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  生物多様性条約の本質    04.12.2009
     



 2010年、名古屋で生物多様性条約(Convention on Biological Diversity) http://www.cbd.int/
の締約国会議COP10が開催されることになっている。
http://www.cop10.jp/aichi-nagoya/index.html

 そもそも、この条約とは何なのか。そして、名古屋でどのような議論がされるのか、を推測してみたい。

 国連の条約の場合には、大体そうなのだが、いつでも気にしなければならないことは、途上国と先進国の関係である。

 しかし、COP10に向けて日本が準備しているように見えるものはSATOYAMA(里山)だけか。どうも、生物多様性条約の本質との整合性は必ずしも良いもののようには思えないが、SATOYAMAを使って、どのような主張を世界に向けて行うのだろうか。これが見えない。



C先生:生物多様性条約というものを、このHPではまだ扱ったことが無いので、これを検討してみたい。

A君:まずは歴史ですか。1992年、リオのサミットで調印式が行われ、1993年に発効したようですね。

B君:日本も批准している。外務省のデータによれば、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html
2008年7月現在で、190ヶ国およびECが締結している。しかし、米国は未締結であるとのこと。その理由は後ほど。
 COPすなわち、締約国会議は、第1回が1994年にバハマにおいて開催されている。第2回はインドネシア・ジャカルタだ。

C先生:その後、1999年2月にカルタヘナで開催された会議で、「生物多様性条約バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」ができたとあるが。

A君:その件ですが、ちょっとだけ違うようです。1999年2月に行われた会議では、「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」ができた。まだ頭の7文字が付いていない。その中身ですが、2003年から、遺伝子組み換え作物などの輸出入時に、輸出国側が輸出先の国に情報を提供、事前同意を得ることなどを義務化するもの。そのカルタヘナ議定書をこの生物多様性条約の中に入れる合意が2000年になされ、国際協定「生物多様性条約バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」となったようです。

B君:日本は、このカルタヘナ議定書に対応する国内法として「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」、通称、カルタヘナ法が制定され、2004年に施行された。

C先生:第1回の締約国会議(COP)が1994年に開催されて、2010年が名古屋で第10回ということは?

A君:どうもこのところ2年に1回の頻度になっているようです。

B君:これまでCOPで議論されたことのリストを作るか。
(1)科学上および技術上の助言機関
(2)情報交換の仕組み(Clearing House Mechanism)
(3)原住民の知識の運用
(4)カルタヘナ議定書
(5)遺伝資源へのアクセスと利益配分
(6)森林や海洋、山岳や島嶼の生物多様性
(7)外来種
(8)保護地域
(9)技術移転
(10)2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させること


C先生:(10)の目標年が2010年なのだが、日本はこれまで何をしてきたか? しかも、この条約への最大の出資者なのだが、世界に向けたメッセージは何なのか。

A君:2002年3月に生物多様性国家戦略というものが閣議決定されていて、2007年には第三次版がでてます。
http://www.env.go.jp/nature/biodic/nbsap3/
 これは、生物多様性条約締結国が義務として作らなければならないものです。要するに、自分の国をどうするか、という方針を表明するための文書ですが。

B君:2007年バージョンだが、どうやらそこで地球温暖化の影響についての記述が初めて追加されたらしい。
 過去100年間に破壊してきた国土の生態系を100年掛けて回復する「100年計画」を提示して、地方・民間の参画の必要性を強調し、それを踏まえたうえで、今後5年程度の取り組むべき施策の方向性を次の4つにまとめている。
(1)生物多様性を社会に浸透させる
(2)地域における人と自然の関係を再構築する
(3)森・里・川・海のつながりを確保
(4)地球規模の視野をもって行動する


C先生:なるほど、ここまででも日本がCOP10に向けてSATOYAMAを準備しているという構図と多少の流れが見えてきた。どこか、興味のありそうな国を選択して、その国の国家戦略を探してくれ。

