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   アルミニウムは毒物か?
        06.23.2013 
        




 本Webサイトが開始から17年目に入りました。最初の記事はこれです。


 食品安全委員会がアルミニウムの摂取量のひとつの基準である暫定耐容(耐用ではない)週間摂取量2mg/kg/週を、若年層の場合には超している可能性があるとして、食品添加剤、特に、ベーキングパウダー(放送ではなぜか膨張剤という表現が使われていたが、ベーキングパウダーは一般名詞ではないのか?)中のアルミニウムの含有量を下げる方向で検討する、というニュースが流れた。


C先生:昨日6月22日は、東大生産技術研究所の跡地にできた新西洋美術館3階のレストランで、安井研卒業生の会が開催され、65名ほどの参加者があった。そのため、久しぶりに、A君、B君に合うことができたので(?)、対話形式で行きたい。

A君:早速ですが、このアルミニウムの話題を取り上げていたNHKの夜のNEWS WEB、橋本奈穂子アナがキャスターの番組を見ていました。視聴者からのTwitterのメッセージがでてくる番組で、どんな反応があるのか、と思ったら、なんと表現したら良いのやら、すごいというか呆れた反応でした。

B君:同じものを見ていた。「アルミが毒? はっと気づいたらアルミ缶でビールを飲んでいた。アルミ缶は危ないのか?」、「このような情報はもっと速く知りたかった」、「また、直ちに健康に影響はないなどといっている」、などなど。最後の感想には、まだ、福島原発事故の影響を感じた。

A君:まさに。「政府が出す情報は信頼できない」、という感覚で、不信感がまずでてしまう。これは非常に不幸なこと。もう一つは、絶対的な安全と絶対的な危険があるというゼロ・100思想で反応する人ばかり。

B君:もっとも、アルミニウムのような物質の毒性情報がでたということは分かるけれど、暫定耐容週間摂取量PTWIは2mg/kg/週だと言われても、何がなんだか分からないだろう。

A君:PTWI(Provisional tolerable weekly intake)とは、この量を一生涯摂取したとしても、健康に悪影響のない量。Provisonalは暫定を意味する。耐容は、Tolerableの日本語訳だけど、その意味はと言えば、まあ「大丈夫」なので、用語を「大丈夫量」とでも言い変えた方が良いのかもしれないですね。食品安全委員会としも学術用語をすべて一般用語に置き換えるという努力をした方が良いのかもしれない。

B君:一般の人々にとって、「毒性学」は、もっとも遠いところにあるような気がする。一般向け用語を発明しなおさないと、いつまでたっても、世間の反応はこんなもの。

A君:「毒性学」的に危険性を考えるとき、まず必要なのことが、エンドポイント。これは、「害の実態」のような意味。アルミニウムをある程度以上摂取したら、どのような「害」がおきるか。

B君:実は、アルミニウムの「害の実態」はあまり明確でない

A君:2006年のFAO/WHOの食品添加物の評価の表現では、
http://apps.who.int/ipsc/database/evaluations/PrintPreview.aspx?chemID=298 別ウィンドウで開く
”aluminium compounds have the potential to affect the reproductive system and developing nervous system”となっている。 この報告書で、PTWIが1mg/kg/週になった。

B君:生殖系(食品安全委員会の文書では繁殖系)、神経系の発達に影響する可能性がある、とでも訳すのがよいだろう。

A君:実験論文のレビューは、2012年の10月4日開催の食品安全委員会セミナーで、
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20121004ik1 別ウィンドウで開く
江馬 眞氏が発表しているので、その資料に詳しい。

B君:もう一つの講演である入野康宏氏のアルミニウムの精神・神経疾患への影響の実験は、まあ、このような実験が統計的にどのぐらい有意なのか、と考えてしまう。なぜアルミがそのような影響を与えるかといった細かいところは、結局、いくら解析をしたところで分からないだろうと思うし、まあ、となんとも言い難い。
 どういう実験をやるのか、というとマウスにアルミニウムを摂取させて、例えば、パニック状態にさせたときの反応がどう違うか、というようなテストを多数行って、アルミニウムを与えた群と与えない群の差を議論する。そこまで。それ以上の生理作用とか、そのときの神経系へのアルミニウムの蓄積とかは調べない。

A君:アルミニウムは、一時期、アルツハイマー病の原因ではないか、と言われた時期があって、日本の研究者でもそのように主張していた人々がいました。そのときの発表を思い出すと、まず、アルミニウム鍋の写真がまず出てくるという特徴があったのですが、この入野氏の発表資料も、アルミ缶の写真で始まっていますね。アルミ缶をマウスに食わせたのなら、あるいは、アルミ缶に食品などを入れておいて、それを食べされたのなら、まあ、良いのですが、実際には無関係。それ以外に、日常的に摂取している食品中にアルミニウムは普通に有るわけで、この写真から始まるということに、何か、既視感と違和感があります。これ入野氏の研究課題も、アルツハイマーのときのような結末を迎えるのではないでしょうか。

