-------

   CO2からエタノールを高選択・高効率合成
     
世紀の大発明かもしれない?!? 10.20.2016
               




 ひょっとすると、今世紀最大の発明なのかもしれません。米テネシー州のオークリッジ国立研究所の研究者が、COを原料として、比較的簡単な電極を用いて、電力効率63%、選択制84%で、COからエタノールの合成ができたとの報告が、Chemistry Selectという雑誌に発表されたとのこと。
 調べてみると、発表日時は、20 Sept、2016ということなので、しばらく前ですが、この領域に関心のある方からメールをいただき、初めて知りました。

 Webをチェックしてみると、engadgetなどのページで紹介されていますが、それが10月19日付です。
http://japanese.engadget.com/2016/10/18/co2/
これ以外のWeb情報は、すべてこのengadgetの”コピペ”ですので、無視しましょう。

 元々の情報は、Chemistry Selectの論文です。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/slct.201601169/full
本記事は、この論文から要点を引き抜いたものです。

題名:High-Selectivity Electrochemical Conversion of CO2 to Ethanol using a Copper Nanoparticle/N-Doped Graphene Electrode (First published: 28 September 2016)

著者:Dr. Yang Song, Dr. Rui Peng, Dale K. Hensley, Dr. Peter V. Bonnesen, Dr. Liangbo Liang, Dr. Zili Wu, Dr. Harry M. Meyer III, Dr. Miaofang Chi, Dr. Cheng Ma, Dr. Bobby G. Sumpter, Dr. Adam J. Rondinone

要点:
1.使った触媒の製造法
 高ドープのシリコン基板(電気抵抗が低い)上に、アセチレンとアンモニアを原料とし、直流プラズマCVD法を用いて、CNS(Carbon NanoSpike)と命名した微細構造をもつフィルムを合成。CNSは、数層のグラフェンと同様の構造と思われるが、結晶性が悪い。窒素の含有量(原子数レベル)は、5.1±0.2%。その上に、硫酸銅溶液を用いて、銅の微粒子を電解法で析出させる。銅微粒子のサイズは、平均で39.18nmで、粒子の存在密度は、平方センチあたり、2.21x10^9だった。

2.電解法
 かなり詳細なデータが出ているが、省略。電解後、生成物は、ガスクロマトグラフと、NMRで分析をして、電解効率などの計算をした。
 電解電圧によって、生成物は様々である。−1.2Vのときに、エタノールの生成が最高効率(ファラデー効率、すなわち、使用された電力=電子数が分母、エタノールに捉えられた電子数が分子)になり、その値は63%であった。また、生成した有機物中のエタノールの選択性は84%であった。

3.初期反応のメカニズム
 COが最初に電子を一つ吸収。それが、COもしくはC1の中間物、例えばCHOあるいはCHOに変化。

4.C−C結合生成
 これは、Cuの(211)結晶面上起きると想定されている。Cuの表面に吸着されたCOの水素化が起きれば、C−C結合の生成が進むと考えられている。

5.CNSに含まれている窒素がもう一つの鍵で、生成したC−C結合をもった部分が窒素に吸着されて安定化するのではないか。

6.結局のところ、触媒上で、CNSとCuが共存しているところで、エタノールの合成が進行するのではないか。


C先生:あーあ。やられてしまった。この分野に日本ももっと真面目に注力すべきだった。
 日本で人工光合成というと、以前の記事に、『マラソンという競技を競歩のルールで行っている』、と書いたように、
http://www.yasuienv.net/ArtificialPS.htm
ほぼ、水の光分解だけが手法として許容される研究領域になってしまっている。
 しかし、これは、将来、実用化される可能性が非常に低いのだ。なぜなら、現状すでに実用化が可能な技術がある。それは、20%程度の発電効率の太陽電池によって発電した電力を用いて、水を高効率電気分解すれば、最終的に高圧の水素の形でタンクに入れるまでの総合効率が、10%程度がすでに実現できている。現在の人工光合成の水の光分解が実用レベルの効率になったとしても、最大の問題点は、水というものを数100m×数100mの大きなプラントにどのように供給するか。そこで、発生した水素をどうやって集めるかなのだ。しかも、効率が数%になったとしても、このようなプラント化をすると、その効率がガタ落ちになることが目に見えている。

