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 アリ国とキリギリス国      06.13.2010
     
 中長期ロードマップその2



 菅内閣が発足し、人気のV字回復をそのまま選挙に繋げようということで、多くの法案が廃案になってしまうようだ。

 郵政改革法案が話題になっているが、温暖化対策基本法案も廃案である。これまで、温暖化対策基本法案があったために行ってきたとも思われる中長期ロードマップ検討会での企業・企業団体、あるいは、NPOなどからのヒアリングの位置づけが、いささか不明になりつつある。

 しかし、様々な国際的な情勢を考えると、それもまた良しと言えるのではないか。


またまた株価下落

C先生:東京の株価が、またまた暴落。ハンガリーの経済不安が原因だという。日本の経済というものが、なぜこれほどまでも、遠い欧州の影響を受けなければならないのか。しかも、欧州でも主要国ではないハンガリーなのだ。どうみても、過剰反応に見える。

A君:リーマンショックから学んだことの一つ。経済的なショックが起きると、円は高くなる方向に振れるが、韓国ウォンは、安くなる。それは、なぜか。

B君:理由の一つは、韓国の場合には、外国からの投資が一気に引き上げられたから。日本の財政も、極めて危険水域にはあるのだが、輸出入統計、特に、1950年頃からの貿易黒字と貿易赤字を見ると、日本という国は、貿易赤字になったことがほとんどない、という不思議な国なのだ。
http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/data/y0.pdf

A君:このグラフの最後の2年は、リーマンショックの2008年と景気最悪の2009年を含んでいて、特に、2009年は輸出入が2008年の30%ダウンにも拘わらず、若干の黒字を出している。

B君:1984年ごろから2007年までの23年間ほど、平均して10兆円の貿易黒字を出している。23年分だと、230兆円の黒字だということになる。

A君:この黒字は、当然のことながら、日本企業の中に蓄えられている。だから、激しい国際競争にさらされている、と主張している経済界ではあるが、企業の基礎体力はある程度温存されていると考えて良いのでしょう。

B君:もっとも、年間10兆円といっても、日本人1人あたりにすると、10万円にもならない。子ども手当が1人で年間15〜30万だから、大した金額だとも言えない。

A君:2009年の輸出統計を見ると、
http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/data/y4.pdf
輸出相手国は、欧州などではなくてアジア。ドイツへの輸出は自動車や半導体などが満遍なく行われ、1.6兆円。しかし、アジアだと、中国が10.2兆円で、5位のタイですら、2.1兆円とドイツよりも多い。

B君:輸入先を見ると、最大の輸入先は、中国で、衣類などがトップで、電算機類、音響映像機器が続く。2位がアメリカで、穀物、原動機、航空機という順。欧州は、ドイツからがトップで、品目としては、自動車、医薬品、有機化合物、という順番。フランスが2位で、医薬品、有機化合物、原動機とい順番。

A君:原動機の定義は? ジェットエンジンですかね。

B君:よく分からないが、シリンダー式の原動機というものの輸入金額はそれほど多くないこと、そして、その他というものの輸入金額が多いことを考えると、その可能性が強い。

C先生:前回、本HPで中長期ロードマップ検討会でのヒアリングを取り上げたとき、
http://www.yasuienv.net/Hearing.htm
日本の2008年版温室効果ガス排出量の確定値の紹介をちょっとやった。

A君:そのときの概要は、もしも原発がきちんと動いていたら、2008年の排出量は、1990年の目標値のマイナス3.4%で、京都議定書の目標を達成していた。

B君:要するに、経済危機が来れば、経済活力はエネルギー消費量と比例し、エネルギー消費量は二酸化炭素排出量と比例するので、経済危機によって、二酸化炭素排出量は大幅に下がる。

C先生:しかし、余り良い下がり方とは言えない。同時に、雇用が減少するので、副作用がある。

A君:という議論をしている意味ですが、欧州のハンガリーが財政危機になったところで、日本経済への直接の影響はほとんどない。しかし、株価は大幅に落ちる。これは、まさに「景気の気の字は気分の気」の問題なのではないか。

B君:いやいや。株価は変動している方が、投資家にとっては、儲けるチャンス。昔なら、株価は上がらなければ儲からなかったが、今だと空売りができるから株価が下がっても儲かる。だから、欧州で何かあると、それを危機だ危機だとあおることが自己利益につながる人々が多いのだ。

A君:まあ、日本の株価は、落ちるのはまあ3日間程度でガタッと来るので、儲けるのもやはり速いから、空売り用には最適。しかし、そのうちに戻るから、また金融危機情報を流して、空売りをやるのに適している。

