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    自治体による温暖化対策計画    07.03.2016
             千葉県、北九州市が先行




 国の「地球温暖化対策計画」が閣議決定されたのは、5月13日のことでした。今後は、この計画に沿って、様々な活動が行われるようになりますが、地方公共団体には自己の計画の策定義務があります。二種類に分かれていて、事務事業編は、自らが行うことですので、すべての地方公共団体に義務があり、区域施策編の作成は、都道府県、政令指定都市、中核都市(施工時特例市を含む)に策定義務があります。その他の市町村には策定の努力義務があります。

 根拠法は、「地球温暖化対策の推進に関する法律」ですが、その第二十条および第二十条の二と三をご参照下さい。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10HO117.html

 さて、このような状況の中で、北九州市は、6月22日から計画の素案に対するパブコメを開始しました。インターネットを検索した結果から見ると、もっとも早いパブコメだったようです。

 県レベルでは、7月1日からパブコメを始めたのが千葉県で、これが最速のようです。

 さてさて、これらのパブコメをどう評価すれば良いのでしょうか。

 なぜか、と言えば、今回の地球温暖化対策計画は、かなり達成が難しいように思えるからです。例えば、民生部門の企業、具体的には、商業施設や事務所など、あるいは、家庭部門には、40%にも及ぶ排出削減が要求されています。こんなことができるのでしょうか。

 家電製品を買い換えることが、一般に省エネに有効だとされていますが、ここ2〜3年前の製品は、ほぼ究極の省エネが実現されていて、これから2030年まで待ったところで、エネルギー効率がさらに高い製品の出現は難しいでしょう。一部には、機能が向上して消費電力が多くなる場合もあるでしょう。

 それでは、どこに省エネの鍵があるのか。そのヒントを与えてくれるのが、「地球温暖化対策計画における対策の削減量の根拠」という書類です。環境省のパブコメが開始されたのが、3月15日でしたが、そこに参考資料としてアップされています。
http://www.env.go.jp/press/files/jp/102972.pdf



C先生:パリ協定対応のために作られた約束草案(INDC)がいよいよ実行段階になってきた。2020年以降2030年までの枠組みではあるのだけれど、できるだけ早く方針を決めないことには、実行が不可能になる。その意味で、計画の前倒しは必要不可欠だと思う。

A君:本日の議論の進め方ですが、次のように行きたいと思います。まず、
(1)そもそも日本のINDCに書かれた2030年に2013年比で26%削減するシナリオの基本的な考え方はどうだったのか、その復習。
(2)
いくつかの目標値の実現の可能性の復習。
(3)
省エネについて、どこに注力すべきか重点となる対応か。
(4)今後、公共団体がどのような方向性をもつことが必要不可欠か。
(5)その実現のためには、いろいろと情報をもった人々が議論をリードをする責任があること。

B君:まあ、そんなところだろう。早速、(1)から行くか。今日は、かなり中身が多いと思うので、できるだけ簡潔かつ分かり易く。

A君:日本のINDCに書かれたことの内容ですが、実は、具体的にどう進めるかを考えた結果がINDCになっています。まずは、省エネを徹底的に進める。大体、省エネを極限まで進めて、結果として二酸化炭素排出量を下げることになっています。

B君:その基礎となった日本のエネルギーベストミックスの議論というものが行われた。「長期エネルギー需給見通し」という名前だ。昨年の7月に最終的に発表されている。
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf

A君:p5にあるこの図がそのほぼすべてを表現しています。


図1 2030年におけるエネルギー需給見通し

B君:良く良くこの図を見て、小さな字も見逃さないで、その意味を考えながら探して欲しい。

A君:待ちます。・・・・・・・・・

B君:そろそろ良いのでは。

A君:そうです。経済成長1.7%/年です。経済成長とは何なのでしょうか。GDP、GNPあるいは、別の指標??

B君:ちなみに、このところの日本の経済成長率の推移というと何のデータが使われている?

