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   またまた自動車の2050年
     
もっとも多様な対応が可能な日本 09.10.2017
               



 このところでの日経の記事です。
●9月8日の日経の1面記事
 ホンダ、ディーゼル縮小 欧州規制対応、EVに軸足
●9月9日の日経の記事
 トラックも脱ディーゼル 伊大手:天然ガス車を日本で  いすゞ:航続距離を2倍に

 このように、脱ディーゼルが世界的な潮流になっています。この傾向は、加速する方向で、それ以外はありえない状況になっているようです。
 ただ気になるのは、ディーゼルは止めるとして、EVに軸足を移すということを、どの程度、どの時期までにやるか、ということです。EVが街グルマとして普及することは、誰も疑っていないのですが、長距離を走る車、その代表がトラックと観光バスでしょうが、その動力は何なのか。家族でドライブという用途を考えたときに、乗用車・ミニバンまでがすべてEVになるのか(=EVで満足できるのか)。
 この問題は、過去から何回も問題にしているのですが、どうも真剣に考えているユーザ側の人数が少ないような気がしています。実際に所有してみて、はじめて、EVの怖さが分かる人が多いのです。
 今回は、過去から何回も取り上げている話題ではありますが、余りにも動きが早いので、現時点のまとめを再度行います。


C先生:車がどんな駆動系を搭載するか。これを何回も取り上げている理由は、現時点での日本の製造業は、「自動車一本足状態」だからだ。エンジン、トランスミッション、などの駆動系の機械部品が非常に重要なので、自動車産業は、製造業のピラミッドと呼べる。その頂上に自動車会社が、そして、下請けが、第10次ぐらいまであるのではないか、と言われている。それが、EVになったとき、機械的な部品を作る企業は、商売がなくなる可能性が高い。これもどこでも指摘されていること。となると、日本の中小の製造業は、すべての企業が影響を受ける可能性があると思う。日本という国の2050年ぐらいの製造業の先を見通すことが、極めて重要で、それなしに、長期に渡る将来計画を立てるのはかなり無謀だ。その道筋をかなり決めてしまう要素が、実は、自動車の駆動系が何になるかなのだ。もし、電池駆動の純粋のEVになれば、蓄電池や充電のためのインフラ関係の事業は、かなり拡大するだろう。もしも、レンジ・エクステンダーというエンジンに類するなんらかの動力を搭載するとなったら、その燃料は何なのか。バイオ系燃料なのか。燃料電池車はやはり水素供給タイプなのか。それとも別の何か物質か。このあたりの見通しを、できるだけ正確に把握することが、今や日本の製造業の未来を決めてしまうことだと考えている。

A君:2050年になると、次の今世紀の後半に向けた目標が議論されているでしょうから、あらゆる可能性を考慮の対象にして、その動向を見極めなければならないですね。

B君:この問題の複雑なところは、それが単にハードウェアが何かという単純な問題ではなくて、どのような社会インフラや社会制度になっているか、ということも重大な要素なのだ。したがって、ハードウェアの詳細を知っている人と社会制度などの未来像を考える人は、常に、協力して予測を進める必要があるのだ。

A君:理想的には、ハードウェアが何かを考えることができて、社会制度の変化の方向性も考えることができるという複合的な能力を有する人がある限定された数で良いのですが、必要ではないでしょうか。

C先生:そう思っている。9月11日から始まるEcoLeadサマースクールの大きな狙いは、そのような人材を育成するには、どのような仕組みが必要であり、同時に、現状の体制のどの部分が阻害要因になるかを、大学院生諸氏に知ってほしいから、ということでもある。それに加えて、日本という社会と他の国における社会というものが、いささか違うということも認識してもらって、その良いところ、良いとは言えないところを自分の判断に活用できる人材を目指して貰いたいと思っている。

A君:要するに、日本という社会の「独自な優位点」と、「その対極にあるマイナス面」とを十分に理解してもらうということですか。

B君:日本人の特に細部に拘る特性は、ここ30年ぐらいは、いくつかの例外を除いて、余りプラスに作用して来なかったようにも思うけれど、徐々に再評価されつつあるのではないか。しかも、このマインドは、地球の資源や温暖化などの環境限界が段々と厳しくなってくると、それこそ、自然資本を次世代に残すために、細部に拘りつつ全体戦略を練るといった発想が不可欠になりそうで、上手く適応が行われれば、解決策を生み出す力になりそうに思う。

