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  内部被曝の検討
    07.29.2012
       バイスタンダー効果と最終結論



 今回で、7回に及んだ、低線量内部被曝の話は完了。まだ、何か疑問があれば、答えを探してみたいと思いますので、ご指摘下さい。


目次

0.内部被曝を起こす元素
  04.15.2012
1.ダイヤルペインターの内部被曝
  04.22.2012
2.トロトラストによる内部被曝
  05.06.2012
3.カリウム40による内部被曝
  05.13.2012
4.ラドンによる内部被曝
  06.17.2012
5.1mSvという基準はどう決まった
  07.22.2012
6.バイスタンダー効果
  07.29.2012
7.セシウム134、137による内部被曝の結論
8.結論 専門家の発言の真意を解釈する方法



6.バイスタンダー効果

 2chによる御用学者リストにある放射線生物学者の一人、小林泰彦氏に、バイスタンダー効果というものを説明して貰った。

 小林さんは、この方。
http://www.life-bio.or.jp/topics/topics417.html

 Bystander=居合わせた人、見物人、要するに、脇に立っている人、という意味の英語だが、その効果が、低線量被曝の有害性を意味すると思っている人がいるようだ。

 その一例が、
福島大学による低線量被曝副読本の図



 この図だと、100mSv以下のLNTによるゼロへの外挿の部分が、盛り上がって描かれており、これがバイスタンダー効果のように見える。しかし、バイスタンダード効果と低線量被曝とは無関係のようである。むしろ、かなり強い放射線を浴びた細胞が、その状況を他の細胞に伝達するために、一酸化窒素やサイトカインなどの物質を放出することによって情報伝達(警告)を出す機構だと考えるべきものだ。

 結局。このページをそのまま読んでいただくのがベストのように思える。


バイスタンダー効果 by 小林氏

 放射線が当たっていない細胞が、あたかも照射されたかのような反応を示す現象をバイスタンダー効果といい、約20年前に発見された。非照射細胞に伝わる放射線影響は、DNA損傷、染色体異常、細胞分裂・増殖阻害、アポトーシス(細胞の自殺)、突然変異の誘発など、多岐にわたる。

 もし、バイスタンダー効果で伝わる作用が放射線の傷害作用だけなら、「無理心中効果」や「もらい泣き効果」と呼んでもいいが、逆に、放射線適応応答のように、放射線に対する防御作用や抵抗性を誘導することも分かって来たので、ぴったりする訳語がまだない。

 バイスタンダー効果は、照射された細胞から放出された一酸化窒素(NO)や、活性酸素種、種々のサイトカイン類(免疫細胞が分泌する情報伝達蛋白質の総称で、体内でホルモンのように働く)など、多数のシグナル分子によって伝達されると考えられている。

 シャーレの中の培養細胞(ヒト正常細胞)を使った実験では、たとえば、隣り合って密着している細胞同士を結ぶ小さなトンネル(ギャップ・ジャンクション)を閉じる薬剤や、培養液に分泌された活性酸素種を捕捉・中和する薬剤を添加すると、バイスタンダー効果が抑制される、などの結果が得られている。

 1個の細胞を狙い撃ちして重イオンをヒットできるマイクロビームを使った実験では、約100万個の密集した細胞集団の中のたった数個の細胞をヒットしただけで、シャーレ内の大多数を占める非照射細胞(バイスタンダー細胞)の生存率が10%も低下し、数万個以上の細胞にアポトーシスが誘導された。同時に、直接の照射を受けていないバイスタンダー細胞でも、アポトーシスのスイッチに相当するp53タンパク質のリン酸化が起こる一方で、数百以上の遺伝子の発現レベルが大きく変化したことがDNAマイクロアレイ解析で明らかになった。これらの遺伝子群の発現レベルの変動が相互にどのように調節され影響されているかはまだよく分かっていないが、正常な個体の中でもおそらく同様の働きが起こっていると考えられる。その全容を解明して、放射線がん治療や放射線防護に役立てることが将来の目標。

質疑応答

Q:バイスタンダー効果はがん細胞やがんでない細胞で同じに起こるか
A:がん細胞はルールを無視して増えて大きくなる。だから一般的には細胞同志のコミュニケーションが少なくバイスタンダー効果も起こりにくいと考えられるが、細胞の種類によっては、がん細胞でもバイスタンダー効果が起こることが分かっている。

