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    電力系統をどう理解するか  02.11.2019
       書籍「発電と送電の基本と仕組み」紹介:3章まで

               




 今年の記事は、小泉元首相の原子力本の批判からスタートし、そして、電力についてのものばかりになっています。どう考えても、市民の電力に関する理解は、不十分です。これまで、電力会社は市民からの文句を言われたくない一心で、とにかく停電をしないことに最大の努力を集中してきたと思います。そのために、原子力や石炭発電といったベースロードと言われる24時間一定の電力を発電し続ける設備、そして、それに天然ガスを使った可変出力が可能な設備、さらに、もっと短時間の発電に適した石油による設備があり、そして、全く別のものとして、水力発電があり、その一つの重要な変形として、揚水発電所があり、そこでは、余剰電力を水を高いところに汲み上げに使って、位置エネルギーとして保存し、必要なときに流して発電するという仕組みですが、これらを適切に使い分けることによって、対応してきました。
 結果的に安定な電力供給が可能でした。その理由は、簡単です。化石燃料、発電用水、この両者ともが、貯蔵可能だったからです。すなわち、自由自在に発電量を変化させ、需要に対応することが可能だったからです。
 しかし、今後増やすべき再生可能エネルギーは、全く違います。まさに自然任せのエネルギーであって、電力という貯蔵が困難なエネルギーを、「太陽まかせ、風まかせ」で出すことしかできないので、当然、電力の安定性という重要な要素に、大きな副作用が出てしまうのです。
 電力会社のこれまでの努力によって、皮肉なことに、市民にサイドでは、「電力とはいつでも使えるもの」、という誤解を生んでしまったのです。「これが変わるのだ」、ということを、市民社会が完全に理解しないことには、次の50年間は、すべての家庭で、竹内純子さんの言う「Y家の残念な朝」を迎えることがほぼ確実なのです。
 そこで、電力、特に、電力系統とはどのようなものか、これをできるだけ分かりやすく説明するには、どんな努力がなされているか、ちょっと分析するのが、今回の目的です。
今回使用した参考図書

発電・送電の基本と仕組み
〜電気事業の新常識[第3版]〜
 木舟 辰平著 秀和システム 2016年11月20日



C先生:最初に言って起きたい。この本は、余りにも項目数が多いので、やむを得ず、3回連続の記事になってしまう。
 電力というものは、有って当たり前のエネルギーになってしまったのだが、実は、電力とは不思議なモノなのだ。モノと書いたが、物ではない。エネルギーなのだとしか言いようがない。化石燃料はモノ(=物、手で持てるモノ)なので、しかも、地球が何億年も蓄えてくれたようなモノ(=物)なので、極めて安定な備蓄が簡単にできる。勿論、石炭を貯めれば自然発火との戦いになるし、石油の場合であれば、液体の貯蔵なので、また、天然ガスなら気体なので、それぞれ異なるタンクが必要ではあるのだが。
 重要なことは、化石”燃料”がエネルギー源であるということは、その燃料としての特性を変えることは難しいということを意味する。すなわち、燃焼(酸化)というプロセスなしに、別のエネルギーに変換することは難しい。しかし、燃焼(酸化)してしまえば、COが発生してしまう。

A君:COを出さないで発電をするということの意味を十分に理解することが第一条件。それには、すべての化石燃料、すなわち、炭素(=石炭)、あるいは、炭素を含む燃料(=石油、天然ガス)の燃焼はできなくなる。

B君:電力の基本について言えば、そもそも、なぜ化石燃料を燃やして熱という形に変換して、それから、電力への変換という厄介な方法を取らなければならないのか。そこにはどのような理由があるのか。こんなことが理解できないと、本当の意味で、電力を理解したことにはならないのかもしれない。

A君:当然ですけど、その説明も難しい。エネルギーというものの一般論、特に、ある形態のエネルギーから別の形態のエネルギーへと変換ができるといったことが分かっていないと、本当の理解は難しいかもしれない。

