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   人工樹で二酸化炭素を吸収    02.27.2016
             陰謀論とは違うのか.....        




 先日、ある会議での話。米国では、コロンビア大学のKlaus Lackner教授”人工樹”が結構話題になっていたとのこと。”人工樹”とは、大気中から二酸化炭素を吸収するという仕組みらしい。しかし、その発表は、どうやらかなり前のことのようだ。

 調べてみると、確かに、有名雑誌などにも記事が書かれていることが判明。例えば、サイエンティフィックアメリカンなら、2013年5月のこの記事であり、
http://www.scientificamerican.com/article/prospects-for-direct-air-capture-of-carbon-dioxide/
ナショナル・ジオグラフィックなら2015年4月のこれである。
http://ngm.nationalgeographic.com/big-idea/13/carbon-capture
かなり古いけれど、ガーディアンなら2008年5月に以下のような記事がある。
http://www.theguardian.com/environment/2008/may/31/carbonemissions.climatechange
 娯楽としては面白いが、全く可能性が無いとしか言いようのないこのような記事が書かれてしまうのはなぜなのだろう。悪意は無いから良いとするのか。あるいは、「記者が無知だからしょうが無い」、というのか。いやいや、そうは言えないだろう。

 『この記事のように非常に優れた対処法があるから、大気中の二酸化炭素濃度が増えても大丈夫』、という印象を社会に与えることは、やはりある種の陰謀論、別の言い方をすれば、ある思想の持ち主を利するための行為なのではないだろうか。



C先生:前回の陰謀論の続きのような話になった。といっても、陰謀論的な雰囲気は全く感じない話で、こんな面白い方法があるというだけの話とも言える。少なくとも、記事を読むだけだと、そんな感じなのだ。Klaus Lacknerという人は、コロンビア大学教授なので、もともとそれほど変な人ではないのだろう。しかし、ちょっと常識があれば、この程度の話がGreat Ideaかどうか、すぐに分かるはず。

A君:ナショナル・ジオグラフィック誌は4月号だから、エイプリルフールということは?

B君:そこまでの乗りで書かれているとは思えない。

C先生:まあ、このサイトでやるべき本格的なアプローチとしては、このLackner教授の人工樹がどのような仕組みのものか、それを詳細に説明することから始めたいのだけれど、ざっと調べた限りでは、何が根本的な原理なのか、どうもよく分からないのだ。二酸化炭素を吸収するプラスチックで、どうやら水分を与えると、二酸化炭素を吐き出すらしい。しかし、詳細が分からない。

A君:特許を調べて見ました。Lackner教授のパテントのリストがこれです。
http://patents.justia.com/inventor/klaus-s-lackner?page=4

B君:最新のものが2011年なので、それ以後も様々な特許を出しているのかもしれない。

A君:最初のものが、大気中からCO2を捕まえて、それを温室に使うといった目的のもの。捕まえる材料は、陰イオン交換樹脂のようです。

B君:いくつか同じものが並んでいるけれど、硫酸の合成法なども研究しているようだ。

A君:その前の研究が、アルカリ性の溶液に二酸化炭素を溶かし込むという方法。2005年ぐらいから研究をやっているようです。しかし、具体的な方法はよく分からない。

C先生:一般に、どのような方法論があるのか、をチェックし直すことにして、その後は推測で行くといのが王道かもしれない。

A君:それなら、簡単にはWikiの英語版で、これですかね。
https://en.wikipedia.org/wiki/Carbon_sequestration

B君:中では、Chemical Processesを探せばよい。と思ったが、実は、ほとんど記述が無い。唯一分かったことは、苛性ソーダNaOHにCO2を吸収させるという、古典的は方法論。これだと、重曹ができることになる。

A君:それだと、Kraus LacknerのArtificial Treeとは違うでしょうね。次のようなサイトが見つかりました。
http://www.fastcoexist.com/3044272/world-changing-ideas/clearing-the-air
 この記事によれば、プラスチックにCO2を吸わせて、水でリンスすると、CO2が取り出せるとあります。だから重曹にして、トラップしているのではないですね。
 こんな図がありました。



図1:大気から二酸化炭素を吸収するプラスチック

B君:イオン交換と書いてあるが、どんなメカニズムなのだろう。もっとも、簡単に分かるようなら、特許をあれほど出せることはない。

C先生:ということで、Lackner氏の発明が、ひょっとするとなかなかの中身である可能性は分かった。しかし、これを地球レベルで空気から二酸化炭素を除去することに使えるということは、余りにも距離が遠い。そのあたりが、分からない人々が普通なので、まあ、簡単に騙されてしまうということになる。

A君:それには、やはり規模感が重要ですね。

B君:規模感を良く表している図となると、やはり、IPCCのAR5の例の図か。図を出すこともないので、結果だけ言えば、こんなことになる。まず、質問1:20X0年のこと:地球の温度が産業革命以前から+3℃になりそうだ。これは、大変な事態が起きてしまう。そこで、大気中のCOをLackner教授に頼んで吸い込んでもらおうことにした。まあ、安全を考えると、+2℃ぐらいまで落としたい。さて、何トンのCOを大気中から吸い出せば良いのでしょうか。