Q:正常細胞のバイスタンダー効果を薬剤で抑制すると個体の死亡率はあがるのか
A:培養細胞では、バイスタンダー効果を薬剤で抑制するとアポトーシスが起こらなくなるが、個体でもその通りになるかどうかはまだわからない。バイスタンダー効果を制御し、正常細胞にはバイスタンダー効果による細胞死が起こらず、がん細胞だけがもらい泣きして死ぬような薬ができたら、少ない放射線でがん治療ができるようになると思う。

Q:放射線の学習効果ががん細胞にもあると、がんが放射線抵抗性を持たないか
A:放射線適応応答は、予めの照射が0.01〜0.2 Gyくらいの線量範囲のときに限って見られる。それ以上の線量では、学習効果(放射線適応応答)というよりは、本番の照射効果の話になる。エックス線がん治療では、正常組織の回復を待ちながら1回に2Gyずつ、何十回か繰り返して照射する。この線量は放射線適応応答が起こると考えられる線量よりもずっと大きいため、がん細胞における「学習効果」の有無は最初から考慮されていない。

Q:バイスタンダー効果はエックス線でも起こるのか
A:起こる。

Q:バイスタンダー効果は副作用の少ない治療法として、いいアイディアだと思う
A:多くの研究者が取り組んでいる。福井大学・高エネルギー医学研究センターの松本先生、放医研・重粒子医科学センターの古澤先生や鈴木先生などが活躍されている。

Q:もらい泣きで皆で死ぬのは生物として合目的的か
A:進化の過程で獲得された仕組みであり、合理的な理由があるはず。放射線があたって完全に元通りに修復できなかった場合のその後のリスクを減らすために、周囲の細胞も含めて広範囲に「死んで」後顧の憂いを断つということかもしれない。同時に、周囲(ひょっとしたら全身)の細胞に、放射線に対する備えを呼びかける意義もあるかも。それに、もともと個体にとっては個々の細胞死は無益な殺生ではない。老朽化した細胞や潜在的な問題を持つ細胞を自己分解させ、その養分(アミノ酸とか)をリサイクルして新品の細胞に置き換える訳だから…。



C先生:どうも、バイスタンダー効果の本当のところは、合理的な生体反応だということのようだ。地球上の生命は、もともと放射線が存在していることを前提として作られている。そのため、なんらかの状況に遭遇して、ある細胞が放射線の被曝を受けた。そのとき、被害を減らすために、隣の細胞に対して、警戒警報を出すというのが、どうやらバイスタンダー効果の本質のようだ。

A君:場合によっては、近くの細胞にアポトーシスを起こすこともあり得るということのようですが、細胞が死ぬということは、実は、生命にとってそれほど不利なことではないのですね。栄養分は再利用されるし、弱ってしまった細胞を無理やり生かし続けるという戦略は取らないのが普通ですよね。

B君:その通り。ところで赤血球は1日にいくつぐらい作られるのだっけ。

A君:寿命が120日、体内には全部で20兆個ある。毎日2000億個弱の赤血球ができるということでしょうか。

B君:人体にある細胞の1/3は赤血球。それだけ死んでいるから、それだけ作られる。鉄は貴重品なので、当然、再利用される。

A君:バイスタンダー効果の研究の図を見たら、γ線を使う場合での線量は、2〜8Gyといった量で、低線量とは無関係の大線量でした。



図 バイスタンダー効果の研究のために行うγ線、重粒子線(炭素線)による照射線量が分かる。

B君:ところで、バイスタンダー効果は、どうやって情報伝達を行なっているのだろうか。

A君:すでに説明されているように、それは一酸化窒素(NO)や、活性酸素種、種々のサイトカイン類などの物質が情報伝達をしているようですよ。

B君:その図が掲載されていた解説記事の出典は以下の通り。
「重粒子線誘発バイスタンダー効果」−照射された細胞から照射されない周囲の細胞への情報伝達−
 浜田信行他、放射線科学 Vol51,No.6, 2008.08


 そのまとめはこのようになっている。

 今回観察されたバイスタンダー細胞の一連の応答は、照射細胞に由来するサイトカインなどの情報伝達因子がバイスタンダー細胞に働きかけ、情報伝達系を活性化させることによって、引き起こされる可能性が示唆された。このような正常細胞の応答は、異常な細胞の増殖を最小限に留めることにより、恒常性を維持するための防御機構であると考えられる。

C先生:福島大学の副読本に出てくる図は、誰の書いたものなのだろうか。引用しているのは小出裕章著「原発のウソ」扶桑社新書、なので、小出ご本人かもしれない。バイスタンダー効果によるケノム不安定性が100mSvから始まるということは、今回、引用した小林氏などの文献からは全く想定されないことだ。副読本では、もっと詳しい解説をして欲しいところだが、これを書いた福島大学のグループでは無理ということなのだろう。