A君:普通なら実質GDPですか。2016年までの数値があるサイトを探しました。
http://ecodb.net/country/JP/imf_growth.html

B君:なるほど。2000年から2016年の17年分の平均値を出してみると、成長率は年率0.815%。2013年から2030年の経済成長率が年率1.7%になることは、かなりの幸運があり、かつ、世界経済が超々平穏に推移しないと難しい。

A君:すでに、EUから英国離脱があって、また、今後、米国の大統領選挙もなんとも言えない妙な具合ですね。

B君:米国民の反エスタブリッシュの意識はかなり強くなっているようなので、本当にどうなるか分からない。米国リバタリアン党の元ニューメキシコ州知事のゲーリー・ジョンソンが大統領に立候補することになるかも知れないが、もし若干でも票を集めるようになると、トランプ候補に有利に作用するのではないか、と池上さんがテレビでしゃべっていた。

A君:トランプもペンシルバニア大学の出身だし、日本なら孫さんもカリフォルニア大学バークレー校出身なので、エスタブリッシュだと思うのだけど。

B君:反エスタブリッシュの本当の意味は、反政治家・反公務員なのかもね。

A君:話を元に戻して、経済成長にはエネルギーが必要だというのが、これまでの考え方でした。最近は、必ずしもそうは言えない状況になりつつあるけれど、もしも1.7%の成長を2030年まで継続するとすれば、最終的な経済規模は1.33倍ぐらいになる。完全に比例するとなれば、2030年の想定エネルギー使用量は、489百万klぐらいになるのですが、実際には375百万klという数値を使っているのです。それは、現在まだまだ導入が不十分な再生可能エネルギー、それに、その時点で動いていなかった原子力の二種類のエネルギーは、二酸化炭素を発生させないのです。そのため、33%の経済成長に対して、エネルギー消費量(CO2を発生する)は4%ぐらいの伸びに押さえています。

B君:1.7%/年という経済成長が半分になれば、エネルギー消費量はほとんど伸びない。場合によっては、減っても不思議ではない。というところで、若干の余力を見ているということか。

A君:まずは、そういうことです。さらにもう一つ用意があります。それは、「電力のCO2排出原単位」です。現在、再生可能エネルギー量も充分ではなく、特に、安定な再エネである地熱発電や洋上風力の開発は、2030年でも間に合うかどうか、という感じなのですし、原子力の11〜10%という数値も実現可能かどうか、かなり疑問なのですが、この一次エネルギー供給が実現したときのCO2排出原単位である0.37kg/kWhという数値を実現することを電力供給業に義務として約束させているのです。もしも、それが実現できなくなったら、発電側は、石炭発電を止めて、天然ガスに切り替えるか、あるいは、再エネを増やすということをやる以外に無くなるのです。電力自由化になって、コストの安い石炭発電を増設しようとした発電事業者が多かったのですが、この約束がじんわりと効いていて、下手をすれば、2028年頃にはCO2排出税ができるかもしれないので、石炭発電を建設することは大きなリスクになったのです。要するに、抵抗できない構図を作ったという訳です。

B君:そうか。現時点でのCO2排出原単位は、0.55kgCO2/kWhぐらいだと思うが、それが、0.37に下がれば、それだけで33%下がる。ということは、どういうことになる?

A君:民生部門と家庭部門では、2030年までに40%という排出量削減を実現する必要があるのですが。33%分が電力の排出原単位で下がるので、7%分を下げれば良いということになります。これなら、なんとか行くでしょう。もし基準年である2013年からだと5%下げれば良いのです。

C先生:以上で、本日のポイントの(1)と(2)が終わったようだ。それでは、これからは、議論がマニアックになるが、(3)省エネの実現には、何に取り組むのがもっとも効果的なのか、という話題に行こう。

A君:それには、かなりマニアックな文書を解析しなければなりません。
地球温暖化対策計画における削減量の根拠
http://www.env.go.jp/press/files/jp/102972.pdf

B君:エネルギー起源二酸化炭素の削減、これが45項目もある。非エネルギー起源二酸化炭素が3項目。メタン・一酸化炭素が5項目。そして、代替フロン4ガスが1項目。温室効果ガス吸収源対策・施策が3項目。そして、横断的施策が3項目。

