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「植物樹脂」の環境性能 09.12.2004 |
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「生分解性プラスチック」の話はご存知だろうか。 かつて、「プラスチックを燃やすとダイオキシン」という「信仰・信念」が日本中にはびこっていた。実際、ダイオキシンは塩素を含む化合物であり、塩素を主成分として含む樹脂は塩ビと塩化ビニリデンだけであることもあり、その他の樹脂に関しては真実とは言いがたいものであった。もしも科学的に理由付けを行えと言われたら、プラスチックを燃やすと不完全燃焼を引き起こしやすい。そのとき、生ゴミ中の塩分が不完全燃焼の結果生じる有機物と反応し、ダイオキシンが生成する可能性がある、といったことになるのだろうか。 その「信仰・信念」が現時点では、「迷信」に近くなっている。焼却炉の改善のためである。そのためもあって、「生分解性プラスチック」という名称の持つインパクトは無くなった。「プラスチックのようにものを埋め立ててはもったいない。エネルギー回収をするのが本筋だ」、という共通理解になりつつある。 そのためか、最近では元「生分解プラスチック」が、名前だけ変えて「植物樹脂」「バイオプラスチック」「グリーンプラ」と呼ばれるようになった。そして、9月1日の「今月の環境」に取り上げたような記事が出る事態になっている。 環境問題は複雑怪奇である。あの朝日新聞のように、単純に「植物樹脂だから環境にやさしい」と言い切れるのだろうか。 C先生:「植物樹脂」の話である。朝日新聞の記事のトーンは、またもや「環境天使」の誕生のように思える。本当のところはどうか。 A君:実のところ、「生分解性プラスチック」の「環境天使化」については、かなり前から行われていて、ソニー、富士通がその推進者だったと言えるでしょうか。 B君:それが、今回の朝日の記事のように、食品包装にも使えるようになって、普及が見込まれるということのようだ。 C先生:価格が高いから、そう簡単には普及しないと思われるものの、その売り込み方が、「環境天使的」であるのが気になる。これで釣られる環境部なるものの実力は知れているのだが、多くの場合、環境担当役員が訳も分からず、単なる雰囲気で環境部に検討をさせ、導入に向けて決定的な役割を果たすということが多い。 A君:訳を十分に分かっている環境部の部員などは、苦々しく思いながらも、やはり役員には逆らえないということになりますね。 B君:「環境天使 vs.環境魔女」という分類は、極めて分かりやすいので、役員のような専門外の人間に説明をするのは最適。 A君:今回の環境天使は、天使ぶりがこれまでのような健康リスクではなくて、「二酸化炭素排出量」になってくるでしょうから、果たしてどのぐらい訴える力があるか、これは疑問。 B君:「生分解性プラ」のときのような「ダイオキシン大魔女」が不在なので、確かにインパクトは低いかもしれない。 C先生:二酸化炭素排出量になると、原料が植物だからといって、ゼロという訳には行かない。 A君:カーボンニュートラルという考え方を説明しておいた方が良いでしょうか。 C先生:そうだな。 A君:もっとも典型的なものが材木でしょうか。木造住宅を作るには、木材が使われますが、木が生長するときには、大気中の二酸化炭素と地中の水から光合成なる化学反応を行って、セルロースのようなものが合成されます。これが木の主成分。ということは、木は大気中の二酸化炭素を減らすことに貢献していることになります。 B君:もしも温暖化という言葉を使えば、木を育てることは、温暖化を遅くする効果があることになる。 A君:そして、木材として長期間使用すれば、その間、二酸化炭素は蓄積されていることになりますが、その二酸化炭素は、もともと大気から取り入れたもの。したがって、解体されて木材が燃やされたとしても、その二酸化炭素は、大気に戻ったことにしかならず、大気中の二酸化炭素量は増えないことになります。 B君:だから、炭素の量は変わらないということで、カーボンニュートラルと呼ばれる。 A君:しかし、厳密に言えば、こんなことはありえない。なぜならば、木を切るときにも、機械が使われ、運搬され、製材される。その後、消費地まで運ばれる。だから、なんらかの化石燃料起源のエネルギーが使用されて、完全なカーボンニュートラルなどは有り得ない。 C先生:そのような状況をできるだけ科学的に解析する手法としてライフサイクルアセスメント=LCAがある。