A君:ちょっと、その図の上に、こんな記述を見つけました。
 「日本の法が定める一般公衆の追加被曝線量限度である、年間1mSvの基準が達成される環境で生活する権利があります」。
 その1mSvという値がどのように決まったかを先週の記事では記述しましたが、我々も知らなかったのだから、仕方がないことですが、この記述を読むと、この数値の本質が分かっていないと、こんなことも書けるのだなあ、と思ってしまいますね。

C先生:いよいよ最後の二つ節を書くか。


7.セシウム134,137による内部被曝

A君:毎回参照している放射能ミニ知識から、情報を整理します。

セシウム134
 半減期は2.06年
 崩壊方式は、β線を放出してバリウム134になるのが大部分。その際、γ線を放出。 外部被曝は、1mの距離に100万ベクレルの小線源があると、γ線によって1日に0.0055mSvの外部被曝を受ける。
 内部被曝は、10000ベクレルを経口摂取したときの実効線量は、0.19mSvになる。

セシウム137
 半減期は30.1年
 崩壊方式は、β線を放出してバリウム137になるが、94.4%はバリウム137mを経由する。この際、γ線が放出される。
 外部被曝は、1mの距離に100万ベクレルの小線源があると、γ線によって1日で0.0019mSvの外部被曝を受ける。
 内部被曝は、10000ベクレルを傾向摂取したときの実効線量は0.13mSvになる。

B君:これまでも述べてきたように、様々な崩壊の型式があるのだが、セシウムは、いずれの質量数のものも、β線を出してγ線を出すという崩壊を行う。ある意味で、もっとも素直な崩壊をするものと考えても良い。

A君:確かに。ラドンの場合は、極めて複雑な崩壊を何段階も行なって、α線を何本も、β線も何本も出しますよね。

B君:セシウムの場合には、低線量の方が危険だというバズビー氏式のSecond Event Theoryが成立するとは思えない。理由は、極めて単純な崩壊方式で、β線は、近くにある細胞に吸収されるが、γ線は、セシウムから近い細胞は突き抜けてしまうからだ。

A君:セシウムの体内での挙動は、カリウムの場合とほぼ似たものだということも、Second Event Theoryが起きないことを支持すると思う。細胞液にイオンの形で溶け込んでいるので、動きやすい。ポロニウムなどのようにある場所に固形物として留まって同じ細胞にα線、β線を照射し続けるという機構が考えられない。

B君:他の内部被曝を起こす元素のまとめをこのシリーズでやってきたが、セシウムは、その中で、もっとも素直な種類だと結論して良いだろう。体内半減期も比較的短いし。

A君:しばしば内部被曝の方が怖いとか思っている人が居るが、セシウムの場合は、シーベルトに換算して、その数値だけを考えれば良い。


8.最終まとめ

C先生:最後のまとめに行くか。科学者の意見が一致しないといって、放射線の低線量被曝の影響は「分かっていない」から危ないという判断をする人がいる。科学者の意見が一致しないのは、それは科学者というものの商売から言っても当然で、一致すると思う方が間違いだ、ということを明らかにしてみよう。

B君:セシウム以外の核種の場合であっても、シーベルトに直せば、それが外部被曝だろうが、内部被曝だろうが、放射線の影響を評価しているのだが、ECRRのバズビー氏などは、内部被曝だけ、100倍以上も危険だという奇妙な説を出している。

A君:福島大学の副読本の記述によれば、バズビー氏のECRRは、ICRP、アメリカ科学アカデミー電離放射線の生物影響に関する委員会BEIR、国連科学委員会UNSCEAR、と並べて、欧州放射線リスク委員会ECRRの名前を上げている。

B君:ECRRの名前、欧州放射線リスク委員会というものが一見すると、中立の組織で権威があるように思える名称だからだ。その実態は、緑の党の下部組織で、政治的な目的をもっている。

C先生:政治的な意図をもって、何かを新しい自説を発明する科学者がいるという結論がまず出た。

A君:放射線の専門家には、いくつかの種類があるように思うのです。BEIRは、Committee on the Biological Effects of Ionizing Radiationが正式名称ですが、そのBiological Effectsを研究する学問が、放射線生物学。ICRPは、 International Commission on Radiological Protectionが正式名称で、これを研究する学問が、放射線防護学。

B君:放射線防護学というものは、生体への放射線の影響を過大に評価しても良いから、過小評価は絶対に避けて、放射線による被害を可能な限り極小化することを目的としている。そのため、LNTのようなモデルを考える。モデルというが、実際には仮説であって、生物が遺伝子の損傷を直す能力があることはすでに科学として確立しているのだが、これを無視することが、リスクを過小に評価する可能性が無いという理由で、この学問領域では正しい選択になる。

