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2030年までの省エネ  02.15.2015

 約束草案とベストミックスを考える



 2月末から3月末に掛けて、いよいよエネルギーミックスとCOP21に向けた温室効果ガスの削減目標の議論が少しだけ本格化する見込み。この議論は、まずは、どのぐらい省エネが進むかの見通しの議論、そして、化石燃料消費と必要な電力がどのぐらいかを推測し、そして二酸化炭素排出量を睨みながら、各エネルギー源の使用割合を決める、というやり方になると思われます。というよりも、それ以外に方法が無さそうに思えるのです。

 最初の省エネですが、前回、ムラー教授の書籍をご紹介し、そして、省エネ、特に、建物の断熱などを考えるとき、投資回収期間を考えるのは妙だという話に重点を置いた記事になりました。

 今回も省エネの続きですが、日本の部門別のエネルギー消費量がどのように変化してきたか、その歴史を見て、今後、2030年程度までに、何が進化しうるのか、を考えてみたいと思います。


C先生:省エネの重要性は、3種類しかない一次エネルギーの使用量を減らす方法の一つだと言われている。すなわち、第4のエネルギー源だと考えられている。最近では、ネガワットという言葉が普及し始めている。電力供給のピークカットに対し、省エネによって貢献すると、そのカット分に報奨金が出るというやり方。要するに、ネガワットは有価で売れるのだ。
 このような新しい考え方もある一方で、省エネとなると、細かい節約を積み上げることが重要といった昔からの伝統的な、というか、日本的な努力が重要であることも事実。

A君:その全貌を明らかにしようとすると、これは膨大な知識が必要になりますね。エネルギー基本計画には、主な方向性として、以下のようなことがリストアップされています。このすべてをやれば、良いというリストだと思われます。

●産業部門における省エネの加速
・省エネ設備投資に対する支援
・製造プロセスの改善等を含む省エネ改修に対する支援
・BEMSなどのエネマネシステムの導入
・省エネ対策の情報提供を実施
●業務・家庭部門における省エネの強化
・省エネ性能の低い既存建築物・住宅の改修・建て替え
・新築の建築物・住宅の高断熱化の促進
・省エネルギー機器の導入の促進
・建築物については、2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEB(zero-energy building)を実現
・住宅については、2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(zero-energy home)を実現
●運輸部門における多様な省エネ対策の推進
・次世代自動車の普及促進
・高度道路交通システム(ITS)を推進


B君:しかし、それぞれがどのぐらいCO2排出の抑制に効くのか、という定量的な議論を行うのが極めて難しいのも事実なのだ。

A君:まあ、それには、過去からの省エネのトレンドを見て、情報を仕入れる必要があるようですね。


過去からのエネルギー消費状況の動向

A君:まずは、いくつかの製造業におけるエネルギー消費のトレンドを示します。


B君:製造業の省エネは、1983年ぐらいで終わっている感じだ。なんとか、新しい省エネ技術を開発し、導入して欲しいものだ。

  

A君:化学工業の省エネは、さらに1〜2年早く終わっていますね。最近ちょっと、進化したのでしょうか。

B君:熱供給に関わる部分が改善されないと、エネルギー効率は上がらない。やはりエネルギー価格が安くなっている現時点では、また省エネが進まないかもしれない。

  

A君:世界でもっともエネルギー効率が高いという鉄鋼業ですが、やはり、このところ、省エネが全く進んでいないようです。

  

B君:セメントを中心とする産業。セメントの場合には、石灰岩を原料に使うと、その熱分解(脱炭酸)が吸熱反応なものだから、相当のエネルギーを食う。窯業全体としても、なんらかの排熱を活用するといった考え方を積極的に導入する必要があるのだろう。

  

A君:紙パルプだけは、徐々に省エネが進化していますね。理由は古紙利用率の向上でしょうか? それとも設備の大型化でしょうか? 北欧などの技術が入ったのかもしれない。

B君:ちょっと調べてみると、古タイヤ・廃プラなどの廃棄物の熱利用が多いみたいだ。日本のプラスチックリサイクルが、容器包装リサイクル法による容リプラのマテリアルに偏り過ぎている。容リプラ以外の廃プラを熱源として有効活用する法律的な枠組みが必要になりつつあるのかもしれない。

A君:以上で製造部門のエネルギー消費量のトレンドを一応終わりです。

B君:うーん。これでは、製造業を止めた国だけが省エネになりうる。製紙はなんらかの進化が見られるので除くけれど。残りの業種だと、「これまで見たこともないような省エネ技術」を生み出すということへのチャレンジが必要なのではないだろうか。

A君:製造業のエネルギー消費原単位の進化は、大体1982年頃で止まっていますね。

B君:平成20年度の省エネ法の改正で、特定の業種については、省エネの状況を比較できるようなベンチマーク指標を導入しているようだ。そして、6業種10分野の事業者からの報告をまとめて、平均値、目標水準などを達成した1〜2割の事業者の名前を公表している。事業者の名誉のために、ここでもそれを引用して公表しよう。

