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  CCSは救世主なのか  03.24.2007
     



 このところ、EUは、二酸化炭素を回収し、そして分離し、地中や海中に貯留する技術の実用化に向けて走り始めたようである。
 一方、日本でも、RITEなどでは、かなり長い検討の歴史をもっている。
 果たしてCCS(Carbon Capture and Storage)は、地球の救世主なのだろうか。


C先生:このところ、CCSの話題が新聞紙面などをにぎわすことが多くなった。本、HPでは、基本的なスタンスはかなり前に表明したことはあり、それは変わっていないのだが、それ以上の詳しい見解を示したことはない。今回、「環蛙”」さんからのご要望もあり、ここで検討したい。

A君:最近の記事などをちょっと復習。

日経の記事(3月22日)
「EU、火力発電のCO2削減 分離・地中貯留技術実用化急ぐ」

 EUは、地球温暖化対策を進めるために、火力発電所から排出される二酸化炭素を削減する新技術の実用化を推進する。
 排ガスから二酸化炭素を分離し、地中に封じ込める技術で、2015年までに12の実験プラントを立ち上げ、将来的には、排出量を30%削減する計画だ。EUは、技術開発を先行させることで、ポスト京都議定書の国際交渉を有利に展開するとともに、環境分野での産業競争力の確保を目指す。
 現在、デンマーク・エスピアウの石炭火力発電所で、石炭燃焼時の排ガスから二酸化炭素を分離する実用化実験が進んでいる。
 既存技術では、二酸化炭素1トンあたり、50ユーロ(7700円)以上のコストが掛かるが、これを半分程度に抑えるのが目標だ。地中海では、スペインなどが海底油田での二酸化炭素貯留実験を進めている。
 EUは、12年で起源が切れる京都議定書以降の枠組み交渉で、二酸化炭素分離地中貯留を排出削減策として認めるよう求めていく。
 一方、地中から二酸化炭素が漏れ出す恐れがあるとして南米諸国などが反対しており、EUは実用化を進めて国際社会の支持を得る考えだ。

EICネット上の記事。
ドイツ CO2回収・貯蔵(CCS)技術と再生可能エネルギー技術の比較研究が完成
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=15564&oversea=1

 ドイツ連邦環境省は3月7日、比較研究「CO2回収・貯蔵(CCS)技術を伴った化石燃料発電所と再生可能エネルギー」を発表した。
 この研究によると、CO2回収・貯蔵技術を採用した発電所の発電コストは、好条件のもとでは、再生可能エネルギーによる発電と、張り合う可能性があるという。
 しかし、再生可能エネルギーもCCS技術も、開発段階にあり、特にCCS技術に関しては、実際の利用例はほんの僅かであることから、費用削減ポテンシャルの試算は困難を伴い、正確な予測には至っていない。
 ただし、研究によれば、CCS技術は、気候保護に対して、長期的ではないものの重要な役割を果たす橋渡し的な存在になるとされ、それまでに克服すべき課題が示された。【ドイツ連邦環境省】

B君:日経の記事だけ読むと、日本には何も実績がないような印象をもつ人が多いと思うが、実は、財団法人地球環境産業技術研究機構=RITEなどではかなり前からCCSの検討を行っている。
http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/choryu/choryu.html
http://www.rite.or.jp/Japanese/project/tityu/tityu.html

C先生:関西電力は三菱重工と共同で、二酸化炭素の吸収液を開発したが、その他、RITEが開発した分離膜法、さらには、吸着法など様々な実績がすでに存在している。しかし、問題は、やはりコストだとされている。どこにコストが掛かるのか、と言えば、それは方式によって違うが、膜分離法であれば、真空ポンプなどの電力と建設費、化学吸収法であれば、吸収液の再生に使用する蒸気のエネルギーと建設費などが大きい。

A君:しかし、コストだけが問題かどうか、それはこれから議論する。

B君:結局のところ、分離するのに、エネルギーが必要。そのエネルギーの獲得のために、さらに二酸化炭素が発生する。

C先生:1トンの二酸化炭素の処理に7000円掛かるとする。7000円をまあ60ドルと見れば、原油1バレルが買える。1バレルの原油は、0.5トン程度の二酸化炭素を出す。こんな話から分かるように、二酸化炭素を処理するのに、相当なエネルギーが掛かることが想像できる。技術によって様々ではあるが、ざっくり言えば、発生する二酸化炭素を処理をすればエネルギー使用量が3割アップするぐらいだと思えば良い。