A君:日本でこの研究に対抗できると言えるものは、東芝によるCOを原料としたエチレングリコールへの変換だけですかね。
https://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1509_01.htm

B君:エチレングリコールであれば、PET樹脂の原料になる。現在のPETの一部植物化は、エチレングリコールを植物から得たエタノールを原料にすることによって若干グリーン化するという試みもすでに行われている。

A君:エタノールやエチレングリコールといった、最低でも二個の炭素と、その間のC−Cの結合をもったものを合成できて初めて人工光合成と言える訳で、光から電力は、すでに確立している太陽電池で十二分に有用。という訳で、この論文が本当に実用レベルになれば、未来の地球温暖化あるいは気候変動問題の解決に多大な貢献をする技術になりそう。

B君:勿論、この技術だけでは駄目で、現状だとその原料になるCOを化石燃料を燃やした排ガスから得るということになるだろうけれど、それをやったところで、CO排出量は、若干減ることにしかならない。現在、CCUSと呼ばれる技術の大部分は、似たようなものだ。

A君:CCUSのUはutilizationのUですが、その用途が何かということが非常に重要です。もっとも妥当なものが、コンクリート材料の早期強度上昇のために、COの濃い雰囲気中で熟成するもの。これだと、COはコンクリート材料の中に入り込むので、長期間、大気にでて来るというものではなくなるので。

B君:それ以外の用途。例えば、このCOを原料にしてプラスチックを作ったところで、最後にごみになって焼却されてしまえば、結果的にCOは大気中に出てしまう。

A君:高々、同じ炭素原子を2回有効活用したということにしかならない。

B君:炭素原子のライフサイクルという考え方が非常に重要なのだけれど、そのようなLCA的な考え方が十分には行われないのが、現状。

A君:ライフサイクルを考えれば、植物が大気中から取り込んだCOを使って育つのですから、このCOを原料にすれば、大気中のCO濃度は減る。これがバイオマスCCSと呼ばれるものですが、これを大量に推し進めれば、森林資源が減ってしまうという副作用がでます。

B君:バイオマスCCSによって集めたCOから合成炭化水素を作れば、それを燃料として燃やしても、一応、カーボンニュートラルという条件を満たすので、大気中のCO濃度は増えないとされている。本当は、他にもエネルギーが必要とされ、かつその効率が100%ということは無いので、増えてしまうのだけれど。

A君:今世紀後半に必要となる技術が、今回取り上げたようなCOからアルコールなどの有機物を合成する技術。エネルギーは再生可能エネルギーを使用するのが条件になりますが。
 それに加えて、もう一つ必要不可欠な技術が、大気中から植物の効率を超えて、COを取り出す技術。これを原料につかって炭化水素やアルコールを作れば、それこそ、カーボンニュートラルと言えて、大気中の二酸化炭素濃度は増えない。

B君:しかし、なかなか難しいようには思う。なんといっても、しかも、このところ急激に増えたとは言っても、大気中のCO濃度は、高々400ppmしかないので。

A君:人間が大量に存在している電車などの中の空気中のCO濃度は高いのではないですかね。しかも、ヒトという生命だって、COの元になっている炭素は、もともと植物起源。コメ、ムギといった主食にしても、肉類、魚類にしても、大気中のCOを植物やプランクトンが取り込んだもの。人間がまずは、バイオマスCOの濃縮をすることに貢献するという考え方はどうですか。

C先生:大分、話題がずれたようだ。いずれにしても、今回発表された技術は、イノベーションの未来は、発想が正しければ、暗いばかりではない、ということを示したもののように思える。
 もっと、大局的に見た必要な技術の方向性、例えば、パリ協定の言う、Net Zero Emission技術とはどのようなものか、それをまず徹底的に検討し、その合意のもとに、日本のイノベーション戦略を作り直すことが必要不可欠であることを、非常に端的に示したのが今回の発表だと言えるのではないだろうか。
 それに、オークリッジ国立研究所の研究者達といっても、名前を見ると、半数ぐらいが東洋系の名前。多分、それは中国人と韓国人で、日本人が一人も入っていない。これはこれで大問題なのでは。