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  「反地球温暖化論」の不整合  02.17.2008
     



 現在の日本には、かなりの反地球温暖化論者が居るとされている。そのうちの、何名か+αが集合して書かれたというか、どこかに書いた原稿を集めたようにも見えるが、そんな本が文藝春秋から発刊されている。
 『暴走する「地球温暖化」論』である。ISBN978-4-16-369890-8  ¥1524+税。2007年12月15日 第1刷発行。



C先生:結論的には、「買うのではなかった」が感想。もっとも気に入らないことが、暴走する「地球温暖化論」なのだから、温暖化だけを論じているものと思ったら278ページまである本だが、温暖化について議論しているのは、150ページまで。残りは、反環境原理主義論。しかも「反環境」原理主義であって、反「環境原理主義」ではない。それも大部分は、すでにどこかで読んだ、というもので新鮮味は皆無。

A君:p198ページに、渡辺正先生が、「環境の話にはつねに解釈が絡みますからね。とくに活字にすると永久に残るから、環境問題について何か書けば、学者としては、定年になるまで別の意見は言いにくくなってしまう」、とありますが、これはご自身のことでは?

B君:その次に、池田清彦先生が、「でも環境問題なんて分野は、次々と新しいデータがでてくるし、自分が前にいったことが間違いだってこともあるわけだから、そこは修正していかないといけないよね」、と発言しているけど、どうも、この本に掲載されているいくつかの意見は、どうみても修正が必要。

C先生:そういう意味で、新しいデータをフォローしているのが、伊藤公紀先生。そして、もっともフォローしていないのが、薬師院仁志先生。これは、よって立つ学問体系が全く違うというところに原因があるように思える。

A君:文系の学問は、過去の蓄積を基本的に正しいと見て、その上に自らの業績を積み上げる。

B君:理系の学問は、過去の知識体系では説明できないことを発見し、新しい説明体系を創成することが業績となる。

A君:過激な表現をすれば、理系は過去の否定、文系は過去への上積み、が基本的メンタリティー。

C先生:薬師院氏の著書「地球温暖化論への挑戦」については、以前、このHPで取り上げたことがある。
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/Yakushiin.htm
 この本が発刊されたのが、2002年2月。2001年のIPCC第三次報告書が発表されたころに執筆されていた本である。
 それ以来、コンピュータ・シミュレーションというものの本質を全く理解していないでそれを真っ向から否定するという暴挙を行っている。

A君:「未来が予測できるのなら、プロ野球の選手が次のシーズンでどのぐらい打つか、その打率だって予測できる」、といった議論を思い出しますね。

C先生:ニュートン力学あたりを多少齧って、多体に関するすべての運動方程式も解けると思い込んだのだろうか。

A君:気象現象についても、ニュートンの運動方程式が成立しているということと似ていて、これも古典的な物理学なので、定式化は完成していますね。ナビア・ストークス方程式を大気について解くことが本質ですから。

B君:だから、コンピュータ・シミュレーションの精度というものは、グリッドといって地球をいくつの空間に分けるかといったこと、さらに、いくつかのパラメータを使うことになるが、もっと計算の確度を支配するのは、その数値の妥当性である。例えば、海洋と大気との相互効果をどうするか、とか、太陽からのエネルギー入力に対して、エアロゾルのようなものの影響をどう計算に入れるか、雲による太陽光の反射をどう取り扱うかなどなど、難しい問題がいくらでもある。

C先生:パラメータをどのような方法を使って妥当なものを求めるか、ここには、研究者のノウハウがあるので、そのすべてが妥当だ考えるのは行き過ぎだろうが、過去100年程度の地球の温度の変化を再現するようにパラメータを決め、その後、温室効果ガスの排出シナリオに沿って、未来の温度を予測している。

A君:過去100年程度の地球の温度をどうやって測ったのか、それが問題とも言える。

B君:渡辺正先生の反論は、測定値が都市に偏っているから問題だ。都市は、ヒートアイランド現象があるから、地球の温度といいながら、実は、都市の温度を測っていて、それは高く出るのだ、ということ。

