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   豊洲市場で環境基準超のベンゼンとヒ素
     
どのぐらい安心できないことなのか 10.01.2016
               



  まずは、朝日新聞デジタルの記事を引用します。

引用開始
9月29日18時07分 

 東京都の築地市場(中央区)が移転する予定の豊洲市場(江東区)で都が行っている地下水調査で、環境基準をわずかに超えるベンゼンとヒ素が検出された。都が29日、発表した。環境基準超の有害物質が検出されたのは、土壌汚染の対策工事を終えた14年10月以降に続けている調査で初めて。

 都によると、観測している201カ所のうち、市場内の青果棟近くの2カ所で、ベンゼン0.011〜0.014mg/L(環境基準は0.01mg/L)を検出。別の1カ所で0.019mg/Lのヒ素(環境基準は0.01mg/L)が検出された。

引用終了

 本日の話題は、「どのぐらい安心できないことなのか」、でして、前回と同じく、環境基準がどうやって決まっているか、から始まります。



C先生:前と同じ議論なので、簡単に行こう。

A君:まず、何を参照すべきなのですが、これは前と同じです。環境基準 設定根拠と検索して下さい。
https://www.env.go.jp/council/toshin/t090-h1510/02.pdf

B君:今度は、ベンゼンとヒ素だから、この設定根拠の書類のp17のヒ素、p30のベンゼンを見ることになる。

A君:まずは、ヒ素から行きます。現行基準等をチェック。次のように記述されています。
環境基準値   0.01mg/L
水道水質基準値 0.01mg/L


B君:諸外国の基準値は、
WHO飲料水質ガイドライン 0.01mg/L
USEPA 0.01mg/L (2006.1.23までは0.05mg/Lだったようだ)
EU 0.01mg/L


A君:次に、基準値の導出方法等という最後の項目を見る。
 TDIに相当するPTDI 0.002mg/kg/dayを設定している。水の寄与率20%、体重50kg、飲料水量2L/dayとして、基準値を0.01mg/Lとした。

B君:TDIとは、Tolerable Daily Intakeで、ヒ素の毒性が現れない摂取量。体重あたり、日あたりで、実験や過去の経験値によって決められている。ヒ素は天然物なので、しかも、ヒ素の多い地下水を飲用に使っている国が多いので、例えば、バングラデシュなどだけれど、症状に関するデータ数は多いので、信頼性の高い値が得られている。

A君:個人差は無いのか、と言われれば、無いとは言えないが、それを上回るデータ数があるので、信頼できるということになる。

B君:結局、水の寄与率、体重、飲料水量を考えると、0,002×50×(0.2)×(1/2)=0.01なので、基準値が0.01mg/Lとなった。

A君:この最後の部分は、今回については、特に必要のない情報かもしれないですね。

B君:まあそうかも。もっとも重要な事実は、ヒ素の場合には、環境基準値が水道水の水質基準と同じ値だということ。

A君:そして決定的に重要なことが、ボトル水の場合のヒ素の基準値は、水道水よりも5倍もゆるい。すなわち、0.05mg/Lだということ。今回、検出されたヒ素の濃度は、ある種の通常のボトル水よりも少ないのです。

B君:今回の検出値が地下水は0.019mg/Lと約2倍なので、豊洲の地下水をミネラルウォータとして売っても、ヒ素に関して言えば、問題はないということ。

A君:しかも、水の寄与率20%という仮定が入っているということは、それ以外の食料からのヒ素の摂取量が、水の4倍分はあることも普通の状況だということ。

B君:例えばヒジキがヒ素含有量が多い食材として有名。

A君:ミネラルウォータは、ヒ素と鉛に関しては、水道水よりも基準が緩いことを是非覚えていただきたい。その理由は、ミネラルウォータとはミネラル(鉱物)が含まれていて初めてミネラルウォータなので、多くの場合、地下水が使われる。地下に長い間溜まっている間に、鉱物が徐々に溶け込むことを利用している。ヒ素も立派な鉱物なので。

C先生:ミネラルウォータの件は、ウェブでも同様の情報が流れた。水道水は、毎日毎日飲むものだから、基準が厳しい。ボトル水は、嗜好品として扱われていて、個人の選択に任せることなので、毎日2L飲むことを前提としていない。ということは、ミネラルウォータやどこかの地下水を料理に、例えば、炊飯や味噌汁、お茶用などにも使うことは、安全性が保障されていないということになる。
 ということで、ベンゼンに行こう。

A君:ベンゼンですが、これは液体状の有機物。石炭や石油には、微量成分として含まれています。ガソリンには、かつて最大5%(容量ベース)のベンゼンが含まれていました。2000年にそれが1%まで削減されましたが、今でも入っています。

