________________


  レスター・ブラウン幸田シャーミンの環境対談



1月6日2003年の毎日新聞朝刊。司会:矢吹修一

C先生:毎日新聞にこのお二人の対談が掲載された。毎日はこの同じ日に、社説でも「地球の異変つげる生態系 − 温暖化の脅威を見据えよう」といったものを掲載しており、どうやら、地球環境を今年の主要テーマとしたような感触だ。

A君:他の新聞も同様ですが、全体としては良いことなのではないでしょうか。地球温暖化が100%確実という訳ではないですが、「予防原則」「未然防止」は温暖化のためにあるような言葉ですし。省エネ・省資源型の対策技術を適用するのであれば、将来、たとえ温暖化がそれほど重大な環境問題ではないことが判明したとしても、あまり後悔することもないし。

B君:ただ、科学的な立場を維持しようとするのならば、地球全体の揺らぎに比較すれば、人工的な原因による温度上昇はまだそれほど大きくは無いということを認識しておく必要がある。現状では、予防原則の適用であるという認識を持つべきだということだ。

C先生:一節一節対談を要約し、それに対して、考え方をまとめてみようか。

対談:
−地球環境問題で今注目されることは?

ブラウン:気温の上昇と地下水位の低下が人々の目を覚まさせるだろう。気温の上昇は穀物の生産に影響を与える。フィリピンの国際稲研究所によれば、米やトウモロコシは、気温が1度上昇すると、生産量が10%ダウンする。今年がどんな年にになるか、それは、穀物の生産量による。生産量が不足すると大豆やトウモロコシの価格が2〜3割上昇し、経済にも影響を与える。地下水位の低下は、特に、中国、インド、アメリカの三大穀物生産国で顕著である。この50年間に地下水の過剰使用によって帯水層は干上がりつつある。水不足は将来の食糧危機につながる。

幸田:水問題といえば、3月に第三回世界水フォーラムが日本で開催される。ヨハネスブルグサミットでも、安全な飲み水を利用することのできない人々の割合を半減することが合意された。水フォーラムはそれを具体化するためのも。普段、水に対する危機感を余り感じていない。子供たちも一緒に、世界の水事情がどうなっているのか、暮らしの中での水利用、管理のあり方などをしっかり学ぶ機会になれば良い。


A君:気温の上昇が穀物の生産量を下げるということは、ある意味で事実。ただ、別の解釈もあり得ます。現在の生産地で同じ穀物を生産していれば、生産量は下がるでしょう。それは当然です。穀物の種類によって最適な温度というものがあるから、そのぎりぎりの生育条件にある穀物は、温度上昇があれば、最適ではなくなるから。しかし、日本のような温帯では、気温の低下による穀物の生産量の減少の方が深刻。それは、昔から事実。それこそ宮沢賢治の時代から冷害があると飢饉だった。

B君:1800年ごろ、天地天明の飢饉があったが、それも、その時代の温度が低かったからだ。それ以後、地球の温度は自然の揺らぎで現在まで上がり続けている。IPCCによれば、人工的な温度上昇が0.5℃ということだが、実際のデータを見ると、なんとも言えない。



A君:この図は気象庁発表のもの。その平均気温というものですが、都市化による温度上昇分が入らないように、データとして採用する地域は慎重に選択されているとのことです。

B君:この2枚の図をじっと見れば、色々な解釈がありうることが分かるだろう。

A君:IPCCが使っている温度変化と温度上昇予測の図は、ちょっと違う。


図3:IPCCの気温変化と予測の対比図

C先生:本当に怖いのは、温暖化を引き金とした気候変動が、結果的に寒冷化になることだろう。欧州では、本気でこれを考えているようだ。北極海の氷が溶けると、比重の軽い淡水が北大西洋に流れ込む。北大西洋まで流れているメキシコ湾岸流は重い塩水だから、この流れ込んだ淡水の下にもぐる。となると、ノルウェー、アイスランド、スウェーデン、フィンランド、イギリス、デンマークなどの国は、急激に寒くなることが予測される。

A君:食糧が不足することは確かに怖い。アメリカ西部で灌漑に使用中の地下水も、化石水と呼ばれるぐらい古いもので、最近は使いすぎで水位の低下が顕著らしいです。中国も水限界が問題でしょう。

B君:もっとも中国と日本とインドとでは、一人当たりの降水量はそんなにも違わない。いずれも5000〜6000トン/人・年ぐらいだ。面積あたりの降水量になると日本が多い。中国は少ない。インドは、日本よりやや少ない。面積あたりの降水量が少ないと、当然のことなのだが、蒸発によって失われる水の量が多くなる。中国の水資源は日本よりも厳しいだろう。勿論、気温も大きく影響するので、インドは水不足になりがち。ただ、日本も急流なので、ダムを上手に使わないと、水不足になる国だ。

C先生:日本は、「狭いためとダムがあるため」に、水には恵まれているということになる。幸田さんの「子供たちは」という話だが、この子供が「日本の子供」を意味するのだったら、水は再生可能資源なので、現状なら、余り無駄にしないで、それなりに効果的に使えば良い。ただし、日本という国に生れたことを感謝しつつ、だが。