A君:我々の期待が大きい削減のソースをリストアップします。単位はトンCO2です。3つの数字が、それぞれ2013年、2020年、2030年CO2削減量。
産業用ヒートポンプ 0.2万トン 15万トン 135万トン
低炭素工業炉の導入 265万トン、2281万トン、3093万トン
産業用モーター 0.5万トン、376万トン、661万トン
コジェネレーション 41万トン、294万トン、1020万トン
FEMSによるエネルギー管理 15万トン、123万トン、230万トン
新築建築物の断熱 0.4万トン −− 1035万トン
高効率照明の導入 98万トン 803万トン 991万トン
トップランナー制度(オフィス系) 52万トン 564万トン 1706万トン
 注:具体的対象で改善率が期待されるのが、複写機、プリンター、ストレージ、自販機が30%超え。
トップランナー制度(家庭系) 15万トン 300万トン 483万トン 
 注:エネルギー消費の改善率は、電気冷蔵庫19.6%、エアコン17.9%、テレビ20.3%、温水便座27.8%
 2013年度と2030年度の排出係数を0.57kg/kWh、0.37kg/kWhとしている。それだけで35%の削減になるので、総削減量ではこれも考慮できる。
BEMSの導入 56万トン 445万トン 1005万トン
 注:やはり電力の排出係数が算入される。
家庭における高効率給湯器と高効率照明
 18万トン、226万トン、617万トン
 注:家庭でも電力の排出係数が算入されている。
HEMS・スマートメータ
 2.4万トン 202万トン 710万トン
 注:家庭でも電力の排出係数が算入されている。
次世代自動車
 0万トン 702万トン 2379万トン
トラック輸送の効率化
 0万トン 203万トン 206万トン
石油製品の製造
 16万トン 81万トン 208万トン
  もっとも大量の削減は熱の有効利用から
バイオプラスチックの普及
 0万トン 72万トン 209万トン
代替フロンなどの4ガス削減
 0万トン 350万トン 1120万トン
業務用冷凍空調機器からのフロン漏洩防止
 0万トン 650万トン 2010万トン
業務用冷凍空調機器から廃棄時での漏洩防止
 0万トン 790万トン 1570万トン
◆森林吸収対策
 5166万トン 3800万トン 2780万トン
ウォームビズ業務
  0.5万トン 7.7万トン 11.6万トン
ウォームビズ家庭
  0.4万トン 15.8万トン 29.1万トン
エコドライブ
  24万トン  193万トン 244万トン

注:再生可能エネルギーの導入はここでは省略。理由はダブルカウントになるから。
注:メタンなどの温室効果ガスは省略。

C先生:ご苦労。まあ、ここに上げられていることが、かなり削減が利く項目(削減期待値がほぼ100万トン超え)のほぼすべてだとしたら、千葉県の削減計画には、何が書かれているか。これを次に議論するか。

A君:現在、パブコメに掛かっているのが、これです。
http://www.pref.chiba.lg.jp/shigen/iken/2016/documents/soan.pdf
 当然、千葉県の基本的なデータ、例えば、人口・世帯数、経済活動、工業、土地利用などの2030年見通しがあって、それから、二酸化炭素排出量の現状、対策をしないと仮定したときの予測値、そして、これらを踏まえた排出削減目標の設定、という順番ですね。まあ、当たり前ことを当たり前のようにやっている。

B君:ということで設定された目標が、p29にあって、概略は、こんな感じ。
(1)家庭
世帯あたりのエネルギー消費量を2013年度比で30%削減。36.0GJ/世帯 ⇒ 25.2GJ/世帯。30%削減。
▼自動車1台あたり燃料消費量を2013年度比25%削減。30.7GJ/台 ⇒ 22.9GJ/台。
▼家庭系ごみの排出量を2013年度比15%削減。
 542g/人日 ⇒ 460g/人日

A君:まず、最初の数値ですが、これって、エネルギー消費量の削減で、二酸化炭素の排出削減ではない。ほとんど無理な数値ではないですか。半数ぐらいの家庭が太陽電池と家庭用蓄電池を設置すれば、実現できるかもしれないけれど、それには、多くの場合、新築が条件になるでしょう。

B君:その通りで、節約で行ける範囲を超えている。それまで異常に大量のエネルギーを使っていて、急に省エネ意識が高くなったという人、滅多にいないけど、そんな人以外は難しいのでは。