木を原料としている工業製品である紙について、若干説明をしてみるか。 A君:了解。図1を見てください。この図は、紙の製造に関わる二酸化炭素排出量です。再生パルプをどのぐらい使用するか、それによって二酸化炭素排出量がどのぐらい変化するか、という表示になっています。 B君:非常にラフに言えば、紙1トンを作るのに、化石燃料使用によって、二酸化炭素1トンがでる。そして二酸化炭素排出量は、再生パルプ含有量の多い紙ほど多くなる。 A君:紙の製造プロセスでは、上質紙1トンを製造するために4トン近い二酸化炭素が放出されるのですが、そのうち、バイオマス起源と書かれている部分は、元々木材がもっているリグニン分を燃やして出る分であり、この分は、上述のカーボンニュートラル分として勘定するのが普通。 B君:ところが、再生パルプを原料にする場合には、もはやリグニン分は含んでいないから、もしもエネルギーを得ようとしても、もはや不可能。 A君:カーボンニュートラルの話と、植物起源の材料のLCAの序論が終わりましたので、いよいよ「植物樹脂」の話に行きますか。 B君:植物樹脂でもっとも一般的なものに、PLAなる樹脂がある。これはポリ乳酸樹脂と呼ばれるもので、乳酸(lactic acid)、すなわち、乳酸菌が作るものと同じものだが、これを重合して樹脂にする。 A君:しばらく前までは、乳酸から水分を除去して精製するために相当のエネルギーが必要だということだった。そのために、ポリ乳酸樹脂を作るには、普通の樹脂、例えば、PEやPPを作る場合よりも大量の化石燃料が使用され、なんのための「植物原料」なんだ、と言われていた。 B君:最近のデータによると、さすがに多少化石燃料の使用量は減少している。カーギル・ダウ社のデータによれば、1kgの樹脂ペレットを作るのに必要なエネルギーMJは、以下のようなものだという。 表1 プラスチック(ペレットまで)を製造するために必要な化石燃料使用量(MJ/kg樹脂) ナイロン66 142 A君:もっとも一般的に使用されるプラスチックとしては、硬い樹脂ならスチレン(PS)、フィルムならポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)。上の表のHIPSというものは、耐衝撃性を高めたポリスチレン。ブタジエンなる物質を混ぜて重合して、ゴム的性質を多少加えている不透明な樹脂。GPPSは、(General Purpose )の略称で、通常の透明な樹脂。 B君:ポリ乳酸樹脂も、普通に作ると、GPPSのような硬い透明な樹脂になる。比較的もろい。耐熱性も低い。フィルムにならないのも欠点だった。 A君:そこで、添加剤が検討され、さらに、加工法も検討されて、最近では、繊維やフィルムもできるようになった。 B君:ただし、そこで気をつけなければならないのは、先ほどの樹脂ペレットまでのLCAデータに加えて、その加工分や変性分のエネルギーが加わること。それほど多くは無いとは言え、もともとの差がそれほど無いものだから、フィルムに適しているPPとの差は、縮まる方向であるのは間違いの無いところだろう。 A君:東レの話ですね。 C先生:ポリ乳酸の開発の状況は分かったが、それでは、ある製品を対象としたとき、環境面の優位性がどこまで主張できるかどうか、検討をしてみよう。 A君:「LCA、ポリ乳酸」というキーワードで検索をすると、環境省の報告書が2編見つかります。 窓付き封筒のLCA クリアフォルダーのLCA 窓付き封筒の素材として、ポリスチレンを使った場合と、ポリ乳酸を使った場合の比較が最初のものでして、結論的には、ポリ乳酸の方が、二酸化炭素排出量が低いということになっています。 B君:窓付き封筒は、請求書などの発送には便利なものなので、最近多用されている。窓用の素材としては、もっとも多く使用されているものが、ポリスチレンだ。ただし、最近は、紙を加工して透明化しているものも多い。例えば、http://www.kyodoprinting.co.jp/kphome/topics/eco_action_p/eco_envelope.htm A君:その製品はワックス加工ですが、もともと、半透明な紙であるグラシン紙を使ったものもある。グラシン紙については、例えば、 A君:環境省のLCA結果にしても、グラシン紙を薦めるべきなのか、あるいは、ポリ乳酸が良いのか、となったら、リサイクルプロセスを含めると、まあ、なんとも「どんぐりの背比べ」ですが、グラシン紙という結論の方が良いかもしれない。 C先生:まあ、大差はないというのが実際のところだろうな。 