-------

 ベストミックスを考える論理   01.24.2015
 統合的評価の一般論はあるか? 



 いよいよエネルギーベストミックスの議論が始まるようです。ベストミックス、具体的には、化石燃料、原子力、自然エネルギーをどのような割合で電源用のエネルギーとして使うのが最善なのか、ということで、複数の要素を統合的に議論する必要があります。そのためには、なんらかの合理的な方法論を見出す必要があります。


C先生:電源のベストミックスということについて、電気事業者などの様々な主体がどのような主張をしているかを最初に検証してみよう。

A君:まずは、電気事業連合会
http://www.fepc.or.jp/enterprise/supply/bestmix/

 『日本のエネルギー自給率はわずか4%。この脆弱なエネルギー構造のもと、国内の電気事業は、伸び続ける需要や昼夜間における需要格差の拡大といった多くの課題に対応しながら営まれています。
 かつては水力発電が主流だった日本の発電。やがて豊富で安価な石油を使った火力発電へと移行しましたが、オイルショック以降、発電方式の多様化が求められ、原子力や天然ガスなど石油に変わるエネルギーの開発と導入が進められてきました。
 特に、確認埋蔵量の約6割が政情が不安定な中東諸国に偏在している石油と違い、原子力発電の燃料となるウランは、世界各地に分布しているので、安定して輸入できます。
 さらに原子力発電は発電時にCO2を排出しないという点で、地球温暖化防止に寄与するとともに、他電源と比べ発電コストが安く、発電コストに占める燃料費の割合も低いため、安定したコストで発電できます。
 こうした背景の中で、将来にわたって安定かつ経済的に電気をお届けするために、原子力をベースに、火力、水力など、それぞれの発電方式の特性を活かし、組み合わせる形が日本における「電源のベストミックス」と考えています。』


B君:そもそも、どのような割合で混ぜるのが良いのか、という定量的な議論が全くなされていない。『原子力をベースに』という表現があるけれど、どのぐらいの割合がベストなのか、という論理的な根拠は示されていない。要するに、ベストミックスの議論になっていない。まあ、原子力を動かせれば、それで良いということなのだろう。

A君:次は、日本技術士会の電気電子部会の報告書
http://www.engineer.or.jp/c_topics/001/attached/attach_1528_1.pdf

 この報告書は、「2030年における電力エネルギー・ベストミックス」平成25(2013)年7月9日、という題名で、S+3E(Safety+Energy Security+Economy+Environment:我々の主張と同じく、Sが先に来ているという特徴がある)の4つの要素を3種の一次エネルギーに対して適用して、次のような結論を出しています。

 『電力エネルギー・ベストミックスの検討においては、自然災害などによる再生可能エネルギーの長期不利用や、原子力発電の予期せぬ停止などの場合においても火力発電により電力の供給を継続する(いわゆる計画停電などのないように)ことが重要である。
 そこで電力エネルギー構想会議は、『S+3E の同時達成を目指し、再生可能エネルギーの活用を一層拡大するための火力の調整機能を活用したベストミックス』を提案する。社会の具体的活動を明確化するためには目標設定したビジョンを示すべきと考えるので、再生可能エネルギーの導入には限界があること、原子力は社会的に容認される範囲内であること、環境負荷を可能な限り小さくすること特にCO2排出量を低減できることなどから、具体的にはケース 4.3 と同等の原子力発電約 35%、再生可能エネルギーによる発電約 15%、火力発電約 50%で発電電力量を賄う設備を構築し、社会環境に対応して運転割合を柔軟に運用することを提案する。
 これは当面目標にする発電電力量であり、再生可能エネルギーの低い利用率と原子力・火力の定期点検などを考慮した適正予備率(予備力)8%を確保し、電気事業者間の電力融通も考慮し、電力を安定供給するための発電量を示している。なお、特定地域における公共施設の非常用電源は、再生可能エネルギーによる小規模分散型による地域電力供給が望ましい。』


B君:この提案は、かなり論理的なアプローチだと評価できる。3種の一次エネルギーをS+3Eの4つの要素について評価して、その結論として、原子力35%、再生可能エネルギー15%、火力発電50%を2030年におけるベストミックスとして推奨している。

A君:原子力を35%ということは、2010年の実績である原子力26%を超していることになります。すなわち、古い原発をより大型の原発にリプレースするシナリオだということになります。

B君:それは、例えば次のサイトで解説されているように、
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1311/11/news025.html
2012年6月時点の素案(野田内閣時代)として、2030年における原発比率が、35%、25%、20%、15%、0%、2020年で0%という6種類のシナリオが提示されたからだ。そして、最大の35%が選択されたという訳だ。

