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  米国牛肉、輸入解禁延期 07.18.2004



 米国でBSEが発生して以来、輸入禁止となった米国牛肉。その解禁に向けての動きが徐々に進み始めている。

 政府は、今年の夏にでも解禁を決めたかったような感触。しかし、食品安全委員会のプリオン専門調査会が結論を先送りしたために、まあ、夏の解禁は無くなった。

 となるとなぞが残る。このプリオン専門調査会とはどんなもので、どんな資料を使って議論をしているところなのだろうか。

 今回は長いので、覚悟してお読みいただきたい。


C先生:まず、食品安全委員会のプリオン専門調査会(7月16日夕刻開催)に関する記事の概要から行くか。

A君:以下の記述は、ぐるなび新聞からの引用でして、もしも問題があるのなら、削除します。→ ぐるなび新聞殿。このぐるなび新聞の記事は、四大紙などよりも正確な記述があるように思えたもので引用させて下さい。
http://news.gnavi.co.jp/admin/fa96c69c10e74d891ff8149cf26509e8a3a7045b.html

 国内の牛海面状脳症(BSE)対策のあり方を検討している内閣府の食品安全委員会プリオン専門調査会(吉川泰弘座長)は16日、全頭検査の対象から若い牛を除外しても人に感染する危険性は高まらないとする報告書案を示したが、合意に至らず結論は持ち越しとなった。吉川座長は「最終結論を出すには少なくともあと2〜3回の会合が必要」とし、「政治スケジュールとは別に進める」考えを明らかにした。このため日米BSE協議が合意を目指す「夏」までに、結論を取りまとめることは困難な状況となってきた。

 報告書案について協議したが、案に盛り込まれた予想される感染規模の推定値などをめぐり、意見が分かれた。最大の焦点だった、若い牛を全頭検査の対象から除外する緩和策については議論に踏み込めず、合意できなかった。

 報告書案では、今後日本でBSE感染牛により変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)が発症する人数を0.135〜0.891人と推定し、また感染牛の発生規模が28〜60頭になると指摘。これに対して複数の委員から、「推定値を報告書に盛り込むと、数字が一人歩きするので怖い」の反対意見が上がった。

 閉会後に行われた記者会見で、吉川座長は今回の会合について(1)BSEは科学で解明できない点が多い(2)BSE検査には限界がある(3)特定危険部位の除去も完全でない――点が再認識されたと総括。「検査に限界がある点は全委員が認識しているが、検出限界以下の若い牛の安全性が見えてこない」と話した。

 今後は報告書案の検討、検査で病原体のプリオンを検出できない若い牛のリスク評価、検査対象となる牛の線引きが、議論の焦点となりそうだ。(ぐるなび新聞)
(2004/7/16 20:32)

B君:そもそも、そのプリオン専門調査会とはどんな人が入っているのだ。

A君:名簿ですか。こんな風です。

座  長 吉川 泰弘 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻教授
座長代理 金子 清俊 国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第七部長

小野寺 節 東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻教授
甲斐 諭 九州大学大学院農学研究院農業資源経済学部門教授
甲斐 知恵子 東京大学医科学研究所実験動物研究施設教授
北本 哲之 東北大学大学院医学系研究科学専攻教授
佐多 徹太郎 国立感染症研究所感染病理部長
品川 森一 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所プリオン病研究センター長
堀内 基広 北海道大学大学院獣医学研究科教授
山内 一也 財団法人日本生物科学研究所主任研究員
山本 茂貴 国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部長
横山 隆 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所プリオン病研究センター研究チーム長

B君:農学と医学の専門家といった感じか。政治スケジュールなどというものは、念頭になさそうだ。

C先生:ぐるなび新聞の記事のなかで問題だと思われることは、「複数の委員から、推定値を報告書に盛り込むと、数字が一人歩きするので「怖い」の反対意見が上がった」、というところなのだが。

B君:その「怖い」が何かか。

A君:良くそんな表現をしますが、その「心」はと問われると、色々な場合がありそうですね。例えば、吉川先生の推定値が認証されてしまうと、自分の今後の研究に悪影響が出るとかいったことでしょうか。

