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    UCLAの発表とCO2-SUICOM   03.24.2019
       ICEF・Top10イノベーションでの選択失敗

               



 今回は、失敗話です。やはり、優れたイノベーションの選定は非常に難しいというお話でもあります。いきなり会話が始まります。



C先生:いやいや参った話なのだ。最近、経産省と文科省の共同主催の検討会があって、そこで、現時点でのCO削減技術のレビューをやっている。具体的には、開発をやっている企業・団体などからヒアリングをやって、今後の可能性をチェックするのが目的。毎回、時間がなんと3時間で、休憩が5分あるだけ。体力と集中力の限界への挑戦みたいな検討会になっている。内容は、と言えば、非常に面白いので、疲れても出席すべき会議という認識ではあるけれど、そこで、様々な新規技術の動きを聞いていて、一つだけ、大変に困ったことにぶつかってしまったのだ。

A君:全く新しい技術が出てこないから、問題だとか言う話なら、いくらでもあり得ますね。

B君:どの研究主体も同じようなことを考えているのが分かってしまったとか。これもいくらでもありそう。

C先生:そのいずれでもないのだ。まずは、ICEFのTop10イノベーションというものは何かから、ゆっくりと説明を始めよう。

A君:Top10イノベーションの話なら、
https://www.icef-forum.org/top10/
ここに、昨年に行われた第5回のICEFで選ばれたTop10が載っています。
 カテゴリーが2つあって、Aカテゴリーは、2050年には有効だと認識されていると思われる技術。Bカテゴリーは、ビジネスモデルを変えるであろうと思われる技術。

B君:なんといっても2050年という未来のことなので、これは大変な作業だ。

C先生:昨年のICEFが第5回だったが、途中の1回を除いて、これまで毎年、Top10イノベーションというイベントがあり、その担当をしてきた。結構大変な作業で、外部に依頼して、過去約1年間で、重要なイノベーションのように思える情報を、各種メディアから検索して、候補リストを作ってもらう。そして、ICEFのステアリングコミッティーから数名の専門家に、数回の選別をしてもらって、候補リストを作る。昨年の場合には、確かに、カテゴリーA、Bという2つに分けたが、これまで同じやり方であったという訳でもない。昨年は、最終候補として、Aの先端シーズとして、14件の候補を、Bのビジネスモデル転換としてやはり14件、合計28件を選択した。そして、ICEFの会場に投票所を作って、そこから参加者に投票をしてもらって、閉会式に、”ICEF Top10 2018”を発表したという次第。

A君:技術の観点から選択したAグループから7件、そして、ビジネスの観点から選択したBグループから3件が選ばれて、それがこのサイトで公表されているということですね。

C先生:その通り。ここで選ばれた「10件がどのようなものであるか」、については、エコプロダクツ展の展示場内のステージで、毎年、40分ぐらいの講演を行って、ご紹介している。昨年は、かなりの立ち見も出て、大盛況。120名ぐらいに聴いていただたようだ。

B君:アイルランドのモハーの断崖の写真を出したとのことですね。

C先生:その通り。中身の説明はしない。
http://www.yasuienv.net/Clif_Moher.htm
加えてもう一枚見ていただきたい写真は、
http://lebenbaum.art.coocan.jp/Travel/IrelandDrive2.htm
にアップした。それが、最後の写真なのだけれど、普通の田舎道の速度制限が何km/hなのかという話。日本での常識的な制限は50km/hだと思われる道路が、なんと100km/h制限なのだ。要するに、アイルランドは、完全に自己責任の国、場合によっては、国が国民にチャレンジしているような状況だということだ。

A君:イノベーションとは何か、ですが、イノベーションはそもそも国が主導して何かをやれ、と言った瞬間にイノベーションでは無くなるということですね。何かをやれ、となれば、皆が一斉に取り掛かる。しかし、成功するのは、まあ大体1件だけなので、経済効率的には、このやり方は合わない。

B君:むしろ、完全に自己責任でチャレンジする課題を決めろというやり方の方が、様々な対象を考えてチャレンジされるので、発展性があるということだ。

A君:どうしても、日本の企業は「政府が何かを言わないと動かない」という習慣を長く続けてきてしまったのかもしれない。しかし、政府がやれ、という号令を掛ければ、誰もが同じように変化するものの、本物のイノベーションが生まれる環境とは違う競争状況になってしまう。本物は、やはり、誰か一人が周りから見えない環境で何か全く新しいことを作ること。

