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      CO2ゼロに必要な技術 11.15.2020
          実現には高いハードルがある

               



 繰り返しになるが、菅首相は、なかなか度胸のある方のようだ。「2050年までに、CO(≒温室効果ガス)排出実質ゼロを目指す」ことを、10月26日の所信表明演説において述べた。これまでの経済至上主義的な「アベノミクス」とは違って、「経済と環境の好循環」を掲げるとのことも表明したこともあり、明らかに世界の標準に近づいた。
 世界を見渡せば、
EUをはじめとする世界122の国と地域が、すでに「COの50年実質ゼロ」を目標として掲げている。ある意味で、日本は相当(と言っても1年以上程度?)遅れたことになる。世界には、196の国と地域(日本が認めた国と地域の数)が存在するが、122ヶ国という数字は、明確に、過半数以上である。
 122ヶ国が、
CO排出ゼロを本気で目指すとしたら、どのような困難に直面するのだろうか。その答えは、「非常に多くの、極めて困難な状況に直面する」、である。日本人的な発想であれば、「極めて困難な状況に直面するのなら、それを目指すとは言わない方が良いのではないか」、であろう。しかし、そこが、日本人と他の国の考え方との根本的な違いが大きなところで、「やるべきことについては、『やる』と言う以外の答はない」という122ヶ国の国々と、『やるべきことは、あるだろうけど、できる見通しが無いときには、やるとは言えない』という日本との価値観の違いは大きい。日本の価値観は、非常に正直であるとも言えるが、「いつまでもぐずぐずと、そんなことを言っていたら、『やれたはず』であることが、『やれなくなってしまう』」という考え方が、西欧流なのである。別の表現をすれば、「人類の能力は無限に近いから、やる気になれば出来る」と信じている西欧人「人類の能力は無限ではないので、無理なことは無理」と信じている日本人の違いなのである。これはちょっと考えると、宗教的な基本スタンスの違いに基づいているものと思われるかもしれない。しかし、西欧的な中心的な思想である「天は自ら助くる者を助く」は、決して、聖書などに書かれていた言葉ではない。英訳は、”God helps those who help themselves." であり、その出典は英国の著述家・サミュエル・スマイルズの著書 
「Self-Help(自助論)」
である。
 果たして、2050年に「CO
排出量ゼロ」を、人類は自助によって達成しているだろうか。それともやはりダメか????
 本日の議論の結論は、
「どのような技術が確立すれば、CO排出量ゼロが実現できるか、を明らかにすべき。これが第一段階である」、ということにしたいのだが、そのような技術が、それほど多様でないことが悩ましいところである。


C先生:
「CO排出ゼロを人類が達成できるか??」。こんな疑問が湧くが、実は、この疑問を持つ理由は簡単だ。「化石燃料なるものが余りにも便利、それに対して、自然エネルギーは余りにも使いにくい」

A君:さらに詳しくその理由まで述べれば、
「自然エネルギーで得られるエネルギーの形態は多くの場合電力だから使いにくい。その理由は、電力を貯めるには電池ぐらいしか方法が無いから」

B君:ということは、「電力の持つエネルギーを貯めるのに電池という方法は使わない」ことがより未来的で必須のイノベーションなのだが、大きな欠陥もある。

A君:例えば、
電力の持つエネルギーで、水を電気分解して、水素と酸素に分ける。そして水素を貯めておくことは不可能ではない。しかし、その水素を燃料使って、発電しようとしても、一旦、熱に変換することになるため、効率は大幅に下がってしまいます。『熱』というエネルギーの熱力学的なランクは、最下位ですからね。しかし、熱を経由しないで発電するのは、これがまたまた難しい。燃料電池という方法はあり得るけれど。

B君:
電気自動車は、電池でエネルギーを貯めているので、やはり、個人としての本音を言えば、決して電気自動車は買わない。なぜなら、充電して電池を満タン状態にするのには、相当な時間が掛かるから。水素自動車なら買うかも。、将来、水素ステーションの数が十分なレベルになれば、別に問題はないだろう。

