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 COP15の懸念と日本の対応   12.06.2009
      



 COP15が明日12月7日からコペンハーゲンで開会だというのに、気候変動問題に対して、どうも世界中が迷走気味である。

 日本国内では、鳩山首相の25%削減の具体的なシナリオが未だに書けない。本来であれば、COP15で何かが決まってから日本のシナリオを書くのでは遅すぎる。

 加えて、暫定税制の廃止が、中期目標の25%削減と全く整合性が取れていないことが明白なのに、肝心の首相自身が否定的である。

 国際的な動きも心配。EU中心の動きと米国中心の動きにほとんど整合性がない。

 本当にどうするのだろう。



C先生:米国・中国は、気候変動防止の緩やかな枠組に入ることは入るだろうが、これまでの京都議定書の枠組とは全く異なったことを考えているように見える。

A君:COP15の結論として、全く別の枠組が用意されて、こちらが米国と中国、さらに、インドもこちらが指定席です。京都議定書の枠組はそのまま残して、もともとこちらに居る国は、こちらが指定席だから動けません。

B君:それって日本にとっては最悪だ。

C先生:欧州の状況をみても、英国にとってもっとも重要なことは、やはりEUの排出権取引の枠組を守ることなのあろう、自ら厳しい目標を課すかもしれないが、ドイツはいささか引き気味のようだ。自動車産業など、やはり自国の産業が気になるのではないかと思われるのだ。

A君:英国だって、安閑とはしていられない。場合によっては、世論は反対なのかもしれない。この時期を狙ったように、英国での温暖化研究者のスキャンダル(?)がニュースになっている。
http://eco.nikkei.co.jp/column/kanwaqdai/article.aspx?id=MMECzh000025112009
http://eco.nikkei.co.jp/column/emori_seita/article.aspx?id=MMECza000024112009

B君:それ以外のところでも、日本を含めて、IPCCに反発する研究者が、相変わらず戦闘的なのは、世界中の傾向だ。その理由は、メディアに受けるからだ。

C先生:それはそうだ。最近、日経エコロミーで話題になった北極振動の話にしても、
http://eco.nikkei.co.jp/column/kanwaqdai/article.aspx?id=MMECzh000003122009
北極振動で、これまでの地球の気候変動のある割合(4割と主張)で説明できるかもしれない、ということであって、彼らの主張が正しいとしても、残りの6割はやはりそれ以外の人為的な原因だと想定する方が正しい。すなわち、温室効果ガスを放出すれば、温暖化の傾向は強まることが否定できている訳では無い。

A君:しかし、IPCCの報告書をよくよく読めば、そのように書かれているのですが、現状での気候変動の科学が、2100年で0.5℃の精度で、正確に地球の気温を予測できるところに到達している訳では無いですよ。

B君:当然だ。地球のメカニズムや太陽の活動など、まだまだ予測できないゆえに、不確実性は多い。

A君:だからといって、IPCCの報告書を詳細に読んでいるかどうか分からないですが、すべてを否定するような態度は科学的でない。

B君:まあその通り。メディアは、一部の科学者が自分の生業である科学を批判する態度を、「これは記事になる。面白い」と思っているに過ぎない。

C先生:日本がCOP15の場で、本当のところ、何を言うべきなのか。もっとも主張すべき重要なポイントは、2100年頃に壊滅的な気候変動が起きないようにするには、地球レベルで、一体何をしなければならないのか。これを再度検証し、同時に、解決策を提案することだと思われるのだ。

A君:しかし、残念ながら、COP15の進展も、また、その結論も、そんな方向にはならないでしょうね。何と言っても、時間が余りにもないですから。しかも、国家間の利益の違いは余りにも大きいですから。

B君:しかし、もう一度、項目の洗い出しを行ってみると同時に、日本が行うべき、本来の主張を考えるのは必須だ。

A君:気候変動の影響と対策の復習から行きますか。
 この点に関しては、IPCCの第四次報告書がやはり基本的な情報を提供している。それを個人的な感覚で整理しなおせば、次のようなことではないでしょうか。
 もっとも危険なこと。
(1)極端な海面上昇
(2)降水の変化による生態系の破壊
(3)農業の壊滅による食糧危機
(4)環境難民の発生
(5)大規模天災の頻発
これらが発生すれば、一部地域での人類の生存が脅かされる。当然、世界経済には悪影響が及ぶ。

B君:それを防止できるかどうか。これは、2020年までの対策が決めている訳では無い。デンマーク政府が言うように、最良のシナリオでも、2020年頃から地球全体の排出量がピークアウトするぐらいだろう。いずれにしても、その後、2050年程度までの長期目標を合意し、それに向かう道筋として、2020年を考えることが必要不可欠だ。