B君:基準値は、
環境基準値  0.01mg/L
水道水基準値 0.01mg/L
WHO飲料水質ガイド 0.01mg/L
米国EPA  0.005mg/L
EU     0.001mg/L


A君:米国のEPAが決めた基準値は、元は0.01mg/Lだった。その数値は、ヒトがベンゼンを経口で摂取すると、発がん(白血病)のリスクが10**−5(10万分の1)になるように定めた。

B君:発がんリスクが10万分の1ということは、その量のベンゼンを毎日摂取していると、10万人に1人の割合で、白血病患者が増えるということ。

A君:今回検出された値は、その1.1〜1.4倍。確かに環境基準を超えています。しかし、日本の水道水の基準値は、環境基準に等しい値なので、1日2L飲むことが前提となった判定基準が採用されています。豊洲の水を毎日1.4リットル飲む人がいれば、10万人に1名が白血病になるという確率だとされている訳で、豊洲の地下水を日常用の水に使わない限り、何の問題もないと言える数値です。

B君:前回報告したシアンの場合には、環境基準値が検出されないこと(定量限界0.1mg/Lの測定器で)、水道水質基準値が検出されないこと(定量限界0.01mg/Lの測定器で)と、環境基準は10倍緩く定められていた。しかしベンゼンも、ヒ素も、環境基準と水道水基準値は同じ値だった。

A君:このような基準値は、できれば、最終的にゼロに近づける方が良いと一般には考えられていて、特に、ゼロリスク主義が強い国、例えば、スウェーデンのような国が加盟しているEUは、その傾向が強いと言えると思います。ただ、もしも理想的基準値をゼロだと決めてしまうと、何か起きて基準値を超すと、特に水道水の基準値の場合には、給水を止めなければならない状況になることが考慮されないことになります。そのような断水がもしも真夏に起きたとすると、一般市民は、水を獲得するために、給水車への行列に並ぶことになって、かなりの人数の高齢者が熱中症によって死亡するといった別の事故が起きるリスクが高くなってしまうのです。そのため、水道水の基準値は、厳しくすればするほど良いというものではない、と言えます。

B君:要するに、それぞれの国において、実質的な被害者でないと考えられる範囲内で、どのような数値にするか、ということは、あらゆる可能性を考慮した上で、行政的判断によって行われているということ。

A君:EUの基準値は、多くの場合、厳しいのだけれど、やはり例外があります。少なくとも、2003年まで、EUは、鉛の飲料水の基準値が、日本の2.5倍緩かった。鉛による土壌汚染は、ヨーロッパの場合、鉛のタンブラーや鉛の食器が歴史的に多数使われていたこともあり、かなり一般的で、余り厳しくすると、何かあったときの副作用を考えざるを得なくなるので、それを考慮して適切な数値が使われています。

B君:水銀の基準値は、日本が厳しい。米国の1/4、EUの1/2。これは、日本には水銀が少ないということではなくて、恐らくだが、水俣病という公害病を引き起こした水銀に対する対策がかなり高度に行われた、という歴史的な事実に基づいていると思う。

A君:米国の基準値で緩いのはフッ素。これは、土壌中のフッ素が恐らく多いのだと思います。中国にもフッ素の多い場所があるのですが、日本のような国土の成り立ち、すなわち、太平洋プレートが日本列島の下に潜り込むとき、プレートの上部に溜まった沈殿物が地上に持ち上がってできたのが日本列島だとことなので、水に溶けやすい化合物が多いフッ素は、日本は少ないのでしょう。

B君:フッ素が多すぎる水道水を毎日飲んでいると、歯に茶色の斑点が出るという症状が、中国や米国の一部地域では認められている。しかし、フッ素を除去するのは、なかなか難しい。そのため、米国では、フッ素の水質基準が緩目になっている。

C先生:そろそろ結論。今回、豊洲で検出された環境基準を超えたベンゼン、ヒ素は、その健康影響を考えるのであれば、いずれも、水道水としての基準を超えたと言うべきである。水道水は、毎日2Lを飲用することが基準になっているので、豊洲のこの地下水を毎日1L以上飲むのでなければ、問題が出る可能性は低いというレベル。この地下水が、魚市場で行われる取引によって、魚の安全性に影響を与えるという可能性は、何事も完全なゼロだと断言することはできないが、だからといって、可能性が高いとは決して言えない。勿論、安全だけでなく、安心をも同時に求めるのが最近の動向なので、どのようなメカニズムで、地下水の汚染が魚に移行しうるのか、その道筋をすべて考えて、総合的な安全性を評価することが必要であるが、どう考えても、結果は最初から見えている。