B君:とにかく、確実なことはなかなか言えない実験結果なのだけれど、それにしても人体に対する影響が最後に求められる結果であるのに、どうして、食品添加物とか、バッファリンに入っている胃酸の抑制剤とかを用いた実験をしないのか。ヒトが大量に摂取するとは思えない物質を実験に使うのか、よく分からない。実用的に使われている物質は、もともと比較的無害な物質なので、大量にマウスに食べさせるのが難しいのかもしれないが。

A君:ということで、規制すべきかどうかも、難しい。今回の食品安全委員会も、事業者に自主的にアルミニウムを減らしたベーキングパウダーに変えるように要請するぐらいでしょうが、実際、それで充分。

B君:そもそも、規制値が、2006年には1mg/kg/週にしたものを、2011年には2mg/kg/週とゆるくしている。

A君:それに関しては、FAO/WHOが共同で検討しているJoint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives(JECFA)が規制情報を出していますね。
ftp://ftp.fao.org/ag/agn/jecfa/JECFA_74_Summary_Report_4July2011.pdf 別ウィンドウで開く

B君:そして、今回の食品安全委員会からのメッセージは、この値に基いて色々と調査を行ったところ、子どもにベーキングパウダーを使ったお菓子類、特に、クッキー、蒸しパンなどを大量に食べさせている場合があるようで、その場合には、アルミニウムの摂取量が、2mg/kg/週のPTWIを超す可能性がある。

A君:だからといって、確実に影響がでるとも断言するのではない。それは、100倍の安全係数を掛けているので、おそらく、実際には何もでない。しかし、可能性は無いとは言えない。なぜなら、「無い」ということを証明するのは、どうやっても不可能だから。

B君:ベーキングパウダーになぜ、アルミニウム化合物が使われてきたのか、と言えば、それは、アルミニウムには、生理作用がほとんど無い。すなわち、安全とされてきたため。これは基本的に正しい。

A君:現時点では、アルツハイマーの原因物質ではない、と判断されていますので、念のため。

B君:なぜ、アルミニウムは生理作用が無いのか、その理由を理解すると、少しは安心できるのではないか。

A君:簡単にやってみますか。



 人体の主要元素および準主要元素の構成は、次の通りである。
   水素(H)  :10%
   酸素(O)  :65%
   炭素(C)  :18%
   窒素(N)  : 3%
   カルシウム(Ca):2%
   リン(P)  : 1.1%
   カリウム(K): 0.35%
   イオウ(S) : 0.1%
   ナトリウム(Na):0.15%
   塩素(Cl)  :0.15%
   マグネシウム(Mg):0.05%

 これらの主要な元素以外に、ヒトの体は微量元素と呼ばれるものを含んでいる。
   Fe 0.004(%),
   Cu (0.00015%),
   Mn (0.0003%),
   I (0.00004%),
   Mo,Cr,Co,Se,Zn

その他に、超微量元素と呼ばれる元素を含む。
As,B,Br,Cd,F,Pb,Li,Ni,Si,Sn,V



A君:以上で31種類の元素になりますが、この中に、地球の主要構成元素であるケイ素SiとアルミニウムAlが入っていない。これらは、動物が生命を維持するのに、役に立たない元素とも言えるのです。細胞の中では、余りにも安定で、ということは、生理機能を持ち得ないに等しいのが、アルミニウムとケイ素だから。
 ただ植物の場合だと、イネのように、しっかりまっすぐ伸びるために機械的な強度を強めるために、固体の酸化ケイ素を補強材としてかなり多く含んでいる場合があります。いわば、植物の骨格として使うという場合です。これ以外にも、アルミニウムは土壌の主要な構成元素ですから、植物には確実に含まれていますが、量的には少ないようです。

B君:アルミニウムが不要だとしても、土ほこりを吸い込めば、アルミニウムは身体に入る。

A君:まあ、その場合も、安定な化合物なので、そのままいつのまにか排泄されます。そうでなくても、不要が元素は、排泄されます。毒物のイメージとして、どこかに蓄積して嫌なことをやる、というものがあると思いますが、アルミニウムの場合には、人体の中で余り悪いこともできない元素の代表例ではないですか。チタンも同様ですが。