A君:次に、魅力的な題名の文書を一つ紹介します。日本エネルギー経済研究所の小山堅氏のもの(2012年5月)で、題名は、『エネルギー・ベストミックスの連立方程式』です。
http://eneken.ieej.or.jp/data/4339.pdf

 この小山氏の判定基準は、3E+S+Mという式になっていて、MはMacro Economyへの影響だということです。それは、通常言われているEは単なるEconomyではなく、Economic Efficiency(正しい定義)だからとのこと。やや特殊な論理だと思います。

B君:この小山氏の題名は全く正しいと思うものの、どのような割合がベストミックスであるのか、という結果がなんら出されていない。今回の我々の議論には有効ではない。

A君:逆に、ベストミックスはそもそも幻想だという国際環境経済研究所のWebサイトを紹介します。
 『原子力を含む国内エネルギー供給のベストミックスは幻想にすぎない』2013年6月27日(第二次安倍改造内閣)というものでして、
http://ieei.or.jp/2013/06/opinion130627/
 東京工業大学名誉教授の久保田 宏氏の主張です。

 そのもっとも本質的と思われる主張は、以下の文章で表現されています。

 『供給の安定化のために、国産エネルギー源としての原子力や再エネを用いればよいとするが、原子力では事故の余りにも大きいリスクが、再エネでは、現状での高い生産コストが大きな障害になる。さらには、この電源選択のなかに、地球温暖化対策としてのCO2 排出削減の要請まで加わる。これらの複数の目標に対して電源構成の最適比率(ベストミックス)を定量化するためには、それぞれの目標に対して、解析の実施者による恣意的な重みづけが数値化されなければならないから、客観的な評価に耐えうるような最適値を求めることは、科学技術の常識を離れた困難事となる。』

B君:これは、余りにもひどい主張なのだけれど、日本の経済界の一部の主張は、この久保田名誉教授(1928年生で、もともとの専門は化学工学)のものと余り変わらない。3E+Sという複数の条件を満たすのは難しいから、経済的にもっとも優れている石炭に全面的に依存するしかない、というもので、いまだに「温暖化懐疑論」を支持している。

A君:次のような文章から、久保田氏の主張の本質がお分かりになるでしょう。
 『いままでの原発依存のエネルギー政策を脱却するには、当面、輸入価格が最も安価で安定な供給が保証される石炭火力がある。次いで、もし、より安価に入手できるようなった時の天然ガス(LNGでなく、パイプラインで運ばれてくる天然ガス)が利用される。さらには、これらの化石燃料の価格が高くなった時点で、化石燃料を長持ちさせるための再エネ電力が市場経済原理の下で(FIT制度によらないで)導入される。枯渇に近づいた化石燃料による火力発電を再エネ電力で支援しても、現代文明生活を維持するために必要な電力が得られなくなると判明した時点で初めて、大きなリスクを冒しての原子力の利用が検討されることになる。敢えて言えば、このような電源種類別の利用比率の時間的な変遷が、将来のその時々の電源構成のベストミックスになるであろう。』

B君:化石燃料が枯渇するという古い常識に基づいた考え方になっている。現時点の気候変動を巡る議論は、後ほど述べることになる。

A君:その続きです。
 『地球温暖化は地球の問題である以上、世界中の協力なしに、日本だけが国民の経済的な負担の下で国益を無視してCO2削減にお金をかけてみても地球に対する何の貢献にもならない。いま、日本で問題になっているのは、原発代替エネルギー確保での経済最適の問題である。その最適解が、CO2の排出量の多い石炭火力発電だとしたら、地球のCO2排出削減のためには、当面、世界一優れた日本の石炭火力の技術を世界に移転・普及することで、地球上の CO2排出削減、すなわちエネルギー資源の保全に貢献すればよい。ちなみに、世界の電力生産の 40.5 %が石炭で、日本でのそれは 26.8 % に過ぎない。』

B君:世界一優れた日本の石炭火力技術、というけれど、その技術を使った発電所から排出されるCO2量は、オバマ政権が提案している排出目標値に届かない。

A君:しかし、オバマ政権の提案は、議会を通らないので、現実の規制にはならないのですが。

B君:久保田氏のような、この手の一神論でエネルギー政策を決めることができるという考え方は、全く不可解。今や、石炭火力を増設すれば問題が解決するという考え方は、もっとも問題を深刻にする考え方であることがほぼ確実なのに。

C先生:ベストミックスについて、述べられているいくつかの文章を紹介してもらった。ここでは紹介されていないが、反原発派の主張もやはり一神論の一つ。いずれの方向の主張だとしても、一神論的議論は、有害な議論だということが、まずは、すべての人々と共有すべきことだと思う。

