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    本「世界を変える電池の科学」    03.03.2019
        電池の最新情報はこれで十分か

               



 今回も、書籍のご紹介で、テーマは「電池」です。
 パリ協定対応では、太陽と風次第の不安定な再生可能エネルギーが主力になってしまいます。となると、安定化をする手段として電池の存在が極めて重要になる可能性が強いと考えられます。
 そこで、まずは、アマゾンで電池の本を探してみました。最新状況をお伝えする必要があると考えたからです。
 対象になるかと思われる本が14冊。なんといっても技術的な進化のスピードが非常に早い分野なので、最新の情報をお伝えしたいと思ったのですが、意外なことに、割合と古い本が多いのです。それに、「マンガでわかる・・・」系は対象外。もっとも古い本は、なんと2006年出版でした。基本的な原理を知りたいのであれば、ボルタの電池(1800年に発明)以来、何も変わっていませんから、これでも良いとも言えるのですが、最新動向を語るには、やはり、もっとも新しい本が良いだろう、ということで、次の本を選択しました。2018年12月19日に発刊されたばかりのホヤホヤ本ですから、最新の情報があるだろうということで購入しました。なんといっても、「世界を変える電池の科学」という題名ですから。きっとパリ協定対応を前提にした本だろうと思った訳です。しかし、ちょっと期待はずれでした。
 買ってみて、奥付を見て驚きました。なんと2019年1月9日初版発行になっているのです。これは、謎ですね。
 「さて、内容は」、と一通り目を通してみると、残念ながら、どうも電池の専門家が書いた本ではないようでした。化学一般を専門としていた名工大の名誉教授が著者でした。10数年の著作歴で、なんと150冊以上の本を出しているとのこと。これは考えられない執筆速度ですし、化学雑学の大家であることは、事実なのではと思います。教育的な記述には、相当の自信を持っている方のようです。
 最新状況をお伝えする目的でしたが、やはり、専門分野が違う人が、原理だけを説明する意図で書いた本ということでしたので、本記事としては、最新状況は、独自に追加執筆をすることでご紹介しつつ、この本を読むべき人とはどのような目的を持っている人なのか、を解析してみたいと思います。


C先生:この著者の執筆速度は、恐るべきものがあるようだ。ちょっとチェックしてくれ。

A君:本当ですね。まずは、今回の対象は、こんな本です。
SUPERサイエンス 世界を変える電池の科学
単行本(ソフトカバー) 2018/12/19
齋藤 勝裕 (著)
出版社: シーアンドアール研究所

 そして、著者名齋藤勝裕でアマゾンを検索してみると、なんと1ページ24冊表示で、7ページ+1冊ありますから(重複もあるが)。そして、8ページ目の1冊の題名がなんと、「いじめを許すな:いじめ問題に悩む君とご両親、先生方に捧げる書」という本を、Kindle版で出版していますよ。ご関心があるかたは、¥487円ですからどうぞ。

B君:推理小説も書いている。「亜澄錬太郎の事件簿」というシリーズになっている。

C先生:過去、書評を色々と書いてきたが、これほど変わった著者はいない。普通なら、自分の専門分野の本しか書かないものなのだけれどね。経歴が書かれていないので良くわからないが、教養課程の先生なのかもしれない。

A君:探しました。どうも1945年5月生まれ、東北大学理学研究科博士課程修了。専門分野は、有機化学、物理化学、光化学、超分子化学とのこと。無機系の材料化学・電気化学が比較的遠い分野でしょうか。

B君:電池の話は、まあ、その遠い分野の一つかもしれない。しかし、電池の化学というものは、かなり簡単なの原理だけで説明できる分野なのだから、言ってみれば、誰にでも書ける。要するに、最新情報をどこまでカバーしているか、今後の動向をどこまで推論できているか、といった副次的な記述内容の妥当性だけが問題になる、という領域だと思う。

A君:ということは、原理などの記述はサラッと読んでみて、パリ協定を前提として考えたときに、電池の役割のようなものがどのように変わるか、それを議論しつつ、今後の動向がどこまでこの本から読み取れるか、という議論をすべきということですかね。

B君:我々のサイトのタイトルが「市民のための環境学入門」なのだから、当然、今後の未来環境における電池がどのような役割を持つか、それに対して、どのような知見を持っていれば、市民として必要十分であるのか、といった観点から本書を見るということになるのではないか。

