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   正しく見抜くコツ 
  11.03.2013
        老化防止健康食品の現実




 2日土曜日、福岡女子大学の学園祭で、一般公開の講演会があり、「環境と健康 正しく見抜くこと」なる講演をしてきました。参加者は、学生さん、教官、そして、一般参加者ですが、いつものことですが、一般参加者には、高齢者が比較的多い状況でした。

 話題は3つ用意しました。前回にこのサイトで取り上げた「カネボウ白斑事件」を、女子大の学生さん向けとして取り上げました。

 もう一つの話題が、「気候変動問題に対する認知バイアスの問題」で、これもある程度はこのサイトで議論しておりますが、その範囲内です。

 そして、もう一つ話題を選択しました。それが今回の話題。これを正しく見抜くコツがあるのかどうか、若干考察をしてみたいと思います。



C先生:福岡女子大に始めて行った。比較的小さな大学だが、公立大学だということもあり、人気を維持しているようだ。卒業生に対しても、地域からの信頼があるようで、全国区の活躍を目指すのではなく、学生も県の職員などを目標としているような感じだった。

A君:そこで、公開講座が行われたということですね。

B君:公開講座というところは、実に多様な人々がいるから、話題の選択非常に難しい。

C先生:話題というよりも、トピックスの選択に苦労をするということは事実。今回、参加者に高齢者が多いことを最初から想定して、取り上げたのが、「老齢化対策としての健康食品」の話。確実に効くものを見抜くのは難しいけれど、効きそうもないものを見抜くのはそれほど難しくない、という話。

A君:老化防止のサプリメントというと、やたらと多いですね。某サイトで老化防止サプリメント売れ行きランキングというのがあって、それを見ると、
第1位: DHEA 性ホルモンの分泌に関与
第2位: グルコサミンとコンドロイチン 軟骨の原料
第3位: コエンザイムQ10 下半身やせ
第4位: スーパールテイン 抗酸化効果
第5位: EPAとDHA 血液サラサラ
第6位: MSMサプリメント 硫黄吸収増大

B君:著名なものと、よく分からないものが混じっているけれど、今回は、第2位の軟骨の原料の検討。すなわち、グルコサミンとコンドロイチン。

A君:グルコサミンとは、Glucosamineで、化学式は、C6H13NO5で、グルコース、すなわち、ブドウ糖の分子構造の一部である水酸基がアミノ基に置き換わったもので、カニやエビなどの甲殻の主要原料成分。

B君:この物質が変形性膝関節症に効くのか、効かないのか。例によって、国立健康栄養研究所の健康食品の素材情報データベースを見るのが、まず最初にやるべきこと。

A君:グルコサミンは
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail24.html

 俗に「関節の動きをなめらかにする」、「関節の痛みを改善する」などといわれる。
 
塩酸グルコサミンの経口摂取による、膝の痛み、変形性関節症、関節リウマチに対する有効性が指摘されているが、これらの情報は不十分であり、更なる検証が必要である 。
 ヒトでの有効性については、硫酸グルコサミンの摂取が骨関節炎におそらく有効と思われている。ただし、重篤で慢性的な骨関節炎の痛みの緩和に対しては、その効果がないことが示唆されている。安全性については、硫酸グルコサミンは適切に摂取すればおそらく安全と思われており、塩酸グルコサミンは短期間、適切に摂取する場合は安全性が示唆されている。グルコサミン摂取による血糖値、血圧、血中コレステロール値の上昇などが懸念されているので、糖尿病、高脂血症 (脂質異常症) 、高血圧のリスクのある人は注意して利用する必要がある。また、甲殻類海洋生物由来の硫酸グルコサミンは、甲殻類アレルギーの人においてアレルギー反応を誘発する懸念があるので注意する。妊娠中・授乳中は、安全性に関して信頼できる十分な情報が見当たらないため使用を避ける。


B君:ということは、骨関節炎には効くかもしれないが、変形性関節症や関節リウマチが原因で、すでに変形してしまった関節が原因であれば、効くという情報は不十分。ということは、まあ効かないと考えるべきだろうということか。

A君:まあ、そんなところでしょうか。グルコサミンは、ブドウ糖程度のサイズの分子ですから、低分子ですね。今回の話題は、高分子系のサプリメントが効くのか、ということです。

B君:コンドロイチン、正確にはコンドロイチン硫酸が、軟骨、結合組織、粘液に含まれるサプリメントとして、広く販売されている。

A君:コンドロイチン硫酸は、
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail580.html

 俗に、「骨の形成を助ける」、「動脈硬化や高血圧を予防する」などといわれている。ヒトでの有効性については、骨関節炎の緩和に対する検討が行われているが、見解が一致しておらず、まれに上腹部痛、吐き気、などの副作用がみられる。安全性については、適切に用いれば経口摂取でおそらく安全と思われる。

