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    パリ協定実現のためのバイオマス戦略 その1 
       未来像が分からない日本
  05.19.2018
               




 パリ協定の2050年における要求事項、具体的には、世界全体でのCO2排出量を概ね半減という目標を満足させようとすると、何につけても生半可な対応では全く無理。しかも、その先の、Net Zero Emissionを実現するとなると、現時点でも何が解として本命なのか良く分からないことが多すぎます。
 現時点で確実に言えるいくつかの条件下での解の可能性としては、
(1)荒れ地・砂漠のある国は、太陽光発電。夜のために、電力を貯蔵する方法をなんとか導入する。集光型の太陽発電にすれば、若干の熱貯蔵も兼ねているが、やはり電力貯蔵を考える必要があるだろう。可能性としては、電池になりそうだけれど、コストを重視すれば、シーメンスの提案のような熱変換・熱蓄積もあり得る。
(2)平坦な国土の国、あるいは、近くに浅い海がある国は、風力発電を主力にして、太陽光発電を若干追加。
(3)多くの土地がある国では、バイオマス発電も可能かもしれない。しかし、バイオマスは熱利用を中心にすべき、という主張もある。
(4)耕作地が余っている国では、バイオマスの可能性はあるが、果たしてどのぐらい有望なのか、非常に不確定要素が大きい。(5)森林が多い国は、やはりバイオマスをどう活用するか、それが鍵となる。熱利用なのか、それとも、発電なのか。それは状況次第だけれど、どのぐらいの炭素税を想定するかで、可能性が違ってくる。
(6)アフリカのような今後の人口の急増が想定される地域で、バイオマスのエネルギー利用が許容されるとしたら、どのような形態になるのか、そのシナリオは不明。

 といった状況だと思うものの、(3)〜(6)のバイオマス関係の実態に対応した最適戦略が何なのか、これは良くわからない
 ということで、今回、何冊か本を続けてご紹介。いずれも、パリ協定以前に書かれたもので、パリ協定実現を想定した記述には、全くなっていませんので、ご了解を。
 初回は、日本におけるバイオマスのパリ協定以前の状況を詳しく記述しているこの本です。
 バイオマス 本当の話 持続可能な社会にむけて
  著者  泊 みゆき
  初版  2012年3月1日
  発行所 築地書館株式会社

 どうやら、日本の2050年のバイオマスの未来像は、全くカオスのようです!!


C先生:パリ協定が化石燃料の使用を止めることを強制している。その理由をできるだけ簡単に表現すれば、「化石燃料が含んでいる炭素分は、数億年の時間を掛けて、植物が大気中から吸収したもの。それを産業革命から始めたとしても300年。実際には、1950年からCO排出量が急増したが、それは、@.人口の増加、A.化石燃料文明の拡大が原因だけれど、いずれにしても、実質的に100年以下の間に放出したもの。そのため、大気中のCO濃度が急増し、何もしなければ、今後も、年間放出量はほぼ直線状に増加してしまう。その上、COの大気中の寿命は1万年程度だから、一旦放出したCOが減少することは、現人類の文明史の時間軸の中では、期待できないと考えるべき。すなわち、今の状況が続けば、人類が滅亡し、その後にCO濃度はやっと減少しはじめる。」

A君:ということは、COは、地球上の植物だけが吸収する。実は、海洋も若干吸収し、岩石に直接吸収されるCOもあるのですが、大気寿命を考えると、量的にはどうということはない程度。

B君:となると、地球上で植物類とどう対処するか、これが、人類にとって重大な問題だということになる。なぜなら、植物は、大気中のCOを吸収して育ったものだから、それを燃料にして熱などに利用しても、大気中のCOが増える訳ではない。

A君:しかし、今回引用するバイオマスの話は、残念ながら、COの地球レベル・100年レベルの話ではなくて、日本という国におけるバイオマスを現時点でどう考えるべきかということなのだけれど、地球レベル・100年レベルの話をいきなり考えるということは論理的に不可能なので、まずは、この日本のバイオマスの現状をしっかり理解すべき、という話。これが今週の話題。

B君:今回の記事でも、その最後には、多少、地球レベル・100年レベルで考えなければならない話に触れることができれば、ということだろう。

A君:以上で、導入部終了。早速、泊さんの著書のご紹介。

バイオマス本当の話―持続可能な社会に向けて
泊 みゆき (著)
単行本: 177ページ
価格:1944円
出版社: 築地書館 (2012/2/1)

ISBN-10: 4806714356
ISBN-13: 978-4806714354

B君:執筆時期としては、東日本大震災頃に開始したのではという印象。この2012年は、日本全体の視野が国内限定といった状況だった。その影響もあるのかもしれないが、記述で、海外の記述は、コラムとして別にまとめられている程度。第1章では、フィリピンのエタノール事業が、イントロ的に記述されているけれど。

A君:まあ、それは後にご紹介として、例によって、目次から。

まえがき
第1章 バイオマスの基礎知識
第2章 バイオマスの持続可能性
第3章 日本でどう利用するか
あとがき


B君:コラムとしては、次ような事項が記述されている。
第2章の中で、
 持続可能性とは
 お米からエタノールを作ってはいけない
 ミラクルな作物ジャトロファの実際
第3章の中で、
 オーストリアの林業とバイオマス利用
 バイオマスのマテリアル利用