A君:そんな方針で進めましょう。
 それでは、目次のご紹介から。
第1章 化学電池の原理
第2章 化学電池の実際
第3章 燃料電池
第4章 蓄電池
第5章 シリコン太陽電池
第6章 進んだ太陽電池
第7章 その他の電池


B君:果たしてパリ協定のCO削減と電池との密接な関係が記述されているだろうか、心配になる目次だ。

A君:入門用の本としては、偉いことに、索引があります。ざっと見た限りでは、COを削減するための再生可能エネルギーの時代が来るときに、電池の役割が増大するといったことは、書かれているように思えないですね。例えば、電気自動車という項目があるので、そこを見てみますか。

B君:OK、チェックしよう。このページか。待てよ。こんな記述で大丈夫か。なんと第12節の水素燃料電池のところに、「近い将来主流になると考えられる電気自動車のエネルギー源として期待されているものです。」という記述で終わり。

A君:ちょっと待って下さい。第13節が「水素燃料電池の特徴」なのですが、その最初のイントロとして、電気自動車用の電源として注目されているものが、「リチウムイオン電池と水素燃料電池です」。と書かれていますね。

B君:要するに、燃料電池は電池だということ。確かに名前だけはその通り。しかし、「実用」を考えれば、ちょっとというよりかなり違う。水素燃料車は、水素という燃料を外部から供給するので、充電という時間の掛かる手順を踏まないで済む。ガソリンと同じ感覚で行ける。自動車の場合には、実用上、かつ、インフラ整備の観点から分けて考えるべき。

C先生:やはり理学的な観点(含む「電池」の定義次第)からのみ記述をしている本だと考えるべきで、世の中の流れがどうなるか、という現実社会の観点は、ほとんど無いということかな。市民が読む本というよりも、やはり、「難しい理屈が苦手な学生が、知識を容易に得るために、簡単に説明してあるから読む本」といった感じなのではないだろうか。

A君:我々としては、市民が常識として何を知って欲しいか、という観点ですから、やはり実社会とか実生活とか言ったことがどのように変化してしまうかにどうしても重点を置かざるを得ない。こんな感じですか。

B君:我々が電池の本を書いたらどうなるのか、その目次を考える必要があるということか。

A君:まあ、そういうことです。仮想目次は、こんな感じでしょうか。
本のタイトル「CO削減に資する電池」
第1章 パリ協定に対応する電池革命
第2章 実用化される電池の満たすべき条件
第3章 資源とコストの問題
第4章 安全性と利便性
第5章 他の解決策と電池の競争
第6章 未来予測


B君:まあ、そんなところだろうな。

A君:その意味で、今回の齋藤先生の著書を見直すと、第6章に「進んだ太陽電池」、そして、第7章が「その他の電池」という構成があって、これで終わるという構成になっています。

B君:「進んだ太陽電池」か、Cd−Te太陽電池か何かが書かれているのかな。

A君:最初は、Ga−As電池ですね。実際に稼働しているとされていますが、一般的な太陽電池のように、コストが最重要な商品には、Gaという元素は無理でしょうね。Alの不純物として産出されるのですが。

B君:ファースト・ソーラーのCd−Teは

A君:二番目ですね。太陽電池が価格競争に入ったのは、ファースト・ソーラーのこの電池の開発が契機になったと言われていますね。

B君:Cdというと、イタイイタイ病の原因となった元素、Teも毒性が無いとも言えない。化合物になると比較的安定ではあるが、少なくとも、廃棄物としてそのあたりに放棄されるのは避けたい。

A君:ファースト・ソーラーは、自社が責任をもって太陽電池の回収を行うことで、市場に認められたと言えるのでは。N型半導体のCdSとP型半導体のCdTeをPN接合によって、太陽電池になるのですが、薄膜の形成が非常に楽な化合物なので、低コスト生産が可能。

B君:この電池のお陰で、太陽電池がコスト競争に突入し、結果的に、日本の太陽電池産業がほぼ潰れた。ドイツも同様という結果を招いたキッカケとなった。

A君:パリ協定以来、世の中の何が変わったのか、というと、それは、「ある技術がコスト的に成立するかどうか」、これがもっとも重要な課題になったことでしょうね。その原点となった製品とも言える。

B君:それに加えて、普及をさせるには、社会的な要素である「安全性」が重要で、しかも、Society5.0のような情報社会の概念との整合性が取れるデバイスであることが重要。自社回収ということが実際に行われている限りにおいては、特に危険性があるとは思えない。