A君:現在使われている温度のデータは、マンが提案したもので、この温度データに対する批判は、かなりあります。このHPでも、「小氷期の低温や中世の温暖期の変化がノッペラ坊すぎて、実感がない」、と批判していますが、この温度のデータを疑っている人々は、コンピュータシミュレーションに都合が良いから、こんなデータを使っているのだ、という論理ですね。

B君:しかし、コンピュータシミュレーションが参照しているデータは、1870年あるいは1900年以降、2000年までのもの。この期間の温度は、それほど信憑性が低いというものでもない。都市の温度は、補正を掛けているようだ。

A君:もともと、中世の温度などは、温度計が有ったわけではないので、間接的な推測値なので仕方が無い。氷床コアを使った温度測定は精度が高いとされているけど、それは、氷があるような寒いところでし測定ができない。低地だと氷床が無いので、木の年輪とか、花粉とかから間接的に求めることになる。

B君:コンピュータシミュレーションにも、様々な限界があって、しかも、過去の温度そのものにも、信憑性に限界がある。だからといって、プロ野球の選手の次のシーズンの打率を予測することと同じではない。

C先生:IPCCは、2001年の第三次報告書で2100年で最大5.8℃の温度上昇が予測されるとしていたが、シミュレーションの結果には、かなりばらつきがあって、「温室効果ガスの人為的な排出が温暖化の原因であることは、ほぼ確実。数値的には、66%ぐらい確実」、というデータであった。

A君:しかし、2007年の第四次報告書では、その確実性が90%になった、と報告している。

B君:シミュレーション技法、特に、どのようなパラメータを使っているか、が進歩したためだ。

C先生:IPCCというと、研究者が誰でも参画できる学会のような組織ではないから、政治的な(国連的な)結論を導いているのだろう、と解釈している人も多いようだ。しかし、この機関がやっていることは、ある期間内に発表された学術論文を冷静に分析するということがメインの仕事で、それをまとめるとどのようになるか、という報告書を出している。まあ、普通の学会ではできないことをやっている。

A君:ただ、IPCCは、最初の頃には、このような対策を打つべきだというような政策的な助言は行わないことを活動方針としていたのですが、最近では、かなり積極的に政策提言まで行う方針になったようです。

B君:そのため、かえって誤解を招くようになったとも言えるのかも。

C先生:科学的な信憑性がかなり高まったため、政策提言を行わなければ、というメンタリティーが強まったのだろう。

A君:その本以外にも、有名科学者で、IPCCの結論に対して異議を唱えている人々が居ます。例えば、アラスカ大学のAkasofu(赤祖父俊一)教授。オーロラの専門家。

B君:こんなところから、かなり長大な反論をダウンロードできる。今、読んでいるのは、2008年の1月23日に再編集されたもの。
http://akumanosasayaki.blog.shinobi.jp/Entry/2/

A君:その概要といっても、なかなか短く記述することは不可能なのですが、この主張のポイントは、その論文の最後に箇条書きでまとめられています。

(i) Natural components are important and significant, so they should not be ignored.
自然変動は重要で重大。無視はできない。
(ii) Two natural changes after 1800 are identified in this note: a linear increase of about +0.5°C/100 years and fluctuations superposed on the linear change.
1800年以後の2つの自然変動、すなわち、0.5度/100年での温度上昇と温度のゆらぎがある。
(iii) It is likely that the Earth is still recovering from the LIA.
地球は、まだ、小氷期からの回復期にあるようだ。
(iv) There is nothing unusual or abnormal about the present global warming trend and temperature.
そんな観点からみれば、現在の地球の温暖化は、特に、異常なものとは思えない。
(v) It is insufficient to study climate change on the basis of data from only the last 100 years or so.
過去100年の温度変化から気象を研究するのは不十分。
(vi) It is difficult to reach a conclusion about causes of the temperature rise after 1975 until we can understand the rise from 1920 to 1945.
1975年からの温度上昇を人工的原因であるとするのなら、1920年から45年の温度上昇を理解してからにすべきだ。
(vii) Because of these deficiencies of the present global warming studies, the GCMs cannot prove that the warming (0.6°C/100 years) is caused by the greenhouse effect. This is because the present GCMs are adjusted or “tuned” to result in the 0.6°C/100 years increase.
現在の温暖化の研究では、モデルによっても0.6度/100年という温度上昇を温室効果ガスのためだと証明することはできない。なぜなら、モデルは、そのような結果になるように「しつけられている」からである。
(viii) Future prediction of warming by GCMs is uncertain, because computers are already taught that the present warming is caused mostly by the CO2 greenhouse effect.
将来予測はさらに不確実。使っているモデルは、現在の温暖化が二酸化炭素の温室効果だと教え込まれているからである。
(ix) Two examples are presented in which GCM results can be used to identify natural changes of unknown causes.
本稿では、モデルの結果が未知の自然変動のためだと結論できるような2つの例を示してみた。