C先生:今回、この「怖い」を検討するにあたって必要な情報は、「推定値」を誰がどうやって作ったものか。それを学者がなぜ「怖い」と言うかだ。まあ、結論は出さないで置こう。

A君:とにかく、それでは、その「推定値」の内容をご紹介しましょう。それは、
http://www.fsc.go.jp/senmon/prion/p-dai12/prion12-siryou.pdf
に文書が有ります。

C先生:是非、本物を見て欲しい。そこの字の配りを。特に、「たたき台」という文字を

A君:ここでは、そこから必要な部分だけを引用します。

B君:全部で21ページもあるからな。

A君:まず、推定値ですが、これは吉川座長が提案しているもので、2種類あります。
推定値1:
 全数検査をする以前に、日本において食物として販売されてしまったBSE感染牛の数を5頭と推定。その数を英国の場合を基準にして補正する。英国の場合とは、今後最悪のシナリオが進行したとして、最終的に英国で発生するvCJD(狂牛病)患者の総数は5000名とする。英国で、BSE感染牛は総数100万頭(実際に発生確認がされているBSE感染牛の総数は約18万頭)とする。
 その後の補正は2種類。一つは人口。もう一つは、遺伝子の割合。この後者の補正は難しいので、後ほど説明しますが。

5頭×(5000人/100万頭)×(1.2億人/5千万人)×(90%/40%)=0.135名

推定値2:
 日本で食物として流通してしまったBSE感染牛を33頭とする。この推定値については、多少説明が必要なので、この後に。
 結果として6.6倍することになるので、0.891名。

C先生:これが新聞などで取り上げられていた0.135〜0.891名という値の中身だ。要するに、すでに日本で食物として食べられてしまった感染牛の数を推定し、その頭数から英国における状況を若干補正して行った推定値である。

A君:ここでもっとも注意していただきたいことは、この0.135〜0.891名という数値は、すでに起きてしまったことが引起す結果であって、今後対策を変えることによって増加する「感染者増加数」ではないということです。

C先生:まあ、この推定値が正しいかどうか、という議論が必要、というのがプリオン調査会の結論。この数値が怪しいということだろう。

A君:そうなんですが、それはしかしながら、過去の話。例えば20ヶ月以下の牛の全数検査を止めた場合の影響についての話ではないということ。

B君:それは分かった、分かった。

C先生:必ずしも妥当な推定値ではない、という主張の根拠を探すことから始めるか。

A君:それは実は結構多いのです。

B君:そうだよな。まず、有効数字が3桁もあるような推定ではない。1桁が良いところ。

A君:英国で100万頭という数値が使われていますが、これは、食物として食べられてしまったと推定される感染牛の数でなければ、この吉川先生の推定値を算出する根拠にならないのですが、果たして、それほどの数なのか、ということ。これについては説明が無いですね。

C先生:それは誰もわからないこと。吉川先生はプロとしての勘で数値を出したのだろう。

B君:これまで英国でのBSE感染牛の発見数が18万頭。これは当然検査をはじめてからの話だから、それ以前については、感染率などから推定が必要。それなりの作業は行われているものと思われるのだが、その根拠が示されていないので、他の専門家は同意しない可能性が強いな。

A君:さらに、英国でのvCJD患者の発生数を5000名としていますが、これはいくらなんでも無いのでは。もっとも悲観的な数値としているので、異論がある訳では無いのですが。

B君:残りは遺伝子の部分か。

A君:遺伝子の説明はちょっと後回し(最後の注)にして、食物として流通してしまったBSE感染牛の頭数の推定に行きたいのですが。まず、事実関係をまず明らかにしておきたい。

B君:当然だな。

日本の状況まとめ:

 日本においては、これまでに11 頭のBSE感染牛が確認されている。2001年9月に1例目のBSE感染牛が確認された。その後、同年10月18日からと畜場における全頭検査が開始され、これまでに3,375,330 頭を検査した結果、9頭のBSE感染牛が確認されている(厚生労働省統計;2004 年7月10 日現在)。