A君:Cd-Teは、日本国内では、パナソニックが1984年に開発し商品化まで到達したのだけれど、やはり、カドミウムの毒性が問題となって、結局、商品化が中止。

B君:COの影響が非常に怖いということを再認識しないとパリ協定を乗り越えられないのだけれど、日本という国は、リスクを比較するというマインドが皆無の国で、安心(=感情)ですべてを議論するというとんでもない国なのだ。

A君:この著者の意識にも、そんなものは無いようですね。

B君:東京電力のデータらしいが、4人家族での1日の平均使用電気量は、18.5kWhらしい。100Vのコンセント1個から得られる最大の電力は、1500Wなので、もし、コンセントが1個しかない家であったとしたら、フルに12時間ちょっと使っているという感じだな。

A君:もしも、18.5kWhを電池に貯めようとしたら、これだけの容量の電池を持っていないと不足ということになります。

B君:今年の1月10日に日産が発表した「リーフe+」は、62kWhの電池を搭載している。米国のEPA基準では、これで364km走れる性能という。

A君:電池1kWhあたりの単価を計算すると、2万3000円とのこと。これは、コストダウンがかなり効いているという感じでしょうね。ちなみに、バッテリーの重さが440kg

B君:新型リーフは、割り算をすれば、1kWhで約6km走る。大体こんなものだ。いかに、電気自動車というものがエネルギー食いなのかということがよく分かる。

A君:それに比べれば、家庭用電池としては、どうせ太陽電池を3kWぐらいのものを搭載した家での充電が目標になるので、まあ、10kWhでもなんとか。20kWhあれば、理想的。家庭用の電池がこのぐらいの価格になれば良いのだけれど、今の所、家庭に20kWhの電池を導入したとすると、まだ、200万円を超すのでは。リーフの電池の単価だと、46万円に済むのだけれど。

B君:やはり、自動車というものの生産量は、現状でも結構な数になるということ。家庭用の電池システムも、将来は、かなり安価にはなる。それでも、20kWhぐらいのものを導入して40万円なら、買う価値が出てくると思う。しかし、電気自動車を買って、家と接続するVehicle to Homeが良いと思うけど。

A君:将来、太陽光発電と風力が主力になると、ときに電力は余って、そのような場合には、電力価格は非常に安価になるという状況もあり得るので。40万円なら元が取れる可能性が無いとも言えないので。

B君:逆に、電池を持てない家庭は、電気代が高いときにも買わなければならないので、貧富の差が広がるとも言える。

C先生:という訳で、本書は、「世界を変える電池の科学」という題名ではあるが、実際には、将来、電池がどのような役割を果たすか、ということについては、ほとんど何も書かれていないという結論で良いだろう。

A君:遺憾ながらその通りでして、電池の原理を知りたいという学生諸君向けの図書だということになりますね。

B君:そうだな。将来、再生可能エネルギーの電力を貯めるために必要不可欠な電池の話という考え方とは全く違う。もしも、電力と電池といった考え方をするのであれば、本書では全く取り上げられていない、ナトリウム硫黄電池とか、あるいは、フロー型電池とかいったエネルギー貯蔵に適した電池の記述が不可欠なのだけれど、そのような記述は無い。

A君:第6章が、すでにご紹介したように、シリコン以外の太陽電池の動向、第7章がその他の電池となっていて、様々な電池が紹介されなければならない章のはず。

B君:シリコン以外の太陽電池としては、ガラスを用いた電池としては、Cd−Te以外はもう実用化されない可能性が高い。

A君:色素増感型ももう無理ですし、有機薄膜型も多分難しい。日本の発明と言われるペロブスカイト型電池の紹介が無いですね。

B君:これらは、壁面に太陽電池を貼り付けるような状況になって、初めて、実用化なのでは。

A君:その他の電池としては、実は電池ではないですが、太陽光による水の光分解。日本ではなぜか人工光合成と言われていますが、実態は、水の光分解の記述がありますね

B君:割合と好意的な記述だね。「太陽電池で発電し、その電気で水を電気分解すればよいだけです。しかし、このようにして得た水素で発電していたのでは、堂々巡りをしているだけです」

A君:水の光分解で、別々のところに水素と酸素がでれば文句はないのですが、その後、膜などで分離するということになると、実用性が落ちる。これば我々の主張。もう一つが、水素を作ってそれで発電することにこそ、意味がある。なぜなら、水素は物質なので、備蓄が可能だから。電気を貯めるのがもっともお金がかかる。