A君:いくら難しいと言われても、やはり3E+Sのような複数の条件を満たすような議論をなんとか展開する以外に科学的な方法論は無いと思いますね。

B君:二番目に紹介されている技術士会の論文は、読んでいただけると分かることだが、様々な観点からの検討を行うことによって、この難問に真正面から取り組んでいる。一つの取り組みの見本みたいなものだ。

A君:まあ欲を言えば、いささかコストの優先順位が高い議論になっている点がありますね。コストは、まあ、極めて重要ではあるのですが。

B君:技術士会の論文に批判が来るとしたら、安全性の議論がこれで良いのか、というところだろう。原子力の重大事故(大量の放射性物質=100テラベクレルを超す)の発生頻度を1基あたり100万年に1回以下とした、原子力規制委員会の2013年4月10日の「新規制基準骨子」を評価して、今後の原子力発電所におけるリスクは受容できる範囲にあると評価していることだ。

A君:加えて、温室効果ガスの放出については、具体的な数値を示していませんが、二国間オフセット・クレジット(JCM)を構築・実施するという表現ぐらいですね。IPCCのAR5の議論を踏まえると、不十分な議論であると認識せざるを得ないですね。まあ、時期を考えると仕方がないのですが。

B君:複数の条件を一つに統合する指標というものは、いくつかあるのだけれど、いずれの場合にも、これなら正解という方法論はない。しかし、一神論での議論よりは、100倍もマシだと言うこともできる。これに真正面から取り組むとしたらどうなるか、という検討は不可欠だ。

A君:それではやって見ますか。
 3E+Sをもう一度復習。
E:Energy Security
E:Environment
E:Economic Efficiency
S:Safety

 これらの4つの要素を、3種類の一次エネルギーそれぞれについて、評価することになります。

B君:これらをどう評価するか。最近の傾向だと、エネルギー関係、環境関係のなどの評価は、リスクガバナンスという言葉で語られることが多くなってきたと思う。 リスクガバナンスとは、昨年の8月9日に本Webサイトで記事として紹介したけれど、IRGC(International Risk Governance Council)が主として主張していることで、
1.プレアセスメント=Pre-assessment
2.鑑定=Appraisal
3.分析と評価=Characterization and Evaluation
4.管理=Management

の4種類のループを回るのだけれど、その中心にはステークホルダーとのコミュニケーションが置かれている。だから、より正確に表現すると、
1.プレアセスメント=Pre-assessmentとその後のコミュニケーション
2.鑑定=Appraisalとその後のコミュニケーション
3.分析と評価=Characterization and Evaluationとその後のコミュニケーション
4.管理=Managementとその後のコミュニケーション

 以上の各段階を踏んで、もしもコミュニケーションの実施段階で検討の不十分さが判明してしまったら、前の段階に戻るといった作業をすることになる。

A君:今回の具体的なやり方としては、

化石燃料の
E:Energy Securityのリスクガバナンス
E:Environmentのリスクガバナンス
E:Economic Efficiencyのリスクガバナンス
S:Safetyのリスクガバナンス
をできるだけ具体的に議論し、コミュニケーションを実施する。

次に、原子力の
E:Energy Securityのリスクガバナンス
E:Environmentのリスクガバナンス
E:Economic Efficiencyのリスクガバナンス
S:Safetyのリスクガバナンス
をできるだけ具体的に議論し、コミュニケーションを実施する。

そして、自然エネルギーの
E:Energy Securityのリスクガバナンス
E:Environmentのリスクガバナンス
E:Economic Efficiencyのリスクガバナンス
S:Safetyのリスクガバナンス
をできるだけ具体的に議論し、コミュニケーションを実施する。

B君:これらの議論とコミュニケーションを繰り返すことによって、なんとか合意形成を目指すといった方法論になるだろう。

A君:これを具体的に議論するのは、相当な手間が掛かる。

B君:リスクガバナンスによる合意形成がどのぐらい容易かどうか、ということが議論の主要な論点になることはほぼ確実。

A君:ちょっとだけ具体的に考えてみますか。いずれにしても、リスクガバナンスの場合のリスクの定義は、ISO31000流を採用します。
 すなわち、リスクの定義は「目的に対する不確かさの影響(期待されていることから、好ましい方向/又は好ましくない方向に乖離すること)」、であって、悪いことばかりを考えるのではなく、良いことも起きる可能性を考えることになります。