A君:そのための対策とは、一言で言えば、化石燃料への依存を低下させること。特に、石炭使用量の低減が重要であるが、安価で豊富な石炭の使用を削減すれば、世界的にみて経済的な活力は低下することになる。

B君:これも何回も言っていることだ。気候変動防止のため行うべきエネルギー対策は4種類。
(1)自然エネルギー/自然材料への転換
(2)エネルギーの高効率利用
(3)炭素隔離貯留
(4)原子力の増強

A君:以上の4種類の対策は、(4)原子力を除けば、かなり高価です。その原子力も、高レベル廃棄物の最終処分はコストも不明ですし、不安を持つ人が多いですね。石炭をそのままでは使えなくなれば経済的な発展が阻害されて、恐らくこのような高価な対策が不可能になるような世界経済の状況になる。

C先生:もっとも怖いことには入っていないが、本当に怖いことがある。もし途上国の経済状況が悪くなれば、再度、出生率が上昇し始める。環境問題の根源である人口問題は、途上国の経済を改善する以外に解決の道はない。

A君:ところが本質的な問題があります。経済発展には、エネルギーの使用量を増やすことが必須です。ところが、石油資源、天然ガス資源だけでなく、他の資源も当然有限であり、価格の高騰が予想される。となると、放置すると、途上国の経済発展は阻害され、出生率が増える。

B君:それ以外にもいくつも要素がある。エネルギー使用効率を高めようとすれば、レアメタルなど、新たな鉱物資源にも多くを依存せざるを得ないが、これも有限である。要するに地球の限界が根底にある問題だ。

C先生:こんな負のスパイラルに乗っかっている地球環境の状況をどうやって持続可能な形に戻すか。それにはどこから手を付けるか、これが地球レベルでの人類生存戦略であるはずである。
 一方で、一部のNPOなどが主張しているような方法で、気候変動だけを解決しても、全体的な解決には至らない。恐らく、地球上の人口が増えて、ますます長期的な問題を引き起こすだけだろう。
 しかし、各国は、自らの国の利害だけを主張してCOP15に臨もうとしている。各国の政治家の多くは、次の選挙で勝利することを最大の目的と考えている。

A君:絶望的な状況ですね。しかし、やることはやらなければならない。

B君:オバマも、国内の支持率が50%を切ったようなので、今後、3年程度で何をやるのか。

C先生:これから、どんな制度設計になるのか。その検討をしよう。
 まず、われわれの主張はいつも、排出権取引は不十分な枠組だ。これから行きたい。

A君:しかし、それは無理です。なぜならば、今回のCOP15では、どんな制度設計なのか、などのような観点からの議論が行われる時間はない。恐らく、京都議定書の継続についての議論に加え、それ以外の国際的枠組の共存を認めるかどうかが議論の中心になるのではないでしょうか。

C先生:それはそうなのだ。しかし、COP15後への提案を睨んで、もう一度復習をしておこうという程度の意味だ。

A君:了解。これも毎回主張していることではありますが、京都議定書の継続を望むのは、欧州である。排出権取引市場が、欧州経済にとって今後必要不可欠な枠組になると考えているからですが。

B君:そこだ。ところで、排出権取引といっても、多種多様な方法がある。取引主体を考えても、個人、企業、地域、国など様々である。

C先生:数多くある排出権取引の形態のなかで決してやってはいけない取引が先進国間の取引である。ホットエアとしばしば呼ばれる取引であるが、京都議定書が発効した段階では、日本政府はこの取引はしないことになっていた。ところが、現実には、チェコ、ウクライナなどから7150万トンを購入した。

A君:そもそもホットエアとは、朝日新聞によれば、空手形を意味する言葉だそうですよ。辞書をみても、「戯言、でたらめ、出任せ」などの訳語があります。

B君:これらの取引は、GIS(Green Investiment Scheme)という枠組で行われており、受け取った資金は環境投資に限定して使用することになっていた。ところが、実態はかなりこれとは違っているようだが、それを検証する権限は誰も持っていない。要するに、受け取った側のやり放題である。

A君:加えて、チェコにしてもウクライナにしても、削減努力をして排出量を減らして得た枠を売った訳ではない。経済成長ができない産業構造になってしまって、エネルギー消費が低迷したから自然に余った枠に過ぎない。極論すれば、二酸化炭素を出したくても出せなかったのです。そこに、天からホットエアが降ってきたことになる。勿論、天は日本政府ですが。

C先生:排出権取引とは、一般には、経済的合理性あるとして正当化されるが、どのような場合でも削減に繋がることが保証された方法ではない。各主体への排出上限の設定がいかに合理的に行われるかが鍵である。
 ところが、すでに述べた国対国の場合のように、あるいは、言い換えれば京都議定書の枠組のように、不合理な設定がなされた場合には、ホットエアと揶揄されることになる。