C先生:2050年という社会は、これまでの未来とかなり違う。これまで、未来は、人々の夢や思いの中にあった。ところが、パリ協定という枠組みは、2050年のCO排出量は、世界全体で40〜70%削減しなければならない。それは、島嶼諸国やバングラデシュのような低地の多い国の国土は将来海底下に沈む可能性があり、大量の環境難民が出るというという予測に基いて、COを削減することは、正義であるとして、「気候正義」という言葉を、パリ協定全体の根幹に据えた。

A君:この正義をどのように理解するか、となると、日本人にとっては結構ハードルが高いですね。まず、日本人は、正義を真正面から語らない人種だと思いますね。

C先生:その通りだ。どちらかというと、「正義は世間がきめるものだ」という共通理解かと思う。世間というある意味では古いものだと思うのだけれど、その影響が、人々の行動を規定していることは事実だと思う。大都会は、世間の影響が弱いところではあるが。

B君:ヨーロッパ人は、根底にキリスト教という一神教に基づく正義があって、それは、神との契約に基いているというべきなのかもしれない。しかも、その上部構造として、なんというのか、まあ、「教養」というようなものがあって、その実体は、哲学と神学だと思うけれど、それが、個人の知的構造であり、正義を決めているというような気がする。

A君:アメリカ人は、この国の成り立ちから言っても当然なのですが、キリスト教に対する態度も多様になっていて、その代表例がトランプ大統領。あるいは、白人至上主義者。そして、日本の「世間」に相当するものが、「経済」かもしれない。すなわち、「経済的優位かどうか」、それが「正義」を決める。言い換えれば、「正義は金で買える」。そこで、アメリカ人のもっとも平均的な思いが、「金持ちになりたい」、のような気がします。一方、白人至上主義者の行動を決めているのは、「自分の自由が最優先=他人の不自由は当然」。言い換えれば、「自分最優先主義」。日本の「世間」とは対極的な思想が生きているのが米国。特に、東部と西部を除いた中部、特に中部の南部ではその傾向が強い。すなわち、かつて奴隷制を活用していた地域。そんな感じがします。

C先生:米国50州をドライブしてみた経験から言って、そんな感じが強い。特に、最初に留学していた1975年頃、テネシー州などをドライブして見て、周囲からの差別的な視線をかなり浴びた記憶が、未だに残っている。単に、日本人が珍しかっただけかもしれないが。そして、米国南部を最後にドライブしたのは、2008年ではないか、と思うが、そのときには、すでに差別的な視線を浴びることは、ほぼ無かった。それでも、アーカンソー州の田舎町のホテルの隣のレストランでは、別の意味で緊張状態になっていたことを覚えている。それは、なんとなく治安が悪い雰囲気であったということ。この治安の状況が、黒人に対する差別意識につながっていたようか気もする。要するに、酔っ払った黒人が居たということに過ぎないのだけれど。そして、ルイジアナ州のニューオリンズでは、中心街に宿をとったのだけど、これは間違いだったかもしれない。夜、外を歩けるような雰囲気ではなかった。

B君:国によるパリ協定に対する態度が、現れているのが、ガソリン・ディーゼル車販売禁止の動きだろう。現状、こんな状態。

フランス:2040年で販売終了
イギリス:2040年で販売終了。経過措置として、大気汚染のひどい道路にディーゼル車の乗り入れ規制を推進する。
ドイツ:2030年で販売終了。法的拘束はなし。
スウェーデン:2030年で販売終了。
ノルウェー:2025年で販売終了。
オランダ:2025年で販売終了。


