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 COP16で味方を増やせ   12.05.2010
     



過去一週間の新たなこと:

 各紙で報道されていたが、ヒ素を食べる微生物の話は面白かった。NASAが予告していた発表に基づくものだが、宇宙人の存在を証明したという話だと思った人もいたようだが、実は、リンの変わりにヒ素を使う微生物が見つかったという話であった。

 ヒ素は毒物だから、これを食べるのは異常な生物だと結論するのは早計である。ある元素が毒物かどうか、など、それは生命の持っているメカニズム次第である。

 哺乳類をはじめとする現在の生物には、酸素が不可欠であるが、過去、酸素は、生物に対する最強の毒物でもあった。その時点で、すべての生命は嫌気性の生物だったからである。理由は、酸素が活性酸素になってDNAを破壊するからである。現時点でも、嫌気性の微生物にとって酸素は最強の毒物である。

 現在、地球上の多くの生物は、破壊されたDNAを修復する能力を備えて、酸素を活用しているのだ。なんといっても、酸素を使うと、速く動ける。これがその種にとって有利だからだ。

 この微生物が見つかったというモノ湖は、カリフォルニア州のヨセミテ国立公園の東出口の先にあるが、その風景は、すでに、このHPでご紹介済みである。ご覧下さい。
http://www.yasuienv.net/Yosemite2008.htm


 さて、本日の話題は、COP16である。

 先日、名古屋で行われた生物多様性条約のCOP10が閉幕したばかりであるが、メキシコのカンクンで、今度は気候変動枠組条約のCOP16が11月29日から開催されている。最終日は12月10日である。

 日本は例によって化石賞を獲得したようだ。それは、京都議定書の継続に反対したからのようである。

 しかし、日本の主張が的外れだとは思えない。正当性は、むしろ日本の方がある。EUや途上国の主張が、自己利益誘導型で、地球レベルのことに配慮をしていないのではないか、と思われる。



C先生:COP16の結論が、メキシコ時間で今週の金曜日にはでる。またまた最終の会議は開会も閉会も遅れるだろうから、日本では、土曜日の夕方頃になるのではないだろうか。
 このCOP16では、京都議定書の次の枠組に関して、何も決まらないことがほぼ確実という会議ではあるが、日本の将来にとって、極めて重要な会議だと思う。これが本日の話題。

A君:日本政府交渉団は、2012年まで続く京都議定書の単純な延長には断固反対し、米国・中国・インドを含む新しい国際的な枠組みの構築を目指すべきことを主張する方針のようですね。

B君:これまでの日本代表団は、なんとなく妥協的で、京都議定書という日本の地名を冠した議定書故に、なんとか合意をしたいと思っていた節があるだが、今回は、どうも根性が入っているようだ。

A君:すでに新聞・テレビなどで報道されていますが、中国を中心とした途上国は京都議定書の延長を要求し、EUはそれをある程度容認する立場であり、日本は孤立状況になる可能性が高いように思います。

C先生:しかし、どちらが地球レベルの話として正統的か、と言えば、日本のものではないか。
 日本の主張は、現在の京都議定書の枠組みでは、削減義務がある国からの二酸化炭素排出量は2008年の全世界の排出量294億トンの27%に過ぎないから効果がないという論理なのだが、まさにその通り。

A君:中国と米国が鍵。排出量が増加の一途である中国は、世界の22.3%、米国は第二位で19%と、この2ヶ国だけで41%を排出している。客観的に考えれば、日本の主張は極めて妥当なものだと言えのが確実ですね。

B君:しかし、国際交渉だからな。米中2ヶ国が排出量の削減義務を含む新しい枠組みに合意するとは思えない。

A君:オバマ大統領は先日の中間選挙の結果からみても、まず全く動けない。中国は、世界一の排出国であり、GDPも日本を抜いて世界2位にはなったけれど、人口が日本の10倍以上あることを考えると、一人当たりの所得にすれば、やっと日本の10分の1になったところ。
 一人当たりの二酸化炭素排出量も、日本の5分の1。経済発展をするには、どうしてもエネルギーが不可欠であるので、削減をすることは全く論外だという主張もある程度当然なんですね。