A君:もう一つの枠組と言えば、CDMですが、これは中国支援のメカニズム

B君:京都議定書の主要な枠組であったCDM(Clean Development Mechanism)は、国連が認定した排出削減事業になれば、排出権の獲得ができる。それを受けることができる国は、やはり工業がかなり発展している国に限られる。もっとも有利であった国は、中国であった。

A君:それだけではないですよ。経済発展が順調に進展しているとさらに有利です。なぜなら最近では、大規模水力発電などによる排出削減までCDMの範疇に入るからです。中国のように、経済発展に電力供給が付いていかない国は非常に有利な状況に置かれていた。

B君:ところが、CDMは、最貧国にはほとんど関係がない。どこにも工業などはないし、経済発展も無縁。電力網などもないからである。

C先生:中国は、もはやCDM対象国としての資格を必要としないのではないだろうか。
 もしもどうしても中国を対象とするのであれば、中国における石炭火力発電からの二酸化炭素排出量を削減するために、CCS(炭素隔離貯留)のシステムを付与することだけに限定した仕組み、すなわち、名称もCDMではなくて、CCSに変えるなのではないだろうか。

A君:話が変わりますが、インドが排出削減目標を発表して、世界を驚かせた。一定の国内総生産(GDP)を生み出すのに必要な二酸化炭素の排出量を、2020年までに05年比で20〜25%削減することを発表したので。

B君:そのやり方は、原単位主義と言うべきだが、中国の削減目標もそのような形式である。
 インドでも、出生率を低下させるためには、経済的な発展が不可欠で、それには、1人あたりの二酸化炭素排出量を今後とも増やす以外に方法はない。これは当然の形式だと言える。

C先生:他の途上国も、このような目標については、設定をする努力をすべきであると思う。
 そして、その目標を超した達成が実現した場合には、その分について、排出権を国際的に認め、その排出権に対して、各国が各種支援策を行うと同時に、出資国は排出権を獲得するという方法が、現実的かつ有効な仕組みだと思われる。

A君:しかし、問題があります。それには、MRVと呼ばれる条件が必須なのです。それぞれMeasurable=計測可能、Reportable=報告可能、Verifiable=検証可能、ですが、これは、資金的な支援を受けると、内政干渉的な義務を背負う可能性があるので、中国がもっとも嫌うやり方なのです。

B君:だからこそ、このMRVが重要であるというよりも、今後の地球全体での排出量の削減に向けて、MRVは必須の条件であることを強く主張すべきだ。

C先生:話を次ぎに移して、先進国の目標はどうやって決めるのが公平か。

A君:それは限界削減費用ですね。
 二酸化炭素1トンの排出を削減する費用を算出し、目標を達成するまでに必要な費用の上限を限界削減費用と呼びますが。これを国際的にすべての同じになるように目標値を決める。

B君:日本の限界削減費用はかなり高い。これは、麻生政権時代に行われた中期目標検討委員会の結果からも明らかである。

A君:日本の場合、476ドルだと言われていますが、この数値の妥当性については不明です。同じく、検証されていない数値だと思うのですが、EUは48〜135ドル、米国は60ドル、カナダは111ドル、オーストラリアは46〜92ドルで、ロシアに至ってはゼロ。ゼロということは、省エネ投資をすれば、エネルギー費用の節約で充分にペイすることを意味します。
 http://www.21ppi.org/pdf/sawa/091202_02.pdf

B君:このように、公平さを重視すれば、限界削減費用における平等がその原理になりそうに思えるのだが、状況は国によって同じではない。

C先生:その通り。例えば、日本のエコカー減税を考えてみても、最近、メルセデスのごく一部車種が対象にはなったが、外国製の車は、ほぼ排除されていた。これは外国から見れば、非関税障壁である。
 太陽電池だと、日本の場合には、まだまだ国産の太陽電池を買うことになるが、もしも米国でそんな政策を打ったら、CdTe型の太陽電池を除けば、その多くは中国製になる可能性が高い。

A君:それぞれの国にとって、これが何を意味するか、と言えば、自国の経済発展のためということを考慮すると、限界削減費用は、例え同じ価格であっても、その国の技術次第で可能にも不可能にもなるという結論になる。

B君:それも当然。日本国内だと限界削減費用を遙かに超しているハイブリッド車や国産太陽電池を対策の一部に入れることはできても、他の国では経済政策上不可能である。

C先生:実際のところ、日本のエコポイントやエコカー減税で、主な消費者になったのは、貯金をもっている60歳代以上の高齢層であったのだ。これらの人々の懐に貯まっている現金を市場に引きずり出すメカニズムが、エコポイント・エコカー減税の本当の意味であったのだ。