C先生:このところ、我が家族では、自動車の用途がほぼ旅のみなので、
私もやはり電気自動車は買わない。それでも、最近の日産リーフはかなり「一充電走行距離」が長くなった。バッテリー容量が大きいタイプだと、フル充電で458kmも走るようだ。しかし、急速充電時間が問題で、充電量80%までで、約1時間は掛かるようだ。夏季、冬季は、さらにプラスαの時間がかかるらしい。まあ、400km近くを一気に走ることは、年に1回ぐらいは有るかもといった程度だけどね。先日、上田市の先の別所温泉を1泊で往復したけれど、帰りは、海野宿で昼食を取っただけで、ほぼ、ノンストップで自宅まで戻ってきた。しかし、片道約220kmぐらい。このぐらいの距離だとEVでも良いのかもしれないが、宿泊した別所温泉には、電気自動車用の充電設備はあるのだろうか。となると、やはり、旅用途の車は、まだまだ、ガソリン車かもね。現時点の所有車も、またまたプリウスなのだけれど(初代、二代目、三代目、三代目プラグイン、そして、現在は四代目と5台も乗り継いだ。今回の四代目は、相当にパワフルになり、乗り心地も向上した。ただ、タイヤのグリップ性能が上がったためか、ロードノイズが大きい)。

A君:
別所温泉ですが、チェックしたら、電気自動車の充電設備が3ヶ所もありますね。驚きです。

B君:最近、状況は変わっているね。しかし、その充電施設は経済的に成立しているのだろうか。

A君:話を戻します。やはり、
なんでも電気で動作するようにしないと、COゼロの社会を作るのは難しい。まあ、水素という手も無いとは言えないけれど、水素ステーションの数はまだまだ限られていて、水素燃料電池車である、トヨタのミライや、ホンダのクラリティは、実用にはまだやや遠い。

B君:
水素が家庭までガス管で供給される時代は来ないのではないだろうか。理由は、色々あるだろうけど、水素は、分子量が小さいので、漏れやすい。現行のガス管では水素化は難しいのでは。ガス管を全部変えれば可能かもしれないが。

A君:そうですね。未来はどうか、となると、やはり、「すべて電化」が本流なのでは。
燃料となると、純粋水素だけは別として、どうしても燃焼したときに発生するCOが問題になるでしょうから。

B君:多分そうなる。100%電化がCO
ゼロ化の条件になるだろう。

A君:しかし、そう簡単ではない場合も多いのですね。すなわち、
「どのような産業が、COゼロ化が難しいのか」、の話題に行きたいと思います。

B君:それは、すでに明らかになっていると言える。やはり、
素材産業がかなり難しい状況になる。例えば、鉄などの金属精錬、セメント製造、硝子製造。それに石油化学も製造する物によっては、難しいかもしれない。勿論、一般に燃料と呼ばれるものは、その多くが使えない状態になってしまう。石油、石炭、天然ガスなどだが。

A君:鉄鋼業は、未来について、相当のことを考えています。現時点では、
鉄鉱石(≒酸化鉄)を炭素(コークス)で還元して、鉄を作っています。当然、炭素は酸化されるので、必ずCOが出てしまう。

B君:CO
を出さないで鉄を作る方法としては、水素で還元をすることが、恐らく、ほぼ唯一の方法。水素ならば、酸化されたときに、水になるだけだから。

A君:しかし、そう簡単ではないのですね。
水素は酸化されて水になるときの反応は、吸熱反応なので、溶鉱炉の温度が下がってしまうのです。となると、外部から熱を供給しなければならないことになって、その熱源としては、高温ガス炉というある種の原子炉からの熱を使うのがもっとも合理的だとされています。

B君:すなわち、これまでの溶鉱炉とは、全く異なった技術を用いないと鉄が作れない。すなわち、根本的なイノベーションが不可欠ということだ。

A君:そのため、
世界中の製鉄企業が、COを出さない製鉄技術にチャレンジしつつあります。しかし、これが完成するのは、下手をすれば、今世紀末になるかもしれない。

B君:まあ、どうなるやらだ。大昔の製鉄は、恐らく木材を使っていた時代もあるだろう。その時代に戻って、薪を使うのは、やはり無いか。

A君:
水素還元法は溶鉱炉の温度を外から熱を供給することで保つという技術次第で使えるでしょう。

B君:製鉄業だけではなくて、CO
を出さないことを前提としたとき、どのような技術が必要不可欠なのか、それをもっと真剣に考えなければならない。

A君:やはり、薪は有利ですね。熱を出すための薪を燃やすと、CO
は出るのですが、もともと、木は大気中のCO2を吸収して成長するので、差し引きゼロという扱いになります。

B君:水素は、自然エネルギーを使った電力、例えば、水力発電で電力を作って、それで水を電気分解をすれば、
燃焼してもCO発生量がゼロの水素ができることはできるのだけど、だからといって、これを鉄鉱石の還元反応に使おうと思っても、還元のメカニズムが全く違うね。

A君:このあたりで、中間まとめに行きます。自然エネルギーが、唯一の使えるエネルギー源になるので、あらゆる自然エネルギーを再開発することが必要になりますね。その最終形態は電力が大部分で、水素がその次ぐらいしょうが。

