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  温暖化ガス排出量取引 01.19.2003



読売新聞 1月16日朝刊 1面トップ
 環境省は新年度から二酸化炭素を排出できる許容枠を企業間で取引する「排出量取引」の試行事業に着手する。同省では、排出量を売買する取引市場を2005年にも創設する計画だが、市場を運用する具体的なルールがないため、二年間の試行事業に基づいて取引ルールを策定する。

 京都議定書は、ロシアの批准で、今年中に発効する見込みだが、国内では現在、各企業の自主削減活動に頼っており、日本の削減義務達成(2008〜2012年で1990年比6%削減)は困難視されている。

 削減が難しい国や企業などが、目標以上に削減を達成した国や企業から排出枠を購入、削減義務を果たす仕組みが排出量取引で、各国で国内取引市場創設の動きが進んでいる。

 デンマークは、参加企業を電力会社に限った市場を1年前に創設。英国は、昨年三月に、政府と協定を結んだ企業が参加できる市場を開いた。またEUは2005年に域内全域を対象にした市場創設を表明している。

 試行事業では、参加企業が自社の工場やオフィスなどから実際に排出されている温室効果ガスの量を算定し、自主削減目標を設定。第三者機関の検証を受けた上で、排出量を企業間で取引する。実際の金銭は動かず、取引はコンピュータ内で仮想取引の形で行われる。参加企業は30社を予定、関心の高い企業を今春公募する。

 国内では、環境省の支援を受けた三重県が、県内の企業を対象にした仮想取引実験を行っているが、企業が実際に排出量を算定する現実性の高い実験は初めて。同省は、「より現実に近い試行を通して、排出量取引のルールを整備したい」としている。

この他に関連記事として、9面に二本。

*ロシアと二酸化炭素排出取引開始 
 日本はすでに、カザフスタンと排出量取引で合意しているが、今回その第二号となる。早ければ、2004年度にも協力事業を実施する。取引では、NEDOが中心となって、ロシアの石炭火力発電所を天然ガス火力発電所に改修。二酸化炭素削減量の全量を日本側が取得する方向で調整する。

*コスモ石油 排出量を小売
 同社は、自社がもっている二酸化炭素の排出量を1トン500円で一般に小売を始めた。将来、排出枠付きのガソリンの市販につなげたいとしている。コスモは13日に開かれた地球環境に関する講演会で90名に90トン分を販売した。これは、同社がオーストラリアでユーカリの植林事業を支援することで取得した二万四千トンの一部。

さらに15面にもう一本。

*エネルギー特別会計環境省分60億円 「環境税」への道筋見えず
 二酸化炭素排出量取引の実験を行うのは、エネルギー特別会計の環境省分の取り分60億円のうちの3億円を使う事業とのこと。
 エネルギー特別会計は、石油備蓄や省エネ対策などが目的の部分と、原発などの電源立地対策を進める部分に大別される。石油備蓄なぢの充てられるものは経済産業省が単独で、電源立地にかかわるものは、同省と文部科学省がそれぞれ担当していた。
 環境省がこれに加わることになったのは、2002年11月のこと。平沼経産省が「地球環境対策への重点化」を表明し、環境省に共同での担当を呼びかけた。この結果、石油備蓄や省エネ対策などを目的とする総額6230億円のうち60億円を環境省が確保し、その歳出メニューとして、
▽ 温室効果ガスを企業間で取引する「排出量取引」 3億円
▽ サトウキビなどから作ったバイオエタノールを混ぜたガソリン 5億円
▽ 低公害車普及など自治体が取り組む対策補助 20億円
などを盛り込み、これで2010年までに1990年比のマイナス2%の削減が見込まれるとした。
 しかし、この歳出メニューも良く練られたものとは言いがたいという批判がある。
 環境省内部でも、「エネルギー特別会計に関与すれば、将来の環境税の導入に支障が生じるのでは」、との懸念があって、延々と議論が続けられたが、最終的には、「環境税とは別物」という認識で経産省と一致した。
 しかし、「環境税への道筋が見えてこない」(日本総研 飯田哲也氏)との批判がある。


C先生:排出量取引、排出権取引などいろいろな言葉があるが、もう一度整理しつつ、これが温暖化ガス削減にどのような役割を果たすべきなのか、議論をしてみたい。

A君:「排出量取引」と「排出権取引」の区別は、当然ながら「量」「権」にある訳で。「権」は、権利ですから、ある割り当てが公的に行われないと、権利にはならない。

B君:余り厳密な区別があるとは思えないが、京都議定書の締結国間で取引を行う場合には、「権」が使われ、現状のように、それぞれの企業に排出の権利が認められている訳ではない場合には、「量」が使用されているようだ。

(実は、日本政府は、「権」と言う言葉を使わないことを97年以来決めているとのこと。O倉さんからご注意をいただいた。「権」というと汚染をする権利があるという反論が来ることを考慮してのことらしい。しかし、排出量取引という言葉は、日本語としては変である。なぜならば、排出量は、他人に押し付ければ自分は有利になる。すなわち、負の価値を持つが、それを取引するのは、一般的なことではないからである。「排出量引取り」ならまだ分かる。ここでは、このB君のような使い方を行いたい。すなわち、誰かが枠を決めた場合には、「権」。京都議定書によって日本に枠が与えられているので、これに関わる場合には、「権」、それ以外の自主的な取り組みの場合には、「量」としたい)。