A君:放射線生物学では、生体が放射線によってどのように損傷を受けるか、科学的に正確に表現することが求められるので、過大評価も駄目だし、過小評価も駄目。

B君:さらに、放射線防護学は、LNTを仮定しているために、「いかに少ない被曝であっても、影響が無いとは言えない」という自縄自縛状態にある。そのため、先週の本Webサイトの記事のように、1mSvという基準値を、「公衆の受容性」という心理的な要素によって決めるというような方法論も採用する。

A君:放射線防護学の主な手法は、勿論、疫学。疫学は統計学のようなもので、交絡因子をできるだけ取り除くといった数学的な手法をどこまで極めるかが、この分野で新しい成果を生み出す唯一の方法になる。なぜならば、放射線被曝については、その元となるデータは、広島・長崎以外には、今回の福島事故まで無いから。チェルノブイルは、残念ながら、統計的に取り扱うにはデータが不足しているようです。

B君:バズビー氏のモデルは、放射線生物学的な背景を組み込んだものなので、多くの放射線防護学の専門家にとっては、馴染みの無い手法なのかもしれない。どうやって反論したら良いのか、となると、若干専門外なのかもしれない。

A君:加えて、放射線防護学は規制を作る側の論理なので、ややもすると、厳しい規制を作って、自らの権威を保つという欲望を持つという危険性があるように思いますね。

C先生:その通りで、放射線防護学は、決して、原子力事業者の味方ではない。過去、ICRPの勧告が厳しすぎると、原子力事業者からは、うとましいものだと考えられていた、という歴史がある。

B君:行政にとっては、ICRPは便利な組織だった。4月から食品衛生法をできるだけ厳しくしたかったのは、行政そのもののようには思うが、「厳しい規制は権限強化である」という発想は、官庁にもあるのは当然だが、規制の作成に関わる学者側にもあると言えるだろう。

A君:以上の2つのジャンル以外に、医者、あるいは、医学博士というジャンルがありますね。

B君:放射線防護学は、過小評価であることを絶対的に避けるという使命があるのだが、それでも過小評価だといって弱点を突くのが、実は、医者。一般の人々にとっては、医者と放射線生物学者との区別は付かない。医者には、実は、多種多様の人がいて、一部には、バズビー氏的な発想、すなわち、自分の政治的主張を補強するために、理論を作り上げるというケースも有り得る。さらに一般論として、「危ないかどうか分からない」ものを「絶対に危ない」と言っていれば、多くの人は、「命を大切にする良い医者だ」と言ってくれるという、訳の分からない動機もありうるから。

A君:弁護士もそんな評価がありうる商売。同時に、危ない危ないということで商売が拡大できるという解釈も成り立つ。これは医者も同じ。

B君:ということで、色々な専門家が、なぜ異なったことを言うのか、その解釈の一部をご披露した次第。すなわち、商売によって違う。

C先生:とんでもない理屈を暴露する結末になったが、このような余り語られないことをそれなりに語ることは良いことかもしれない。やはり、自分が偉くなりたい、自分の商売を繁盛させたい。どうしてもそんな方向に努力してしまう、ということは、すべての人にとって当然のことなのだ。

A君:我々が良く言うセリフ、それは、「メディアも商売だから」。これの一般化ですね。「放射線防護学者も商売」、「放射線生物学者も商売」、「医者も商売」

B君:ここで再度整理すれば、リスクを過小に評価しては商売が成り立たないので、過大に評価するのが放射線防護学者。リスクをさらに過大に評価する傾向が強いのが医者。リスクを適正に評価しなければ商売が成り立たないのが放射線生物学者、ということになる。

C先生:メディアの場合には、どのようなケースもあり得る。どのような読者を味方に付けたいと思っているかによって決まる。極めて単純な発想で考えることでも、十分に理解できる。
 とんでもない結末だと自己批判しつつも、実は、このような解釈ができるぐらいの余裕を持つことが、低線量被曝を正しく評価するコツだと思うのだ。現在の福島の状況では、放射線が原因で、明確に寿命が短くなるというケースは考えられない。だから、ちょっとよそ見をして、どのような人が何を言っているか、その専門、あるいは商売との関連をじっくりと観察するといった余裕を持つことを是非ともお勧めしたい。そんな作業をしながら、「放射線が怖い」という思いから数日間離れることができれば、それは良い効果しか生み出さないことを保証したい。
 これにて、低線量被曝の特集は「完」