.2006 2.21追加
     



 アガリクスは、キノコの名前である。もちろん、これは知っていた。様々な犯罪行為が行われたことも知っていた。しかし、なぜがんに有効なのか、どういう主張がされているのか、全く知らなかった。今回、大企業であるキリンの関連会社キリンウェルフードが販売していたアガリクスが、がんの進行を止めるどころか促進する可能性があるという検査結果が国立医薬品食品研究所によって分かり、この商品の検討を食品安全委員会に依頼することが決まった。

 2月21日追加

C先生:これまでは中小メーカーが詐欺まがいの行為をして逮捕者が出たりしたが、今回は、良心的な企業の商品が検査に引っかかった。恐らく、アガリクス全体がこれで終りになる可能性が出てきた。

A君:どうもわれわれの専門分野とは全く違うので、どうしてキノコががん患者の関心を引いたのかなど、まず、過去の歴史などをまとめましょうか。

C先生:その前に、アガリクスに関して、ひとつの文章を書いたことがある。それを最後に掲載して紹介しておこう。

B君:それにしても、どうも、アガリクスは、非常に儲かる商品のようだ。インターネットで山ほど売られているが、1ヶ月分で10万円といった価格のものもある。

A君:がんになったという患者が最後にすがるモノだけに、「金に糸目はつけない」という人も多い。騙されてもともと、といった感じもないわけではないところに、つけいって売るという行為が許せない。

C先生:先ほどのA君の提案であるなぜがん患者がなぜアガリクスというキノコに関心を持ったのか。そこに戻る。それは、アガリクスが免疫システムを活性化させるということなのだが、それは本当なのだろうか。どんなメカニズムだとされているのだ。

A君:話はどうやら1965年頃に遡るようですね。ブラジルサンパウロの郊外のピエダーデ山地は、がんや成人病が少ない長寿の里として知られていた。そこに米国の学者が入って、疫学的な調査をしたのでしょうね、「アガリクス茸の食用がその長寿の理由でないか」、と結論した。

B君:静岡のお茶は、胃がんを減らすという話とまあ似た話。静岡のお茶とがんの関係は、今はもやは否定されている。どんな話だったのか、というと、胃がんの発生率とお茶の消費量に相関があるという話に過ぎなかった。

A君:アガリクスは、栽培がむずかしいのか、日本で栽培法の研究がかなり行われたようです。

B君:現在日本の市場にでているアガリクス茸は、30種以上の種類があるとされているようだ。

C先生:β−グルカンなるものが有効成分だと考えられているが。

A君:有効成分が何か、といったことですと、いろいろな報告があるのは事実のようです。例えば、森林総研からの報告ですが、
http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/kaidai/syokuhinNo30/30-5-2-3_h.htm
マウスに対する実験では、抗腫瘍作用があるとされています。

B君:ヒトに対して有効かどうか、それはわかっていないようだ。例えば、国立がんセンターの見解は、
「過去において当センターで池川、千原らがきのこ類の抗がん作用に関する研究を行い、動物実験に基づく研究成果を国内外の学術雑誌(GANN, Cancer Researchなど)等に発表しています。Agaricus blazei Murillについては、在職時の研究発表は確認されていませんが、Agaricus bisporus (Lange) Singについては、その抗がん作用は低いと述べています。

一般的に、植物類は生育する土壌、気候、季節等によって含有成分の比率が一定でなく、その品質の確保は大変困難であるとされています。また、動物実験データはヒトに応用する場合の根拠の一つとはなりますが、絶対的なものでなく、ヒトへの効果と安全性はヒトにおける科学的研究においてのみ確実な結論が得られるものです。ヒトにおける薬効の科学的研究は、比較対照試験、できれば二重盲検試験で実証することが一般的であり、個々の症例のみをもってその効果を結論づけることには慎重を期す必要があります。 」

B君:グルカンは多糖類。多糖類とはブドウ糖などの糖が多数繋がったもの。分子量がかなり大きいが。

A君:糖が結合するとき、つながり型にはα型とβ型の二種類があって、α型グルカンの代表は、デンプン、グリコーゲンなど。β型でもっとも有名なのが、(1-4)β-D-グルカンでこれは「セルロース」

B君:セルロースが免疫細胞を活性化するとも思いにくい。大体、免疫細胞、すなわち各種の白血球は、血液中に居るわけで、口から食べたもので、しかも、かなり分子量の大きいものが、どうやって血液中に入るのだろうか。そのあたりがマウスとヒトでは大きく違うのではないだろうか。