C先生:そろそろ本論に入る準備ができたようだ。

A君:それでは、本の構成から行きます。第1章から第9章まであります。次のような構成です。
第1章 電気の基本
第2章 発電
第3章 原子力

第4章 再生可能エネルギー
第5章 送電・配電
第6章 分散型システム
第7章 電力自由化
第8章 電気料金
第9章 発電・送電の未来


B君:第6章の分散型システム以降が、魅力的なタイトルになっている。そして、最後の第9章がどのような内容なのか、期待してしまう。しかし、第7章〜第9章は、3回目になる。

A君:まず、第1章から行きますが、この章の最初の節1−1が、なんと「電子とは何か」です。ヘリウム原子の絵が出てくるのですが、電子が惑星みたいな軌道を回っているという古典的な図です。まあ、間違いということではないですが。それと、電気を通す導体と絶縁体の区別、さらに半導体という言葉がでてきますが、それ以上の説明はありません。

B君:ここが理解できないと電気が理解できないというものではないので、まあ、良いのでは。

A君:1−2が電流と電圧。これも水が山から流れて川になることとの対比です。電流の大きさと電圧の大きさは比例するという言葉が、項目の名前になっていますが、果たして、必要なのか。

B君:オームの法則ぐらい理解しろということかな。

A君:1−3が発電機とモーター。どんな構造になっているか、一応表示されていて、フレミングの法則で説明されていますが、高校生ぐらいは抵抗感がないかもしれませんが、社会人は忘れているので、抵抗感が大きいかも。

B君:この章の最後のコラムの題名が洒落ている「神の仕業から、不可欠のエネルギーへ」。日本人だと平賀源内のエレキテルに使われたライデン瓶に感電してみるというデモがあるらしい。

A君:第2章に行きます。2−1が、電力用の発電設備には、ベース、ミドル、ピークという分類があることが記述されているけれど、これってそろそろ死語になりかねないコンセプト。すなわち、石炭発電と原子力がベースで、常時運転する。それは発電コストが安いのだが、欠点として、出力を変動させるのは余り得意ではないから。発電設備によって色々な性格の違いがあるということを意味するのだけれど、まあ、不要な知識になったかも。

B君:以後、水力発電、火力発電、石炭火力、LNG火力、石油火力、電源別の発電コスト、火力発電の課題、と来るけれど、発電方式はまとめて1つの節でも良かったかも。もっとも重要なことは、水力と化石燃料の違いを説明することか。

A君:この本でも、そういう意図だったと思うのですが、いきなり「水の位置エネルギーを電気エネルギーに変える」という表現がでてくる。位置エネルギー、電気エネルギー、そして、ここに出てはきませんが運動エネルギーといった物理学の基礎中の基礎を書くべきなのか。本当に、対話しつつ、「分かりましたか」と少しずつ説明しないと無理かも。

B君:2−3が水力発電の歴史。ここまでは良し。しかし、2−4が火力発電の仕組み、2−5が石炭火力、2−6がLNG火力、2−7が石油火力、ときて、2−8が電源別発電コスト

A君:コストの比較は重要ですが、化石燃料を燃やして熱にして、そして、水蒸気を作ってタービンを回すのだから、熱は、極めて一般的なエネルギーの一つであるという感覚を読者が持っていることが重要なので、熱とは何かを説明して欲しかったかも

B君:2−9が火力発電の課題、ここまでは良し。そして、2−10が容量メカニズムいきなり新しすぎる話題だ。

A君:容量メカニズムは、グリッドの話が出てからの方が良かったのでは。

B君:日本では、まだ容量市場ということがまだ一般化していないので、ちょっと先進的すぎるのかもね。すでにドイツなどでは当たり前の話なのだが。第5章の送電・配電に移したいぐらい。非常に簡単に言えば、「普段は止まっていますが、いつでも発電しますから、必要なら言って下さい」、という設備に対して、その能力を評価し、料金を支払うこと。全く、運転しない場合もあるかもしれないけど、とにかく、ある料金を払う。

A君:コラムは「電源構成に関心ありますか」。実は、このコラムがもっとも面白いと思いました。それは、電力の小売全面自由化の検討委員会で、消費者団体だけが、電力会社の電源構成を開示すべき、という主張をしたが、他の委員は、その方向ではなくて、意見がまとまらなかった、という話。