A君:さて、第一章の基礎知識から。日本のバイオマスの割合だが、IEAのデータでは、1.2%となっているとのこと。極めて少ない。日本では、そもそも統計が不十分。諸外国の数値は、「よくわかるリサイクルエネルギー」井熊均・岩崎友彦編著から引用されているものでは、データとしてかなり古いようですが、1995年の欧州では、再生可能エネルギーの61%、米国では、38%とかなり多い

B君:日本のデータは無いとのことだけれど、
http://kabuto.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~higashij/lecture/coe06/2han_env.pdf
の辻野氏が引用しているリサイクルのことがわかる事典、エコビジネスネットワーク編のデータだと、1999年のバイオマス発電量は、”新エネルギー”の1%もない。

A君:最近では、バイオマス発電がFITのお陰で異常と言えるスピードで伸びています。次のサイト
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1710/05/news025.html
によれば、2017年3月末時点で、バイオマス発電設備のFIT認定量は、1200万kWを突破。政府の2030年のベストミックスとして、バイオマス発電設備の導入容量の見通し602〜728万kWの2倍。

B君:それも当然で、バイオマス発電のFIT買い上げ価格は、次の表の通り。特に、間伐材等由来の木質バイオマスの価格が高すぎる。いくら証明書が必要といっても、このぐらい建設資材廃棄物との価格差があれば、何が行われても不思議ではない。


表1 バイオマス発電のFIT買い上げ価格

A君:バイオマスの本当の使い方として発電用が良いのか、ということがまず、この本の、もっとも基本的な要検討事項ですね。

B君:まあ、その通り。エタノール事業も同様で、自動車を中心とした燃料用なのだけれど、やはり、問題が多いことを、フィリピンのエタノール事業を例にして、泊さんは記述している。

A君:その理由は、土地の所有制度が不完全な途上国では、共通の問題。だから、ブラジルならまあまあのことが、フィリピンでは副作用を出してしまう。これは、インドネシアの木材の伐採に関する問題と同根ですね。

B君:泊さんが進める議論が、バイオマスには、「よりよい利用法」と「ダメな利用法」があること。「ダメ」の定義は簡単で、経済的、環境的、社会的に問題がある利用法。

A君:「ダメ」な例として、東南アジアにおけるパームオイルを上げているが、同時に、ほとんど問題の無い例もあることを公平に記述しています。このケースだと、ダメのキーワードが、「泥炭」

B君:記述がちょっと簡単すぎるので、補足すべきだろう。

A君:了解。そもそもパームヤシは、乾燥地帯を好む。ところが、東南アジアの低地の多くは湿性林で、水がビシャビシャしているような土地。ここを開発して、乾燥した状況にするには、排水路を整備するなど、大変な工事が必要。泥炭地がどうなるのか、と言えば、これまで、湿性で活動していた細菌に変わって、乾燥状態で活動する細菌が繁殖する。その細菌は、好酸素菌で、炭素を酸化してしまう。すなわち、CO化する。この反応は、当然のことながら、発熱反応なので、下手をすれば、発火する。泥炭火災は、地下にあるので、酸素不足の状態で、ブスブスと燃え続けるし、消火をするのが大変にやっかい。当たり前だけれど、COを大量に発生することになってしまう。

B君:そのために、パームオイルには、生育地の環境適合性が問われることになる。

A君:本書の次の指摘が、エタノール化はダメ。実際その通りだと思う。木材からエタノールを作るには、5万トンの廃材を使って、やっと1400klが作れる。エネルギーの比率で比較すれば、26:1という惨状。これでは確かに全くダメですね。

B君:面白い記述が次にあって、同じ1トンの木屑があたったとして、ケース1:エタノールを作って、それで走らせる。ケース2:発電の燃料にして、電気自動車を走らせる。比較した結論は、電気自動車の方が3倍の距離を走れる。

A君:そのため、泊さんのお薦めコースは、現時点で化石燃料を使っているボイラーを、バイオマスボイラーに転換して、余った化石燃料で車を走らせる。すなわち、バイオマスの本命は、ボイラー燃料である。

B君:実際、バイオマスの活用が盛んなヨーロッパでは、その8割が熱利用なのだそうだ。特に、家庭用のストーブであれば、熱効率は90%ぐらいあるとのこと。

C先生:これで、第1章がほぼ終わったようだ。日本のバイオマス利用には、戦略が無いということを完全に明らかにしている書籍だと言える。さて、こうなると、第2章も期待できる。

A君:第2章は、持続可能性に関する章です。すでにより良いバイオマスの利用法で定義されているように、経済的、環境的、社会的に問題がない利用法を持続可能性と表現しています。

B君:経済的持続可能性は、継続的なビジネスになるかならないか。しかし、本書で指摘されているように、二酸化炭素を排出するこれまでの化石燃料については、この二酸化炭素が引き起こす負の影響が、化石燃料の価格に反映されていない。