A君:だからでしょうか。このような状況を見透かされているためか、あるいは、ドイツの自動車産業が日本のエコカー減税に対して批判的であるためか、今回、COP15では、限界削減費用を議題にすることはないと決められてしまったのですね。勿論、表向きの理由は、時間が不足しているからではあるのですが。

C先生:それならどうするのかを考えよう。
 最悪なケースから行くと、京都議定書は、もしも次の枠組が決まらないと自動延長される。この状況だけは、いくらなんでも避ける必要がある。

A君:しかし、米国が京都議定書のような強制力のある枠組に入ることはないものと思われるので、米国、中国、インドなどが別の枠組を作ったとき、日本はどうするのか。これが最大の問題ではないですか。

B君:今回のCOP15の間に重大な決断を行うことはないことを希望するが、いずれにしても、今後のために、色々と準備をしておかなければならない。

A君:そうです。とにかく、まずは25%削減の内容の再検討でしょう。COP15で何が決まった場合でも、25%削減を全部チャラにする訳にはいかないだろうと思います。となると、鳩山イニシャティブと絡めて、なんらかの具体的な内容を提示しなければならないことになる。

B君:それはそれとして、まず必須なのは、日本国内での可能な限りの制度の整備と並行した技術開発の推進である。なぜなら、やはり日本の産業活力が大きく影響されるから。さらに、かつてから日本が主張しているセクトラルアプローチを、今後どのように主張するかである。そして、最後に、途上国支援のあり方の根本的な見直しではないか。

C先生:国内の制度となると、排出権取引と環境税、さらに税制のエコ化だろう。排出権取引の鍵は、いわゆるCAP(個々の削減目標)をいかに決めるかだと述べたが、これは技術的に極めて難しい。国内制度であれば、環境税の方が、はるかにすっきりしていて合理的である。併用なら余程制度設計をしっかりやらないと。

A君:ガソリンの暫定税制に変わる環境税の案が提示されていますが、環境省案でも、それほど悪くはないように思えました。

B君:暫定税制の単純な廃止のような、25%削減策と矛盾した方向は、いかなる状況でも回避すべきであると感じた。

C先生:対策技術開発の加速に関しては、日本の場合、温暖化対策ということだけでは、未だに反発がある。そこで、最近主張している「新一石二鳥」の考え方を導入すべきだ。
 すなわち、エネルギー自給率すなわちエネルギー安全保障の考え方との同時提案、高齢者対策のためのコンパクトシティーとの結合、生態系保全型農業との調和、途上国におけるインフラ整備を次ぎのビジネス化、などとの組み合わせでの提案が行われることが望ましい。

A君:もう一つ、セクトラルアプローチ。すなわち、鉄鋼業であれば、世界のトップ企業が原単位ベースで同じような削減目標を持つことは、世界的にみて、カーボンリーケージという言葉で表現されるような、必ず避けるべき状況を回避するほぼ唯一の案ですので、その正当性は、常に主張されなければならないと思います。

C先生:最後に、鳩山イニシャティブと途上国支援との関係を明確に定義し直すことである。日本が行うすべての途上国支援は、低炭素型に限ると宣言してしまうことがもっとも速い。

A君:確かに、低炭素型という言葉の広がりはそもそも相当に大きいので、現状の援助でも、純粋な箱物整備や高速道路の整備などを除けば、やりようによっては、ほとんどすべての援助が低炭素型になりうると思いますね。

B君:たとえ箱物であっても、それぞれの地域の状況に適合した、最適な省エネ建築物であれば、充分に低炭素型である。道路整備も、舗装を良くすれば、車の燃費の改善にはなる。農業技術支援などは言うに及ばず、他の支援事業にしても、低炭素型の定義に工夫次第で充分に適合しうる。

C先生:そろそろ結論だ。
 もっとも怖い状況は何か。妙な形での国際的・政治的な決着が行われ、日本にとって、非常に不利な状況が起きることである。
 それには、今後主張する日本国内の体制が、よく言われるガラパゴス的なものではなく、諸外国からも合理性が認められるようなものにならなければならない。

A君:偉そうなことを言わせて貰えば、加えて、日本の態勢で欠けているものは何かとなると、それは、やはり科学的・学問的に確固とした主張が不十分ということなのでは。

B君:実現するのは非常に難しい提案ではあるが、宇沢弘文先生がなされているような、「もっとも公平なのは国際的な環境税である」といった主張が、様々な分野で、どんどんと出ることが望ましい。

A君:出でよ、宇沢弘文先生のような世界に通用する経済学者、ですか。

C先生:技術の進展の方向についても、思想がまず欲しい。幸い、今年1年間主張してきた、新コタツ文明は、なかなか好評であった。先日行った早稲田大学大学院での講義でも、閉塞感の強い日本の将来の中に、一筋の可能性を見いだしてくれたように感じた。