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    文系にも使える理系のXX 
   01.19.2014
            文系の著者による2冊の簡単書評




 今回、2冊の本をご紹介したいと思います。いずれも、文系にも使える理系のなんとか、といった感じの2冊の本でして、書かれている方は、文系の方々です。

 この手の本を書くのは、なかなか難しいことのようだ、というのが感想でした。



1.文系も知って得する理系の法則   (祥伝社新書318)
 佐久 協 (著) (2013/4/1) ISBN-13: 978-4-396-11318-6

 著者は、慶應義塾大学文学部卒業の高校の先生。恐らく、国語の先生だったのではないか、と推測される。

C先生:この著者が書いた本では、「高校生が感動した論語」という本がベストセラーになったようだ。国文学、中国文学が専門だったらしいのだが、そのような著者が理系の法則を解説しているというのが、この本の売りなのだ。

A君:目次はこんな風です。

目次
1章 文系も知って得する生物の法則
 最少量の法則、悉無率、ヴェーバーの法則、ジャネの法則、ベルクマンの法則、ダーウィンの法則、ヘッケルの法則、メンデルの法則、リボーの法則、ルーの法則

2章 文系も知って得する地学の法則
 ヴェーゲナーの大陸移動説、ケプラーの法則、地層塁重の法則、地層同定の法則、シュテファン・ボルツマンの法則、大森の公式、ロシェの限界、ハッブルの法則ボーデの法則
3章 文系も知って得する化学の法則
 ボイル・シャルルの法則、質量保存の法則、定比例の法則、倍数比例の法則、アヴォガドロの法則、ファラデーの電気分解の法則、周期律、ル=シャトリエの法則、モル沸点上昇と凝固点降下の法則

4章 文系も知って得する物理の法則
 ガリレイの落体の法則、運動量保存の法則、ニュートンの法則、万有引力の法則、アンペールの法則、オームの法則とジュールの法則、エネルギー保存の法則、エントロピー増大の法則、ドップラー効果、アインシュタインの相対性理論、超弦理論あるいは、超ひも理論


B君:まてまて、これらの法則を理系の人間がすべて知っているのか。

A君:いやいや、恐らく知らない。多分、理系人間でも、自分を化学屋だと思っている人は、化学の法則は知っている。化学屋にもいろいろといて、有機化学をやっている人は、物理の法則は高校レベルで留まっている場合が多い。一方、物理化学屋というジャンルの人は、物理の法則を知っている可能性が高い。しかし、生物の法則を知る人は少ないと思いますね。

B君:ということは、文系の人が、理系の法則をどのように説明するか、という観点からこの本を読むことになるのか。

A君:となると、理系も全員が知っている訳ではないことを、文系の人が知って得することになるのかどうか、が問題。ということは、この本の題名自体が最大の疑問点だということになります。

B君:その通りだろう。本当に、「文系の人が知って得する」のが本当か、という観点から見てみよう。

A君:了解。この本は、そんな記述にはなっているのです。まずは、生物の法則からいきます。

◆1「最少量の法則」

説明:植物の生育には、一般に窒素、リン、カリウムが必須の栄養素で、3大栄養素と言われますが、これらの3つの成分のうち、最少量のものが、植物の生育を決めてしまうというもの。

◎1 これを知るメリット(本記事では、オリジナルな記述を自分なりに解釈して記述している)

 『植物の成長は、国の発展に似ている。未就労者やホームレスをなくし、社会の底上げに力を注ぐべき。自己責任だと切り捨てると、国としての成長や機能は停止する』。 これを『ぶんけい活用』だとしている。

B君:国を企業に置き換えてみよう。この意見は、会社の発展は、社員のうち、レベルの低い部分を能力アップするのが効率的ということになる。

A君:企業の場合、よく言われる「2:6:2の法則」というのがあって、企業は推進役が2割、それに付いていくのが6割、2割は足を引っ張っている。この本は、足を引っ張る2割を改善して、足を引っ張らないようにすることが企業の発展につながると言っていることになります。これは疑問ですね。

B君:企業の場合はむしろ最少量の法則が成立しないのではないか。

A君:2:6:2の法則はかなりの確度で成立していると考えられるのですが、もっとも効率的なことは、真ん中の6を5にして、1をトップの2に加えて3にし、3:5:2という形にできれば、それがもっとも効率が上がるという理解が一般的ではないですか。

