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   英国が本当にEU離脱    06.25.2016
       本当の理由は? さらに次があるのか?




 金曜日土曜日は、本業のIPSuSの主たる事業、エコアクション21の審査人力量向上研修会のために、金沢に行っておりました。金曜日は13時から講演だったもので、ニュースをチェックできませんでしたが、「かがやき」の車中の電光ニュースでは、離脱派のリードが伝えられておりました。

 今回、もっとも信用していた予測が、スコットランドの独立の投票の結果を当てたブックメーカー(賭け屋)の予想だったのですが、見事に外れました。金融界の大部分も恐らく、「見事に外れました」だったのだと思います。

 今、土曜日の夕刻ですが、自宅に戻りまして、本記事を書き始めています。そのためにWebを検索しておりましたら、AFPの記事ですが、
http://www.afpbb.com/articles/-/3091588
というものが見つかり、ブックメーカーが「離脱」に予想を転向していたとのこと。発信日時と場所が6月24日11:37、ロンドン/英国とのことですから、実は、開票が始まってからのことのようです。相当にいい加減なニュースです。その時点で、離脱に転向しなければ、賭け屋として損をするに決まっていますから当然と言えます。「なんだ当たり前の記事だ!」

 さて、離脱の結論が出た以上、粛々とその通りの手続きが進むことでしょう。かなり長い時間が掛かると思いますが。しかし、それですべてが終わるのでしょうか。何か、連鎖反応は無いのでしょうか。

 大陸の27ヶ国になってしまうEUですが、イタリアあたりは離脱の可能性が無いとは言えませんが、まあ、しばらく先の話になるのでは、と思っています。

 個人的には、今回、何か不気味な臭いがして、かなり問題があると思っている場所、それが、スコットランドと北アイルランドです。両方の地域とも、現在は英国です。

 これらの国がどうなるのか。それには、英国が離脱した本当の理由を知りたいと思った次第です。

 加えて、この2つの地域について、どのような状態なのか、関連する記事を探してみました。



C先生:今回の投票結果には、本当に驚いた。どうせ最後には、経済的な悪影響があるに決っていることだし、独立するメリットは大英帝国へのノスタルジックな思いの強い高齢者にしかない、と思っていたのだ。ところで、投票率はどうだったのだ。

A君:どうも72.2%とのこと。離脱支持が1741万票。残留支持が1614万票。合計3355万票。有権者の数が、4647万人。人口が2013年データですが、6411万人。

B君:どういう人がどのような支持をしているか、という面白いデータが見つかった。


図1 世論調査の属性別の比較
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/185821/061400004/?i_cid=nbpnbo_lfcx

 年齢でいうと、若い層、これだと18〜29歳は、残留支持率が70%を超している。北アイルランドとスコットランド在住者も60%以上が残留を支持している。面白いのは、どんな新聞を読んでいるか。ガーディアンの読者とサンの読者は対照的。ガーディアンを読んでいる典型的読者が「教師」や「公務員」などとのことだが、なんと90%以上が残留支持。

A君:サンは大衆紙と呼ばれていますね。日刊紙としては、最大の発行部数350万部を誇ります。メールという新聞は、多分デイリー・メールですね。これもサンと同様にタブロイド版の新聞。発行部数は230万部で、典型的な読者は、中産階級の奥様とのこと。部数などは、次のページを参照しました。
http://www.news-digest.co.uk/news/features/567.html

B君:大学卒というジャンルがあるな。約70%が残留支持とのことだが。

A君:英国の大学進学率は、文部科学省のデータによれば、2010年で63%。ちなみに同じデータで日本は51%。他のOECD諸国と比較すると、日本の進学率は決して高くはないのです。

B君:エリートと言えるほどの割合ではないけれど、やはり、経済的なメリットを受ける階級と言えるのかもしれないし、状況を良く分かっているまあまあのインテリ層とも言えるかもしれない。

A君:このリストの中に、北アイルランド在住、スコットランド在住が両方とも60%以上が残留支持となっています。

B君:実際の投票では、北アイルランドは票が割れていて、残留支持が圧倒的に多かったということでは無かった。一方、スコットランドは、ほぼすべての地域で残留支持。

A君:もっとも北アイルランドは、隣の国であるアイルランドとの間に国境が無い状況。まさに、EUのシェンゲン協定の理想的な姿ができている。アイルランドも英国もシェンゲン協定国ではないことと対照的な状況です。

