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    バイオマスは地球を救う  05.27.2018
        著者ラッガム氏の温暖化の誤解は相当なもの

               




 「バイオマスは地球を救う」(ラッガム著)という本のご紹介です。「先進国でバイオマス」と言えば、オーストリアかドイツということになるでしょう。そのオーストリアの学者であるラッガム氏が書いた書籍であるということで、買い込んで読んで見ることにしました。

 しかし、ラッガム氏は、強烈な反原子力論者で、原発反対そのものはいくらでもあり得るとは思うものの、反原発の理由は、全く根拠のないものでして、誠に困ったものだ、と思いました。一応理系の学者ですから、ひょっとすると、地球温暖化のメカニズムを、全く知らないとは考えられないので、反原発、親バイオマスの観点から、ウソを付いているとしか思えない記述になっていて、結果的に、この本の記述そのものの信頼性も危ういのかもしれません。

 もう一つの注目すべき主張は、「腐植土こそ、COを吸収し、蓄積するメカニズムである」、ということなのですが、そのあたりのデータについての妥当性は判断できませんでした。

 ただ、ここでも、「化石燃料が燃焼から排出する二酸化炭素を、大気の中から取り除くことができるのは、太陽エネルギーを利用する光合成だけである」、と述べていますが、多分これは、バイオマスを後押したいための記述です。大気中の二酸化炭素のシンクとしては、その他にも、海水中への溶解(最終的には、石灰岩を形成して固定される)、陸上岩石による直接吸収による固定というメカニズムがあります。


C先生:熊崎実筑波大学名誉教授が「刊行に寄せて」を書かれている本である。その最初の文章にあるように、木質バイオマスと言えば、オーストリーが世界の最先端を走っていることは事実だと思う。しかも、オーストリーに行ってみれば分かるように、山は結構急峻で、こんなところで林業をどうやってやるのだろう、という感覚を得る国でもあって、その点では、日本の状況ともよく似ている。しかし、なんとか困難を克服してきた国だと思うが、それには、やや狂信的とも言えるリーダーの存在が不可欠なのだろうと思う。

A君:「刊行に寄せて」が、まさか、というような記述で締めくくられていますね。最後の部分ですが、「本書の記述がいささか攻撃的で、過激に走るのはやむを得ないように思う。極論ないし誇張と思われる表現はあちこちにあるが、だからと言ってこの本の価値が無になるわけではない。バイオマスが果たすべき本来の役割については、間違いなくきっちりと述べられているからだ。あまり挑発に乗らないで、多少冷めた目で冷静に読み進めると、得るところが多い」、とありますので。

B君:確かに、読み方に注意を払うべき本だと思う。熊崎先生の指摘はその通りなのだけれど、実は、若干間違った記述があることも、我々としては指摘すべきだと思う。原発反対の部分とバイオマスを強烈に後押ししている部分なのだ。原発に反対することそれ自体は、当然あって良いのだけれど、大学教授のような立場にある人が、理論的に間違った記述を平然と行って、だから原発は不要という論理を展開するのは、いかがなものか、と思う。これも後で、具体的に指摘したいと思う。

A君:と言う訳ですので、やや慎重にと言いつつも、普通にご紹介します。
 このような書籍です。

バイオマスは地球を救う―エネルギー政策の大転換を迫る
単行本 ? 2015/7/10
アウグスト ラッガム (著), August Raggam (原著), 西川 力 (翻訳)
単行本: ¥2160、126ページ
出版社: 現代人文社 (2015/7/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4877986111
ISBN-13: 978-4877986117

B君:そもそも、126ページしか無いのに、2160円はやたらと高くないか。

A君:それはそれとして、アマゾンの紹介する「BOOK」データベースの内容は、以下の通りです。
地球温暖化をストップする里山エネルギー!!“バイオマス”とCO2を固定する“腐植土”生成の農林業は、気候変動を止める。この国内エネルギーへの転換が化石燃料の輸入と原発を不要とし、地域産業を活性化させることを豊富な資料に基づいて実証。地球のエコシステム―木と水と土が蘇る。