A君:そのあたりの話になると、アガリクスを商品化しているところでも売り込みのポイントになっているようで、「β-D-グルカンは粉末にしても煎じても高分子であるために、食品として飲用する場合、β-グルカナーゼという消化酵素を持ち合わせていない人間の体内への吸収率は非常に悪いという見解が示されています。つまり、大量にβ-D-グルカンを摂取したとしても、高分子(分子量が大きい)であるために腸管から吸収されにくく、しかもその有用性には疑問があるというのです」
 しかし、「わが社の製品は、分子量を小さくしたために、、、、、、、、」といった感じですね。

B君:大体、ヒトに消化酵素が無いということは、大部分のβ−グルカンは体内を直通で排泄されると考えても良いのだろう。β−グルカンも非消化性の食物繊維の一種だと思えば良さそうだから、反芻動物である牛や羊は消化できるかもしれないが、ヒトには全く無理。

A君:分子量というか大きさの話も広告にしばしば出てくるのですが、それを信じれば、もともと食物繊維みたいなものですから、体内には取り込まれない。しかし、あるHPの主張によれば、腸壁のM細胞というところを通って、体内に入るのだとか。そのためには、10ミクロンを超すと体内に入らず、また小さすぎてもだめで、2〜5ミクロンぐらいでないと有効性が低いとか。そして、血液中に入れば、それが、白血球類などを活性化させるのだとか。

C先生:なんだか細菌のサイズより少々大きいといったところか。赤痢菌が0.5×2ミクロンぐらいらしいから。

B君:白血球のうち、貪食細胞というものは、細菌を食べる。ひょっとしてそのβ−グルカンを細菌などの外敵だと間違え、そして食べることによって活性化するのではないだろうか。そのときサイトカインという信号にもなる物質も放出して、それによって、リンパ球の一種であるナチュラルキラー細胞が活性化するとか。

A君:いちおう、貪食細胞の受容体に作用するという話になっていますから、まあ、外敵だと思われているのかもしれません。もっとも受容体に作用しないタイプと作用するタイプがあるみたいなので、外敵だと判定されないものもあるようです。

B君:M細胞とかを通って体内に入るというけど、そのM細胞はなぜヒトに存在しているのだろうか

A君:これも少々調べただけですが、M細胞は、通常は細菌を取り込む入り口のようです。自己防衛器官のひとつのように思いますね。

B君:人間の体には、特に腸内には100兆個もの細菌がいるから数が多少増えようが、それは問題ではないのだけど、病原性の細菌が増えると問題。だから、腸内の細菌をときどきモニターして、敵がいるかどうかをチェックしているのかもしれない。

C先生:科学技術振興機構の報道資料を見ていたら、「戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)の研究テーマ「M細胞の免疫生物学的解明とそれを標的とする粘膜ワクチンの開発」(研究代表者:清野宏 東京大学医科学研究所教授)の研究グループによる。これまでM細胞は、腸管関連リンパ組織上皮細胞層に存在することが知られていた。リンパ球が組織化された場所では、免疫反応が起こり、生体防御機能が働く。今回は、腸管絨毛という、組織化されたリンパ球が存在しない場所にM細胞を発見した。」というものを見つけた。平成16年4月のものだが。どうやら、M細胞の機能も十分には分かっていないようだ。

A君:その文書には、図が付いていて、それによると、通常のM細胞は、パイエル板と呼ばれるリンパ球がいっぱい存在している場所、まあ防衛前線基地みたいなものの傍にあるのが普通だとか。これは、細菌を取り込んで、すぐに殺して、その破片を解析して、敵かどうかの判定をするようになっているということを意味するのでしょうか。

C先生:いずれにしても、多糖類が体内に取り込まれる可能性が無いわけではないことは分かったが、何でも良いということでは無さそう。さらに、活用される確率は極めて低そうだということも想像できる。だから、専門家は、β−グルカンが免疫活性を上げるとか、あるいは、がんに効くとかいったことに対して懐疑的なのだろう。

A君:もしも多糖類が外敵である細菌の模擬弾みたいなものだとしたら、その効果は極めて限られているように思いますね。なぜならば、先ほど指摘されたように、腸内には100兆個ぐらいの細菌がいて、その全重量は1kgを超す。そこに、1g以下のβ−グルカンが入ったところで、そんなに影響が出るとは思えない量です。

B君:アガリクスの広告を見ていたら、β−グルカンではなくて、実は低分子の物質が効くのだという説が出ていた。もし、そうならば、通常の医薬品と同様に効いたとしても、おかしくは無い。

A君:アガリクス成分「ABMK-22」というやつですね。協和発酵関係の企業が特許を出しているようです。大分前なのに、まだ出願中になっていて、特許化されたかどうかは分からない。