B君:以前、北アイルランド紛争があった。1970年前半にその頂点を迎えた。カトリックとプロテスタントの争いというほど簡単に割り切れない紛争で、いくつもの分派が対立して、相互にテロ行為が行われた。

A君:北アイルランド紛争は、複雑すぎて良く分からない。誰が、どこに住み、どのような最終形を望んでいるのか良く分からない。アイルランドとの合体を望んでいるとも思いにくい。場合によると、北アイルランドの一部の住民は、スコットランドとの合体を望んでいる可能性も無いとは言えないのでは。まあ、スコットランドほどすぐに結論がでるとも思えない。

B君:スコットランドは、明らかにイギリスからの離脱を望む人々が一定数以上いる。そして、その目的は、独立国家。独立しても、ポンドを通貨として使うことはイギリスが認めないので、それをユーロにしたい。

A君:スコットランドの独立の動機付けになったのは、しばらく前なら、北海油田からの石油をイギリスから奪うことで、経済的にも自立できるという思惑もあったのだけれど、北海油田は、もはや頼りにならない。しかも、パリ協定の指し示す方向性は、化石燃料からの離脱なので、まあ、2040年ぐらいまでと考えておくべきだ。もっとも、イギリス側は、気候変動対策に熱心なので、ひょっとすると北海油田ぐらい売ってしまえと思っているかもしれないけれど、そのような状況では、価値ががっくり落ちていることだろうと思いますね。

B君:スコットランドの東の海は、風速の面から言えば、洋上風力の適地ではある。アバディーンの外海のあたり。ただ、結構水深が深いようで、浮体型の洋上風力になっているらしい。

A君:ということは、エネルギー的に自立は不可能とは言えないけれど、それほど恵まれている状況ともちょっと違う。

C先生:というようなことで、結論に行こう。英国がEUから離脱した非常に強い思いとは何か。そろそろ結論を出して、今後、スコットランドの独立運動が激しくなるか、推測をしてみよう。

A君:英国がEUのリーダーだったのか、と言われると、やはりドイツの影響が非常に強かったので、ちょっと怪しい。このあたりの話は、川口マーン恵美さんの著書「ヨーロッパから民主主義が消える−難民・テロ・甦る国境」PHP新書1024、などをお読みいただきたいところです。

B君:一言で言えば、英国国民は、メルケル首相の理想主義的なリーダーシップ、「難民問題、我々はできる」という言い方に、辟易していた。

A君:川口さんの著書によれば、「ドイツ人の奇妙なところは、ときどき、ある日突然、皆がこぞって理性をかなぐり捨ててしまうことだ。倫理観だけを全面にかざし、自己礼賛とともに、非合理の極みに向かって猪突猛進していく。そしてこれが始まると、少しでも異議を唱える人間には非人道的というレッテルが貼られた」。(p164)

B君:英国という国は、科学リテラシーについて言えば、世界でもっとも高いと言われる。Government Chief Scientific Adviser(GCSA)という政府に対する個人的な科学技術に関するアドバイザーを1964年から任命していて、BSE事件などへの対応では、ワンボイスで科学的な事実を説明するなどの活躍をした。

A君:そういう意味では、バランスが取れていると自負する英国人からみると、ドイツの原理主義的極端さが気に入らない。難民問題だとドイツは「人道原理主義」に見える。

B君:ドイツは東ドイツを統合したけれど、大ドイツといった名称は使わなかった。ところが、英国は、昔から大英帝国Great Britenなのだ。ここは、歴史の重みだと思うが、ドイツから見れば、やはり気になる存在なのだろう。

A君:たしかに英国国民は、我々は大英帝国だと思っている。もっともUKと言うものの定義は、"United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland"なので、イングランド、スコットランド、ウェールズもGreat Britenの一部にすぎない。

B君:今行われているサッカーの欧州選手権だと、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドは別のチームだ。もっとも、欧州という範囲が良く分からない。カザフスタン、ベラルーシ、ジョージア、アゼルバイジャンが入っているので。