B君:極限のチャレンジ環境からしか本物のイノベーションは生まれない

A君:しかし、世の中には流れというものが確実に存在していて、現時点で言えば、日本はパリ協定準拠の2050年CO排出80%削減、という目標を持っていますね。これは、目標の数値世界共通ではないのですが、世界共通の削減目標としては、やはり、パリ協定のもう一つの目標である、Net Zero Emissionをいつまでにやるか。通常だと、「今世紀後半のどこかで」。しかし、最近であれば、昨年の10月8日にIPCCが発表した「1.5℃」シナリオに沿った主張もあって、それが「2050年よりちょっと先ぐらいに、NZE実現」。しかし、これには、副作用がでるだろうと我々は危惧しているという訳ですが。

B君:そう、「途上国、特に、アフリカから森林が消滅する」、と主張している。まあ、理想的に進行すれば不可能とも言えないことではないが、普通に考えれば、やはりパリ協定に戻って、「Well Below 2℃」を究極のターゲットにするしかないと思うけど。

A君:その主張は、
http://www.yasuienv.net/NG15BECCS.htm
を御覧ください。

C先生:さてさて、そろそろ話を本筋に戻す必要がある。何が、昨年のICEFのTop10イノベーションにおける失敗だったのか。それは、
https://www.icef-forum.org/top10/
を開けて貰うと、Category Aの5番目のUCLAによるもの。「Turning CO2 into Concrete」というもので、詳細は説明不十分でよく分からないのだけれど、CO2を吸い込んで固まるコンクリートというものを作ったということのようだった。

A君:今世紀でのCOゼロが不可能な産業のトップがセメント産業。そして、その次が鉄鋼産業としばしば考えられているのです。

B君:セメントは、地球上に十分に多い岩石である石灰岩を原料として使う。日本産の石灰岩は、サンゴ礁という高級な原料で作られたと言われている。

A君:その組成は、CaCO。これを他の鉱物(SiO2、Al2O3、Fe2O3など)と混ぜて、高温に加熱すると、セメントができるが、そのとき、石灰岩の構成成分であるCOが放出される。そのため、セメントの製造には、必ず、COの放出を伴うものとされてきた。

B君:しかし、なんらかの対応が不可欠になった今日、COを放出しないセメントのようなものを開発することは必然性がある。

C先生:以上のような考え方は、至極普通であって、そのため、様々な試みがなされてきたことも事実。CO排出の規制が強くなったのは、当然、パリ協定合意以後の話なので、2015年だと考えれば良いことになる。ICEFは、2014年に開始された。当然のことながら、2014年にはすでにパリ協定が合意される方向性であることは分かっていた。むしろ、そのための準備が進行していた。そして、2015年の7月には、パリでのCOP21に持っていく「約束草案」=INDC(Intended Nationally Determined Contribution)が発表された。

A君:ここで細かい年代の話になったのは、実は、UCLAのCOを吸収するセメントのようなものは、開発研究が行われていたのが、おそらく、2015年のパリ協定以後だろうと思うのですが。

C先生:その通りなのだけれど、実は、これが今回の核となる話なのだけれど、2011年にデンカ株式会社によって、日本で、ほとんど同じものが発表され、特許も申請されていることが分かった。その名前は、「CO−SUICOM」

A君:さらに詳しく説明すれば、デンカ株式会社、中国電力株式会社、鹿島建設株式会社、ランデス株式会社の4社による共同開発でできたもの。

B君:調べてみると、すでにいくつもの表彰を受けている。例えば、第13回エコプロダクツ大賞推進協議会会長賞(優秀賞)、平成26年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰、などなどを受賞している。

A君:論文としてもっとも基本的と思われるものが、この論文集ですね。
Cement Science and Concrete Technology, Vol.67, p553 (2013) 論文87編、647頁からなる論文集の発行日は、2014年2月25日
「副生の水酸化カルシウムを用いたC2Sの製造とCO2排出量原単位」
 著者 庄司慎、樋口隆行、山本賢司、盛岡実
 いずれも電気化学工業株式会社(旧名)
 この論文は以下のサイトで閲覧可能
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cement/67/1/67_553/_pdf/-char/ja

B君:この論文が引用しているさらにオリジナルの論文がある。
CO2 排出量ゼロ以下の環境配慮型コンクリート CO2-SUICOM(スイコム)、セメント・コンクリート、No. 786、pp. 26-31(2012
https://www.cgr.mlit.go.jp/ctc/tech_dev/kouryu/T-Space/ronbun/pdf/24_yamaguti/24_yamaguti_5-3.pdf