A君:幸田さんの発言は、かなり情緒的ですね。

C先生:多少将来について具体的な検討をするか。日本の水消費の現状は、大体以下の通りだ。

取水量ベースだと約900億トン
生活用水=約170億トン 漸増傾向 
工業用水=約150億トン 漸減傾向 
農業用水=約590億トン 
一人一日平均使用量=339リットル/人・日 漸増傾向

A君:現在、不景気で工業用水は余り気味、食糧の自給率の低下で、農業用水も余り気味。今後、工業用水の需要がそれほど増加するとは思えないですね。

B君:日本で水を節約する必要が出てくるのは、今後、食糧自給率の向上を目指したときだろう。穀物1トン=水700トンといった話があるから、自給率を高めるためには、水をどのように使うか、その戦略が重要だということになってくる。日本人は穀物を現在のところ380kg/年ほど消費しているのだが、自給率は27%程度でしかない。もしも100%自給することにしたら、一人当たり280kg/年ほどの増産が必要で、単純計算だが一人当たり200トン/年ぐらいの農業用水が今よりも必要になる。日本全体だと250億トン/年の水が必要になって、これは生活用水の全量を上回る。工業用水を回しても不足する。

A君:ちょっと単純な計算すぎませんか。本当のことを言えば、農業用水だって、水田を考えた場合には、蒸発分を除けば、最終的には川に戻ります。畑作は別物ですが。ただし、農業による水の汚濁は、飲料水用としては余り良い条件とは言えません。有機物が多いですし、場合によると農薬も問題だからなんとも言えませんが。

B君:しかし、現在、穀物を輸入しているから水が余る傾向にあるということは事実ではないか。穀物の輸入は水を輸入しているようなものだ。

C先生:われわれは水については余り正確な情報を持っていない。今後、水の情報を集めて、もっと深く検討してみたい。

A君:対談に戻ります。

対談:
−今年は京都議定書の発効が期待されるが。

幸田:最大の問題は、米国や途上国の参加の問題。両方に対して日本はしっかりと働きかけていかなければならない。日本は不況にもかかわらず、00年度の二酸化炭素排出量が90年基準でプラス10%。家庭からの排出量が四分の一を占め、増加中。緊急の問題であることを認識する必要がある。

C先生:この問いについては、ブラウン氏の発言は掲載されていない。

A君:温暖化問題こそ予防原則を適用すべき問題だ、ということは大賛成。

B君:もしも本当に温暖化が深刻になってしまったら、取り返しがつかないから、当たり前なのだが。

A君:家庭で具体的にどのような対策をすべきか、という具体的な提案が無いですね。

B君:できるだけ高いものを少量買って、精神的な満足を得る。それもできるならば、輸送のエネルギーを削減するために国産品を選択して、などということは言えないのではないか。キャスターなる商売は微妙で、主婦感覚から余り離れると反感を買う。

A君:確かに。今デフレの世の中で、そんなことを言ってみても無理ですよ、という反論が来るのが目に見えますからね。元キャスターとしては当然。できるだけ、奇麗事で済ませたい。しかし、エアコンの温度を夏は28℃、冬は20℃ぐらいのことは言って欲しかった。

B君:その温度を実行してみると、28度だと確実に汗が出るし、20℃だと余程均一な温度になれば別だが、足元がスースーするから、結構我慢が必要だ。

C先生:せめて、エアコンと冷蔵庫は、高いものを買って欲しい。それはエネルギー効率が全然違うからだ、ぐらいは言って欲しかった。

A君:自動車も大型車を買うのを止めて、上質で燃費の良い小型車を選択してください、というのもメーカーの手前難しいのでは。

B君:いずれにしても、もう少々主婦層に具体的なイメージを持ってもらうような発言にして欲しい。もっともこのページを読むような主婦層は、最初から分かっているかもしれないが。

C先生:それでは、対談に戻る。

対談:
−米国は議定書を離脱したまま。ブッシュ政権に方針の変更をさせるには?

ブラウン:ブッシュは再選を狙っている。もし温暖化問題の彼の方針が失敗であると分かれば再選できない。例えば、5年前、たばこ産業はワシントンでもっとも影響力のある利益団体だったが、いまやその評価は失墜。肺がん、心臓病が喫煙によって起こされることを否定し続けたからだ。このまま化石燃料と温暖化に因果関係が無いと言っていたら、そして、それが嘘だと分かれば、ブッシュは再選されないだろう。

幸田:米国から、議定書離脱に関する国民の声が聞こえてこない。

ブラウン:ブッシュが議定書離脱を発表したとき、タイム誌の世論調査では、65%が「間違いだ」と答えた。国民は異常気象がひどくなっていることを敏感に感じている。スキー産業は2月、温暖化防止キャンペーンを予定している。
 世界的にみれば、中国への影響が大きい。経済成長率は、20年間にわたって世界平均以上。過剰な放牧、森林伐採による砂漠化が進んでいる。13億の人口が飢えると世界の食糧市場が大変なことになる。