A君:まあそんなことでしょう。当然、質問2:吸いだしたCOはどこに格納するのでしょうか』ということも考えないと。まあ、『地下に埋める』が答なのかもしれませんが、『それが可能ですか?』。

B君:それだけではない、人工樹が吸い込むことができるCO2に対して、人工樹の重さは何倍になるだろうか。まあ、普通に考えれば、100倍ぐらいだと思えばい良いのではないか。質問3:この人工樹をどのぐらい生産すれば、目的のトン数のCOを大気から吸い出せるかを計算しよう、ということになる。

A君:そのために、質問4:原料となる石油はどのぐらい必要なのでしょうか。それを樹脂にするために、必要なエネルギーと発生CO2量の概算は?』。これも併せて計算したいところです。

B君:LCAもざっくりということになるか。

C先生:今、そんなことを考えるより、本当に必要になるかどうか、順番にやっていけば良いだろう。

A君:まあそうですね。さて、質問1に必要なデータですが。2℃と3℃と二酸化炭素量。2℃アップになるのは、産業革命以後、2.9兆トンぐらいの二酸化炭素が排出されたとき。3℃アップになる4.5兆トンぐらい。余り細かいことを言っても仕方ないので、その差を1.5兆トンとでもしますか。これが、Lackner教授に吸収して貰いたい量です。

B君:1.5兆トンが一つの目安だが、これは大体、人類が2010年までに排出したCO総量と同じ。

A君:1.5兆トンというと、液化炭酸の密度は、水とそれほど変わらない。深さ15mのプールを考えたとして、10kmx10kmというサイズになりますね。

B君:余り大すぎてよく分からない。日本が輸入している原油が年間約2億klぐらい。その10000年分までは行かないが、7500年分ぐらいということになる。

A君:これだけの量のCOを大気から吸収することは、現時的ではないですね。質問2のどこに格納するか、となると、地下に埋め込む以外に解はないのですが、地球となると、意外と大きくて、どこかの地下に穴を掘って、地下に埋設し高圧になれば、水和物になって安定化するので、まあまあということになりますが、それでも、本当に安定か、と言われると100%とは言えないでしょうね。

B君:質問3のどのぐらいの量の人工樹を生産すれば良いのか。必要な人工樹の重さは、CO量の100倍と仮定するとしたので、150兆トン。原料は石油とする。石油が効率100%でそのままプラスチックになると仮定(非現実的)すれば、やはり150兆トンの石油が必要になる。実は、ここまでの石油はさすがに地球には存在していないと思われる。これだけの石油を運ぶのに、一体、どのぐらいの船が燃料を使って走り回るのだ、ということになる。

A君:最後の質問4は、バカバカしすぎて、考えなくて良いということになりますね。要するに、この手の解はないことが最初から明らかということになります。

C先生:このLackner教授というのは、一体何を考えているのだ、ということになる。大気中のCOを減らすということが、いかに大変なことなのか、その全体像を考えたことが無いのではないか。

A君:ジオエンジニアリングという言葉があります。例えば、エアロゾル、要するに、細かいホコリ見たいなものを上空にロケットで打ち上げると、そのホコリが太陽の光をやや遮るので、地球の温度が下がるという考え方です。こちらは、確かに、それなりの量で地球の気候を制御できるのですが、そのイメージは、と問われれば、ヘロインを末期がん用の鎮痛剤に使う、という感じでしょうか。効いている時間が短いので、エアロゾルロケットをどんどんと打ち上げることが必要。

B君:末期がんの治療法を地球に適用することは、イメージとしてもあり得ない。

A君:話がずれましたが、言いたいことは、ジオエンジニアリングは、それでも技術的には可能だということです。やることにはならないと思いますが。しかし、大気からCOを吸い出して処理することは、何も考えない人にとっては、究極の治療法に思えるのでしょうね

B君:まあ、間違いない。そう思えるのだろう。ジャーナリストには、マクロ感覚は無いと断言でき。Lackner教授の狙いは、いくつかの特許を、どこかの企業に売り込むことではないだろうか。地球の気候変動対策以外の、全く別の用途として何か使えるかもしれないので。それには、有名になっておくことがやはり有利だと考えているのではないか。

C先生:そろそろ結論が出たように思える。まあ、そんなところだろう。もしも、COを捕まえて地中にしまうのであれば、それは、やはり発電所や製鉄所の排気からCOを吸収して集めることが妥当。大気を相手にするという方法は、全くあり得ない。地球の状況をなんらかの技術によって治療するなどということも、規模を考えればすぐに分かるのだけれど、ほぼ完璧にあり得ないので、やはり、我々の社会を無炭素社会にする以外に解は無いのだろう。今世紀のどこかで、実質無炭素社会=化石燃料ゼロ社会を実現しようということが、パリ協定の2030年以後へのメッセージの中身だとも言えるので、これを色々と考えることを、すべての人々にお奨めしたい。マクロな発想法を持っていることが、地球全体を考える場合に必要なスキルだと思われる。