A君:世帯あたりの電気代をある量から急激に高くするといった料金システムにするとか。

B君:それは、千葉県ができることではない。自治体としての案は、もっと実現可能性のあるものでなければならないと思う

A君:やはり、自治体のアドバイザーの選定が重要ですね。しかし、残念ながら、アドバイザーができる人材が極めて限られているのが現状ですね。

B君:本当に不思議なぐらい、省エネというものを的確に指摘できるアドバイザーが少ない。あるいは、商品というものを充分知っている人も少ないのかもしれない。

C先生:先日、EA21の審査人の技量向上研修会で、講演をするチャンスがあって、そこで、聞いてみた。最近、どのような趣味をお持ちですか、テレビを良く見る方に伺いたいけれど、これからテレビを買うとしたら4Kにする人は手を上げて下さい約半数が4Kにするという答えだった。

A君:なるほど。4Kのテレビを買うメリットを分かっている人は、ほとんどいないということですね。理由は、現時点で4Kの放送が行われていない。4Kのブルーレイを再生できるプレイヤーはまだ少数でしかない。しかも、4Kのソースはかなり少ない。というよりほとんど無い。

B君:さらに言えば、通常の視聴距離であるテレビの縦の長さの3倍より遠いところだと、いくら目の良い人でも画面の細かい画素が見える訳ではない。もしも4Kにメリットがあるとしたら、それは、階調が滑らかに見える場合もあるか、ぐらいなもの。それだって、最初から4Kのカメラで撮影し、すべての処理を4Kで行ったソース以外は無意味。4Kアップコンバート方式では恐らく見分けられない。

A君:かなり狭い部屋に60インチぐらいのテレビを入れた場合には、4Kの方が良い場合もあるという判断基準ぐらいでしょうか。でも、多分、船酔い現象が出ますね。

C先生:それで、これからが重要なポイント。4Kのテレビの消費電力は、通常の2Kのテレビの倍だということを知っている審査人はほとんどいなかった。画素数が4倍なので、そのデータ処理にエネルギーが不可欠だから。

A君:となると、2030年のテレビのエネルギー効率が20.3%改善されるという見通しは危ない。というか、「4Kの消費電力など知らん!」が国民の認識だったら危ない。

B君:これまで、個々の機器の消費電力などは「知らない」で済んだのだけれど、これから2030年に向けて、「知らない」とは言えなくなるのだ。

A君:この時代になっても、米国の車がどんどんと大型化しているという。アメリカという国がトランプ候補に傾く理由の一つが、彼らの知性の低さだと思いませんか。特に、環境に無関心。せめて、日本は知性のある国にしたい。。。。。

B君:フロリダ半島の先の方が、海面上昇が起きると無くなるということを米国民は知っているのだろうか。

A君:千葉県の戻りますが、県内の鉄鋼業から二酸化炭素発生量は増えることが仮定されています。ということで、製造業に対しては、こんな対策を求めています。
(3)製造業
▼低炭素社会実行計画の参加企業
  低炭素社会実行計画の各業界目標を責任をもって達成
▼その他の企業・中小企業
  生産量あたりエネルギー消費量を2013年度比10%削減

B君:千葉県にとっては、鉄鋼は重要な産業だからな。また、中小企業の10%削減ぐらいはちょうど良いところかもしれない。しかし、そう簡単ではないかもしれない。なんと言っても投資が不可欠なので。

C先生:いつのまにか、文字数が増えている。こんなところで結論に行くか。
 これから各県、各地方公共団体で、温暖化対策実行計画の素案が出てくることだろう。パブコメに掛かって、一体何が言われるのか。いずれにしても、それほど簡単なことではない。千葉県の例でも、家庭が30%事務所・店舗がなんと40%エネルギー消費量の削減をする計画になっている。CO2削減ならまだしも、エネルギー消費量の削減では、ほとんど無理な数値だろう。それこそ、ゼロエネルギービル、ゼロエネルギーハウスを目指すという意気込みでもない限り、達成できない。2030年までに、建築物がそれほど進化するとは思えないし、既設の建物の建て替えが進むとも思えない。どうも2050年目標が20年間ぐらい前倒しになった計画のようにも思える。
 これを実現しようとしたら、それこそ、地方環境税のようなものを創設しないと無理なのではないだろうか。
 やはり、エネルギー効率の向上とか、CO2削減の手法とか、そんなプロがもっと生まれないと2030年の計画作成も、いささか怪しい状況になりそうだ。
 といったところで、今後は、皆さんの議論に委ねたい。