C先生:ブッシュは化石燃料と温暖化に因果関係は無いと言っているのだろうか。ブッシュの政策は、一応これは認めた上で、単位GDP当たりのエネルギー使用量を削減すると表明しているものと思うが。

A君:参考に「今月の環境」 2月15日2002年を再録します。

2月15日(金): 米、独自の温暖化対策発表

 米国ホワイトハウスは14日、国内総生産(GDP)あたりの温室効果ガスの排出を、今後10年間で18%削減することを国の目標とする、新たな温暖化対策を発表した。エネルギー消費節減のため、今後5年間に46億ドル(6100億円)の税制上の優遇措置を打ち出す。

 フライシャー大統領報道官は、「発展途上国も参加して、温室効果ガスの排出削減に取り組めば、効果的に世界全体の温室効果ガスを削減できる」として先進国だけに排出削減を義務付けた京都議定書を批判した。

 2002年現在、GDP百万ドル当たりの温室ガスの排出量は183トンだが、10年後の2012年までに151トンまでに削減するという。

 米国のシエラクラブの試算によれば、京都議定書の2010年の削減目標値に対して、36%増加するという。本当なら、とんでもないことだ。


A君:この通りだとすると、ブラウン氏のブッシュ発言の理解は間違っているのではないだろうか。一応、温室効果ガスのサイエンスは認めた上で、それはやらないと言っているように思えるのですが。

B君:そんな解釈が妥当だと思う。

A君:ブラウン氏は、やはり食糧の人なのでしょうか。

C先生:スキー産業が温暖化に反対しているのは、極めてあたり前だが、極めて面白い反応だ。

対談
−持続可能な開発のために、われわれはどうすればよいのか。

幸田:日本には発想の転換が求められている。環境問題を、いやいや取り組むべき「負担」と考えるのではなく、新たな発展のための「好機」と見ることだ。市民、企業、自治体、政府が危機的な現状を認識し、それぞれが創意工夫に満ちたリーダーシップをはっきして、環境にやさしい新しいライフスタイルを作ることが必要。ここ数年、環境保全をビジネスチャンスと捉える企業が増えた。政府や自治体はこのような流れを支援すべき。

ブラウン:水の状態は、50年前の土地と同じ状況。第二次世界大戦が終わった50年代に、医学的な進歩、死亡率低下などで人口が爆発的に増加した。しかし、開拓できる新しい土地はなかった。そのため土地の生産性を高め、単収を1.1トン/haから2.8に増加させた。水についても同じように、水の生産性を高める必要がある。
 明るい要素としては、風力発電が増えていることだ。毎年、世界で34%伸び続けている。米国ではテキサス州を中心に67%増加。油田の向こうに風車が見えるようになった。過去と未来が共存している象徴的風景だ。30年後、風力発電タービンは回っているが、油田はないだろう。


C先生:環境をビジネスチャンスにできるのは、国が新しい規制を掛けた瞬間だ。それ以外は、以前として環境はコストだ。特に、旧来型の産業にとってはまさにコストだ。

A君:ただし、省エネルギー技術を開発したり、できるだけ小型化・軽量化して資源使用量を削減したり、といった技術は、将来の商売の種になることは事実でしょう。

B君:幸田さんの発言がおかしいのは、企業が好機だとみたところで、消費者がそのような製品を選択しなければ、なんにもならない。持続型消費という概念をきちんと提示して、消費者はこのような考え方になるべきだ、という例示でもすべきだろう。すでに、ここでは前に出てきているが。

A君:ブラウン氏の言う、「30年後に油田は無いだろう」、はとんでもない将来見通しだと思います。30年後も、米国の油田がジリ貧なのは事実。しかし、世界全体としては、30年後もまだまだガソリンで自動車は走っているはず。価格が倍になったところで、石油起源の液体燃料に勝るものは、そう無いから。

B君:ブラウン氏は燃料電池自動車をどのように見ているのだろうか。

C先生:水の生産性の話にしても、カスケードユースぐらいしか考え付かない。生産性を高める方法論を提案して欲しいところだ。畑作に使ってしまったら、水はそれで終わり。蒸発するので雨への循環には乗せていることにはなるが。

A君:全体としみると、どうも食い足らない感じ。

B君:しかたがないのではないか。ブラウン氏も、そろそろ食糧危機屋を脱して総合未来予測屋にならないと。

C先生:幸田さんには、もっと市民生活のどこをどう変えるべきかといった具体的な提案をして欲しいものだ。
 最後にお二人の経歴紹介で終わりにしたい。

経歴紹介:

レスター・ブラウン 34年ニュージャージー州生まれ。ラトガース大学で農芸化学。ハーバードで農業経済学。22歳でインドの農業援助に参加し、食糧生産が環境破壊の最大の原因になることを実感。74年ワールドウォッチ研究所を設立し、初代所長を務めた。01年からアースポリシー研究所所長。

幸田シャーミン:79年聖心女子大学英文科卒、92年ハーバード大学ケネディスクール・オブ・ガバメント卒。NHK「海外ウィークリー」フジテレビ「スーパータイム」でニュースキャスター。現在はフリーのジャーナリスト。環境問題を専門に活動中。環境ジャーナリストの会会員。