B君:調べたら米国のNCI(国立がん研究所)がその物質の研究に20億円相当の研究費を出したとのHPがあった。 http://www.drhase.info/031209.html そこでNCIのHPを調べたのだが確認できず。(2月21日に、uneyama さんからコメントが付いた。http://www3.cancer.gov/prevention/rapid/projects.html にそれらしきプロジェクトがあることが確認できるとのこと。2003年の Dr. Insu P. Lee という韓国人が、金沢大学所属で代表者となっている。AgaricusとかABMK-22というキーワードで探していたもので、見つからなかったようだ。)

A君:こんな記事がありましたよ。http://otsukako.livedoor.biz/archives/cat_50001749.html

C先生:まだまだ良く分からないことだらけ。健康食品に特有の状況が続いているようだ。

A君:今回のキリンウェルフーズのアガリクスも、発がん剤だということではなく、発がんしたらそれを増殖させるということ。テストした他の2種のアガリクスには、そんな効果はなかった。

B君:まあ、免疫機能というものは、ストレスによって悪化し、心から楽しいと思うと強化されるのは事実。だから、このアガリクスは効くと思って飲むと効くが、そう思わないで飲めば効かない、という可能性が高い。いわゆるプラセボ(ニセ薬)効果だ。だから、高いアガリクスにも高いことが理由になって、それなりの効果がでる場合があっても不思議ではない。

C先生:しかし、一方で、それは詐欺だとも言える。プラセボ効果を狙うのならば、医者に言って、β−グルカンの構成成分でもあるブドウ糖でも調合してもらって、それを抗がん作用があるから、といって飲んでもらうのが最良だ。

A君:あるいは、普通の食物繊維でよいのかもしれない。どうせ、β−グルカンも食物繊維なのですから。

B君:免疫システムを維持するには、どうやら、ポジティブに生活をすることが最良のようだ。それならタダだし。

C先生:笑う生活をする、という抗がん療法があるが、現状では、その方がアガリクス療法よりもまだ根拠があるように見える。口から入る食物というものが、それもほんの少々で効くとは思えない。もともと健康食品は、かなり疑問。一般的な薬は低分子なので、すぐに吸収されるのだが、食品的なものは、消化というプロセスを通るのが普通だからだ。今回のアガリクスは、もともと消化されないものなので、もしも効くとしたら別のメカニズムのようだが、科学的にまだ確認されたとは思えない。



社会現象としてのアガリクス

 2005年10月、アガリクスの販売が薬事法に違反するということで、出版社の役員が逮捕され、その本を監修していた師岡教授も書類送検された。この話、10月になって突然起きた訳ではない。

 2005年4月19日の朝日新聞に、こんな記事が出た。『「がんに効く」出版社捜索--アガリスク食品特集』。内容は、警視庁が薬事法違反で、出版社を捜索したという記事である。ご存知の通り、アガリスクはブラジル原産の食用キノコの一種で、免疫機能を活性化し、がんに効くと称して販売されているものである。この出版社の本には、「服用によってがん細胞が消えた」などといった経験者談が出ているが、これが事実ではなく、すべて執筆者の捏造によるものだった。もちろんアガリスク自体は、医薬品ではない。しかし、病気への効能をうたう限りにおいて、健康食品でも薬事法では医薬品とみなされるのである。

 この警視庁の捜査にあたっても、実はかなり慎重な検討が行われた。なぜならば、このような捜査は、憲法が保障する言論・出版の自由を侵すものではないか、との懸念があるからである。この捜査の実施が決断された理由は、その本の巻末に問い合わせ電話番号が出ていること、さらに、他の類似商品よりも効きが早く、安全性も高いという優位さを主張しており、したがって本の内容は広告である疑いが強いと判断されたからだろう、とされている。

 この事件の意味を冷静になって考えると次のような結論に到達する。「広告でないと判断されれば、虚偽誇大広告であるという疑いが非常に強い場合でも、問題にできない可能性が高い」。

 この記事の中でで、門奈直樹・立教大学社会学部教授(情報社会論)は、次のようにコメントしている。「言論・出版には社会的責任が伴う。内容に公益性がある場合には(言論の自由が)優先されるが、明らかに社会的に害悪を及ぼす場合は規制もやむを得ないと考えられている。今回は、「バイブル本」が薬事法に違反する広告に該当して規制すべきだとする判断が、憲法で保障する言論・出版の自由を上回るという妥当性を持つかどうかがポイントだ。立件にあたって警視庁は公共の利益にかなうということをきちんと説明する義務があると思う」。

 このようなコメントをどのように理解すべきだろうか。虚偽誇大広告であり、相当悪質であるとみなすことのできる「バイブル本」以外は、まず取り締まられることは無いと判断すべきではないだろうか。テレビのバラエティー番組、例えば、あるある大事典、。。。。などで、「この健康食品は良さそう」といった報道を行うことは、例えその健康食品の効果や安全性に不確実なところがあったとしても、なんら問題はない、とされるのである。