B君:この主張が科学的に本当に正しいのか、それを検証する必要がある。熊崎先生のご指摘の通りの本なので。

A君:熊崎先生の書籍も、そのうちに、ご紹介する予定は予定ですが、本来は比較してからご紹介すべきかもしれない本でしたが。

B君:まあ、仕方ないのでは。
 まずは、著者のラッガム氏のご紹介。これも「BOOK」の紹介を引用すれば、「グラーツ工科大学元教授。工学博士。1937年10月8日生まれ。専攻は製紙とパルプ製造の電子・システム工学。エコロジーの観点からの論文「環境に優しい製紙とパルプ製造の新しい方法」で1977年に教授となる。製紙とパルプ産業の指導や技術開発を多数行う。1975年以来石油、ガス、原子力の利用を批判し、バイオマスエネルギーの利用に取り組む。1983年にフランツ・フリッシュと共同してペレットとチップの自動ボイラーを開発する。1985年にグラーツ工科大学に「代替エネルギー利用―バイオマス」研究所を創設し所長となる」。

C先生:グラーツ工科大学の元教授。なるほど。オーストリーのグラーツは、Grazと書くが、南部唯一の大都市だ。オーストリーには世界遺産が10箇所あるけれど、私個人として、すべての世界遺産をカバーした珍しい国だ(もう一ケ国がポルトガル。日本は2箇所まだ行っていない)。だから当然、グラーツにも行っている。グラーツの世界遺産は、「グラーツの市街・歴史地区とエッゲンベルグ城」だけれど、ここを含めて、このサイトで相当の枚数の写真と共にご紹介しているので、是非。
http://lebenbaum.art.coocan.jp/Travel/AustriaWH.htm

A君:グラーツ付近は、森林が多いのですか。

C先生:湖水地帯からグラーツまでは、最初は普通の道路、そして、最後は高速道路で行けるのだけれど、まあ、ほとんどが山と森で、それ以外の景色は無いに等しい。林業を考えるには最適の場所かもしれない。

A君:グラーツ工科大学の大学ランキングは、ちょっと調べてみましたら、351〜400位の中に入っていました。日本だと九州大学がこのランク。オーストリアだと、ウィーン大学が161位。ウィーン工科大学が251〜300位、インスブルック大学が301〜350位で、その次の第4位の大学。グラーツ大学とリンツヨハネス・ケプラー大学が401〜500位。

B君:そろそろ本の紹介に行こう。目次だけれど、こんな状態。

第1章 原子力発電所はいらない
第2章 ロジカルな新しい気候理論
第3章 腐植土を生成する新しい農林業とエネルギーの転換のためにすべての力と資金を投入する
第4章 バイオマスは十分にある
第5章 危機に強い財政と経済、失業者ゼロのために
第6章 6年間で実現可能な目標を目指す
第7章 エネルギーの転換を目指す先駆的な活動
第8章 バイオマスは福島のような惨事から我々を守る


A君:いきなり原子力発電所の記述から始まるのは、異様ですね。しかし、オーストリアにはそれなりの歴史がありますからね。熊崎先生の「刊行に寄せて」にもあるけれど、1970〜1980年の間に、エネルギー政策を巡って、国の意見が二分したのです。それは、原子力を巡ることで、完成間近の原子力発電所を稼働させるかどうか、という議論でした。最終的には国民投票が実施され、僅差で原発は閉鎖されることになり、さらに、核エネルギーの利用を永久に禁止する条項が憲法に書き込まれました。

B君:そのぐらいの意思をもって原発を止めるのは、ありだと思う。ただし、その代償を正確に記述すべきだし、そもそも福島第一の事故は、東京電力によるまさしく人災というか、僅かな安全対策、具体的には、発電車の準備をしなかったことで、費用として10〜20億円程度の出費をケチったことが直接原因。

A君:まあ、バイオマスエネルギーに関しては、オーストリーの伐採技術のようなものが日本にもあれば、かなりやれることは事実ではないでしょうかね。オーストリーでは、形式認証がしっかり行われて、ボイラーの性能と同時に、製造者の名前も明記されることになるので、メーカー間の競争が増大して、バイオマスボイラーの性能がどんどんと上昇したようです。

B君:ラッガム氏自身も、自動制御ボイラーの開発に成功しているとのこと。1983年のことだそうだけれど。

A君:ただ、日本の状況にオーストリーの技術を適応することができるのか、というと、まず無理。どこが違うのか、と言えば、日本の林業は、実際に使っている訳でもないのに、生育に長期間を要する丸太の生産を目指す林業を行ってきたことが大きい。

