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   BSE問題、不愉快な政治決着 10.16.2004



  BSEに対して、ある種の決着が見られた。しかし、この決着は、まさに政治的な決定であって、どこにも正義もなければ科学も無い。不愉快。決着の内容は、国としては全頭検査を行わないが、もしも自治体が全頭検査を継続するのであれば、今後3年間、費用は国が補助するというもの。


C先生:この件、自分が政治家だったらこんな解を考えるかもしれないが、その後で、かなりの自己嫌悪に陥るだろう。なぜなら余りにも政治的すぎて、どこにも正義もなければ科学もないから。このようなことを続けていると、日本の未来が危ない。

A君:余り過敏な反応では無いですか。消費者の対応が非科学的でありどこにも正義が無いのは事実ですが、これは消費者というものはそういうものなのでは。

B君:消費者の意向というものを、例えそこになんらの理屈もなければ正義もない場合に、どこまで汲み取る必要があるのか。

C先生:消費者に限らない。事業者の意向が今回大きいのでは、と考えるが。しかし、自分が政治家なら今回の選択は多分イエスだ。なぜならば、そのような姿勢を取らないと、次の選挙で落ちるから。また、企業の社長でもそうかも。なぜならば、商品を買ってもらえないから。しかし、行政は違うはず。また、メディアも違うはず。今回のメディアは、どうも態度が不鮮明。特に、NHKのニュースは事実認識が間違っていた。

A君:その話は後回しにして、今回の話の整理をしたいのですが、良いですか。

C先生:余り怒ってばかりいても仕方が無いので、やってくれ。

A君:今回の話の発端は、といっても、何が発端かとなると微妙ですが、このところの話題は、全頭検査なるものの限界があるということろから始まっています。そのあたりの話は、本HPの過去の記事、
BSE07172004.htm

をご参照いただきたのですが、色々な推測が飛び交っているものの、唯一確実のように思えることが、「20ヶ月以下の牛については、現在の検査を行っても、BSEの検出はできない」、ということ。

B君:要するに、単にそれだけ。その文章が今回の状況のすべてであり、それ以外に何も無い。

A君:もう一度確認しますと、「20ヶ月以下の牛のBSEは検査では検出できない」、のであって、「20ヶ月以下の牛はBSEの危険性はない」、のではない。

B君:リスク的には、老齢の牛に比べれば確率的には低いものの、「20ヶ月以下の牛であっても、ヒトの狂牛病の原因になりうる。要するにリスクはゼロではない」。

A君:したがって、「20ヶ月以下の牛については、リスク対策は、検査で確保できているのではなく、危険部位の除去のみによって行われている」。これが実態。

B君:そうだ。それを絵で考えてみると図1のようになる。

図1: 全頭検査と危険部位除去によるBSE(vCJD)リスクの回避

B君:20ヶ月以上の牛については、全頭検査によって、ごく少数(10月時点で14頭)の牛が除去されている。その後の危険部位除去によって、残ったリスクが取り除かれている。

A君:ところが、20ヶ月未満の牛だと、全頭検査によっては検出が不可能ので、例えばBSEになる牛が入っていたとしても、この検査は通過してしまう。すなわち、リスクの除去になんら貢献しない。もちろん、その後の危険部位除去によって、残存しているリスクは取り除かれている。

B君:確実にいえることは、20ヶ月未満の牛は、安全だから検査をしないという結論が食品安全委員会の専門委員会(吉川委員会)によって導かれている訳ではなく、やってもやらなくても、リスクの低減という観点からみれば、まったく変わらないから止めようということが提案されているだけ。

C先生:ところが、NHKの夜10時からのニュースでは、「20ヶ月未満の牛は、安全だから検査の対象にしない」、ということが食品安全委員会の主張として何回も何回も説明された。