A君:環境的な持続可能性は、今回は当たり前としてスキップします。社会的な持続可能性も、土地利用だけではなくて、土地を巡る食糧生産との競合、農業用水の奪い合い、などなど多くの 問題があります。

B君:「石油より環境に悪いバイオ燃料」という節では、ガソリンよりも環境負荷の大きなバイオ燃料が大部分というEMPAの2007年のデータを紹介しているけれど、パリ協定合意後の現時点であれば、別の評価になってしまうものと思われる。すなわち、二酸化炭素排出量を炭素価格で評価して考慮するという比較が必要。そのような研究課題は、誰が取り組んでいるのだろうか。

A君:さて、いくらでも課題はあるのですが、日本の環境研究者は、そのような発想にはならないようで。

B君:いずれにしても、本書の結論では、バイオマスを原料として燃料製造をすること、例えば、エタノールに変換して燃料にすることのLCAの結果で、行って良いと判断できるものは、ブラジルにおけるサトウキビの生産とエタノールへの変換ぐらいなものだと結論しているが、実際、現時点においても、その通りという結論だ。

A君:ジャトロファについても、本書では、疑念が表明されているが、現時点は、ジャトロファはやはり無い、ということになっていますが、これが正しく予測されていると言えるでしょう。

C先生:という訳で、第2章が終わり残るは第3章のみ。ところが、まだp57までだね。ここから「日本でバイオマスをどのように利用すべきか」、という記述になるが、すでに、示されているように、日本の現状は、FITを使ったバイオマス発電ばかりなのだ。これは、FITが終われば終わる。太陽光も「FITが終わる2019年危機」ということが言われている。どうにもこうにも、日本のエネルギー問題は、失敗の連続をするもののようだ。

A君:第3章も、失敗の連続、その根本的理由といった記述が多いです。それが100ページ継続していると言った方が良いかもしれない。

B君:まあ、「根本的かつ決定的な失敗の理由」をキーワード的に拾うだけで行こう。

A君:了解。バイオマスは「熱利用」以外を考えると、大体、失敗する。「FITの価格付けは大体失敗する」。「輸入バイオマスは問題」と記述されていますが、現時点では、PKS(パームヤシ殻)の輸入も、日本の需要が増えて、価格上昇。多分これも失敗する。「無駄になった1000億円のバイオマス・ニッポン総合戦略」(2002年に策定され、2011年に評価が発表された)の失敗原因は、不完全・不十分な計画にも補助金が出た。その理由は、学識経験者が『事業』について知識が無かったから。「日本の林業はなぜダメか。それは、官製だから」。これには反論が来るでしょうけどね。

B君:「国産材はなぜ使われないか。それは、外材が安かったから、が本当の理由ではない。1960年代の活況時には、粗悪なものも売れたが、外材と『質』で勝負できなかったから」。そのため、「役物と呼ばれる銘木やヒノキに活路を見出し、そのため、多労働投入型になって生産性がますます落ちた」。

A君:「ハウスメーカーが要求する人工乾燥に対応できず、自然乾燥を固守した」。要するに、「産業として成り立つことを志向してこなかった」。これがドイツとの最大の違い。要するに、日本の林業は、変わることができない産業だった。

B君:若干飛ばすけど、「根本が間違っていた、バイオマスタウン構想(2004)=バイオマスエネルギーでやれると思ったことがそもそも無理」。詳細は省略するが例外的な成功事例として次の3つが上げられている。(1)近江市の「菜の花プロジェクト」。観光と組合せた。(2)埼玉県小川町の「液肥生産のためのメタン発酵」。(3)徳島県上勝町の「日本料理などに使う彩(いろどり=紅葉した葉、桃のつぼみなど)。ものによっては、数万円/kg」

C先生:ということで、木質バイオマス活用については、まずは、やはり重油・灯油代替の熱利用という結論のようだ。この結論が、今後、より重要になると、我々三名は考えている。なぜならば、炭素価格(カーボンプライシング)というものが実現する可能性が高いからだ。欧米の企業では、自社内のみの仮想的な社内カーボンプライシングを行って、事業として成立するかどうかを判定する、という仕組みを導入しているところも多い。大体30〜40ドル/t−CO2ぐらいの炭素税が掛かることを想定して、現在のビジネスの将来像を得ようとする取り組みだと言える。現時点で、日本の企業で社内カーボンプライシングをやっているところはあるかも知れない、といった程度しか分からない。その大きな理由は、国が動かないからだと思う。国が動いたが、方向性がダメだった「バイオマス・ニッポン総合戦略」。しかし、今は、カーボンプライシングについて、環境省は、排出権が良いと考えているようが、経産省はそもそも最初っから全部ダメ、という訳で、結果的に、『動かない』。未来の方針を決めることができないのは、『現在の政治の世界が、パリ協定の怖い影響力を理解できない』もので、止まっているからなのだが、なんとかならないものか。
 方向性が見えないと、企業は立ち止まる以外に方法はないのだ。あるいは、海外に出ていくか。
 ということで、今回の結論も、何故かいつものところに落ちたようだ。