B君:熊崎先生の指摘のように、エネルギー用の丸太であれば、形状は問わない。だから成長量が最大になる20年生か30年生で収穫することになる。それに対して、これまで日本の林業は、輸入材との品質競争をするといっても、丸太ではなくて、役物と呼ばれる非常に高価に売られる木材を目的とした林業が長く行われてきた。特に、ヒノキが重視された。

A君:熊崎先生の言うように、下北半島の国有林で行われているヒバ林の伐採施業が良い例。自然状態で生えてくる様々な樹木を適切に抜き刈りして、収穫する。それがすべて。スギやヒノキは、天然更新が行われる訳ではないので、ヒバ林のような訳にはいかない。植林という手間が掛かる。1950年頃、盛んに行われた植林は、職業を作り出すための方策でもあったのです。

B君:最近、宮崎県などで、バイオマス発電用に皆伐が行われて、山が裸状態になっているところが急増しているけれど、土砂崩れが起きないようであれば、放置してヒバ林にしてエネルギー用木材の生産にするという方法もあるかもしれない。

A君:ところで、「ヒバ林」って定義はなんなのですか。

B君:東北森林管理局のサイトによれば、「青森県の下北半島と津軽半島には、ヒバを主体とした天然林が広がっています」。とあるので、まず、ヒバは植物の名前であることは確実。どうやら、漢字は「檜葉」のようだ。青森ヒバの魅力というサイトによれば、
http://ydonoki.jp/aomorihiba
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「青森ヒバ」は、ヒノキ科アスナロ属の針葉樹で、和名をヒノキアスナロと呼ばれる木らしい。ただし、このページは、成長の遅いヒバを300年掛けて育てて、直径70cmにして、高級木材にしようという日本の林業の古いコンセプトを述べているサイトなので、熊崎先生による20〜30年で伐採してエネルギー用にという話とは、真逆の主張だけど。
 青森ヒバは、そもそも本州南部の高い山や四国、九州に生育していたアスナロが寒い気候に適応したものなのだけれど、熊崎先生のイメージは、どうも広葉樹を考えているようだ。となると、先程の記述は訂正を要するね。「宮崎県の皆伐が行われたところを土砂崩れが起きない範囲で放置して、広葉樹林にすることで、エネルギー用途の林業経営をすることもあり得る」。

C先生:いくらなんでも、そろそろ本の紹介をしてくれ。いくら短くても良いから。

A君:いやいやですが、やりますか。その理由は、ですね、第一章の原子力発電所はいらない、の記述内容がいきなり間違っているのですよ。

B君:ラッガム氏の理論は、このようにまとめると理解しやすい。
 まず、エネルギーの消費を約半分にする。当然、快適性を犠牲にしないでできる方法論を使う。そして、必要なエネルギーの50%を風力・水力や太陽熱・太陽光から、そして、残りの50%を太陽エネルギーの蓄積であるバイオマスから得る。
 国民一人あたり、森林面積にして0.2ヘクタールあれば、エネルギーを100%バイオマスで供給できる。これは、日本の場合を想定して、別途検証を要することだけれど、ラッガム氏は、フランス、日本、ドイツは原子力発電なしで、エネルギー供給が可能であると主張している。しかも、日本は、石油、ガスの化石燃料の輸入も不必要だと主張しているのだ。この表で注目すべきは、数値の絶対値が正しいかどうか、ではなくて、オーストリアは、バイオマスから供給できる1次エネルギー量が、必要量の5倍もあるということ。一方、日本は1.45倍しかない。

A君:ただし、森林からのバイオマス年間収穫量を1ヘクタールあたり10絶乾重量トンと控えめにしているとのコメントがありますが。

B君:こちらから言う、「ただし」、だけれど、日本はオーストリアよりも人口密度が3.3倍ぐらいあって、そのため、平地に近い部分は森林になっていない。オーストリアも急峻な地形もあるけれど、本当に急峻なところは、岩山。そして、まあまあ平坦な傾斜のところでも、人口が少ないだけに、森林が残っている。

C先生:この写真は、オーストリアの中央部のSemmering町の近くで、世界遺産であるゼメリング鉄道の二段橋が撮影できる場所。他に誰も居なかった。なぜなら、車がないととても行けないところだ。近くのホテルのフロントでどこでこんな写真が撮れるか、と聴いても、誰も知らないという驚きの無関心さだった。
 鉄道はどうでも良くて、このような山なので、日本の杉林とは違って、比較的登りやすい。多分林道と思われる道路は工事中で、ここまで徒歩で登ってきたけど、斜度は大したことはない。いくらでも作業車両が入れる。