C先生:京都議定書による排出「権」取引は、まさに、枠をお金で買うやり方。それに対して、上記記事のように「ロシアの石炭火力発電所を天然ガス火力発電所に改修。二酸化炭素削減量の全量を日本側が取得する」といったやり方は、共同実施と呼ぶべきものだ。ここにも用語の混乱が多少ある。

A君:本日、ここでの議論の中心は、このような排出量取引が、今後の日本における温暖化ガスの削減に本当に有効なのだろうか、ということですよね。

B君:そもそも、言葉から入ったが、「権利」が決まっているから取引が行われる。権利が決まっていない状態で、「量」を取引して何になるのか、という問題。

C先生:すでに他の国でも若干の実績があるようだから、解説してもらうか。

A君:まず、デンマークの排出権取引の実態。この国の排出権取引は、電力会社のみが参加しています。というのは、それ以外の企業に関しては炭素税が課せられているのですが、電力会社は除外されていました。電力会社に対しては排出権が設定されて、取引開始ということです。排出権は、過去5年間(1994年〜1998年)の実績ベースで算定されますが、総排出可能量というものを別に設定したことも重要です。2001年で22メガトン、2002年21メガトン、2003年20メガトンと微減が設定値です。そして、もしも事業者が排出量の上限値を守れないと、超過分に対して罰則として二酸化炭素1トンあたり40クローネ(680円ぐらい)を支払う必要があります。

B君:英国流を次に。この排出権取引を行うには、まず、参加企業は政府と協定を結んで、5年間にわたる削減目標を示す必要がある。それを奨励するために奨励金が設定されている。すなわち削減の目標を示すと、奨励金がもらえることになる。そして、この目標を達成すべく各企業は努力をするが、排出量の取引を行って、実現したり、あるいは貯金もできる。

C先生:デンマークは電力会社だけだから企業数は極めて限定的。政府が権利を与えたような感じになるから、排出権取引でよいように思える。英国の方法だと、自主的な目標を設定し、その達成を目指すのだから、排出量取引でよいのかもしれない。英国の市場は、2002年4月にスタートしたはず。現在の価格などは分かるのだろうか。

A君:英国のETC(The UK Emissions Trading Scheme)という枠組みでの価格ですが、どうも、国全体としての枠組みとは違うようなのですが、http://uk.co2e.com/に出ています。1月17日現在で、4.5ポンド/トン(850円ぐらい)。

B君:そのETCという枠組みでは、7ポンドぐらいまで価格が上昇したことがあるようだ。

C先生:このような一国での市場とは別に、EUは2005年スタートを目指して、EUの各国間の排出権取引を制度化しようとしているようだ。ところが、国の取引ということになると、それぞれの国にどのような基準で排出権を与えるのか、という大問題が出てくる。それは、EUは全体として7%削減ということになっているが、それをそれぞれの国に対してどのように割り振るかという問題だからだ。まさに国益が絡む問題だ。

A君:ドイツ、フィンランドなどは大反対しているようですね。ドイツは、自分達はすでに削減を実現している。だから、これまでの実績を基準として排出権を決めるのは不公平である、という主張です。

B君:国益、企業益などが絡めば、排出権を決めるのは大変な作業だ。日本でやったとしたら、これも大変なことになるだろう。まあ、可能だと思われるのは、電力・ガスなどのかなり公共性の高い企業までか。

C先生:となると、日本ですべての企業が参入する形で、排出権取引に行くのはなかなか困難ということになる。自主的な取り組みを奨励して、排出量取引を行うのは不可能とは言えないだろうが。

A君:それで日本の場合ですが、排出量取引がどのぐらの削減効果を出すのでしょうか。

B君:過大評価は禁物だ。

C先生:環境調和型企業の最低のハードルと言われている環境報告書の発行数が、そろそろ1000社にはなった。省エネ奨励金がどのぐらいのインセンティブになるか、それが鍵だが、なかなか1000社のレベルには行かないのではないだろうか。

A君:やはり環境税を掛けて、それを省エネ奨励金にするといった「飴と鞭」併用型の方が利くと思いますね。

B君:なんといっても、排出権取引では、制御不可能な部分が大きすぎる。一般家庭の省エネを奨励するには、家電製品や車など、家庭での使用時の環境負荷が大きい製品については、省エネトップランナー制度を拡充して、販売総量の何%をトップランナー商品にするか、といった目標を企業に課すことが必要だ。

C先生:単なるトップランナーに加えて、スター級ランナーといった新たな制度を儲けて、スター級ランナー1台がトップランナー数台に相当するといった制度も作る必要がありそうだ

A君:市民レベルにも意識を高めてもらうために、環境税が必須でしょう。コスモ石油の1トン500円の販売は面白い試みです。まあ、一般市民が買っても、何の役にも立たないのですが。

B君:ただし、環境税がエネルギー税あるいは温暖化ガス排出税である限りにおいては、リサイクルなど循環がマイナスの影響を受ける可能性がある。だから、同時に、廃棄物排出税などもしっかり整備しないと、日本全体の循環型社会が後退する可能性がある。

C先生:ヨハネスブルグサミットにおける非持続型消費の回避、環境調和型の車などといった目標をどうやって実現するか、戦略を早めに決め実施に移る必要がある。どう評価しても、日本国の動きは遅い