A君:大英帝国という言葉をスコットランド国民がどう理解しているか。ここが鍵なのかもしれない。なんといっても、かなり文化と伝統のが違うのがスコットランドとイングランドなので。もしも、スコットランド人が、大英帝国=Englandだと感じているようだと、何かと不安定になりそうな気がします。

B君:すでに議論したが、「独立してポンドはすでに拒否された」が、「独立して通貨はユーロにすれば戦える」と思えば、今回のEU離脱は、追い風。

C先生:スコットランドの若い層が、UKがEUを離脱して、国境の存在が原因で、様々に不自由になることを経験してどう思うか。これも鍵かもしれない。我々日本人は、そのパスポートは世界的でももっとも自由度が高いものではあるけれど、最近、アメリカの入国は嫌だ。余りにも時間がかかる。ヨーロッパ諸国は、最初に入国するときだけだから、先日のポルトガル・スペインの旅は、フランクフルトで入国した。行列が短かったし、例によって60秒でOKが出る状態だったから、ほとんどストレスは無かったが。EU側が、UKのパスポートに対して、どのような対応をするか、これが鍵になるのかもしれない。

A君:そろそろ結論でしょうか。今回のUKのEU離脱、しばしばBrexitと呼ばれていますが、その根底には、EUを支配しているのはドイツ、UKはユーロを採用しなかったのは賢い選択だったとは思うものの、やはり、UKはEUの中心では無かった。大英帝国の誇りを取り戻すために、離脱するのも良いかもしれない、という古き良き大英帝国を知る高年齢層の判断が強かったという結論で良いでしょうか。

B君:アメリカのトランプ現象と同じく、英国内でも反エリート主義の主張が強まってEU離脱が決まったのだ、と主張する人もいるが、イギリスという国は、アメリカよりも普通の国だと思う。むしろインテリ臭い国だ。我々の結論の方が、イギリスらしい結論で、良いと思う。
 そうなると、もともと伝統と文化が違うと自認しているスコットランド人にとっては、前回失敗したUKからの離脱に再度チャレンジするチャンスが来た、という思いは強いだろう。しかも、EUのメンバーになって、ユーロを採用すると言えば、いくつかの国は支持してくれる可能性が高いし、また、経済的にもうまい方法かもしれない。ただ、これまで借金を抱えているスコットランド政府が、それをどう解消するか、という問題は残るので、そう簡単だとは思えない。

A君:スコットランド人でも、UKからの離脱が簡単だとは思っていないでしょう。しかし、UK全体が国民投票をやって決めたのだから、スコットランドが国民投票を再度やるのが当然だと思っているでしょう。

C先生:色々な状況を調査して、今後のEU、ヨーロッパの動向を知ることは、様々な国の意志を知ることで重要だろう。ヨーロッパとは言っても、民族主義は強くなった結果として、現在の姿がある。例えば、チェコとスロバキアが別れた。しかし、そもそも民族とは何か、と言われると、それはなかなか難しいのだ。DNA的に違うというよりも現時点では、「宗教と言語」で民族が定義されてしまっている状況に近い。UKの場合、すべて英語を話していると思っているかもしれないけれど、実際、ウェールズあたりの英語は、とても英語とは思えない音だ。スコットランドの方が、まだ英語だ。ウェールズにはウェールズ語という言語が存在するのだ。一方、スコットランド語というものもあるとされているが、中世英語から分離した言語なので、言語的には英語に近いと言えるかもしれない。
 一方、宗教だが、スコットランドは、スコットランド国教会が人口の42%。18%がカトリック。キリスト教徒の合計が65%ぐらいのようだ。イングランドはイングランド国教会が国家宗教で、キリスト教が75.6%。
 ということで、スコットランドについては、言語や宗教が国を分けるということでも無さそうに思う。となると、それ以外の「民族のアイデンティティである伝統文化」の思いの違いが鍵だろうか。
 ということで、そろそろ終わりにするが、EU離脱論の詳しい解析がみずほ総合研究所によって発表されている。作成日付は、6月9日だから国民投票の前だが、今読んでも、非常に有効だと思うのでお奨めしたい。スコットランドの話題も出ているので。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/urgency/report160609.pdf