化石燃料の
E:Energy Securityのリスクガバナンス
 ◆原油価格の変動がこのところ非常に大きい
 ◆国家間の問題によって、原油の輸送が止まる可能性は増大しつづけている
E:Environmentのリスクガバナンス
 ◆どの化石燃料も、埋蔵量が尽きる前に、気候変動リスクが限界を超すため、価格が大幅に下落する
 ◆価格が低下すると、自然エネルギー導入を阻害
 ◆国際的な環境税を導入することが唯一の対応になるが反対勢力によって、合意されない
 ◆CCSを強制化することが唯一の解であることは明らかだが、合意されない
 ◆もしもCCSを受け入れるのであれば、化石燃料の使用が許容され、結果的に長期間使われる
E:Economic Efficiencyのリスクガバナンス
 ◆化石燃料の価格低下によって、化石燃料を使うべきだという論議が勢いを得る
S:Safetyのリスクガバナンス
 ◆Safetyの実態は、Environmentとほぼ同義。リスクはほぼ気候変動リスクと海面上昇による土地の喪失リスク、それに、淡水供給量の減少リスク


B君:それでは、次。

原子力
E:Energy Securityのリスクガバナンス
 ■ウランの供給は比較的余裕があるが、世界の原子炉の数が1000基を超すあたりから、若干の供給不安が起きる
 ■しかし、ウランだけが核燃料ではない。トリウムへの移行がインドなどを中心に行われる
 ■したがって、Energy Securityが重大になる可能性はかなり低い
E:Environmentのリスクガバナンス
 ■放射性物質の異常放出によるリスクは、いかなる設備においても、常にゼロではない
E:Economic Efficiencyのリスクガバナンス
 ■原発の安全性を高める要請から、原発の発電コストは、安いとは言えないものになる
S:Safetyのリスクガバナンス
 ■巨大な原発ほど採算性が高いために、制御不能ぎりぎりの大容量原発が開発される
 ■そのため、パッシブ・セーフティーが重要視されない場合が多発する

A君:では最後。

自然エネルギー
E:Energy Securityのリスクガバナンス
 ●基本的に地域エネルギーなので、リスクは低い
E:Environmentのリスクガバナンス
 ●バードストライクなどは、対応が不可能ではない
 ●低周波音は、住居との距離を取ること
 ●洋上風力が主体になれば、自動的に解決
E:Economic Efficiencyのリスクガバナンス
 ●最大のリスクは不安定さを補償しようとすると高くつくこと。
 ●系統強化のコストをどのように考えるか。
 ●電池による強化は無駄だという主張に対して、どのようなロジックを考えられるか
 ●日本のような資源の無い国にとって、エネルギーの自給が可能になれば、全く新しい国の成立ち方を考えることができるようになる。
 ●それには、不安定さをそのまま受け入れるという認識の変化が不可欠だが、これが既得権を犯すことになる
S:Safetyのリスクガバナンス
 ●最悪の状況では、エネルギー供給不足の事態が発生しかねない。病院などでそれが起きれば、命に関わる。


B君:このように記述してみると、どれもこれも問題児であることは明らかなのだが、どう考えても、もっともリスクガバナンス面で厄介なのは化石燃料だ。具体的には、気候変動が顕在化することによって、化石燃料が使いにくくなり、すべての化石燃料が余るという事態が発生し、価格が大幅に下がる。となると、どうして石炭や石油をもっと使わないのだ、という現在でもしばしば主張されることが、もっと強く主張されることになる。これがリスクガバナンスが阻害される最大の原因になるように思える。

A君:それに、資源国にとっては、唯一の冨の源泉が使えないことになって、特に、イスラム圏の石油資源国は、どういう事態になるやら、想像できない。

B君:日本のような国は、資源国ではない国は、よくよく考え抜いた将来対応の計画を作っておく必要がある。例えば、今後新設する大規模石炭発電には、2030年時点でCCSを付加できるように、建設時に土地に余裕を持たせておくこと、といった条件を考える必要があるだろう。それによって、地球レベルで化石燃料も使える時代が継続して、国家間の紛争も回避できる可能性が出てくる。すなわち、CCSは、国際平和的な観点も有する技術だということになる。

C先生:まあ、そんな状況になるのはほぼ確実だ。理想的な解決法は、できるだけ早目に気候変動対策を実現することによって、遠い将来でも、移動体からであれば、若干のCO2の排出が可能な状態を維持することができる。これ資源国でも持続可能な状態が長く継続し、世界の平和のために重要な要素になりそうに思える。要するに、まずは、固定サイトでの大規模な化石燃料燃焼には、天然ガスを含めてCCSを強制することが、2030年以降には現実味を帯びる、と考えるべきだろう。
 今回、結論がでるところまで議論を進めなかった。単に、若干の議論の例を示しただけだが、これだけを見ても、リスクガバナンスの容易さを判定基準にして、三種類の一次エネルギー源を電源用としてどの程度使うべきか、という判断を行うことには、かなり合理性があると思われる。
 少なくとも、一神論的な議論を排除するには、このような議論の進め方を行うことが正当的であるという主張が意味を持つだろう。