B君:そもそも、今後は、電力会社は、自主的に電源構成を発表すべき時代になるのだ、と確実に言えるが、それを国が強制すべきことなのか、という話だろうね。

A君:最近、どうも、意見交換が余り上手くできない日本人が増えているのでは。スマホばかり見ている若者は当然そうだと思うけれど、大人でも、自分の意見が周囲とどう違うかなど、余り気にしていないのではないだろうか。それがセクハラ・パワハラ事件の多発につながっているように思いますね。

B君:その通り。しかし、企業は自分から自分の持っている情報を公開しないと、自分が不利になるという社会を作ること。しかも、政府が作るのではなくて、国民が作らなければならないのだと思う。

A君:そして第3章になりますが、それが原子力3−1から3−14まであって、相当に詳しい情報が記述されている。原子力とは何か、それをかなり正確に知りたい人にとっては、有用な章かもしれない。

B君:3−1が原子力エネルギーとなっていて、なぜ原子力がわずかなウラン燃料で莫大なエネルギーを出すことができるのか、といった説明もある。

A君:確かに。しかし、「ウラン原子核が中性子をとりこむ際の核分裂によって生ずるエネルギーのことです」、という記述の意味は不明なのでは。中性子がどこから来るのか、などといった説明が全く無いので。

B君:確かに。しかも、中性子線といっても、どこからそれが来るのか、どのようなものなのかなども書かれていない。若干、説明しよう。

A君:ウラン235は、いつでも中性子を出しています。プルトニウムが入ってる場合は、MOx燃料と呼ばれるけれど、プルトニウムも中性子を放出します。中性子はエネルギーが大きい、すなわち、高速で飛んでくるので、ウラン235やプルトニウムに衝突すれば、それでも核反応は起きるけれど、軽水炉の場合には、中性子の遮蔽のためにその速度を遅くする必要がある。そのために水で満たされているので、熱中性子線と呼ばれるエネルギーの低い状態になります。この中性子は、燃料のウラン235やプルトニウムの原子核にまとわり付く感じで入り込み、結果として核を不安定化し、そして、核は分裂を起こすのです。

B君:再度、簡単にまとめれば、高速中性子が衝突しても、原子は割れるが、この熱中性子線の場合には、原子の核に中性子が入り込んで、不安定な状態になって、それから分裂をする。

A君:水を使う理由は、もう一つというか、こちらが本当は重要で、水による中性子の遮蔽効果が強いこと。重金属での中性子の遮蔽は余り効果的ではないのです。

B君:この水を中性子を遅くする減速材として使う原子炉は、原子核の構成要素である中性子を増やしてから分裂する方法なので、ウラン238という原子核が天然にはもっとも重い核種なのに、アメリシウム(Am)241のような、天然に存在しない重い人工元素を作ってしまうことが問題点。このアメリシウムは、半減期が中途半端に短くて、放射能が非常に強いので何かと厄介。

C先生:原子炉の動作メカニズムについて、色々と説明してきたついでに、この本には書かれていないことを若干説明した方が良いかもしれない。

A君:なるほど。地震などがあったときに、原子炉がどうやって止まるのか、ですね。すでに何回か取り上げていますが。

B君:地震が起きると、最初にP波がガタガタといった感じで来て、あっ地震と分かる。その次に、グラグラグラとS波が来る。P波が来たときに、それが強いと原子炉は制御棒を挿入するが、それに要する時間は約2秒。P波が到着してから、S波が来るまでの時間は初期微動継続時間と呼ばれる。P波の速度は7km/秒、S波の速度は4km/秒。もし、P波が来てから12秒後にS波が来たとしたら、さて、震源までの距離は??