A君:ちょっと探して、スウェーデンのものは見つかりました。
http://www.biodiv.se/eng/svpolicy/
今回は、スペースが足らないので、詳細は、次回以降にでも検討をすることにします。

B君:それよりも、そろそろ条約の本文を出さないと。

 まずは前文だ。しかし実に長すぎる。そこで、最初のフレーズだけここに示したい。最初の一文だと、それだけで半ページ以上あるので。

The Contracting Parties,
Conscious of the intrinsic value of biological diversity and of the ecological, genetic, social, economic, scientific, educational, cultural, recreational and aesthetic values of biological diversity and its components,
,,,,,,,,,


和訳

締結国は、
生物の多様性が有する内在的な価値並びに生物の多様性及びその構成要素が有する生態学上、遺伝上、社会上、経済上、科学上、教育上、文化上、レクリエーション上及び芸術上の価値を意識し、
、、、、、、、、、、、、


C先生:国連がやったミレニアムエコシステムアセスメント(Millennium Ecosystem Assessment,2000-2005)の基調が、「生態系サービスということで生態系から人類はどのような経済上の利益を得ているか。しかし、開発行為によって、自然がどのぐらい、脆弱になっているか。回復力がどのぐらいあるか」、ということだった。どうも、他の価値を無視して、経済的価値だけをとことん生態系から搾り取るという本心が根底にあるようにも見えて、余りにも人間側の身勝手な考え方なのではないか、と言っていたが、生物の多様性、すなわち、生物多様性の持つ価値とは、経済上の価値だけではない。

A君:それはその通りなのです。ここで、生態学上、遺伝上、社会上、経済上、科学上、教育上、文化上、レクリエーション上、および芸術上の価値を意識することになっていますから。しかし、生態学上の価値とはなんですかね。

B君:学問の対象としての価値なのだろうか。

C先生:英語の本文を見ると、ecologicalになっている。これを生態学と訳しているだけだ。そもそもecologicalは学問だけを表現する言葉なのだろうか。

A君:ecological degradation とか ecological destructionを生態学的な劣化、あるいは、破壊と訳すべきなのか。

B君:それは違う。「生態系の」と訳すべきだろう。ecological の意味は、「個々の生命間の、さらに全体との関係」、ぐらいなのでは。
 まあ、次に行って第一条

第1条 目的
 「この条約は、生物の多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用及び遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分をこの条約の関係規定に従って実現することを目的とする。この目的は、特に、遺伝資源の取得の適当な機会の提供及び関連のある技術の適当な移転(これらの提供及び移転は、当該遺伝資源及び当該関連のある技術についてのすべての権利を考慮して行う。)並びに適当な資金供与の方法により達成する。」


A君:まずは、生物の多様性の保全。これは当然。しかし、保全ばかりでは無理なので、実際上は、生態系を持続可能な形で利用しよう。そして、その下に先進国と途上国の関係の基本方針が記述されている。資源となりうる生態系は、と言えば、当然のことながら、開発が進んでいない途上国に多い。それを先進国がどのように使うことができるか、ということが基本的な問題。

B君:もしも先進国が途上国の遺伝資源を利用して利益を得たら、それを公平かつ衡平な配分をしなければならない、ということ。

C先生:ということだ。この条約は、生物の多様性の保全をすることが第一の目的ではあるけれど、その思いだけでは目的の達成はできない。持続可能な利用を実現することが現実的だし、必要不可欠。しかし、そもそも持続可能な利用というものがどのようなものなのか、そこで、利益の公平かつ衡平な配分とは何か、といったことが国連的な立場から言えば、国際条約としてはもっと重要な部分なのだ。

A君:国連の条約なのだから、まあ一言で言えば、細かいところは、それぞれ国によって方針を決めよ、ということなのでしょうね。例えば二国間協定によって。

B君:国によって対応の違いというものも当然ある訳だ。日本は、インドネシア、ベトナム、ミヤンマー、モンゴル、ブルネイ、タイ、中国と協定があるようだが、フィリピン、インドなどとはできていない。