A君:IPCCの報告書では、過去100年間程度で、0.6℃の温度上昇があったとされているが、この0.6℃というものが、人工的な原因であるというIPCCの論理がおかしいというのが、まずは、第一の主張。地球の揺らぎというものが非常に大きくて、地球はまだ中世小氷期からの回復期にあるという解釈ですね。

B君:その主張を見ると、IPCCの主張に真っ向から対立。特に、コンピュータシミュレーションは、どのようなデータを使うかが問題で、今のモデルは、0.6℃/100年という温暖化を再現できるように、「しつけられている」。そんなプログラムなので、温暖化がでて当たり前、という意見。

A君:さらに詳しく言えば、1920年から1945年の間に起きた温度変化の再現がシミュレーションでは充分には再現できていない。それが大きな問題で、そこが改善されない限り、信用できない。

B君:しかも、二酸化炭素による温暖化効果を過大に評価するように、プログラムが「しつけられている」可能性が高い、というのがもう一つの主張。

C先生:図を示して説明しよう。次の図は、IPCCの第4次報告書にある図だが、こんなもの。



図1:IPCC第4次報告書によるシミュレーションの評価。黒線:実測温度、ピンク:人間活動を考慮したシミュレーション結果、水色:人間活動の影響を無視したシミュレーション結果。

A君:この図でも1940年ごろの実測データを多くのシミュレーションモデルが再現できなかったことが分かります。ピンク色の範囲が、シミュレーションが再現した温度変化で、人間活動による温室効果ガスの影響を計算に入れている。黒い線が実測の温度。たしかに、1940年前後に急激な変化をしていて、それをシミュレーションモデルは再現できていない。一方、水色は、人間活動による温室効果ガスの排出を無視した場合の温度変化で、これは、地球(太陽)の揺らぎによる温度変化をシミュレーションしたもの。

B君:多少話題がずれるが、2007年のIPCC第四次報告書では、1990年ですでに0.6℃温暖化しているということになっている。この0.6℃すでに上昇という話の原点はどこかということになると、IPCCは産業革命以前がゼロだというのだけれど、実際には、この図からみても分かるようにその原点は、どうも1950年ごろにあるように思える。

C先生:IPCCの主張を繰り返すと、「勿論、地球は揺らいでいる。そして、勿論、1800年ぐらいからの温度上昇もあった。しかし、シミュレーション結果によれば、1950年以降の地球の温度の揺らぎは、むしろ寒冷化に向かっている。しかし、実測された温度は上昇している。これは、人工的な要因が支配的であるという証拠だろう」、ということ。

A君:赤祖父教授の主張は、地球はいまだに小氷期からの回復期にある。この回復期は1800年ごろから始まっている。そして、現時点でもまだ温度は上昇傾向にある。だから、人工的な理由だとは言えない。こんな主張。

B君:一方、IPCCの主張を赤祖父教授流の表現に読み直すのであれば、「1950年ごろに、小氷期からの回復期は終わった。地球の揺らぎは、それからは寒冷期に入った。しかし、人工的な要因によって、温度の上昇は継続しており、あたかも、回復期が継続しているように見えるだけである」