 また、死亡牛検査によって、これまで69,218 頭を検査し、そのうち1 頭がBSE感染牛と診断されている(農林水産省統計;2001 年10 月18 日〜2004 年5 月31 日)。

 日本で見つかったBSE感染牛の若齢2例(21ヶ月、23ヶ月齢)を除く9例の平均月齢は、78.3±10.7ヶ月齢である。11頭のうち、BSEが疑われる臨床症状を呈していた牛はなかったが、6頭は、起立障害、敗血症等の何らかの臨床症状を呈していた。

 出生地は、11例のうち6例が北海道で、神奈川県が2例、群馬、栃木及び兵庫県がそれぞれ1頭ずつとなっている。出生時期を見ると、9 頭が1995(平成7)年12月〜1996(平成8)年4月に集中し、若齢2例が2001(平成13)年10 月と2002(平成14)年1 月となっている。また、牛の種類は、若齢2例は乳牛(ホルスタイン種)の去勢雄で、それ以外の9例は乳牛(ホルスタイン種)の雌である。

A君:そして、このデータから、過去、日本で食べられてしまったBSE感染牛の数を推定することになります。

B君:まず、日本の状況のまとめから何が分かるかだ。通常、肉牛は30ヶ月以内だが、乳牛だと非常に高齢の牛もいる。BSE感染牛には、老齢の乳牛が多くて、その78月齢といった平均値になっている。

A君:発生時期については、なぜかは解明されていないのですが、出生時期が1995年12月〜1996年4月の牛が9頭いて、これらはホルスタイン種のメスの乳牛。これだけなら、余り問題は大きくならなかったものと思われるのですが、2001〜2002年の去勢オスが2頭いて、それがいずれもが、21ヶ月と23ヶ月の若い牛だった。

B君:不思議と言えば不思議。特に、この2001年からの発生は、全く別の原因があるのではないか。

A君:老齢牛のものはいわゆる輸入の肉骨粉が原因であるということで解釈ができるのですが。

B君:極端な話かもしれないが、自然発生すると考えるのが妥当なのではないか。

A君:ただ、そういう仮定の話をリスク評価の根拠にする訳には行かない。

B君:確かにそうだが、このプリオン調査委員会が議論すべきことは、今後の話。例えば、20月齢以下の牛は、プリオン検査では判定できないので、それを止めたとして、どのぐらいリスクが増加するかを議論すべきではないか。

C先生:まあその通りだ。なぜ、若い牛にBSEが発生したのか。なぜこんな状況になったのか、その解明が必要だというのは事実だろう。ただし、その議論が必要ということと、米国からの牛肉輸入の話とは、まあ別の話。プリオン専門調査会で問題になったのは、吉川先生の発生予測数、といっても、これは過去の話で、これからどんな対策をとっても数値が変わるというものではないのだが、その数値の出し方が問題にされていて、プリオン専門調査会に課せられた課題への回答が遅れるのはどんなものなのだろう。

A君:プリオン専門調査会のメンバーに、自分達に課されたミッションを充分理解していない人が居るということでは。

B君:先ほど、委員には「政治スケジュール」など念頭に無いだろうと発言してしまったが、ちょっと考え方が変わった。吉川先生が「政治スケジュール」は別として、といった発言をしているところからみて、「政治スケジュール」を遅らせることに意義があると見ている委員と、「政治スケジュール」を進めることが良いとの委員が居るのではないか。

A君:可能性は有りそうですがねえー。それよりも、学問的にはなんとも怪しい吉川先生の数値に目がくらんでしまって、ミッションが見えなくなったという説にも説得力は無いですか。

C先生:数値としての評価はしないが、吉川先生がこのような数値を出した行為自体は高く評価したい。なぜならば、学問の畑にいると、他人が出した数値の批判をするばかりで、リスクを冒してまで、自らの見解を明らかにする研究者が余りにも少ないのだ。プリオン専門調査会のメンバーすべてが、自分の予測値をまず出すことを要求したい。それから、吉川値の批判をすべきだ。