1.高炉による製鉄業 なし 0社/4社
2.電炉による普通鋼製造業 3社/34社 (株)城南製鋼所、(株)トーカイ、山口鋼業(株)
3.電炉による特殊鋼製造業 5社/20社 愛知製鋼(株)、大阪高級鋳造鉄鋼(株)、新東鋼業(株)、KYB-CADAC(株)、他1社
4.電力供給業 2社/11社 電源開発(株)、東北電力(株)
5.セメント製造業 4社/15社 麻生セメント(株)、住友大阪セメント(株)、(株)デイ・シイ、電気化学工業(株)
6.洋紙製造業 5社/21社 (株)エコペーパーJP、王子製紙(株)、北越紀州製紙(株)、中越パルプ工業(株) 他1社
7.板紙製造業 4社/29社 いわき大王製紙(株)、(株)エコペーパーJP、大豊製紙(株)、特殊東海製紙(株)
8.石油精製業 2社/13社 東亜石油(株)、東燃ゼネラル石油(株)
9.石油化学系基礎製品製造業 1社/9社 東燃化学(株)
10.ソーダ工業 6社/20社 鹿島電解(株)、(株)カネカ、信越化学工業(株)、住友化学(株)、東北東ソー化学(株)、(株)トクヤマ


A君:なるほど。国はそれなりの支援をしているのですね。しかし、製造部門は、もう少々、イノベーションマインドを高めて、世界のトップを維持するという気概が必要のように思えますね。

B君:ちょっと防衛的になりすぎているのは事実だ。しかし、同じ技術で中国のような国と競うのは、非常に不利であることが明らかなのだから、業態全体を変えるようなイノベーションを生み出す以外に方法はないのではないだろうか。

A君:そろそろ他の分野のトレンドを示します。まずは、業務部門と言われる様々な分野でのエネルギー消費量。
  

B君:業務部門のCO2排出量は、増加傾向だったのだけど、このところ、面積あたりにすると削減傾向になっている。なお、1989年から1990年の不連続は、旧エネルギーバランス表が改正されて、新しい方式になったことを反映しているのではないか。

A君:今回は、家庭部門を議論しない予定なのですが、今後の業務部門と家庭部門の省エネの中心的な存在になるものが、ZEB(zero-energy building)ZEH(zero-energy home)なのではないでしょうか。実際には、エネルギー自給用の太陽電池、さらには、その電気を夜間に使うために蓄電池などを装備している場合もありえます。

B君:実は、海外でもZEBは注目されていて、いくつかの国では、すでに義務化が行われようとしている。
 例えば、英国では、新築ビルは2019年からZEB義務化。韓国は、2025年からZEBを義務化。カリフォルニア州は、2030年目標としてZEBを進めようとしているが、法制化はされていない。ドイツも、ZEBの法制化はしていない。要するに、英国と韓国が突っ走っている。

A君:ZEHの方は、日本でもかなり高い目標に掲げていて、工事費の1/2(上限350万)が助成されているようです。エネルギー基本計画によれば、「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」、となっています。

B君:これで、産業、建築物、と来たけれど、もう一つの大きなターゲットが、やはり車だ。

A君:運輸部門のエネルギー消費のトレンドを見ると、次の図ようになります。



A君:輸送部門のエネルギー消費量。2004年ぐらから下降傾向だけれど、そのキッカケを作ったのは、明らかにハイブリッド。1986年ぐらいからの上昇は、バブルによって、自家用車の大型化が進んだためでしょう。

  

B君:この図を見ると、新車の平均燃費は、もう少々前の1998年頃から上がり始めている。

A君:そして、これから先の話。


B君:そして、このような普及見通しになっている。これを見ると、2030年に70%が次世代自動車になっているとも言えるが、まだ50%もの従来車が走っているとも言える。日本国内の場合だと新車を購入した人の平均的な乗用車の使用年数は8.35年。これが中古車になって、まだ日本国内で使用されて、平均12.58年で廃車にされ、一部は、まだ海外に輸出されて使われる。

A君:ということは、現時点で使われている車で、2030年時点でも日本国内に残っている車はほとんど無いが、後3年後ぐらいからは、2030年に残る車が売られることになる。乗用車の次期燃費目標が2020年度になっていて、20.3km/L。もう3年ぐらい前倒しができると良いのですが。

B君:2030年の次世代自動車にクリーンディーゼルが入っているのは、保守的すぎないだろうか。普及率が5〜10%となっているけれど。

A君:クリーンディーゼルというと、ガソリン自動車よりもクリーンだと誤解する人も多いと思うのですが、実際には、排ガスの規制値はほぼガソリン車と同じです。もっとも、通常のガソリン車だと、PMは出ませんが、クリーンディーゼル車では出ますので、その分、クリーンではない。クリーンディーゼルとは、あくまでも、ディーゼル車としてはクリーンということです。