B君:この著者は、文系ではあるけど、企業経営などには疎いように思える。だから、文系にも役に立つという例が、経営層などの観点からみると、実は役に立たないということなのではないか、と思われる。

A君:むしろ、法則を提示し、その解釈をできるだけ多様にして、一般社会でも使える形にして提供するというスタンスにして、結論は、「読者が自分で何に使えるかを考える」というコンセプトで本を書けば、もう少々教育的な本になったと思うのですが。

B君:その通りだと思う。法則の説明の次に、「ぶんけい活用」という部分があって、そこを読むとこの法則が何に使えるか分かる仕組みになっているのだが、この部分の記述がかなり独断的なのだ。自然科学の法則というものは、かなり一般的なものなので、ヒトという存在も生物そのものなので、やはり法則には従うのだ、という感じの記述にして、「ぶんけい活用」は、読者に考えさせるという本にすべきだったと考える。

C先生:この本は、あまり評価が高くないということのようだ。

A君:そうなのですが、生物の法則に関して、もう2つだけ、ご紹介しますか。実は、こんな名称があることは初めて知りました。

◆2:「悉無率」 英語だとall or non law

A君:「しつむりつ」と読むとのこと。この法則は、ヒトなどの感覚器官や神経系に対して成立することで、これらの器官は、YesかNoか、もしくは、0か1かだと考えろということらしいです。

B君:神経信号は電気信号で、あるレベルから弱いシグナルは、感じることができない。感じることができる範囲は比較的狭くて、あるレベルを超すと、シグナルに含まれる情報量が増える訳ではない。

A君:声を考えたとき、聞こえない声量では何も伝わらない、しかし、大きな声を出したところで、情報量が増える訳ではない。怒る場合でも、適切な声量で普通に話せ、と「ぶんけい活用」は言いたい見たいです。

◆3:ダーウィンの法則 進化論

B君:ところで、法則を読んだとき、おかしな説明かと思うものがあった。それはダーウィンの法則のところで、「進化の意味と原因をめぐって、多岐に分岐しており、いまだに定説に到達していない」、とあるのだけど、これは本当か?

A君:「進化論」がまだ存在しているかどうか、あるいは、現時点がどう理解されているのか、という知識はないのですが、分子生物学をかじってみれば、遺伝子の変異には、もともと有利とか不利とかいう意図などなく、全く偶然に起きる。その変異が寿命を縮める場合もあれば、特異な特性をもつ個体を生み出す場合もある。昔の言葉で言えば、「中立説」に近いでしょう。

B君:ダイオキシンの毒性を検知するレセプターが動物にはあって、このレセプターがダイオキシン類似の有害物を検知すると、遺伝子の一部に動けと命令を出すという話もあるようだ。この機構が機能すれば、ある程度のサイズの遺伝子が切れて、DNAの別の場所にドンと移動する。もしも、その移動先に発がん抑制遺伝子があったとすると、がんを発症しやすくなったりするかもしれないけれど、場合によっては、ダイオキシンのような物質の毒性に耐えるという特性をもった個体が生まれることもありうる。

A君:50万年ぐらい前から、ヒトは、洞窟に居住しながら、その入り口には焚火を絶やさないようにして、猛獣からの攻撃を回避していた。木を燃やすと、ダイオキシンが多少発生するが、現在のヒトという種は、20万年前ぐらいにできたとされているから、その初期から焚火を行っていたと思われるので、ダイオキシン耐性を持っている可能性もありますね。

B君:要するに、分子生物学の基礎の基礎あたりを分かりやすく書ける人が加わって、共同執筆をしないと、なかなか本当の理系の法則は表現できにくいのかもしれない。

A君:というわけで結論ですが、この本のように、国文学、中国文学の専門家が、理系の法則を記述すると、やはりそれなりの専門度しかないため、かなり固定的な理解になりがち。また「ぶんけい活用」は、様々な経験をもった人が、議論をしながら、書くといった努力をしないと、かなり独断的になる。

B君:生物学以外の部分も、やはり同じような欠陥が見受けられる。

C先生:ということで、この本は推薦しかねるという結論でよいだろう。



2.文系のための理系読書術 (知のトレッキング叢書)  [単行本(ソフトカバー)]
 齋藤 孝 (著)
 出版社: 集英社インターナショナル (2013/11/26) ISBN-13: 978-4-7976-7260-2