A君:そんなことを言って良いのですか。C先生は大分以前に予測値を出していますが、それは、吉川先生のものよりも大分小さいですが。

C先生:こちらは素人の強みで、もっと大胆な予測なんだ。最大でもこんなもの、という予測には意味が無い。もっともありそうな予測値を出さないと。

B君:それは当然だ。

C先生:吉川先生の予測のやり方と大差は無い。ただし、そこにいくつかの違いがある。まず、英国でのvCJD発生の予測数だが、最大でも300名程度までだと考えている。

A君:現在までのところ、英国では147名ですね。発生数は、減っているのですが、最近、出版された論文で、英国では3800名の潜伏期にある患者が居るというものが出ました。英語ですが、次に、アブストラクトを掲載します。
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/abstract/108563520/ABSTRACT

Rapid Communication

Prevalence of lymphoreticular prion protein accumulation in UK tissue samples

David A Hilton 1 *, Azra C Ghani 2, Lisa Conyers 1, Philip Edwards 1, Linda McCardle 3, Diane Ritchie 3, Mark Penney 1, Doha Hegazy 1, James W Ironside 3
1Department of Histopathology, Derriford Hospital, Plymouth, UK
2Department of Infectious Disease Epidemiology, Faculty of Medicine, Imperial College, London, UK
3National CJD Surveillance Unit, University of Edinburgh, Edinburgh, UK
email: David A Hilton (david.hilton@phnt.swest.nhs.uk)

*Correspondence to David A Hilton, Department of Histopathology, Derriford Hospital, Plymouth, PL6 8DH, UK.

Funded by:
UK Department of Health; Grant Number: 1216963, 1216982

Keywords
Creutzfeldt-Jakob disease (CJD), prion, screening, immunohistochemistry

Abstract
This study aims to provide an estimate of the number of individuals in the UK who may be incubating variant Creutzfeldt-Jakob disease and at risk of causing iatrogenic spread of the disease. Lymphoreticular accumulation of prion protein is a consistent feature of variant Creutzfeldt-Jakob at autopsy and has also been demonstrated in the pre-clinical phase. Immunohistochemical accumulation of prion protein in the lymphoreticular system remains the only technique that has been shown to predict neurological disease reliably in animal prion disorders. In this study, immunohistochemistry was used to demonstrate the presence of prion protein, with monoclonal antibodies KG9 and 3F4, in surgically removed tonsillectomy and appendicectomy specimens. The samples were collected from histopathology departments across the UK and anonymised prior to testing. Samples were tested from 16 703 patients (14 964 appendectomies, 1739 tonsillectomies), approximately 60% of whom were from the age group 20-29 years at operation. Twenty-five per cent of the samples were excluded from the final analyses because they contained inadequate amounts of lymphoid tissue. Three appendicectomy samples showed lymphoreticular accumulation of prion protein, giving an estimated prevalence of 3/12 674 or 237 per million (95% CI 49-692 per million). The pattern of lymphoreticular accumulation in two of these samples was dissimilar from that seen in known cases of variant Creutzfeldt-Jakob disease. Although it is uncertain whether immunohistochemical accumulation of prion protein in the lymphoreticular system is specific for variant Creutzfeldt-Jakob disease, it has not been described in any other disease, including other forms of human prion disease or a range of inflammatory and infective conditions. These findings reinforce the importance of measures taken by the UK Department of Health to reduce the risk of spread of variant Creutzfeldt-Jakob via blood products and surgical instruments, and of the urgency to proceed with large-scale screening of fresh tonsil specimens for the presence of prion protein. Copyright c 2004 Pathological Society of Great Britain and Ireland. Published by John Wiley & Sons, Ltd.

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Received: 19 February 2004; Revised: 15 March 2004; Accepted: 22 March 2004

B君:なるほど、虫垂炎の患者から摘出した虫垂を分析したものか。

A君:しかし論文のこのアブストラクトには、3800名という数値は出ていないですね。

B君:3件/12674件。237件/100万人。英国の人口を5000万人とすれば? 

A君:237名×50=1万2千人。単純な比例ではないですね。何か、計算はしているようで。

B君:まあ当然だろうが、英国でBSEの発生が多かった年を考慮しているのだろう。

A君:だとすると、まあ、理解もできますね。

B君:この値の評価は?