A君:赤祖父教授は、「それなら、その前の1940年ごろの温度のピークを再現できるようなシミュレーションなら信用しよう。それができないのなら、信用できない」。

B君:IPCCは、それに直接の答えは持たない。モデルでは充分には再現できていない。

C先生:もう一枚。東京大学の気候センターのシミュレーション結果を示そう。



図2:東京大学気候センターの結果

A君:この図では、NTRLと描かれた、右下のものが図1に対応するものです。1960〜65年ぐらいの計算結果が、多少おかしい。

B君:そのかわり、このシミュレーションだと、1935から40年ごろの実測データと計算データの乖離は他の乖離に比べて目立つ訳ではない。ただ1960〜65年ぐらいの予測値が、それを吸収しているようにも見える。

C先生:いずれにしても、IPCCは、この東大の例のようなシミュレーション結果を複数レビューし直して、そして、確度90%で、「温暖化が起きており、その原因は人工的な温室効果ガスの排出である」、と結論した訳だ。

A君:この赤祖父教授の反論は、実に、IPCCの評価に真正面からの反論になっている。

B君:赤祖父教授は、温室効果ガスの排出による影響が強くでるように「しつけられた」プログラムは信頼できない。確度が90%だということは信じられない、としている訳だ。

C先生:残念ながら、赤祖父教授もモデラーではないから自ら、モデルのパラメータをいじって、過去の気候を再現することに成功し、それから、現在の温度上昇が小氷期からの回復が継続しているためであると証明したという訳ではない。専門が違うから、そんなことはできない。

A君:「1950年で小氷期の回復期は終わった」、とするIPCCの仮説が正しいのか、「地球は、現時点でも小氷期からの回復期にある」、とする赤祖父教授説が正しいのか。勿論、本当のことは、モデラーで無いと分からない。あるいは、モデラーでも分からない。

B君:IPCCがモデラー達の意見を聞きながら、議論をして90%確実という結論を出したことを無視することは不可能赤祖父教授説もあり得るものの、その科学的根拠は無いのだから。

C先生:本題に戻ろう。今回の中心の話題である単行書「反温暖化論」の主張を読み比べてみると、薬師院氏は、図1に示したIPCCに、自分の出した疑問の答えがすべて含まれていることを見抜くことができなかったようだ。

A君:自分の疑問に、専門家は誰も答えてくれない、と「駄々をこねて」いますが、実は、明確な回答は、すでに専門家から出ている。それが自らの疑問への回答だと分からなかっただけ。

B君:この本の著者で、この赤祖父教授とIPCCの主張の違いの詳細が本当に分かっているのは、恐らく伊藤公紀先生だろう。むしろ、この本の著者同士で議論をし、それぞれの主張が「不整合」であることを確認し合うことが必要なのではないか。

C先生:個人的には、IPCCに参画した学者達の顔を思い浮かべながら、この人々が全員詐欺師だとは思えない、と思うのだ。CO2の影響が強くなるように、モデルを意図的に「しつけた」とも思えない。90%確実といわれれば、それを信じる以外に方法は無いのだ。

A君:たとえ、それがウソだったとして、地球の限界、特に、化石燃料の枯渇というものを考えたときには、現在の人間活動が非持続可能型であることは事実。

B君:よく言われることだが、未来に対しては「後悔しない」対応をしておくことが正しい。となると、「温暖化は自然現象である。だから、なんの対策も不用」、という仮説で動くのか、「温暖化は人為的な影響が主である。だから、排出削減は必要」、という仮説で動くのか、どちらが将来「後悔しない」対応なのだろうか。これがこの問題の本質だ。

A君:2050年で温室効果ガスの50%削減が本当にできれば、それから先は、石油がなくなる方向なので、石炭からの二酸化炭素排出をCCSなどで制御をすることにすれば、気候変動の問題もまあまあでしょうね。

B君:地球が自然に大量に回している二酸化炭素なのだから、地球の処理能力に依存できる範囲内に近くなれば、大きな問題は起きない。決して、「油田に蓋をしなければならない」という訳ではない

A君:ただ「石炭には禁煙してもらった方が良い」のですが。

C先生:面白いことに、反温暖化論者には、愛煙家が多いようなのだ。この本を読んでいても、そんなニュアンスが伝わってくる。「まあ、大丈夫だよ」、「喫煙していても、長生きできる人は多いよ」、「喫煙しなくても、自動車の排ガスが原因だから肺がんで死ぬ人は多いしね」、というメンタリティーで温暖化を見ているのかもしれない。