B君:2006年までを対象に、20報の論文を対象にして、データを検証したところ、大規模で質の高い臨床試験では、症状の緩和は無いもしくは極わずかで、コンドロイチン硫酸の使用は推奨できないと報告されている。

A君:要するに、効果があったという古い論文があるけれど、2005年以降に報告された研究結果では有効性が無いとされている。
B君:まあそんなものなのだろう。

A君:ここからは、生化学の一般論みたいなものになりますが、コンドロイチン硫酸は、多糖類と呼ばれる糖が多数結合したところに硫酸基が結合した高分子物質で、軟骨に大量に含まれていますが、これをサプリメントとして摂取、すなわち、薬として経口摂取をしたとして、どうなるのか。

B君:当然、消化されて、吸収される。消化とは何か、と言えば、それは腸管から吸収できる程度に、分子を短くすること。

A君:消化が何か、どのぐらいの分子だと腸管から吸収されるのか、色々と情報を探していたら、非常に面白いWebサイトが見つかりました。
 鬼の元薬剤部長の辛口薬事放談
http://www2.incl.ne.jp/~horikosi/index.html
 というもので、恐らく企業の開発関係を担当していた方が筆者。残念ながら、匿名ですが、元企業人としては仕方がないことでしょう。

B君:確かに、相当なボリュームで、283話まである。しかも、研究者が差支えのない範囲で、自らの薬剤開発史を記述したものと思われる。

A君:ある分子量の大きな薬剤が有効だという論文を読んで、どのぐらいの分子量のものまで、腸管を通るか、という研究をしたことが、第65話にでてきます。題して、「消化管から吸収される分子の大きさは?」。

B君:その結論を簡単に言えば、次の5項目になる。
★生体とは、生理学で言われているほど、緻密な組織ではない
★細胞と細胞の間には、原子数1000以上の物質でも通過できる程度の隙間がある
★細胞は膜で包んで取り込む作用ももっている
★しかし、その場で消化されてしまう
★原子数1000を超す物質の腸壁通過量は、最大でも1/3000ぐらい

A君:ということで、大きな分子でも3000分の1ぐらいは腸管を通ることは通るけれど、そこですぐに消化されてしまう。

B君:なぜ原子数1000を超す物質をわずかながら腸管が通すことがあるか、と言えば、それは免疫システムが必要な情報を集めているためではないか。有害な細菌や分子を見分けるサンプリングをするために、全部が全部、アミノ酸やブドウ糖になってしまっては全く情報が取れないということになるので、中途半端な形で、体内に取り込んでいるのではないか。

A君:腸管免疫の機能の一つかもしれないということですね。腸管免疫というのは、ヒトの免疫システムの中で、最も大きなものだと言われています。上野川修一教授の記事に
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/kaminogawa1.html へのリンク
そのような記述があります。

B君:結局のところ、コンドロイチン硫酸のような高分子系の成分を摂取しても、徹底的に消化されて、小さい分子であるブドウ糖やアミノ酸になってしまう。

A君:ということは、軟骨成分であっても、軟骨のような大きな分子で腸管から体内に入るのではなくて、その原料成分という小さな分子になってしまう。

B君:消化プロセスを分子サイズで言えば、原子数にして1000以上のものが、大体のところ数10個というところまで叩き切られる。100分の1程度のサイズになるという理解で良いと思う。

A君:となると、原料成分が増えるから、軟骨が増えると言えるか、ということになりますね。

B君:今回取り扱っていないが、コラーゲンという成分も、お肌の状態にとっては非常に重要なものなので、これもサプリメントとして販売されている。しかし、高分子系の物質だ。

A君:例によって、国立健康栄養研究所のWebサイトから。
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail23.html
 コラーゲンは、皮膚、血管、腱、歯などの組織に存在する繊維状のタンパク質で、からだを構成する全タンパク質の約30%を占めている。コラーゲンの40%は皮膚に、20%は骨や軟骨に存在し、その他に血管や内臓など全身に広く分布している。コラーゲンは健康食品として、俗に「美容によい」、「骨・関節疾患に伴う症状の緩和によい」などといわれているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない。安全性については、アレルギーを誘発する可能性が示唆されている。

B君:コラーゲンのサプリメントを摂取すれば、当然、アミノ酸にまで分解される。コラーゲンの原料は体内に十分に存在した状態にはなるが、さて、それがお肌の良い影響を与えるだろうか。

A君:C先生はかなり若いころから白髪があって、50歳過ぎにはかなり白かったとか。
C先生:急に話題が変わった。しかし、何を言いたいかよく分かった。もしも、黒髪を原料とするサプリメントがあって、それを飲めば髪が黒くなると言われたら、さて、それを飲むか、と聞きたい訳だ。