A君:実はもう二ケ国あるのです。
インド:内容は、本サイトですでに検討済みですが、その後、鈴木寿一様から、根拠文書がこれだというご連絡をいただきました。
http://niti.gov.in/writereaddata/files/document_publication/RMI_India_Report_web.pdf
 そして、
中国:2018年からEVの普及を後押しする規制開始。
 ただ、中国の本音は、大気汚染に対する国民の不満をかわすことと、電池産業を国の中核産業にしようとしていること、さらには、摺り合わせ技術の無い中国でも、EVであれば、機構が余りにも単純なので、ドイツ、日本などの自動車に品質で十分に対抗できるというところにあるのです。

B君:ドイツが2050年にどのような自動車の燃料を考えていたか、2015年時点での予想図が、こんなもの。残念ながらドイツ語だが、予想がさらに過激な方向に変わりつつあるようだ。

図1 95%削減をする場合にドイツが考えている2010年から2050年での自動車の燃料(エネルギー)の推移予想(Fraunhofer Oeko-Institut Dec.2015)
https://www.oeko.de/oekodoc/2451/2015-608-de.pdf

REEV=レンジエクステンダー
PHEV=プラグインハイブリッド
BEV=通常のEV
Gas=天然ガス
Diesel=ディーゼル燃料
Benzin=ガソリン

A君:読み取るべきことは、要するに、たとえ、2050年でCOを全体で95%削減をしなければならないとしても、すべてが純粋なEVになる訳ではない、ということでしょうね。レンジエクステンダーは、小型・高性能・低排気ガスという条件を目指さなければならないので、内燃機関はまだまだ一部では生き残ることが確実ですね。

B君:ドイツの特徴は、水素燃料電池車は考察の対象になっていないということか。

A君:米国だと水素燃料電池車は入っているのですけどね。こんな文書ですが。
https://unfccc.int/files/focus/long-term_strategies/application/pdf/mid_century_strategy_report-final_red.pdf

B君:その記述によれば、2050年でも残るCOの排出の大部分は、車・トラック・飛行機などからの排出だと述べている。要するに、移動体のエネルギーとして、すべてを電気にすることの難しさを認識しているということだろう。

A君:そのため、あらゆる可能性を検討しておくべきだ、というマインド重要だと思うのですが。ドイツは、自動車のポリシーは俺たちが決めるみたいな感じですからね。

B君:米国は、自動車産業の保守性が強いだけ、というか、そもそも米国人の自動車に対する感覚が古典的すぎるので、実は、この分野での自信がない。その割には、トランプ大統領は、日本にアメ車を買わせたいらしいけど、それは100%無理というもの。

A君:米国の自動車は、ガソリンの価格が低下すると、すぐにFordのF350などの巨大トラックが売れるようになる。これがアメリカン・ドリームなのだ、といった感じで。

B君:ドイツと米国に関しては、こんなことだろう。
あと検討すべきことは、飛行機に関しては、すでに、このサイトでもバイオマスエネルギーとして紹介した。
http://www.yasuienv.net/InnovBiomass.htm
 ということになると、まあ、次の2点ぐらいか。
*日本は電池で勝てるのか
*トラックは本当にEV化するのか

 

A君:まあ、そんなところでしょうね。

B君:まず、電池競争で勝てるのか、というと、日本の基礎科学はかなり進化していると言えるだろう。その最大の例が、全固体電池

C先生:CRESTの低炭素化の研究チームに、大阪府大の辰巳砂先生がいて、イオウ化物を電解質として使って、電池の安全性を高めるという課題にチャレンジしていた。その後、東工大の菅野了次教授のグループが実用的な組成を見出したとされている。

A君:ただ、特許をいくら確保したとしても、2050年までは持たないのですね。そこをどうするのか。

B君:電池の場合、特に、安全性との関係で、かなりがんばらなければならない。これを日本全体でどうサポートするか。

C先生:それについては、私の勤務先であったNITE(製品評価技術基盤機構)が、大阪にかなり先進的な電池の評価施設を完成させた。
http://www.nite.go.jp/gcet/nlab/
 これは、なんと世界最大、最新の設備で、現時点では、ほぼ世界唯一と言えるものなのだ。したがって、安全性の評価に関しても、日本は、最先端にあると言えるだろう。