A君:まったく間違っていますね。

C先生:今回のNHKの間違いのようなことがニュースではテレビのニュースではしばしばおきるのだ。大分前になるが、平成11年9月30日のJCOによる臨界事故でも、NHKの放送は間違っていた。NHKは「放射能が漏れた」と言った。実際に起きたことは、「臨界反応、すなわち核分裂の連鎖反応が起きてしまったことであって、単なる放射能漏れの数100倍も重大な事故であった」。

A君:もしも昔を振り返って見ていただけるのであれば、
http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/JCOChainR.htm
を見て下さい。

B君:今回の状況を消費者がどこまで理解しているのだろうか。これが実に最大の問題。消費者運動の専門家も、なぜか全頭検査の継続を主張しているようだ。これも全く理解できない。その主張を聞いてみると、牛肉100gあたり1.2円程度なら、安心料として安いということのようだ。

A君:牛肉業界の事業者が、少しでも安心度が下がると牛肉の販売に響くから、という理由で全頭検査を継続することを主張するのなら、理解ができるのですが。

B君:今回の自民党の反応などを見ていると、北海道の畜産農家、事業者などからの影響を多大に受けていることが分かるのでは。北海道は、オスの若い乳牛を20ヶ月以下で肉牛として出荷することが多いので。

A君:ニュースでは、佐賀県知事が出てきていますが。

C先生:実は、佐賀県の牛は美味らしい。余り全国区的ではないが。

A君:それにしても、消費者団体の反応は理解できないですね。

B君:消費者団体といっても、一部には、生協のように、事業者ではあるが、消費者団体といささか近い団体もあって、なんとも言いがたい部分があるからではないか。

A君:ということは、消費者団体は、今回事業者側に付いた。これは消費者活動として、将来に禍根を残すのでは。

B君:そこまで考えているとは思えない。

C先生:話を進める。今回の妥協が、テレビなどの論調では、米国からの牛肉輸入問題と連結している。だから、20ヶ月未満とはいっても全頭検査を止めることはけしからん、という論調だった

A君:一部消費者にもそんな誤解があるような気がする。恐らく牛肉の畜産関係者には、このような誤解を一般社会に振りまいた方が、国産牛にとって有利になるといった思惑があるのではないでしょうか。

B君:実際のところ、米国産牛の輸入解禁とは、直接連動しているとは言いがたい。なぜならば、米国産牛については、根本的な問題があるからだ。それは、ある牛が20ヶ月未満であるといった特定ができないこと。

A君:要するに、ある牛がいつ生まれたか分かっていない。ましてや管理されていない。

C先生:米国は、20ヶ月未満であるかどうか、それは肉質を見れば分かるといったことを主張しているようだ。しかし、専門家は「それは無理だ」と言っている。

A君:だから、日本で例え20ヶ月未満の全頭検査を止めても、米国産の牛の管理が確実に行われない限り、輸入ができない状況。

B君:ただし、この状況を正しく日本国民が理解していないと、なんとかかんとか誤魔化される可能性が無い訳ではない。そこで、全頭検査を堅持するのが日本の畜産業界にとって最後の砦、といった考え方があってもおかしくは無いのだが、NHKのような公共放送が、畜産業界の代弁をするような情報を流すのはいかがなものか。

C先生:そろそろ次の話題に行く。今回の議論は、BSEの牛が今後食肉に回る可能性があって、それが今後日本人がvCJDに罹患する可能性があるという議論だが、実際のところ、そんなことは考えられないぐらい確率は低い。先日、食品安全委員会の吉川先生の専門委員会が、日本でvCJDが発生する確率として議論していることももう一度復習してみよう。

A君:そうなんです。先日来の議論である、日本でvCJDが発生する確率は1名以下という議論は、すでに、数頭のBSE牛が日本人によって食べられてしまっていて、それによって日本人にもvCJDが今後発生する可能性があるということです。