C先生:もう一つの問題が、関連する技術ということで、遺伝子組み換え技術をどうするか。

A君:さらに言えば、技術だけでなくて、遺伝子組み換え作物そのものについて、その安全性をどのように共有するか、という大きな問題がある。

B君:それが、米国が未だにこの生物多様性条約を批准していない理由だろう。米国の遺伝子組み換えに対する態度、というよりも、推進への非常に強い意思は、他の国とはかなり違うので。

A君:遺伝子組み換え作物を世界中で使ってもらえば、米国としては、その種子をすべてアメリカがコントロールできることになりますね。

B君:当然のことながら、欧州などは反発することになる。

C先生:ところで、「持続可能な利用」とはどのようなものだと考えられているのだろうか。

A君:第二条に言葉の説明があります。原文だと、
"Sustainable use" means the use of components of biological diversity in a way and at a rate that does not lead to the long-term decline of biological diversity, thereby maintaining its potential to meet the needs and aspirations of present and future generations.

日本語に訳されたものが、
http://www.biodic.go.jp/biolaw/jo_hon.html

「持続可能な利用」とは、生物の多様性の長期的な減少をもたらさない方法及び速度で生物の多様性の構成要素を利用し、もって、現在及び将来の世代の必要及び願望を満たすように生物の多様性の可能性を維持することをいう。


B君:多様性の減少を定量的に把握する必要がある。となると、生物の多様性をどうやって測定するのか、という問題が出てくる。しかも、2010年は目標年にもなっている。名古屋げもっとも議論が行われることはこれではないか。

A君:そもそも「生物の多様性」とは、この条約の第2条にまとめられています。

 「生物の多様性」とは、すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。

B君:種内の多様性は、DNAレベルでのことになるのだろうか。ヒトというのは単一の種なのだが、恐らく、ヒトの多様性となると、スニップスのような個体のDNAの差異ではない。やはり博物学的な分類である人種といったようなことが、多様性の本体のような気がする。

C先生:状況は、種によって違うのだろう。日本には魚の名前が多数あるが、欧米では、比較的単純に分類されていて、名前が少ない。これも日本の食生活が魚に大きく依存しているために、このようなことになったのだろう。

A君:持続的に利用するとは、博物学的な意味での種の数が減少しないようにすること。ただ、昆虫などは、博物学的に知られている種は極めて少数。

B君:21世紀は、恐らく生物の種が大量に絶滅する時代だと考えられている。生態系を持続的に利用することによって、絶滅種の数が減少するものと考えられる。という合意が必要。

A君:日本の場合だと、絶滅危惧種や外来種に重点があり過ぎる。

B君:オオタカ一匹で、すべての事業が止まる。

C先生:遺伝資源の利用に関する利益配分の話しに行こう。なんらかの生物資源の有効利用がなされて、利益がでたときに、どのように利益配分がなされるのか。といった説明が欲しい。

A君:先進国がある原産国から植物とか微生物とかを持ち出し、それから有用な物質を作り出す。それが医薬品などに使われたとする。そのとき、先進国だけが利益を得るのはやはりおかしなこと。原産国にだって分配される権利がありそう。
 そのため、基本的には、原産国の許可無しで持ち出すことはできない。もしも利益が生じるのであれば、その利益は折半される。それ以前に、技術協力や開発、あるいは、微生物の探索事業などで協力が行われる。

B君:そんな感じか。米国などだと、自分達で既存の微生物を改変して、医薬品かなにかを作り出すことがありうる。その際に生ずる利益は、企業戦略としては独占したい。しかも、カルタヘナ議定書に従うと、情報を交換することが義務になる。それが企業秘密を守るという点から不利になる。こんな可能性を考えて、批准していないのだろう。

C先生:米国は、遺伝子組み換えを経済発展のための戦略として捕らえている。企業利益、これがこれまでの米国のほとんどすべての戦略なのだから。

A君:もっともそれが行き過ぎて、今回の国際的経済危機を引き起こした。

B君:遺伝子組み換え作物も、現時点までなら米国農業を強化することに有効だった。
 例えば、本来、すべての植物を枯らすはずのグリフォサート(商品名ラウンドアップなど)耐性農作物を遺伝子組み換えによって作って、農作業が楽になっている。