A君:条件は揃っているということですか。

B君:まだまだイノベーションが不可欠だけれど、新型の電池を考えるということは、なかなか大変なことだ。リチウム電池にしても、Goodenough教授の正極物質、セパレータなどの素材と組み立て技術に関する、ソニーや旭化成などの貢献、その他の様々な当事者の努力によって、製品化できた。それでも、サムソンのスマホのように、火を吹いてしまう製品が後を絶たないというのが現状。完全な電池ができるには、かなり長時間を要するのだ。テスラも火災事故を起こしている。

A君:まあじっくり、しかし、確実に進化することが重要ということを結論にしましょう。
 もう一つのトラックの動力が何か、ということですか。

B君:トヨタは、水素燃料電池トラックを作って、米国でテストをするようだ。
http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/16504040
 MIRAIに使っている燃料電池を2台搭載、それに、電池も搭載して、実用化ができると考えているようだ。問題は、水素供給インフラ。日本でも、これができるかどうか、実はもっとも重要な問題なのだ。電気自動車の充電網ももちろん、インフラ整備が不可欠なのだけれど、6000V給電であれば、できないことはない。しかし、水素となると、なかなか難しい。

A君:ジーメンスが電力関係のシステムを作り、Scaniaというメーカーの作った電気トラックがスウェーデで走り出したとか。電車のような架線を使うタイプで、我々が、昔から本命だと言っているものです。
https://www.scania.com/group/en/electrification/

B君:そうそう、我々が当面の本命としているトラックの形態。電池もわずかながら搭載しているし、現状だと、バイオ燃料を使う排気量9000ccのエンジンも搭載している。長距離バスもこれで行ける。もっとも、2050年となると、本当のところは分からない。

A君:ジーメンスのWebサイトにも、同様のトラックがあります。
https://www.siemens.com/global/en/home/products/mobility/road-solutions/electromobility/ehighway.html

C先生:そろそろ終わりにするか。ジーメンスという会社は、なかなか面白い発想を実現してしまう。感心したのは、岡崎氏(エネルギー総合工学研)にお知らせをいただいた、ジーメンス社の風力熱発生機。風車で電気ではなくて、熱を発生させるもの。蓄熱の方が、蓄電よりもはるかにコストが安いとのことだ。
http://rief-jp.org/ct4/71847
 ヨーロッパの北国では、エネルギーと言われると、電気よりも、まずは熱なのだ。多くの都市などで、熱も供給されている。ドイツなどでは、洗濯機に供給されるのも、水ではなくてお湯。ということで、もともと、日本とは発想が違う。
 2050年に走っている自動車についても、どうやら、国によって発想が違うから面白いと思う。ジーメンスの電気トラックにしても、高速道路にインフラ整備が不可欠なのだけれど、電車とほぼ同じ考え方で行けると思えば、実現性が高い。ただ、乗用車がこのジーメンス方式で動くとはとても思えないのも事実。もしも高速道路で乗用車に電力を供給するとしたら、走行中にも無接触給電という方法論も無い訳ではないけれど、恐らく、エネルギー伝達効率の面で、実現しないのではないか、と個人的には考えている。余程の工夫をしないと、エネルギーの半分ぐらいは、空間を加熱してしまって、自動車に届かないと思えるので。
 結論を述べれば、日本という国だが、実は、世界でもっとも多様な対応が可能な国なのだ。電気自動車は、電池の調達が問題なだけで、車としては極めて簡単なので、いつでも作れる。水素燃料電池車がすでに2車種(Toyota MIRAIとHonda CLARITY)走っている。ハイブリッドにはもっとも高効率で難しい機構のプリウス系がある。ガソリンエンジンを電源とするNissan Note e-Powerなどという珍種もある。まだ商品として存在していないのが、小型エンジンによるレンジエクステンダー付きのEVぐらいなものだ。ということは、どうやら、社会インフラの整備の方針が決まれば、自動車側はそれで充分対応が可能という国なのだ。ところが、国には、それをリードするだけの予算がない。さあ、どうしよう。したがって、インフラ整備の方針が決まらない。やはり、ジワジワと行くしかないか。そうすると、すでにスピード勝負になっている世界には勝てないのだけれど。