A君:最初の報告が2012年ということだと思えば良いのですかね。

B君:特許の申請がいつか、それが問題だけれど。

A君:最終的には、まだ、できていません。
4822373号 炭酸化養生設備、炭酸化コンクリート製造方法および炭酸ガス固定化方法 というものがあることは調査済みですが。

B君:そこまで分かれば、すぐ分かる。patents.google.comに聞けば良い

A君:はいはい調べます。2010年12月17日申請でした。中国電力株式会社、電気化学工業株式会社(現:デンカ株式会社)、鹿島建設株式会社の共同申請です。申請先は、WO KR EPとなっていますね。すなわち、世界、韓国、欧州。

B君:特許権をすべての国に出すのは難しい。申請先のWOは、PCT国際出願制度を使用したということを意味する。そして、EPは欧州特許庁に出したことを。

A君:そうなると、TOP10 Innovationに選ばれた、UCLAの類似の研究開発は、どうなるのでしょうね。それは、中身が同じかどうかに掛かってくる。

B君:セメントなどの中身については、C先生が詳しいのでは?

C先生:一般論については、まあそうかもね。若干説明しよう。セメントとは、石灰石(CaCO3)、粘土(SiO2、Al2O3)、珪石(SiO2)、鉄原料(Fe2O3)などを粉末状で混ぜて、高温度で反応させて作る。混合物ではあるけれど、主成分は、3CaO・SiO2、2CaO・SiO2、3CaO・Al2O3、4CaO・Al2O3・Fe2O3といった複合酸化物。短縮名が、それぞれ、C3S、C2S、C3A、C4AF。最終的にはロータリーキルンと呼ばれる回転炉で加熱されると、これらがセメント・クリンカーと呼ばれる丸い石になって出てくる。それを細かく砕いたものがセメント。

A君:原料は酸化物あるいは、水酸化物が大部分なのですが、石灰石は炭酸塩なので、加熱すると分解して、COが発生します。

B君:紹介した論文のタイトルに書かれているは、の化学式は上述のように2CaO・SiO2なのだけれど、この酸化物が、COと反応するということが分かった。これが、すべての出発点。これをUCLAの研究が主張しているかどうか。実は、UCLAの発表は、かなり情報が雲の中だったのでは。

C先生:実はその通り。本年もTOP10 Innovationはやることになるので、怪しい発表は、特許をチェックすることが不可欠だね。これまで、このような状況にならなかったのは、偶然だったという理解をすべきなのだろう。 それでは、そろそろ結論に行くか。それには、もう一度復習として、なぜ、建設分野、特に、セメントのCO排出を減らすことが重要なのか、まとめて終わろう。

A君:それは、開発の経緯にも書かれていますが、日本において土木・建設分野に関わるCO排出量はセメント製造時や鉄筋製造時のCOまでカウントすると、全産業の約1/4を占める。(引用:日本建設機械化協会:建設施工における地球温暖化対策の手引き、p3、2003.7)

B君:産業からのCO排出量を下げることは、その内、削減の義務化あるいは、炭素価格の設定が考えられるので、対策は必須だ。

A君:ただ、石灰岩からのCOの発生をすべて企業の責任にするのか、鉄鋼生産に使われる鉄を還元するための炭素まで、COの有料化の対象にすべきなのか、それは、議論のあるところですね。

B君:それはその通りで、通常のセメントなしに、今後の土木・建設工事が行える訳ではない。実は、CO2-SUICOMの用途は、まだかなり限られていると考えるべきで、少なくとも、鉄筋コンクリートとかPC(プリストレスト)コンクリートのようなものに使えることは無いと思われる。それは、セメントのアルカリ性が、鉄筋や鋼線をサビから守っているからなのだが。

A君:となると、CO2-SUICOMが想定している使用対象は、今の所、インターロッキングブロックのようなもの。鉄筋コンクリート用のセメントは、当面の対象にはならないということですね。

C先生:そういうことだけれど、だからといって、このような開発が存在意義が低いということにはならない。あらゆる知力を投入して、いわゆるCCU=Carbon Capture and Utilizationを実現して、CO排出量を少しでもゼロに近づける必要があるのだ。化石燃料の代替は、エネルギー代替が主なものなので、色々な考え方がありうるのだけれど、実は、CCUの実現こそが難しい。COの有効な用途を少しでも開発することができれば、その功績は非常に大きいと言わなければならないと思っている。しかも、人類にとってCCUは、ほぼ初めての開発ターゲットなので、多くの知恵が集結することが必要だと思う。