B君:未来の熱エネルギーと言えば、現時点で、都市で普及している
ガス湯沸かし器だが、都市ガスを燃焼させて熱を作っているので、COゼロという条件を満たさないために、使えなくなる。これがかなり痛い。お風呂を電気で沸かすのかな。それとも、これは冗談に近いが、薪のお風呂に戻るのか。

A君:まさか。お風呂は電気で沸かしているでしょう。

B君:となると、
現在の電力量では不足するかも。発電量を増やすのが重要な条件になるかな。まあ、人口が減るからなんとかなるか。自然エネルギーと原子力がCOゼロの条件を満たすことができる発電方法だからといって、原子力が増やせるとは思えない。

A君:風力発電を増やすことにはなるのですが、これがまた色々と問題がありますね。
風がなければ発電できないし、風が一定限度を超えて強すぎれば、羽根が折れる可能性があるので、やはり発電を止めるしかない。

B君:そのあたりの話になると、
まず、日本列島の位置が悪いんだね。欧州のように大陸の西にある地域では、平坦な海の上で風ができるので、穏やかな偏西風が淡々と吹くのだが、その後、大陸を超している間に、低気圧などの影響を受けるので、日本に来るときには、穏やかさを失っている場合が多い。それに加えて、台風なども発生するし。

A君:それ以外にも、いくらでも限界がありますね。太陽光発電は、それこそ、お天気任せ。現時点での通常の発電は、化石燃料を燃やしている場合が大部分。
COゼロの発電方法としては、水力発電があるけれど、日本という国土では、新設はもはや限界。もし、どうしても発電量を増やそうとすれば、既存のダムの高さを多少、というかほんの僅かだけ高めるという方法ぐらいしかない

C先生:そろそろタネが尽きてきた感じだな。いずれにしても、CO
ゼロを実現し、なおかつ十二分の電力を供給することは、国土の状況を考えると、なかなか難しい。最近、ヨーロッパ各国は、どこでも、これほどか、というぐらい風力発電が、海・陸・丘・山に立ち並んでいる。

A君:日本も、もっと洋上風力を建てるべきですよね。
風力と言えば、秋田県などが候補地になるのですが、すでに、陸上風力を新規に立てる場所は、どんどんと少なくなっている感触ですね。

B君:
洋上風力は、漁協あたりが反対するのか、と思っていたけれど、どうもそうではないようだ。洋上風力のメンテとなると、どうしても船で風力発電の下まで運んでもらう必要があって、漁協にとってもメリットがあるらしいので。

C先生:ちょっと話が現時点に囚われすぎでいるように思うよ。

A君:それでは、どのような技術というか、イノベーションというか、何が実現できれば良いのか。全く夢のような技術を議論しても無意味なので、
実現の可能性が高そうな技術とはどのようなものなのか、を若干議論しましょう。

B君:ここ2〜3年のICEFのTop10イノベーションズがやはり参考になるのでは。具体的にこれが良いという意味ではなくて、この分野がやはり重要だ、という判断には使えるという意図だけれど。

A君:それは間違いないでしょう。分野として見ていきましょう。
まずは、「新型の電池」は絶対に必要な技術ですね。リチウム電池ではなくて、ナトリウム電池の方が、資源的には何倍も有利です。リチウムの地殻存在率は少ないので。

B君:個人的には、
水素製造技術も重要だと思う。現状だと太陽電池を使って、水の電気分解になるけれど、それを超える太陽光による、しかも、高効率な水素製造技術が欲しい。

A君:過去のICEFのTop10イノベーションには、固体高分子を使った水素発生装置などが選ばれている。
燃やしてもCOを出さない燃料になりうるアンモニアにも期待したいですが、それには水素が絶対に必要。

B君:アンモニアは、安全性の確保が非常に重要な課題だ。しかし、アンモニア以外に、CO
を出さない実用的な燃料というものが、開発できるだろうか。使える元素に限界があって、かなり難しい。

A君:今年のTop10には
水素を液化して運搬する世界初の船が、無事に進水したことが選ばれましたね。

B君:水素もダメという訳ではないけれど、兎に角、軽いので、運搬効率などを稼ぐのが難しい。

A君:そのためにアンモニアにするという話も無い訳ではない。

B君:しかし、
アンモニアは、やはり毒性なども無いとは言えないし、そもそも臭いが問題でもある。もっとも、そのまま窒素肥料として、農地に撒くなどということも不可能ではないらしいけれど。

A君:今年のTop10の一つの特徴として、
むしろ、COをコンクリートを固める用途に使うというものが複数ありました。COを出さない工夫の一つとしてです。

B君:確かにCO
を出さない手段として、コンクリートを活用するのは、良い手法かもしれないね。

A君:昨年以前のICEFのTop10もチェックしましょう。太陽光で空気からCO
を出さない燃料を作るという試みが2019年にはありました。炭素源は、空気中の二酸化炭素を吸収して使う。微生物を使ってバイオ燃料を作る