A君:3割アップということは、化石燃料の寿命が3割短くなることになる。

C先生:それがCCSの最初の問題だ。人類が直面している危機が、地球温暖化だけであるのなら、無条件に採用すべき対処法かもしれないが、化石燃料枯渇が同時に危機的状況だと認識すべきなら、さて、どちらを選ぶのだろう、温暖化で困るのがましか、それとも、化石燃料が枯渇して困る方が良いのか、という議論が必要。

A君:化石燃料の枯渇は、石油、天然ガス、石炭という順番になる。石油と天然ガスは、そのまま使って、石炭に今よりも依存する時代が始まるときには、CCSというのが常識的な対応ではないでしょうか。

B君:石炭は、天然ガスに比べれば、炭素の含有量が多いだけに、発熱量あたりの二酸化炭素放出量が多い。だから、そのまま利用して、なんら対策をしないと、気候変動への影響が大きいだろうと思われる。石炭は、CCSとの組み合わせというのは妥当ではないだろうか。

C先生:石炭と言えども、やはり枯渇の危険性がないということはない。長くても、300年以内か。もっとも、化石燃料が枯渇した後の人類の生活だが、考え方を変えることができれば、必ずしも不幸だということでもないだろうから、それも一案。

A君:となると、CCSに関わる重大な問題は、
(その1)化石エネルギーを3割ぐらい余分に食うことになる。気候変動/温暖化のリスクが突出して大きいという状況であれば、対策として使えるかもしれない。
という結論で良いでしょうか。

B君:良いことにして、次の問題は、記事にもあるように、封じ込めた二酸化炭素が漏れ出す恐れがある、というところはどうだ。

C先生:漏れ出す速度によって、(あ)急性の影響、(い)慢性の影響という化学物質の毒性のような分類をして考える必要があるだろう。(あ)急性の毒性とは、アフリカのニオス湖などで見られたように、窒息によって人が死ぬということだ。
 1986年に死者1700名という事故があったということだが、これは、二酸化炭素が大量にニオス湖から噴出したため。
http://www.bousaihaku.com/cgi-bin/hp/index.cgi?ac1=R102&ac2=R10206&ac3=1345&Page=hpd_view
http://www.bousaihaku.com/cgi-bin/hp/index2.cgi?ac1=BB40&ac2=&ac3=2776&Page=hpd2_view
 一方、慢性の影響とは、健康影響ではなくて、折角貯めておいたのに、漏れ出して、温暖化防止効果がなくなってしまうこと。

A君:急性の影響は困るが、慢性の影響なら、500年後ぐらいに漏れ出すのであれば、丁度良いのでは。そのころ、化石燃料を使い切っていることは確実だから、人為的な温暖化はすでに終わりを告げ、地球は明らかに寒冷化に向かっている。そこに、二酸化炭素が適当な速度で漏れ出せば、寒冷化する速度を落とすことが可能かもしれない。

B君:そんなに上手に500年後から少しずつ漏れ出すなどという状況は作れないだろう。

A君:(その2)急激に漏れると困るが、300〜500年後ぐらいに徐々に漏れるのであれば、困らないどころか、却って地球の寒冷化を防止する可能性もある。

B君:となると、なかなか合意を形成するのが難しい。ブラジルなどの南米がCCSをポスト京都の枠組みに入れるのを反対しているのは、勿論、バイオエタノールなどの利用へ世界を導きたいからという要素が強いのも事実だろうが。

A君:漏れるといっても条件によって違うわけですね。

C先生:二酸化炭素を貯留する場所としては、(a)油田・天然ガス田などに注入して、石油などを多く採取するEOR、(b)地下の帯水層に注入する、(c)海洋貯留をする、と大体3種類が考えられている。現在、ノルウェーでは、(a)はすでに実施中。ただし、火力発電所などから出る二酸化炭素ではなくて、天然ガスと一緒に出てくる二酸化炭素を元の場所に戻しているというものだ。となると、天然ガスを採取すると、また、二酸化炭素も一緒に出てくることになる。これで貯留になるのか、どのぐらい、地中に安定に存在するのか、それは問題になる。(b)の帯水層貯留は、安定性が問題になる可能性もある。特に、日本のように地層が安定でないところでは多分そうなのだろう。(c)海洋貯留は、種類があるし、また色々と問題がある。これは後ほど。

A君:(b)の分類になるが、日本でも、新潟県長岡市で、帝国石油の天然ガス田を使って、RITEが実験した。また、話題の夕張市では、二酸化炭素の炭層への貯留が計画されている。

B君:まあどのぐらい本気でやるか。それが問題。

A君:日本における(a)、(b)の利用限界はどのぐらいなんでしょう。ちょっと調べてみますか。
http://www.env.go.jp/council/06earth/y068-05/mat04.pdf
 世界全体では、二酸化炭素で2兆トン。日本では、52億トンといった推計があるようですね。もっとも、これは、経済的に可能という要素は考慮されていないので、過大でしょうが。