写真:ゼメリング鉄道付近の森林の状況

A君:やはり、日本の急峻な杉林とは比較にならないですね。

B君:次の問題点が、核分裂、核融合、地熱は地球の熱バランスを崩すという主張だ。

A君:余りにもバカバカしいので、最近の高校の教科書にこのような記述があるということで反論に替えましょう。

 高校教科書による地球温暖化についての説明の例。「太陽からの光は大気を素通りして地表面をあたためる。地表面からは熱がたえず放射されているが、一部は温室効果ガスによって吸収され、地表付近の大気があたためられている。大気の温室効果の90%は水蒸気、雲、二酸化炭素のはたらきである。他に温室効果ガスにはメタン、一酸化二窒素、フロンがある。今日、二酸化炭素など温室効果ガスの増加によって地球温暖化が心配されている」
 これに続いて、「人類が現在化石燃料の燃焼によって発生させている程度の「熱」では、ヒートアイランドなどの地域的現象は別にして、大気の平均温度を上げることは無理である。例えば人類の一年分の消費量を石油換算100億トンとして、もし一瞬にそれだけの石油を燃やしたにしても、空気は重量にしてその約5×10**5倍もあるから、石油の発熱量と空気の比熱を使って計算すれば平均温度としては0.1℃も上昇しないことになる。つまり燃焼熱で大気が加熱されてもその温度上昇は微々たるものに過ぎない。ところが、現在の大気中のCO2濃度が希薄なこともあって、化石燃料から生成する「物質」であるCO2が、温室効果という全く違った形で気温に影響するのであるから、改めて考えてみれば不思議な感をもつであろう。」

B君:要するに、化石燃料からの熱、原子力発電所からの熱によって、大気の温度が上がることは上がるが、その上昇分は極めて小さい。温暖化は、太陽によって暖められた地球の熱が、大気中の温室効果ガスによって吸収され、半分が再び地表に戻ることによって起きている。

A君:原子力発電の総量など、化石燃料による発熱量と比べれば、まさに高が知れていますので、「原子力発電は、COを出さないために、温暖化に寄与しない」が正しいのです。
 しかし、ラッガム氏は、次のように主張しています。 「プラント熱効率は火力発電所の約40%に較べ原子力発電所では33〜34%と低い。ということは、100万kWの原子力発電所は、約300万kWの熱出力を持っていることになる。整備などで止まる時間もあるとして、平均1日に20時間稼働するとすれば、年間7300万kWhの熱を放出することになる」。

B君:そして、この熱が温暖化の原因だという訳だ。困った嘘をつく学者だ。

A君:そして、もう一つの主張が、「腐植土を生成する新しい農林業とエネルギー転換のためにすべての力と資金を投入すべき」。なぜならば、「化石燃料の燃焼によって排出する二酸化炭素を大気中から取り除くことができるのは、太陽エネルギーを利用する光合成だけである。そのとき、酸素は大気に戻り、炭素はバイオマスとなって最終的に地表の腐植土に貯蔵される」。

B君:イントロの文章で紹介したように、この『二酸化炭素を大気中から取り除くことができるのは、太陽エネルギーを利用する光合成だけ』はウソ。海洋への吸収、岩石への直接吸収などもある。

C先生:もう良いのでは。確かに、腐植土の量は減っている可能性がある。特に、ツンドラ地帯の土壌は、寒いものだから、かなり多くの有機物を含む。それが温暖化によって気温が上昇すれば、ツンドラは溶け、そして、乾燥する。乾燥すると、土壌中で活動する微生物の種類が変わって、炭素を酸化してエネルギーを獲得する微生物が増える。すなわち、二酸化炭素の土壌からの発生が起きると同時に、腐植土の量は減っているだろう。
 このメカニズムの典型が、東南アジアで行われている、湿地帯でのパームヤシの栽培をする農地の造成なのだ。ツンドラではなくて、最初から溶けているので、すぐにそのような現象が起きてしまう。
 まあ、いずれにしても、ラッガム氏の主張は、どうも、かなり「マユツバモノ」だという感触だな。ということで、とてもご推薦できません、これが結論で良いと思う。もっとまともに原発に反対して貰いたいものだ