B君:太陽光と空気だけから、CO
フリーの燃料を作るというものも目立ったし、COと水素からメタノールを作るというような触媒開発といったものもあった。空気中のCOを原料として、燃料などを作るということも、CO対応の未来像の一つのように思えた。

C先生:さて、それでは、話を最初に戻して、2050年に日本なる国からのCO
排出量を実質ゼロにするということが可能かどうか、という話に戻ることにする。なぜなら、参考とするWebサイトを見つけたので。
https://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1198849_1534.html

A君:2020年10月28日の記事ですから、首相の10月26日に所信表明演説の2日後に発表されたものということになります。

B君:記事のイントロ部分は、まあ、今回の記事とまあ同じで、菅首相の発言によって、それが日本経済の転換点になるとして、具体策などに関して、識者や企業に話を聴いたというもの。

A君:ちなみに、
現時点での日本のCO排出量は、世界で第5位。1位から4位は、中国、米国、インド、ロシア。

B君:CO
実質ゼロを実現するには、まずは、電力の脱炭素化が必須であることは、すでに説明した通り。日本はこれまで、石炭発電を高効率化することに固執してきた。それは、やはり石炭発電の発電コストが安いから。

A君:しかし、
資源エネルギー庁は、2年前の2019年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」を見直す作業に入ったらしい。というもの、現在日本が公式目標としているのは、2030年での電源構成を、再エネ22〜24%、石炭火力26%、原子力20〜22%、と2018年に定めたもの。

B君:日本最大の問題は、再生可能エネルギーをどこまで導入できるか。これに対して、環境省の調査では、日本の再エネポテンシャルは非常に大きいとされているらしい。

A君:そのデータはいつの調査によるものなのだろう。確かに、環境省の出していた数値は大きかった。

B君:この報告書かな。
平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書。ということは、2010年のものか。これは、見たことがある報告書のような気がする。やや古いのではないか。
https://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/

A君:目次を一応ご紹介します。
第1章 調査の全体概要
第2章 導入ポテンシャルに関する用語の定義
第3章 太陽光発電の導入ポテンシャル
第4章 風力発電の賦存量および導入ポテンシャル
第5章 中小水力発電の賦存量および導入ポテンシャル
第6章 地熱発電の賦存量および導入ポテンシャル
第7章 現地検証
第8章 推計結果のまとめと今後の課題

B君:推計結果のまとめと今後の課題という第8章だけを紹介すれば良いのではないか。

A君:それでは、本当の抄録としてまとめます。
 導入ポテンシャル
  太陽光  1.5億kW
  風力   19億kW
  中小水力 1400万kW 
  地熱   1400万kW


B君:
風力の導入ポテンシャルが高いけれど、北海道、東北、九州エリアに集中している。となると、特別高圧送電線の新増設などによる系統連系対策が課題となる。

A君:勿論太陽光発電でも系統連系対策が必要となるが、その対象は、低圧配電線や高圧配電線で済む。しかし、現状のコストレベルでは、事業用発電事業として大々的に普及していく可能性が高いとは言いにくい。

B君:
地熱については、中小水力と同程度のポテンシャルが期待されるが、初期投資リスクが大きく、民間事業としては難しいという意見もある

A君:表8−1というものが全体のまとめですが、「
風力、特に、洋上風力が圧倒的にポテンシャルが高い。しかし、日本国内での実績がほとんどない」、という感じの報告

B君:
北海道のポテンシャルが高いのだけれど、その地域が稚内付近、襟裳岬付近にあって、実は、送電線がほとんどない地域なので、経済性が多分ない。それに加えて、北海道から東北への送電線も現状だと不十分。

A君:
青森県、秋田県、岩手県の洋上風力が最後の望みかもしれないですね。

B君:
九州も、北海道に比べると、風速はやや低いけれど、ポテンシャルが大きいもっともポテンシャルが無いのが、関西地方。

C先生:かなり話題がシフトしたけど、いずれにしても、
2050年にCO排出実質ゼロは、技術的にも、恐らく、経済的にも大変だということは確実だ。しかし、「それでもやるのだ」と日本のトップが言わなければ、絶対に実現できないことなのだから、今までの首相とは全く違ったマインドの持ち主と思われる菅首相は、日本という国を根底から変える可能性があるような気がしてきた。そんな感覚を与えてくれる首相の存在意義は大きいと思う。今後とも、期待しすぎない範囲で、注視して行きたい。