B君:なんだか金融というもののもっとも悪いところを抱え込んでいるのが、日本という国なのかもしれない。

アリ国とキリギリス国

C先生:先日、石井吉徳先生が主宰するもったいない学会のメールマガジンで、面白い記事が紹介されていた。本当に面白かったのだ。
「当世風アリとキリギリスの物語」
イソップ寓話より複雑な現代の世界経済
2010.05.27(Thu) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3579

A君:アリ国が、日本、中国、アジア諸国で、欧州だとドイツだけ。キリギリス国だが、英国をはじめとするほとんどの欧州の国。米国はちょっと違うが、本質はキリギリス。

B君:アリ族から借金してアリ族が作る製品を買うのが、キリギリス族の定義だ。米国は、本質はキリギリス族だが、アリ族的な一面もあって、ボーイング、マイクロソフト、そして、最近ならアップル、グーグル、アマゾンなど、新しいコンセプトの有価物を作る才能はある特殊キリギリス族とも言える。

C先生:そろそろ本論に行く準備が整ったようだ。


中長期ロードマップのヒアリング

A君:中長期ロードマップ小委員会のヒアリングでは、様々な企業が様々な主張をした。その大部分は、アリ族としての特徴を極めて明確に示すものだった。

B君:アリ族にも、実は色々あって、既存産業活力の維持を最大の目的とするアリ族と、新しい産業成長戦略を求めるアリ族とがいる。だから、温室効果ガスの削減といった新しい取組が、マイナスにしか見えない企業群と、マイナスもあるがプラスもあるように見える企業群とに分かれる。

A君:どっちが良いのだ、と言われると、なんとも。長期的には、やはり新しい産業戦略が必要なことに異議はないのでしょうが、今が重要であることも、それは理解できる。

B君:これまでの言い方だと、「日本はガラパゴス化した産業構造で、これを変えないと、明らかに衰退する」、だった。しかし、実態は、なかなか衰退しない訳で、だからといってそれほどの活力が出るわけではないのだが、バブルがはじけてから今日にいたるまで、なんとか生き延びることができた。これから先だって、何かに革命的な新しい戦略で取り組めば、それが全面的なプラスになる訳では無い。

A君:「日本の環境エネルギー技術は優れているから、温室効果ガスを25%削減するのは簡単だ。このような日本の停滞期を脱するには、ものごとはポジティブに考えなければならない。それで、日本産業も再生する」、という主張は、ちょっと聞くと良さそうにも聞こえるのだが、実は、極めて軽薄な主張をしている場合が多いように思える。

C先生:経済成長戦略として、環境エネルギー技術が「グリーンイノベーション」と呼ばれて、ライフイノベーションと福祉とともに、一つの柱になっているように見えるのだが、これは結構危うい思い込みかもしれないのだ。そもそも誰に売るのだ。日本という国は、輸出入統計で見たように、エネルギー、資源、食糧を輸入しなければ成り立たない国で、そのためだけに、30兆円ぐらいの輸出をしなければならない。しばらく前まで、自動車、電子機器、映像機器などの個人向け製品を輸出して来たが、このところ、中国、韓国向けに素材産業が頑張ってきた。これはBtoBだ。2009年には、久しぶりに船舶などという輸出品がベスト10に入ってきたが、今後、環境エネルギー技術が、このランキングに入ると言うのだろうか。

A君:具体的に考えられているのが、新幹線、原発、電力インフラ、各種製造用プラントなどでしょうか。

B君:金額的には大きくなる可能性はあるが、売れるときと売れないときの差が余りにも激しいのではないか。

C先生:途上国だけではなく、やはり、欧州・米国に自動車や電子機器、映像機器などを売り続けるという考え方も重要のように思える。

A君:自動車の輸出を電気自動車中心にするという考え方は、われわれは亡国論だと言ってますよね。

B君:電気自動車は、所詮、タウンコミュータの域を出ない。そんなものは、「日本製だから高品質」といったことが評価される対象ではない。トヨタがここまで大きくなれたのも、信頼性という品質で、トヨタ車は壊れないという伝説を作ることができたからだ。今は、いささか怪しい伝説だが。

A君:決して、「レクサスのおもてなし」で世界一の信頼性を得たからではない。


国策というものがある国、ない国

C先生:世界的には、メルセデス、BMWをはじめとする高品位車の販売が苦しくなっている。日本だけは、相変わらず、メルセデス信仰が続いているが、レクサスで勝負ができる地域は世界からほぼ消滅した。今後の本命は、本HPでいつも言っているように、プラグインハイブリッドなのだ。

