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   人類が排出するCOの影響は何年続く?
     
海に溶け込んだCOが鍵! 2017.02.11
               



  前回、地球温暖化の影響で、次の氷河期は来ないかもしれない、と主張する論文をご紹介しました。これは、現時点で放出している化石燃料起源のCOの大気中の半減期は万年オーダーで、非常に長いということを意味します。これまで、半減期はざっと500年ぐらいであると理解されていたように思いますが、実は、もっと長いという科学的な情報(論文)がどこかにあることを意味します。

 先週の記事について、その後、何人かの専門家と情報交換をしましたが、COの半減期は、盲点だったようです。正確な出処に関する情報を得ることができませんでした。

 そこで、Webをチェックして、関係がありそうな情報を探った結果、どうも、この論文が起点なのではないか、という2012年6月6日付のPDFに到達できました。
 著者の一人が、前回ご紹介した論文の著者であるSchellnhuber氏が所長を務めているPotsdam Institute for Climate Impact Researchの所属でした。

"Millennial Atmospheric Lifetime of Anthropogenic CO2"
 David Archer Department of the Geophysical Sciences, University of Chicago, IL. USA, Victor Brovkin Potsdam Institute for Climate Impact Research, Potsdam, Germany
http://www.pik-potsdam.de/~victor/archer.subm.clim.change.pdf

   

C先生:まあ、よく見つかったとも言える。考えてみると、半減期は極めて重要な情報だったが、これまで余り気にしている人はいなかったということなのだろう。
 さて、Abstractは短いようだから、その全訳からスタートするか。

A君:了解です。一応、英文から。
Abstract
The notion is pervasive in the climate science community and in the public at large that the climate impacts of fossil fuel CO2 release will only persist for a few centuries. This conclusion has no basis in theory or models of the atmosphere / ocean carbon cycle, which we review here. Although the models vary widely in their formulation and underlying assumptions, they are quite consistent in their prediction that release of fossil fuel CO2 will impact climate for tens of millennia and longer into the future, subsiding on time scales typically associated with nuclear waste. Many slowly-responding components of the climate system, such as ice sheets, deep ocean temperature, permafrost, and methane hydrates, will be sensitive to the long tail of the CO2 climate impact. Most of the CO2 drawdown will take place on time scales of centuries, as CO2 invades the ocean, but it is too simplistic to call the invasion timescale the atmospheric lifetime of the CO2, as is commonly done in popular and scientific discussion. We argue that a better shorthand for the lifetime of anthropogenic CO2 would be "hundreds of years plus a significant fraction that changes climate forever".

概要
 気候変動の専門家でも、勿論、一般社会でも、化石燃料からのCO放出による気候影響は、たかだか数世紀しか続かないと考えている人々が大部分のようである。実はこの論文でチェックするように、この考え方には、大気・海洋で、COが、より正確には炭素Cが、どのように循環しているかについて、理論的根拠が不十分だからだと言える。実際、様々な数式や仮定を元にモデルが提案されているが、これらに共通して言えることは、COの放出は、数万年あるいは、それ以上に渡って気候に影響を与えると結論すべきということだ。場合によっては、使用済核燃料の影響よりも長い。COの影響は、長く尾を引くものであり、ゆっくりと変化する気候要素、例えば、氷床の融解、深海での現象、永久凍土、メタンハイドレートなどへの影響は長期間に渡ると考えられる。COの減少は、海水に溶け込むことなどによって、数100年オーダーで大気中から移動することで起きる。しかし、これをCOの大気中での寿命だとする解釈は、しばしばよくなされる科学的議論ではあるが、短絡的に過ぎる。人為起源のCOの寿命の正しい表現は、「数100年で消滅するものも多いが、かなり量のCOの寿命は、地球環境を永久に変えてしまうほど長い」、である。