B君:中国は、省エネには極めて熱心だ。それは、エネルギー効率を高めることによって、少ないエネルギー供給量で、経済的な発展を目指したいからだ。

A君:石炭は一杯あるのも事実ですが、そのうちエネルギーが不足しそうなことは眼に見えるので。

B君:省エネには熱心なのだが、自国で投資を行って二酸化炭素排出量を削減することには不熱心とも言える。まあ、CDMの受け手としては中国がダントツだったので、その枠組を継続したいという意味で、京都議定書の枠組みがなくなると影響をもっとも受ける国ではある。

C先生:他の国はどうだろう。カナダは、日本と共闘できる可能性があると思える。1990年から2008年までに、カナダの温室効果ガス排出量は24%も増加しているからなんだが。ちなみに、日本はこの期間で1%増加だった。

A君:以前、日本と同様の主張をしていたオーストラリアはどうなんでしょうね。31%増とカナダよりも増加率は高いのですが、現在様子見状態のようです。
 現ギラード首相は労働党に所属していますから、同じく労働党所属の前首相ラッド氏が批准した京都議定書を遵守する方向かもしれないですね。排出量がこんなにも増えたのは、その前の自由党政権が悪かったためだ、自分たちの責任ではない、という主張をする可能性があります。

B君:オーストラリア政権だが、どうも環境関連については、信頼できなくなっている。それは、例のクジラの件だ。やはり、すべての国で、ポピュリズムが見られるのだが、オーストラリアのこの政権も、環境に関しては、実は、ポピュリズムなのではないか、と思うのだ。

A君:それならEUはポピュリズムでは無いのですかね。EUは、なぜ京都議定書を延長したいのでしょうか。

B君:EUは、選挙民との距離が遠いので、ポピュリズム的要素は少ない。
 いくつかの重要な要素があるが、一つは、折角構築したこれまでの枠組みが壊れることへの警戒感だろう。例えば、排出権取引だ。

A君:排出権では、EUは儲けたような儲けられなかったような。

B君:京都議定書期間内に日本の政府、企業が購入した排出権の総金額は公表していないのだが、恐らく、1兆円程度なのではないだろうかと思う。現在の予算総額に比べれば、結構巨額だ。
 それをどの国の誰が受け取ったのか。企業による市場を通しての取引であれば、相手は特定不可能だが、政府間の取引であれば、相手国と量はおおよそ分かっている。チェコ4000万トン、ウクライナ3000万トン、ラトビア150万トンのようだ。

A君:データを調べてみると、チェコは、1990年から2008年までに排出量を27.5%も減らしているのですが、それは削減努力によるものではなく、むしろ経済停滞が長く続いたためだと言われています。ウクライナの排出量も54%減であり、ラトビアも56%減です。

B君:日本との排出量取引による所得は、これらの国にとってまさに「棚からぼた餅」だったのではないだろうか。

A君:この資金はGISと呼ばれる枠組みで、受け取った国では環境対策に使うという約束だったようですが、チェコでは、緑の党関係者が、政治資金に使ってしまったという噂がありますね。

C先生:排出量取引と並んで、もう一つの京都メカニズムと言われるCDM(クリーン開発メカニズム=途上国で技術・資金援助などによってし削減した排出量の一定量を、支援した国の削減分とみなす)があったのだが、こちらにも、いくつかの問題点があった。

A君:そうですね。
(1)二酸化炭素ではなく、一酸化二窒素やFガスと呼ばれるガスが対象となった、本当の途上国が対象にならなかった。
(2)国連による審査が遅く、また、森林吸収源のような真の途上国向けの事業が認められにくかった。定量性が無かったからということのようです。
(3)そのため対象国はある程度工業化が進んでいるインド、中国、ブラジル、メキシコに集中した。

B君:このようにしてみると、京都議定書のメカニズムは、公平に見て、完璧からは程遠いものだったと思う。

A君:そうですよね。途上国がこの継続を主張する最大の理由は、コペンハーゲン合意を実施することになれば、自らもなんらかの目標を提出してしまったために、その実施を迫られるからだと思えるのです。

B君:要するに、自国は削減を回避、すべての日本などに押し付ける。

A君:ちなみにコペンハーゲン合意とは、2009年12月に開催されたCOP15がポスト京都議定書の枠組みの合意に失敗し、急遽首脳級の会合が行われまとめられたもので、各国が2020年までの自主的な削減努力を成約し、書面を提出することになったものです。