B君:例外がアスベスト。ケイ素、アルミニウム、などの酸化物で、中皮腫の原因物質になる。

A君:アスベストの悪さは、その形と大変な化学的安定性にあって、肺組織に刺さることによって、細胞を破壊するなどの刺激があります。しかも、いつまでたっても変質しない。アスベストは、非常に特殊な形態をしているので、アルミニウムの化合物で、そんな形態や安定性までを考慮する必要がある物質は、天然物、人工物の両方で、今のところないですね。

B君:むしろ、アルミニウムの場合には、水にとけたアルミニウムイオンがなんらかの悪影響を与えるということか。

A君:まあ、そう考えるべきでしょう。

B君:それでは、次の話題に。今回、具体的に問題になった物質は何か。それはどのようなもので、どのぐらい使われているのか。

A君:ミョウバンと呼ばれる物質があります。もっとも一般的なのは、カリウムミョウバンで、中学高校の実験で結晶を作るものの材料などに使われている。実は、最近でもそんな実験が行われているのかどうか、知らないけど。

B君:料理用にもしばしば使われてるミョウバンだが、食品添加物として許可されているのは、カリミョウバンとアンモニウムミョウバン。毒性は、少なくとも急性毒性に関しては、食塩よりも低い。売られているのは、加熱して粉末状にした焼きミョウバン。

A君:ベーキングパウダーは、二酸化炭素を出す重曹と、焼きミョウバンなどの酸性物質が二酸化炭素を効果的に放出するために加えれている。

B君:アルミニウムの摂取だけれど、ベーキングパウダーだけからならそれを避けるという方法もあるけれど、アルミニウムは、すでに述べたように、地殻の主要成分なので、植物には確実に含まれている。
 野菜だとマッシュルーム、ホウレンソウ、レタス、コーン、果物、乳製品、ソーセージ、魚介類などにも含まれている。平均濃度が高い食品としては、茶、ハーブ、ココア、スパイスなど。しかし、これらを大量に摂取する訳はないので問題にはならない。それでも、2010年までのPTWIであった1mg/kg/週は比較的簡単に越してしまうということだ。現在は、毒性が低いからか、あるいは、過去の経験を加味したか、2mg/kg/週に緩和された。

A君:PTWIを計算するときに、通常100倍の安全係数が掛かっていますから、まあ、蓄積性がそれほど高い訳ではないアルミニウムですから、それほど心配するようなものとも思いません。ビスケットがもっとも高く、ケーキやペストリーなども高いので、毎日毎日子どもに食べさせるといったことをしなければ、それだけで充分でしょう。

B君:子どもは、体重の割に食べる量が多いので、体重基準であるPTWIなどを計算すると、摂取量が増えがちになる。

C先生:こんなところか。以上のような情報を正しく理解して貰えれば、それで良さそうだ。現時点で議論をしているような物質類は、経験上はほぼ安全性が確保されている物質なので、極端に大量摂取しなければ、多くの場合に問題になることはない、という歴史的事実が裏に存在していると思っても良い。ところが、このあたりをきちんと説明しないものだから、また、新しく危険な事実が見つかった、と考えてしまう市民が増えてしまった。100倍の安全係数が掛かっていることももっと積極的に伝えるべきだろう。
 むしろ、次のように考えて貰うと、感覚的には正しいと思う。最近、毒性の種類の中で、次世代の健康に関わることが重要視されるようになってきた。すなわち、子ども重視の姿勢である。
 それは、簡単に分かってしまう急性の毒性と違って、因果関係が極めて分かりにくいために、まだまだ事実が隠れているのかもしれない、と考えられている。しかし、ヒトというもののメカニズムは極めて複雑怪奇なので、例えば、体細胞の数は60兆個であるが、大腸内に住み着いている腸内細菌は、免疫など重要な役割を果たしているが、その数はなんと100兆個もあって、ヒトの細胞数よりも多い。ヒトとは、このように複雑なシステムである。したがって、因果関係を明確に示すことは、急性毒性によって死亡といった明確な証拠がない場合には、相当不確実性が高いと考えるしかない。
 また、社会全体がかなり安全サイドに振れているので、その対応も重要になってきている。だから、今、何かが問題になったからといって、公害時代の感覚、例えば、今後、新しい水俣病が発生するとか、PM2.5がそうだったが、新しい四日市喘息が再発するとか考える必要はない。
 例えば、ダイオキシンでどのような被害があったのだろうか。ベトナム戦争と結びつけられ、結合双生児が話題になったが、ヒトに対する催奇形性は未確認のままである。また、1gで100万人も死亡するといった急性毒性も問題になり、恐れられたけれど、果たして何人が悪影響を受けたのだろう。
 過去の経験を忘れないで、今起きていることを冷静に分析できる能力をもって欲しいと思う。