B君:先に述べたように、それ以外にも重要な電池があるのに、いくつか無視されているね。

A君:ナトリウム硫黄電池は、日本で唯一作られている電池です。日本ガイシという企業が作っています。

B君:C先生が米国に留学しているときの研究テーマがナトリウム硫黄電池だったとか。

C先生:恥ずかしながらその通り。フォード自動車、ユタ大学などとの共同研究だった。スポンサーは、NSFだったから、基礎研究という段階だった。ナトリウム硫黄電池は、固体の隔膜を使うタイプの電池なのだけれど、その性能が悪くて、その時点では、将来使い物になるとは思えなかった。劣化の原因の追求などを研究テーマにしていた。一部の粒子が異常に成長していることが、劣化原因ではないか、というのが、結論だった。日本ガイシは、もともとは碍子を主力商品としていた企業で、セラミックスとして製造が難しいベータ・アルミナという材料を完全に掌握して、見事な材料を作るようになった。金属ナトリウムが使われているために、もしこのセラミックスが割れると火を噴くという欠点があって、過去、何回か事故になってはいるが、安全性も向上して、電力貯蔵を大規模に行おうとすると、現時点でも、リチウム電池よりは、ナトリウム硫黄電池が使われる。

A君:もう一つが、フロー型電池。バナジウム塩などの水溶液に電気を貯める。これは、日本では住友電工が製造できます。

B君:電池の問題は、電極などの固体が疲労すること。それが寿命を決める。正に、人間と同じで、固体は疲れるのが問題。それがフロー型であれば、固体の反応を利用している訳ではないので、性能の劣化が起きないのが利点

A君:と様々なものがあるのですが、この本では紹介されていません。勿論、家庭用の電力を貯める電池としては、リチウム電池がもっとも有力な候補なのですが、その安全性をさらに高めるための開発研究が盛んに行われているのですが、無視されていて、そのような記述も全く無いですね。だから、「世界を変える電池」の話とも言いにくいのが実態。

B君:リチウム電池の安全性を高めるための方法論としては、現時点で二種類の方法が共存して競争中と言えるのではないか。

A君:そうですね。リチウム電池には、電解質と呼ばれる液体が使われているのですが、この電解質は有機物なので、何かあると火を吹きます。そこで、(1)電解質の代わりに固体を使う全固体電池にするという方向性。もう一つは、(2)電解質の液体を難燃性にして、燃えない製品にすること。このどちらが勝つか、現在、デッドヒート中といった印象ですね。

C先生:どちらが勝つか。まさにまだ微妙な段階だけれど、全固体電池は、どこまで製造が容易にできるのか、という点が問題のような気がしている。やはり、固体と固体を張り合わせるようなプロセスが必要になるのだけれど、それより、固体と固体の間には、液体を充填するというこれまでの構造の方が作りやすいように思うので、将来がどうなるか、まあ、楽しみという段階だ。

A君:ということで、そろそろ結論に行きますか。まあ、この本は、学生あるいは、社会人でも電池というものを語るための教養書としては、まあまあ良いのでは。

B君:しかし、先程も指摘されているように、「世界を変える電池」という本の題名にはそぐわない。過去の開発史のようなものは、これで十二分なのだけれど、将来、電池がどうやって世界に受け入れられ、どのような役割を果たすのか、といった「世界を変える」実例のような説明がほとんどないので、題名と内容に乖離が見られるというのが、結論かな。

C先生:まあ、そんなところで良いだろう。家庭の電力を貯めるために、日常的な目的でやや大型の電池が導入される時代は、近い将来確実に来るだろう。予測すれば、2040年にはかなり多くの家庭には、電池が導入されているものと思われる。勿論、太陽電池とのコンビが一つ。もう一つは、自然エネルギーが電力の主力になっているとなると、余剰電力をどうするか、ということが大きな課題になる。一つの考え方として、どこかで水を電気分解して、水素という形でエネルギーを蓄積するというやり方がある。もう一つの考え方が電池。自家用電気自動車を持っている家庭であれば、その電池の容量は、今回も記述したようにかなり大きいので、それを活用する仕組み、すなわち、V2H(Vehecle to Home)があって、常に、電気自動車は、家庭につながっているという状況になるかもしれない。電気自動車が無い家庭で、電気が不足すると、どこかから自動運転で電気自動車がやってきて、その家庭に電力を供給するということもあるかもしれない。そのためにも、家庭には、ある程度の電池が必須ということになる可能性が高い。まあ、そうすぐではないと思うけどね。