B君:半減期という言葉で表現すると、こんな風だろうか。「同じCOでも、地球のどこにどのような形態で存在するかによって、半減期が大幅に変化する。しかも、大気から海中に移行したCOは、海水の組成に影響を与えて、次に海水に溶け込むCOの量を低下させてしまうので、COを一つの半減期で表現することは不可能だ。少なくとも、数100年というこれまで信じられてきた半減期以外に、半減期が万年オーダーのCOも存在している思考法を採用せざるを得ない」。

A君:それでは、序文に入ります。ここで、これまでの考え方が、簡単にレビューされています。
 まず、二酸化炭素の寿命にとって、海洋が非常に重要であることを歴史的に記述しています。重要な科学的事実を記述すれば、ざっと言って、大気中に存在しているCOの50倍量が海中には存在しています。地球の表面の70%は海です。そのため、過去、大体1950年代後半まで、いくらCOを排出しても、海洋に溶け込むので、大気中のCO濃度は増えないと考えられてきました。

B君:もう一つ重要なことが、海洋に溶け込んだCOの化学的な存在形態だ。1957年のことだけれど、RevelleとSuessは、海水にどのぐらいのCOが溶け込んでいるか、詳細に測定をした。その結果、それまで考えられていた量の1/10しか海洋には溶け込まない、という結論になった。それは、海水中では、COは、炭酸イオン(CO32-)として存在するのではなくて、炭酸水素イオン(重炭酸イオン、HCO3-)として存在することが分かったからだ。炭酸水素イオンが増えると、それCOのさらなる溶け込みを阻害するのだ。

A君:そう言えば、現在でも、中学で実験をしているとは思うのですが、石灰水に息を吹き込むと白濁する実験がありますよね。そして、さらに息を吹き込み続けると透明になるという実験です。

B君:あれか。YouTubeを探してみると、これを否定する実験(石灰水の濃度が高すぎるために失敗している。あるいは、わざわざ失敗している)は見つかる。このところのフェイク指向の一つだろう。教科書を否定して喜んでいる。

A君:確かに科学的に証明するような実験の映像は見つかりませんでした。確かにフェイク実験をやるのも簡単ですね。

B君:話がずれた。石灰水に二酸化炭素が溶け込むと、最初は、炭酸カルシウムCaCOが沈殿するので、白くなる。炭酸カルシウムは固体なので、これが海底に沈んで貯まれば、石灰岩になって、二酸化炭素はそこに固定されたことになる。海水の0.04%がカルシウムイオンでして、海水の体積は13.7億kmだそうですから、カルシウムは、重さにすると、ざっと5×1013ton=50T(兆)tonぐらい。この量のカルシウムと結合できるCO量は、それよりちょっと多い程度で、まあ、50Ttonと考えれば、すでに人類が放出したCO量が1.5Tton程度なので、海水中のCa量はそれをすべて石灰岩にするのに充分な量なのだ。

A君:だから、問題はないということが、1957年までに信じられていたこと。

B君:ここまでが、この論文を読むときに必要とされる予備知識だろう。

A君:ちょっと考えると、Revelleらが言うように、例え海がもつ吸収能力が1/10程度で、それしか溶け込まないといっても、まだ、充分な余力がありそうに思えますよね。

B君:そう甘くはない。まだまだ考えなければならない要素が多いと、そのような楽観論に反論しているのが、この論文だ。簡単に言えば、海がCO吸収する速度が相当に遅いこと、海といっても、本当に大気からCOを吸収するのは、深海に限られること、この2点がポイント。