B君:日本全体での二酸化炭素排出量を13億トンとすると、全部処理すれば、たった4年分しかない。

A君:となると、日本で何かしようとすると、海洋貯留以外に方法は無いと思った方が良い。
(その3)地中貯留を日本でやろうとしても、それほど場所がある訳ではない。

C先生:海洋貯留の話に行こう。これまた2種類あって、(d)海底下地層貯留と、(e)深海貯留がある。
 海底下地層貯留は、ロンドン条約で、昨年の11月に可能な廃棄のひとつとして加えられた。日本は国内法を整備するなど、批准する準備をしている。
 二酸化炭素は、固体になると、ドライアイス。高圧にして、温度を下げれば液化炭酸というものになる。ところが、臨界点というものがあって、31.1℃−73気圧であるが、それ以上の条件だと、超臨界流体という状態になる。液体でもなく、気体でもない状態である。海底の地下1000m程度(地表からの深さ)になれば、この条件を満たすので、超臨界状態の二酸化炭素をためることになる。

A君:海底の地下1000mに貯留するぐらいなら、海上風力発電を作る方が簡単そうに思いますね。コスト的にもそうかもしれない。
(その4)海底下貯留もありうるが、さらに高く付きそう。

B君:日本では、深海貯留が可能にならないかぎり、CCSに多くの期待をするのは無理なのではないか。

C先生:液化二酸化炭素を海底に沈める深海貯留になると、これはまた問題がある。
 しかし、有利な点から述べよう。海底に二酸化炭素を持ち込めば、高圧であり、また4℃という温度なので、液体状態になるはずだが、実際には水と結合して、二酸化炭素ハイドレートなるものになるものとされている。5℃での平衡圧力は、2.2MPa。深海では、安定に存在しそうである。一方、メタンハイドレートの平衡圧力は4MPa。ということは、メタンハイドレートのあるところに、二酸化炭素を送り込むと、二酸化炭素とメタンが置き換わって、メタンが発生することになる。これは、2倍おいしい方法になる可能性もある。もっとも、これは、海底下貯留なのかもしれない。

A君:問題は、勿論、環境問題。

B君:当然、海水に二酸化炭素が溶け込むことを前提としなければならない。海水に溶け込んでいる二酸化炭素量が多くなったらどうなるのか。魚は、海水に溶け込んでいる酸素を呼吸しているので、当然、なんらかの影響は受けるはず。しかし、魚類も成魚だと、比較的強いらしい。石灰質の殻を持つ生物、例えばウニなどは、生存率が低下するという話があるらしい。

C先生:深海貯留は、したがって、世界的に許容される方法になるかどうか、かなり疑問。

A君:いずれにしても、どの方法も本命とも言いがたい。
(その5)深海に二酸化炭素をそのまま沈める方法は、国際的に認められるには時間がかかる。

B君:様々な方法があるものの、いずれにしても、コストの問題が非常に大きい。分離コストが特に問題。

C先生:ガラスの溶解窯などだと、純酸素溶融というものが行われている。燃焼に空気を使うのではなくて、あらかじめ窒素を取り除いた酸素だけを使う。これによって、より高温の炎を出すことができる。効率も上がる可能性がある。この方式であれば、排気ガスから二酸化炭素だけを取り出すのが比較的簡単。こんな方法を併用することによって、そのうち、CCSが普及する可能性は無いとは言えない。

A君:ここで5つのポイントをまとめると、
(その1)化石エネルギーを3割ぐらい余分に食うことになる。気候変動/温暖化のリスクが突出して大きいという状況であれば、対策として使えるかもしれない。
(その2)急激に漏れると困るが、300〜500年後ぐらいに徐々に漏れるのであれば、困らないどころか、却って地球の寒冷化を防止する可能性もある。
(その3)地中貯留を日本でやろうとしても、それほど場所がある訳ではない。
(その4)海底地下貯留もありうるが、さらに高く付きそう。
(その5)深海に二酸化炭素をそのまま沈める方法は、国際的に認められるには時間がかかる。

B君:地中貯留をCDMとして使おうという話もあって、このあたりの話になると、また国際的な思惑が錯綜しそうだ。

C先生:温暖化問題は全部そうだが、地球環境問題という側面と国際政治としての駆け引きの問題が合体していて、いずれにしても、日本も相当な戦闘力を付けておかないと、どうにもならない状況に追い込まれるだろう。その意味でも、もっと多くの政治家と選挙民が地球環境問題と国際問題に関心を持たなければならない