A君:次のクリアフォルダーの比較ですが、この場合には、ポリ乳酸、ポリプロピレン、再生PET樹脂の3種の比較がなされていて、その結論は、まあ大差がある訳ではないが、再生PETが良いとのこと。 B君:ペットボトルのリサイクルを推進する立場から言えば、当然とも言えるだろう。 A君:この解析では、最終的に熱回収まで考えてのことのようですね。 C先生:となると、ポリ乳酸のLCA結果としては、余りインパクトがあるものが見つからないということになる。やはり、原料が植物起源だからといって、それだけでは、同じ植物起源である紙も考慮すると、それほどの優位性は無い。 A君:そろそろ、「植物樹脂」の優位性の議論に入ったようですね。 B君:もともとは「生分解性」に優位性を求めるのが一般的だった。なぜならば、プラスチックは埋め立てるものだったから。 A君:ところが、プラスチックは燃やして熱回収と言うことになったとたんに、ポリ乳酸は発熱量が低くて、熱回収には余り有利ではない。 B君:しかし、生分解性が有効に活用できるという用途もあるにはある。例えば、農業、林業、園芸用素材で、例えば、農業用マルチ、林業用のプラ容器、など。これは土壌に最終的には混じってしまう場合が多いので、その際に、生分解性の物質であれば、環境影響は少ない。 A君:同じようなことが言えるのが、堆肥を入れるためのゴミ袋。そのまま堆肥装置に入れることが可能だから。 B君:さらには、釣り糸のように、どうしても環境中に散乱することが宿命のもの用。 C先生:ゴミ袋で思い出した。「今月の環境」で文句を付けたが、朝日新聞の記事に書いてあった「リサイクルも可能」と言う言葉がナゾだったのだが、ここまで考えてリサイクル可能と書いたのだとしたら、それは立派とも言えるが、表現不足という非難をする方が当たっているかもしれない。 A君:生分解性を考えないと、ポリ乳酸の意味、存在価値は何なのでしょうか。 B君:将来的には、プロセスがさらに進歩して、LCA的な解析結果が良くなる可能性が一つ。 C先生:それに、石油の価格が上昇したときに、植物原料の樹脂を準備しておくことが、石油化学系企業の存続にとって非常に重大な意味を持ちうる。これが植物樹脂の最大の効用だ。 A君:結局のところは、環境対応というよりは、将来のビジネスリスクを減らす商品として、植物樹脂の役割がある、という結論ですか。 B君:しかし、その点では、いささか疑義がある。なぜならば、いかに「くずトウモロコシ」を使っているとは言っても、それが食糧であることに変わりは無い。今後、食糧供給不足が起きたとき、石油以上に原料の確保が難しくなるのではないか。 C先生:正解。それが実に最大の問題だと見ている。そもそも、このポリ乳酸なる樹脂の最大手であるカーギル社は、穀物の大手企業だ。アメリカの国際的な食糧戦略の担い手でもある。アメリカという国は、食糧は戦略物資であるという位置付けなので、その世界戦略を支えるのがカーギル社だとしたら、この「植物樹脂」もアメリカの食糧戦略の一環ではないか、という眼を持つことが重要だ。 A君:だとすると、食糧の価格が下がったら、プラスチックの原料にまわし、高騰したら食糧として売る。こんな戦略で企業利益を確保するということが目的だとしたら、日本企業は、植物樹脂を本当に日本国内に売り込むべきなのでしょうか。 B君:企業には、そんなことを考える人は居ないだろう。目前の利益が最重要項目だから。 C先生:植物樹脂の将来だが、本当のところ、可食部を使っている限りは、本物とは言えない。非可食部であるトウモロコシの芯とか、サトウキビの搾りかすであるバガスとかいったセルロースからなる部位を使ってプラスチックができるようになることがゴール。勿論、原料は木でも良いのだが、なんとなく、抵抗を受けそうな気もするので。 A君:セルロースを使ってプラスチックということになると、なかなか難しいのでは。 B君:セルロース分解菌だって、この世に沢山ある。牛の胃の中にも居るし、馬やウサギの腸にも居る。 C先生:そんな形になって、初めて植物樹脂は「環境天使」になりうる。現在の植物樹脂は、天使の資格があるとも思えない。 A君:その割には、多くの企業が植物樹脂に乗りそうな気配がするのですが。 B君:「複雑なことは見えない人(=環境担当役員?とマーケティング担当者!)のために、単に、イメージ作り」の世界。 C先生:最近、「環境大悪魔」が居なくなったのも、一つの原因かもしれないが。 |
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