A君:ところがやっかいなことに、プラグインハイブリッドというと、GMのボルトとか、スズキが出すといっている新車などの、レンジエクステンダー型の電気自動車も、日本のメディアはプラグインハイブリッドと呼ぶ。日本のメディアは、その技術音痴によって、日本という国の産業優位性を潰そうとしているとしか思えない。

B君:日本の環境エネルギー技術で、輸出産業になりそうな本命中の本命であるプラグインハイブリッドをもっときちんと評価しないと、と思う技術者は多いはずなのだが、メディアに技術の価値が分かる人はほぼ皆無。

A君:プラグインハイブリッド車には、3種類ある。(1)プラグイン・プリウス型、(2)プラグイン・インサイト型、(3)レンジ・エクステンダー型。その技術的なアドバンテージは、(1)>(2)>>>(3)なのだけど、これが分かる記者にお目に掛かったことがない。

B君:オバマ大統領が主導する米国の環境エネルギー技術の発展シナリオは、日本が得意とする技術分野をきちんと空白にして描いている。日本固有の得意技術を無視することが国策として当然だという考えに基づいている。

C先生:このあたり、実に、根本的問題だ。日本の大学には地政学講座が無い。そもそも地政学とは何か、学生に聞いても知らないのではないか。

A君:「地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研究するもの」、と定義されることが普通だと思います。そのため、単純に、政治的、軍事的な研究だと思われてしまうのですが、現時点では、経済的な地政学的観点からの検討が非常に重要。

B君:地政学を大学では研究しないという伝統は、例えば、東大の場合だと、矢内原三原則で知られる矢内原忠雄総長(1951〜1957年)の時代に、軍事研究をしないということが決められたからだと言われているが。

A君:軍事研究としてではなくて、経済的な立場で国際関係の検討をもっとすべきだ、という主張も、同時に排除されてしまった。

B君:日本という国は、その排他的経済水域(EEZ)の広さをもっと活用すべきだ。一体、何をやれば、どこまで活用できるのか。それを詳しく検討すべきだ。

A君:そんな研究をやると、尖閣列島とか北方四島とか、様々な国境にまつわる問題が出てくるので、無条件に避ける。これが東大を始めとする多くの大学の基本方針だった。

B君:EEZを活用すると、エネルギー、資源、食糧などの自給率はどこまで高めることが可能なのだろうか。そのイメージが残念ながら無い。誰か研究してくれ、という感じだ。

A君:ただ、やはり技術的なセンスがあることがもっとも重要で、メタンハイドレートがたくさんあるからエネルギー自給が可能だ、などという主張をされても困る。

C先生:かなりハードな検討をすべきという話になっているが、もっとソフトな検討も必要不可欠なのだ。
 中長期ロードマップ検討会でも、企業の多くは、真水25%削減は得策ではないと考えているようだ。それなら、真水15%の削減と決めたとして、公約の残りの10%は、国際的な何らかの方法で削減をしなければならない。その最適な方法論とは何かのか。そんな検討すら、実はほとんど未着手だ。

A君:これまで、排出権取引のような枠組は、欧州を中心とするキリギリス国が強い提案をして枠組論争をリードしてきましたね。2020年の中期目標についても同様で、欧州が強い提案を行って、その枠組にどうせ乗せられるのだから、日本という国がそれを真剣に考える必要はない、と思っているのではないでしょうか。

B君:それがアリ国の限界なのだ。キリギリスの歌声には適わないと最初から決めている。

A君:日本国内の排出権取引の環境省の検討会も、かなり様々な議論が行われているようですが、全く日本流の排出権取引のスキームを考え出すべきだ、といった考えは、なかなか認められないようです。

B君:昨年のCOP15がコペンハーゲン合意書だけが成果。次のメキシコのCOP16でも何も決まらない。その先のCOP17でも何か決定的なものが決まるという可能性はほとんどない、という状況なのだから、当面の国際的な枠組は、「自己宣言とそれに基づく自主行動」、「二ヶ国間での合意と実施、およびその検証」だと決めて、アリ国家はどんな主張をすべきなのか、新しい枠組を考えるべきなのだ。

C先生:地球環境派的な表現で言えば、幸いにして経済的な減速が起きて、温室効果ガスの排出量の削減が自動的に行われている現時点は、2年程度の余裕ができたと考えて、もう一度、すべての既成概念を破棄し、根本原則に戻って、何をどのようにやるべきか、考える時間をもてる貴重なチャンスなのだ。