A君:地球上での炭素循環の解析のためには、いくつかのステージに分けて分析することが必要です。
 第1ステージCOピークステージ
 要するに現時点とその後を意味していて、もしもパリ協定が機能して、Net Zero Emissionが実現すれば、今世紀末までの期間でCO排出は終わる。これをピークと呼ぶ。この時期に放出されたCOは、海洋と平衡状態になるまで、数100年。これが、通常考えているCOの半減期。最初は放出されたCOの60%は大気に残るけれど、徐々に海洋に吸収されていき、大体30%ぐらいが大気に残る。しかし、この段階が終わころになると、海水は酸性化し、突然、海洋のCO吸収速度は遅くなる。
 第2ステージ:中性化ステージ
 酸性化によって、陸上あるいは深海でのCaCOの溶解が進み、それによって海水が中性に戻って、再び、COの吸収力が戻る。このステージは、数1000年を要する。
 第3ステージ:岩石吸収ステージ
 この段階での大気中でのCO濃度は、まだ、1700年頃に比べれば高い。そこで、陸上の火成岩などと反応して吸収され、大気中のCO濃度は徐々に低下するけれど、この反応は大変に遅いので、万年オーダーの年月を要する。

B君:まあ、以上が主張されていることで、比較的簡単な理論だった。この理論を比較的簡単なモデルを使って検証している。2000年以降の積算CO排出量を1兆トンプラス・アルファ程度に抑えれば、といっても、これは現時点からだと実現不能なレベルだけれど、ピークで2℃程度の温度上昇なるものの、1万年後には、気温は若干低下し1℃上昇に収まる。一方、もしも、4兆トンのCOを排出してしまえば、温度は6.5℃も上昇し、1万年後にも今より5.5℃も温度が高い状態が継続していると予測される。これがモデルの最終結論。要するに、この論文が言いたいことは、地球のCO吸収能力は、いくつかのメカニズムに分けることができて、それぞれに限界がある。海水への吸収機能が最初に使い果たされ、その次の中性化の機能も使い尽くされて、最終段階のメカニズムである陸上岩石への吸収だけが機能する状態にしてしまうと、大気中のCO濃度の半減期が数万年になってしまうと主張している。

A君:そして、今後、最善の温暖化対策が取られたとしても、一部のCOは、万年オーダーの半減期になってしまうので、1℃上昇はほぼ永遠に続く、という警告ですね。万一、対策が遅れて、温度上昇が6.5℃、これは、石炭もほぼ使い尽くす程度ですから、対策がほとんど進まないことを意味しますが、そうなれば、未来永劫、地球の気温は4℃ぐらい高い状態になったまま、だとも言えます。

C先生:結論としては、2℃の温度上昇に抑えておけば、温度上昇がゼロになることはないけれど、徐々に温度は下がって、1℃上昇程度にはなる。まあ、持続可能な地球が維持できそうだ。もし、6.5℃もの上昇になるCOを放出してしまうと、1万年後にも5.5℃高い状態が維持される。これだと、海面が10m以上上昇するかもしれない。まあ、1万年後だとすると、地球人口が何人になっているのか、全く予測不能だけれど。もっとも氷河期になると、陸上の氷の量が格段に増えるので、100m以上海面が低下するので、海面上昇などと言っていられないのだけど。
 その氷河期を人類は、前の氷河期に関しては、なんとか乗り越えたのだけれど、次の氷河期を現在のような人口数で乗り越えることは不可能だ。食糧生産が大幅に制限されるからだ。このように考えると、現時点から1万年後ぐらいまでは、2℃までの温度上昇で抑えておいて、もしも氷河期が始まる兆候が見えるようになったら、まだまだ大量の石炭が残っているので、その最適量を燃焼してCOを発生させ、氷河期になるのをギリギリ回避するという作戦を取るのが良いのかもしれない。CO濃度を上昇させると、地球の温度はかなりレスポンス良く反応するようなので、こんな対応が取れる。
 大気中のCO濃度を低下させる方法、例えば、人工樹木のような技術の実現は、現時点では、ほぼ不可能に近い。しかし、そろそろそれも考えて置くべきことかもしれない。今後、人類は、地球全体という視点を持たないで、自分に身近なことを優先的に考えるように変化しそうな気がするので。しかし、いくら考えても、そんな技術は不可能、という結論になりそうにも思える。不可能な理由は、恐らく、地球の鉱物資源と自然エネルギーの不足だろうね。