A君:世界的には、遺伝子の交雑が起きて、グリフォサートが利かない超雑草ができるということで、大分反対があった。

B君:グリフォサート耐性の雑草は、普通に考えれば、現実にどこかで発生しているだろう。遺伝子は非意図的に変異を起こし、そして環境に適合した種だけが生存する。だからといって、それをどう評価するか、と問われると、これは簡単ではない。グリフォサートという単一の化学物質に耐性をもった雑草が出ることの意味は何か。

C先生:米国の環境問題の専門家と言えば、レスター・ブラウン氏が著名だ。これまで、2回ほど、舞台の上で1:1で対談をしたことがある。そこで、聞いてみたのだが、遺伝子組み換え技術の環境へのリスクは、それほど大きくない、と断言されてしまって、さすがに米国人だと驚いた。

A君:環境問題は、もう少々時間を掛けて見ないと。現時点では、まだそこまでの結論が出ているとは思えないですから。
 グリフォサート耐性大豆の環境影響と言われても、もしもグリフォサートを用いなければ、当然、なんらかの除草剤を使うことになる。それによる環境への影響がある。

B君:アルゼンチンの大豆は、グリフォサートを使っているおかげで、不耕起、すなわち畑を掘り起こさない農業が可能になって、土壌が失われることが防止できても居る。

C先生:農業そのものがモノカルチャーな生態系を作ることだ。水田は、モノカルチャーの典型でありながら、水が入れ替わっているために、微小元素の供給は継続的に行うことができている。すなわち、連作障害が起きにくいと言われている。しかし、ツボカビ病の影響もあるだろうが、現在の水田耕作というものが、カエルが減ったり様々な影響を引き起こす原因であることに間違いは無い。

A君:レスター・ブラウン氏は、そこまで考えて、大きな影響は無いと言っているのでしょうかね。

B君:彼は、食糧生産が十分に行われることがもっとも重要だと考えている節はある。

C先生:そうかもしれない。食糧危機が起きるという説のもっとも有力な支持者だから。そろそろ結論にしよう。
 まず、問題意識を一つ述べると、例えば、技術移転にしても、途上国は特恵的な待遇を求めてくる。しかし、それに無条件に応えるために協力するのが唯一の方法ではない。

A君:自らの能力を自らの責任で高める。そのために、相互的な努力が必要。

B君:先進国側として、途上国における森林破壊などを一方的に攻撃するのも駄目。
 しかし、一方でこんな事実も重要。ブルネイは、あの地域での富裕国だから、法律的に厳しく森林を管理している。カリマンタン島の生物種の半分ぐらいは、あの狭い国の中に保全されているらしい。

A君:生物多様性条約は、単に、生物の多様性を守るべし、といったホノボノした条約ではない。むしろ、国連が関与している条約の典型だけあって、やはり先進国と途上国のせめぎあいがそこで見られる訳です。

B君:しかも、遺伝子組み換え作物なども色濃く影響をしている。米国がやはり世界では特殊な存在である。日本を含む先進国と途上国では、基本的にスタンスが違う。

C先生:しかし、2010年に名古屋で行われるCOP10に対して、そのHPなどを見ると、日本はSATOYAMAというホノボノしたコンセプトで対応しようとしているようにしか見えないが、もしそうなら、それでは全く不十分。
 議長国としては、もっと対立構造に深く配慮した問題意識をもつ必要があるように思える。すなわち、名古屋では、2010年が目標年になっていることもあって、様々な対立構造を反映したもっともっと厳しい議論が行われることが予測されるのだ。「気候変動が起きると白クマ君が大変だ」と言うようなイモーショナルなマインドが基調では、COP10へも対応不可能だろう。
 外務省のWebは、この条約の内容を日本の立場からバランスよく説明しているので、再度、URLを示しておきたい。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html