A君:S波が4km/秒で、12秒進むと、48km。速度の差があったから48km・秒/(7−4)km=16秒。7x16秒=112km。結構、難しい。

B君:それは算数の解き方だ。

A君:方程式を作れば、確かに簡単。震源までの距離がXkmだとして、
 X/4−X/7=12
これを解けば、112km

B君:制御棒は2秒で入るということから言えば、7km/秒x2秒=14km以内に震源が無い限り、制御棒は揺れが小さいときに挿入できる

A君:近くの活断層の調査を極めて厳密にやる理由がこんな訳なんですね。

C先生:こんなことが書かれていれば嬉しかった。ということだな。

A君:この本の原子力の記述は、かなり役に立つことが書かれています。例えば、「止める・冷やす・閉じ込める」が完了すれば、安全に停止できたことになる。

B君:福島第一の場合には、水も電気も無かった。そのため、止まることは止まったけれど、冷やす・閉じ込めるができなかった

A君:冷やすには、水を循環させることが重要で、給水車と電源車があれば、水をポンプで送り込むことができたのに、福島第一原発にはそのような準備が無かった。非常用発電機は、原発の海側の地下に設置されていて、津波が来るような状況下で運転することは想定されていなかった。

B君:それも当然で、GEから日本への一号機だったので、GEは非常に強気で、一切の設計変更を許さなかった。そもそも、海岸に設置するような設計になっていなかったと言える。

A君:だから、そのような状況だったら、土地の嵩上げをするなり、防潮堤の高さをさらに高めるような対策をする必要があったのだけれど、東電はそれをしなかった産総研からの情報で、過去、貞観の津波というかなり高い津波が有ったという警告は受けたけれど、それに対する反論を土木学会が書いた(実際には、東電の要請によって書いた(???)とも)ことによって、東電としては無視した。この表現が全面的に正しいかどうかは、疑問ですが。

B君:一方、東北電力の女川原発は、土地の嵩上げをしていたために、東日本大震災でも原子炉は冷温停止した

A君:毎回言っていることですが、電源車と給水車をそれぞれ10台導入するのに、一体、いくら掛かったと考えていたのでしょうか。補償金や福島第二原発まで廃炉にすることになってしまったことを考えると、大した金額ではないことが明らかですが。

B君:除染に掛かった費用だけでも、冗談ではないというレベルの金額。それは、その当時の民主党の環境大臣が、すでに合意されていたのに、独断で決めてしまったという噂。最近、自民党に移ったみたいだけど。なんという節操の無さ。

C先生:全然終わらないね。それほど追補すべき記述があるということなのかもしれないが。

A君:かなり詳細な記述はあるのですが、やはり、どこか疑問が残るのです。まあ、初歩的な本ですから、仕方ないのですし、まあ、初歩的な本だからこそ、逆に存在意義があるとも言えるのですが。

B君:ということで、第3章の原子力の記述は、一通り読むとかなり有用だとは思うけれど、どうしても、さらなる情報を加えたくなってしまう。

C先生:分かった。第3章はそれなりに有用な記述があるしかし、途上国が原子力を導入することは、すでに止まったと言えるのではないか。日本の原発が、世界に原子炉を建設することも、福島事故のために、もう無くなったように思えるし。そもそも、もやは常識的なコストで原発を建設することはできないのかもしれない。それは、万一、事故が起きたときの補償金の金額が全く馬鹿にできないレベルになることが分かってしまった。英国のヒンクリーの原発も、当初のコストに基づいてかなり高い単価で電力を政府が買い上げるという制度まで作ることになったのに、どうも最終的には、万一の場合の被害補償金を考えると、英国のような偏西風の上流にある国での事故は、ほぼ現実的ではないという結論になってしまったようだ。
 途上国でも、もし事故が起きると、その国の破産が見えてしまう。今後、原発を作る国は、ロシアと中国だけか。インドも分からない。もし、日本に原発を作るのであれば、すでに溜まりに溜まった使用済み核燃料の処理をする機種。廃棄物で言えば、焼却炉見たいな設備が必要ではあるが。特に、日本の軽水炉と呼ばれる原子炉で生成するプルトニウムは、そのまま兵器になるものとはちょっと違うが、それでも、治安上、相当にいやらしい元素であることに変わりはない。ということで、処理は必須だ。
 今世紀が現行のタイプの原子力の新増設をするような世紀になることは、すでに無いと思う。今世紀は原子力の後始末の世紀になるのだと思うのだ。そのため一般ゴミの高性能焼却炉がダイオキシン騒ぎのお蔭で普及したが、これと同じ役割の核のごみ処理専用の小型原子炉を、実現させる必要がそのうち出てくるように思える。単に、安全に廃炉すれば良いというものではないのだ。