A君:それに、3年後ぐらいには、中国の存在が今よりもますます大きくなっていて、中国での排出量削減が行われなかったら、欧州とか日本とかいった国がいくら削減しても全く意味がない、ということが明らかですよね。

B君:米国が大幅な削減をしないと、地球レベルで考えて、これまた全く無意味。インドからも、そろそろなんらかのコミットメントが欲しい。ブラジルも同様。

C先生:欧州が気候変動の枠組のリードができる時代は、すでに終わった。3年後を考えても、欧州流の排出権取引では、対応は全く不可能だ。まして、2020年の枠組の検討を欧州にリードしてもらおうという考え方など、まさに論外。

A君:名古屋で行われる生物多様性条約のCOP10の準備会合も、全く合意に到達する気配がないようですね。

B君:先進国リード型で、国連の会議が収まるということは、もはや幻想になった。途上国は、自国の経済的な発展を最優先しているので、途上国の経済に少しでも悪い影響があると思えるような合意はしない。ということは、なんらかの合意を得ようと思ったら、途上国に経済的な支援を行うことが必須になってしまった。ところが、それをやろうにも、欧州にも、日本にも、米国にも金がない。


菅首相の所信表明

C先生:まあ、八方塞がり状態だ。菅首相の所信表明も、どうも国内向けのメッセージで、途上国の経済発展をどうするか、といったメッセージが有ったのか。

A君:こんな言葉がありました。
 「第3に、「アジア経済戦略」です。急速な成長を続けるアジアの多くの地域では都市化や工業化、それに伴う環境問題の発生が課題となっています。少子化・高齢化も懸念されています。また、日本では充足されつつある鉄道、道路、電力、水道などは今後整備が必要な社会資本です。世界に先駆けてこれらの課題を解決するモデルを提示することで、アジア市場の新たな需要に応えることができます。こうした需要をとらえるため、海外との人的交流の強化、ハブ機能を強化するインフラ整備や規制改革を進めます。」

B君:アジアで日本が環境ビジネスをやろうということで、アジアの諸国に新たな経済的な支援を行うということではなさそうだ。

A君:外交戦略として、こんな表現があります。
 「アジアを中心とする近隣諸国とは、政治・経済・文化等の様々な面で関係を強化し、将来的には東アジア共同体を構想していきます。中国とは戦略的互恵関係を深めます。韓国とは未来志向のパートナーシップを構築します。日ロ関係については政治と経済を車の両輪として進めつつ、最大の懸案である北方領土問題を解決して平和条約を締結すべく、精力的に取り組みます。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国やインド等との連携は、これをさらに充実させます。今年開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)においては、議長として積極的な役割を果たします。経済連携協定(EPA)・広域経済連携については国内制度改革と一体的に推進していきます。
 我が国は地球規模の課題にも積極的な役割を果たしていきます。気候変動問題については第16回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP16)に向けて、すべての主要国による公平かつ実効的な国際的枠組みを構築すべく、米国、欧州連合(EU)、国連などとも連携しながら国際交渉を主導します。
 この秋、名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、生物の多様性を守る国際的な取り組みを前進させます」。


B君:どう具体化するかが、大問題。それには、国家的な戦略をしっかりと検討することが前提となるように思える。

C先生:財政の健全化がかなりの時間を割いて述べられているのは良いが、国民がどのぐらい理解しているのか、それが問題だ。
 また、7月11日の参議院選挙日は変えず、選挙最優先の姿勢も変わっていない。やはり、短期的な見方が本音だという批判はあり得るだろう。

A君:日本国民の視点が余りにも、自分中心、現時点中心になりすぎている。これを何とかしないと、という議論がもっと起きないと。

B君:それには、秘策が必要。


2枚の投票用紙作戦

C先生:4月1日に、エイプリルフールとして言い始めたことだが、本当にそうしなければならないかもしれないとの感触が強くなっている。
 それは、投票用紙2枚システム。ピンクの投票用紙は、今の自分のために。ブルーの投票用紙は、20年後の自分、もしくは、子孫のために投票してください。

A君:そんなことをしても、同じ候補者に入れるだけだ、という反論がありますね。

B君:それならそれで良いのでは。

C先生:もっとも重要なことは、実際に投票が行われるということではない。選挙システムとして20年後のためにも投票をするとなれば、候補者は目前のことだけではなくて、20年後のことを語らなければならなくなる。それによって、未来に対する重み付けがかなり大きくなるのではないだろうか。