C先生:英国でのvCJDの患者は、2000年の28名が最大で、それ以後、20名、17名、18名と来て、2004年は7月5日までで3名。以上合計147名なんだ。
http://www.cjd.ed.ac.uk/
 今年は、これから増えても12名までか、と思うと、どう考えても、3800名もの患者が出るとは思えないのだ。これから毎年10名程度が15年続くとして、あと最大でも150名か、というのが予想。

B君:根拠は特に無し。しかし、トレンドを読むと、か。

A君:これは歴史が証明することですね。

B君:まあ異常プリオンは天然にも存在する。その代謝酵素もある。となると、プリオンがあっても、発症しない人が多いのかもしれない。また、それがBSEと無関係な場合も多いのかもしれない。

C先生:吉川先生は、英国のケースを日本にそのまま適用している。それは最悪ケースを考えているからだ。そして5000名という数値を使っている。個人的な山勘として250名ぐらい。となると、日本での患者の発生数にしても、吉川先生の予想の1/20となって、いくら多くても、0.05名。

A君:となると本当に少ないですね。

C先生:それに、実は、さらになんとなく自信があるのだが、英国のケースと日本とでは、根本的に違いがあるのではないか、と思うのだ。それは、脳とか脊髄に対する食習慣の違いだ。危険部位の最大のものは脳だ。日本に牛の脳を食べる習慣があったか。多分無い。英国のある地域では、脳を食べている。しかも、ひき肉のつなぎなどにも使っていたのではないか、と想像している。さらに、脳や脊髄を含む牛骨から取った出汁(ブロス=broth)を離乳食などに使っていたのではないか、と想像しているのだ。
 「しかも加えて」なのだが、vCJDに感染するのは、免疫システムが不完全な幼児期だけなのではないか、と想像している。となると、この食生活の差は実は非常に大きなことなのではないだろうか。ということで、まさに山勘ながら、日本ではさらに、患者発生可能数は少ないと考えている。すなわち、0.05名よりも、もっとゼロに近い。

A君:なるほど。さて、それはそれとして今回のプリオン専門調査会が審議を長引かせていることについての議論に行きますか。

B君:結論は簡単。本来議論すべき議論をしていない。本来の議論は、20月齢程度未満の牛の検査を止めたとして、勿論、危険部位は除去するものとして、それでリスクは上がるか。

A君:その通り。しかも、その結論は分かっていますね。20月齢未満だと、恐らく異常プリオンへの感染は検出できない。だから、検査しても意味は無い。したがって、リスクは全く変わらない。

C先生:吉川先生としては、もしも、「政治スケジュール」を重視するのであるのならが、この結論だけを出す議事進行をすべきだったのだ。そうしなかったということは、意図的なのか、非意図的なのかは別として、「政治スケジュール」を無視することが、最初から想定されていたと疑われても、否定はできないだろう。別にそれが悪いこととも思わないが、厚労省か農水省あたりのどこか部局の意図が作用したのかもしれないし、吉川先生の個人的な意図なのかもしれないが。
 最後になるが、吉川先生は、「検査に限界がある点は全委員が認識しているが、検出限界以下の若い牛の安全性が見えてこない」と発言されたそうだが、もともとそれは原理的に無理な話である。もともと「無いものねだり」である。誰がどうやっても、若い牛の安全性などは見えないのだ。したがって、「プリオン専門調査会の取り扱うべき問題ではなく、市民社会とのコミュニケーションの問題である。当調査会の責任ではない」と開き直るべきだったろう。

注:遺伝子の違い。
 この話は、かなり難しいことかもしれないので、以下のような説明に留めたい。

「vCJDはプリオン遺伝子中129 番目のアミノ酸がM/M型の人にのみ発生する」、という仮説に基づく話である。Mはメチオニンというアミノ酸である。M以外に、V(バリン)があり、M/V型、V/V型と三種類。人種によって割合が違い、英国では、M/M型が40%。日本人の値は明らかではないが、90%程度と仮定されている。