B君:そう言えば、白髪に良いというサプリメントを知らない。調べてみよう。

A君:確かにありますね。成分は、アミノ酸、根昆布、牡蠣+シジミ、亜鉛、クロム、セレン。

B君:なぜこれらが効くのか、余り説明がない。中味の大部分は栄養食品。なんらかの効果がありそうなサプリメントと言えるのは、亜鉛・セレン・クロムぐらいか。

A君:亜鉛ですか。生体にとって必須元素ではあります。
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail36.html
 一般に「味覚を正常に保つ」、「生活習慣病を予防する」などといわれ、亜鉛欠乏症や栄養失調による病気の治療、味覚減退の改善など、一部にヒトでの有効性が示唆されている。安全性については、適切に摂取すればおそらく安全と思われるが、過剰摂取により神経症状、免疫障害、銅欠乏症などを起こすことがある。亜鉛は保健機能食品 (栄養機能食品) の対象成分となっているが、乳幼児・小児については、あえて錠剤やカプセル剤の形状で補給・補完する必要性がない旨の注意喚起が出されている。
 しかし、そもそも髪の毛に関係すると思われる記述としては、
 「脱毛症の治療には、効果がないことが示唆されている 」。これだけ。

B君:どうみても、白髪に聞くとは思えない。

A君:セレンですが、これも生体必須元素。
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail37.html
 俗に「老化やがんを防ぐ」、「生活習慣病を予防する」などといわれ、前立腺がんの発生率低下、全がん死亡率の減少など、一部にヒトでの有効性が示唆されている。安全性については、許容摂取量の範囲で適切に摂取すればおそらく安全と思われるが、他のミネラルに比べてセレンは必要量と中毒量の範囲が極めて狭いことから、使用にあたっては特に注意が必要である。催奇形性や流産のおそれがあるため、妊娠中の過量摂取は避けるべきである。

B君:髪の毛に無関係ではないか。

A君:最後にクロム。これも必須元素。
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail34.html
 俗に「血糖値を正常に保つ」、「中性脂肪、コレステロールを下げる」などといわれ、II型糖尿病、ステロイド投与による糖尿病及び反応性低血糖などに対して、一部にヒトでの有効性が示唆されている。安全性については、食品から適切に摂取すればおそらく安全と思われるが、悪影響として頭痛、不眠、睡眠障害などが報告されており、過剰摂取では嘔吐、腹痛、下痢などを起こすことがある。また、6価クロムは特に毒性が高く、皮膚炎や肺がんを起こすことが報告されている。

B君:これも髪の毛には無関係のようだ。

C先生:やはり、黒髪を原料としたサプリメントを販売すべきなのではないか。有効だと誤解する人が居れば、売れるに違いない。勿論、効く訳はないのだが。
 白髪になることは、加齢によって黒髪を作る能力が失われているのだから、いくら原料を揃えても、合成能力がゼロの身体なのだから、何も起きない。

A君:黒髪を原料としたサプリメントを作れば、髪の毛の量も増えて、フサフサになると誤解する人も居るのでは。もし誤解する人が多ければ、かなり売れるかもしれない。

B君:髪の毛の増量効果がスゴイ、と言えば、誤解させることは可能かもしれない。

C先生:それはそう言えるが、サプリメントを売るには、まずは、イメージではないか。黒髪を原料としたサプリメントと言うと、「気持ち悪い」と思う人の方が多ければ売れない。
 それに、髪の毛を原料としたサプリメントと言っても、さすがにこれで髪の毛が増えると誤解する人は居ないようにも思える。これは、「髪の毛」といっても、何か神秘的な力はなさそうだから。
 「コンドロイチン」、「コラーゲン」、「ヒアルロン酸」だとなぜ有効だと誤解するのか。それは、新しく聴く単語だから。すなわち、余り馴染みの無い単語だと「何か良さそうなことがあるかも」、と思う人が多いから、という結論で良いのではないか。マイナスイオン、プラズマクラスターイオンなどがそうだった。ほとんど実態がないものでも、新しい単語であれば、信じてしまうのが、日本人の特徴だと言えそうだ。
 馴染みがないモノに弱いということは、効能を信じてしまうだけを意味するものではない。PM2.5を無用に恐れる人も居る。昔ならダイオキシンがそうだった。これは、環境問題としても相当に重大な認知バイアスの一つだと思う。
 本日の結論の一つとして、老化防止用のサプリメント・栄養食品は、それが高分子系の成分であれば、消化・吸収されて原料は増えるが、だからといって効くとは思えない。見抜くキーワードは、消化・吸収とは何かだ。加齢によって、白髪が増え、髪の毛が薄くなることは、黒髪を食べられるように加工した健康食品があったとしても解決しない。これと同じで、いくら原料があるとしても、再生する能力が弱っているからだ。
 個人的にも極めて残念な結論だが、これが現実。