B君:BSEの牛を食べてから、vCJDが発症するのに、潜伏期間がある。12〜15年ぐらいではないか、と考えられているようだが。

C先生:英国におけるBSE牛の発生数と、ヒトのvCJD患者の発生数の推移を調べてみよう。

A君:グラフに適当なものが見つからなかったもので、数値を入れて、こんなグラフを作りました。


図2:英国におけるBSE発生(牛)とvCJD発生(人)の推移。

A君:まずお断りは、vCJDの発生数は1000倍していることです。これまでの発生総数は、10月現在で144名+未確認5名の149名。ところが、牛の方は、把握されている数だけでここに示した18万頭。しかし、実際には、100万頭ぐらいだったのではないか。

B君:このグラフを見ても、潜伏期間が12年から15年程度ではないか、ということが分かる。

C先生:ここで今後のvCJD患者の発生をどのように推測するかという問題がある。吉川先生は、英国では、今後vCJDの発生は続き、最大5000名になると推測している。この図から5000名もの患者の発生が予測可能か?

A君:それは有りえない。500名も有りえないのでは。

B君:普通に考えれば、200名まで。

C先生:もしもそうだとすると、日本で食べられてしまったBSE牛の総数を5頭と仮定して算出された日本におけるvCJD患者の発生総数の予測値、0.135名が最低でも1/10、多分1/25になって、0.0135名から0.005名程度。

A君:しかし、C先生はもっと低いという予想を実はしているのでは。

C先生:前回の議論の繰り返しになるのだが、英国と日本の食習慣が全く違う。危険部位の脳とか眼とか、あるいは、脊髄とかいったものを日本では食べる習慣は無い。そこで、さらに1/10以下になって、0.001名から0.0005名といったところが本音。いずれにしても、1名を遥かに下回るので、議論をしても余り意味が無い。

A君:今後とも、BSE牛が市場に出回る可能性は勿論ゼロとは言えない。しかし、危険部位が除去され、その除去部位の対象が広がり、また、除去の技術が上がって、現時点から先に牛肉を食べてvCJDに感染する可能性は、さらに低くなっていて、1/100だとすると0.00001名程度かもしれませんね。根拠は全く無いですが。

B君:すでにvCJDの潜伏期にいる日本人の数が、0.001名程度、今後、感染の可能性がある日本人が0.00001名程度。

A君:今後3年間で、60億円ほどの検査費用が掛かるとしたら、この60億円によって救われる命の価格は、60兆円ということになる。これは、論外の数値。

B君:むしろ、今後もしもvCJDで死亡したら、国が10億円の保証金を出す。といった対策の方が効果的。

A君:ただ、そのための基金を牛肉事業者から取らないと。

B君:現在のような検査費用に僅かにプラスして貯めておくのが良い。それなら牛肉の消費者が自己負担するのだから。

C先生:といったシステムを作ると、普通のCJDと牛起源のvCJDとの区別がどこまで完全にできるか、という問題がでてくるだろう。この手の補償話では、いつでもそんなことになるのだが。現在でも、毎年100名程度のCJD患者が日本で発生しているはずなので。このCJD患者の発症原因は、牛肉とは全く関係が無い。

A君:今回の検討でも、いくつかの問題点が出ていますが、整理しますと、
(1)20ヶ月未満の検査を行わないのは、検出ができないからであって、安全だからではない。
(2)安全性は、危険部位の除去で担保されている。
(3)20ヶ月以上の牛の場合には、まあ、二重の担保があるとも言える。
(4)メディアは、少なくともNHKは、正しく理解していない。しかし、新聞の記述は比較的正確だった。
(5)消費者団体は、どうも畜産事業者と同じサイドに立った。これは、そのような事業者が居るからか。

B君:本当の市民を代表している団体が無いのが、実は最悪だ。

C先生:これが現在日本のある意味での最大の問題かもしれない。本当の市民は、「いつでもサイレントマジョリティー(沈黙の多数派)」でしかないのか。特に、良識のある市民は、もっと公的な発言をすべきだ。大学人達よ、自分に関係ないことにも、もっと積極的に発言しよう。