C先生:斎藤孝氏は、東大法学部卒だが、大学院は教育学部博士課程満期退学という学歴。文系の大学院は、博士課程を終えれば博士号を貰えるというものでもないのだ。現在、明治大学教授。

A君:100冊以上の本を執筆している著者の比較的新しい著書ということになります。

B君:この本は、スタンスが明確で、こんな本を読むと良いよ、という推奨をして、その理由を述べ、それで終わり。

A君:とはいえ一応、分類はされていて、
第一章 生物の進化のフロンティア
第二章 体の不思議
第三章 科学者のひらめき
第四章 数学は人生の役に立つ
第五章 化学と物理を学びなおす
第六章 理系読書をどう活かすか


C先生:最後の第六章は、まとめになっているが、p171に記述されていることは、この手の雑学を対象にしていろいろと努力しているうちに、「あるレベルに到達したなあ」、と実感できる感覚だと思う。それは、「知識をインプットする回路ができてくるということ。『これとこれはこの点でつながっているな』、『こことここが共通点』というふうに、おおよその地図が見えてくるようなイメージですね。語れる内容が一つ一つの島だとすると、ポツポツと海に浮かぶ島が見えてきて、それぞれのつながりが見えてくる。島だったものが領土になってくるような感じです」、と記述されている。

A君:それって、C先生がときどき言う言い方にすれば、「ジグソーパズルの空スペースが埋まってくるような感触だ」と共通点がありますね。

C先生:そう。似ている。ジグソーパズルの最後のミッシングピースが埋まるとある種の達成感というか、満足感というか、なんらかの快感が得られるのだ。

B君:斎藤氏も、あるレベルを超したときに頭の中でなにが起きるか、を経験的に知っているということなのだろう。

C先生:それは別として、この著者の方法は、かなり合理的だし、上手い方法だと思うのだ。なぜならば、この本を読んでも、自分の解釈を押し付けるような感覚はない。あくまでも素材を提供し、その元となる本を読んでもらうということを推薦している。これは、短時間で即効的利得を得ることは難しいのだが、本来、知識を得るということはそういうことなのだろう。

A君:確かに、知識を短時間で得ることはできないのですが、この本とこの本が良いということを示して貰えると、的外れの本を読むという無駄、時間的な無駄と経済的な無駄をしないで済むので、効率的で良いですね。

B君:ということは、本の選択がもっとも重要な要素だということになるが、この著者の選択は、適切なのだろうか。

A君:どうも、有名著者を選択しているという感じですね。ここの本の良しあしよりも、有名著者だから、外れはないという感触で選択されているように思いました。

B君:それで良いのだろう。この手の紹介本は、恐らく「保守的に」が妥当性が高いのだろう。

A君:観光案内にしてもそうですが、最初は正統的な紹介本は定評のある場所を紹介して、穴場紹介は別途別の本が行えば良い。

B君:観光案内ならそうだろうが、本の紹介で、穴場的な本を紹介する本を書こうと思ったら、相当な読書量がないと難しいことを意味する。

A君:やはり、何人かが協力して候補本を決めるということ方法以外に、穴場的書籍の紹介本を書くのは難しいということになりますね。

C先生:いずれにしても、この斎藤孝氏の本は、理系のための文系の常識といった本を書くとしたら、参考になるアプローチを示しているという結論で良いと思う。
 そろそろ、まとめてみようか。



A君:今回紹介した二冊の本は、いずれも「文系のための」ということで文系の筆者が書いているのですが、二冊の性格は全く違いますね。今回の結論として、文系の読者のためには、文系の筆者が良いということで良いのでしょうか。

B君:多分、正しいように思う。もしも、「理系のための文系パートの環境学」といった本を書くとしたら、やはり理系のマインドに適した記述をする必要があって、それには、理系の人間が良いということではないだろうか。

A君:一般論として、「理系の読者が、何が分かっていて、何が分かっていないか」、この重要なポイントを分かっているのがやはり理系かもしれないですね。

C先生:これが結論であれば、「文系のための理系の環境学」という本は、文系人が書くのが妥当という結論になる。しかし、これを書く文系人が居そうもないなあ。だからといって、理系人が単独で書くには、ハードルが高い。ということは、結局、執筆のための混成チームを作らないとダメというのが最終結論なのではないだろうか。