B君:クリーンディーゼル車の方が燃費は若干良いのは事実。CO排出量にすると20%ぐらい良いだろうか。走行時だけで20%少ないということではなくて、ディーゼル燃料を作る工程の方が、使用エネルギーが少ないので、その分、CO排出量が少ないということも併せて、合計20%ぐらい。

A君:20%ガソリン車よりも排出量が少ないという利点は、余り大きくないですね。軽油取引税が安いという仕組みは、PMが出ることを考えると、乗用車については単なる不公平

B君:ところで、先週書評を書いたムラー教授は、自動車の省エネについては何を言っているんだっけ。

A君:ムラー教授の著書「エネルギー問題入門」には、第16章に「電気自動車」という記述があるのですが、それ以外にも、第7章の「エネルギー生産性」の後半にも、”自動車の燃費の向上”という節があります。
 ムラー教授の基本的な哲学が、「金銭的に見合うこと」という米国人としては当たり前のものでして、維持費用が高い車には、意味が無いというスタンスなんですね。

B君:米国人が維持費の高い車を買わない、か。これは事実かもしれない。最近、米国内のガソリン代がかなり安くなったもので、いきなり、大型の車が売れ出している。維持費が高い車は買わないけれど、高価な車は欲しい。それは、ステータスシンボルになるような車であれば、それなりの投資価値はあるから。これが米国人の基本的な思想だろう。

A君:その思想のために、同じ車でハイブリッド車とプラグインハイブリッド車があれば、プラグインハイブリッドは無意味だ、という結論になっていまして、その理由は、プラグインハイブリッドの耐用年数、すなわち、バッテリーの寿命が問題。もしも、途中でバッテリーを交換することになれば、その価格がバカにならない。しかし、ハイブリッド車の価格であれば、もしもガソリン代が高ければ、元が取れるから将来の主流はハイブリッド止まりというのがムラー教授の考え方です。

B君:カリフォルニア州のように、ユーザのことなどを全く考えていないZEV規制をどう考えているのだろうか。

A君:残念ながら、そのような記述は無かったと思いますね。カリフォルニア州のCARBは、恐らく環境原理主義者だという評価だと思いますね。

B君:電気自動車の章には、何が書かれているのだっけ。

A君:結論を簡単に言えば、電気自動車は、途上国で普及する自動車として本命である。比較的短距離を走行するだけの自動車として普及する。

B君:バッテリーは?

A君:なんと驚くべきことに、鉛バッテリーを奨めています。これなら、バッテリーの価格を含めても、コスト的にガソリン程度で済むからという理由です。ただし、長距離を走る車にはなり得ないので、短距離用。ムラー教授は、テスラ、シボレーボルト、リーフをかなり批判的に論評していています。

C先生:我々も、電池価格については、やはり高すぎると思っている。今後、2050年には、かなり大量の電池が電力用としても使われる可能性が高い。そうなると、現時点のリチウム電池ではなく、もっと、価格を下げることができ、かつ、安全性の高い次世代電池が開発されることが必須だと考えている。あるアイディアの芽が生まれてから、新しい二次電池が実用化されるようになるのには、大体20年は掛かると考えている。もしも2030年に実用になるとすると、すでに芽が出ていなければならない。残念ながら、形の良い芽は無いような気がするけれど、現時点で形が良くなくても、これから形が良くなれば良いので、見逃しているのかもしれないけれど。まあ、2040年頃に間に合えば良いので、まだ芽になっていないかもしれない。

A君:ムラー教授は物理学者なので、電池のような化学分野については、記述がいささか怪しいように思いますね。

B君:理系の学問は、もっとも底部に数学が、その上に物理学が、その上に化学が、そして、その上に生物学があると考えると、自分の分野より上については、割合と分かっていないというのが、ごく一般的な構造だと思う。

C先生:さて、この程度にするか。省エネが極めて重要ということは、言うまでもないことなのだけれど、製造業の事業者がインセンティブをもつような仕組みが色々と作られているのだけれど、なかなか進まないのが現実。個人の場合でも、車の燃費のように、財布に直接響くものは優先度が高くなるのだけれど、電気となると、月々の支払いで特に自動引落になっていると、余り感じないということもある。それにしても、エネルギーの価格が安すぎて、何か省エネに投資するよりも、エネルギー代を払う方が結局割安というケースが多い。
 そもそも電力の価格だけれど、スマホの通信費に月々7000円以上、4人家族だと2万円以上支払っていて、電気代だと1万円でも高いと思うことは、なぜなのだろう。このあたりの心理学的な解析から初めないと、省エネマインドにはならないのかもしれない。その意味では、米国のネガワットの考え方は、どうも日本より一歩先を歩んでいるように思える。
 最近、ベストミックスの議論が進んでいるので、審議会の資料がかなり豊富になって来ている。本日は、資源エネルギー庁関係の最新の資料で、良さそうなものを以下に引用して終わりにしたい。

http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/
basic_policy_subcommittee/mitoshi/002/pdf/002_10.pdf

http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/016/pdf/016_008.pdf

http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/
basic_policy_subcommittee/mitoshi/002/pdf/002_06.pdf