B君:中国も、GDPあたりという数値ではあるが、2005年比で40〜45%の削減をする意思を表明している。

A君:他の国の宣言ですが、オーストラリアは、2000年比で無条件に5%削減、他国の情勢によっては最大25%の削減を、またカナダは2005年比で17%の削減するとしています。

C先生:日本は、例の鳩山首相が行った国連演説の通りで、1990年比で条件付きながら25%という設定であり、EUとともに意欲的な目標だと言える。
 しかし、この25%は、国内のみの削減で実行するのか、すなわち、真水25%なのか、あるいは、一部を海外での削減を含むのか、その詳細はこれまで明らかでなかった。
 しかし、先日の新聞報道によれば、小林光環境省事務次官が、15%を国内でという発言をしたようだ。

B君:ということは、残り10%を国外で削減するということを意味する。

A君:こんなところで現状分析としますか。まもなく終わってしまうがCOP16で、そして、来年のCOP17に向けて、現時点から日本はどのような対応をすべきなのでしょうか。

C先生:一言でいえば、国際社会での理解者を増やす以外に無い。日本は決して理不尽な主張をしているわけではない。新成長戦略でも「日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガス削減量を13億トン以上とすること(日本全体の総排出量に相当)を目標とする」と述べている。

A君:実際にそのような動きがでるかどうか、現在の政治情勢からは疑問ではあるのですが、文字だけから言えば、相当格好が良いことを言っている。

B君:後で多少検討することになるのだが、国外で13億トン削減するなどというアイディアを出したのは誰なのだろう。

C先生:この13億トンの削減は、次にしても、10%分の削減を実現するには、なんらかの仕組みが不可欠だ。
 現時点で考えられている仕組みは、二ヶ国間での技術支援・技術移転による温室効果ガス削減努力を加速するような比較的自由な枠組みだと言える。すなわち、その基礎となるのは、すべてが厳密に決まっている京都議定書のような枠組みよりも、むしろコペンハーゲン合意ような柔軟な枠組みではないだろうか、という訳だ。

A君:10%を国外で、という定量的にしっかりしたものを実現するとなると、その相手国での削減量が、しっかりと測定可能で、報告がしっかり来て、そして、検証が可能でなければダメですね。

B君:その通り。その条件をMRVと呼んでいる。Measurable, Reportable, Verifiableの略。

A君:先進国側からの資金が提供された場合には、さすがの途上国もMRVが必要であることを認めています。

B君:EUに所属する先進国でも、チェコのようにGISの枠組みを無視してしまう国があったようなので、当然だ。

C先生:しかし、米国は、コペンハーゲン合意に基づく削減宣言についても、このMRVが必要不可欠だと主張している。
 それに頑強に反対しているのが、中国だ。

A君:中国は、GDPあたりの削減量を宣言しているのですが、そもそも統計データがどこまで信頼できるのか、ということが疑問。

B君:日本のような国に住んでいると、国の統計などが信じられないということが信じられない。

A君:最近、年金などでは信頼性が無いですが、統計は信頼されているのでしょうか。

B君:ん。それはそれとして、GDPは経済活動そのものなので、その内訳を出せということになると、色々と経済的不利益が生じると考えても不思議ではない。

C先生:10%分の国外での削減については、かなり明確な測定の枠組みを合意しないわけにはいかない。アジア諸国の一部は、日本からの提案に対応してくれるのではないだろうか。

A君:それでは、13億トンの削減の話に行きますか。
 これを実現するための民間ベースでの技術移転を日本政府が若干応援し、当然ビジネスとしても成り立つ形で実施する、といったことが必要ですね。

B君:確かに。これが必要条件だ。そしてかなり信頼性は低いのだが、全削減量をなんとか推計して、日本からの技術移転による貢献分として公表すれば良い。

C先生:さて、それには資金が必要なのだ。これをどうしよう。

A君:民間ベースは、多少行けるのではないですか。最近、ベトナムへの原子力の売り込みなども、排出量の削減の効果が大きいですね。

B君:それなりに費用が掛かることは事実だ。しかし、すでに省エネ技術が行き渡っている国内での削減に比較すれば、途上国のエネルギー効率はまだまだ改善の余地があり、しかも投資効率が高い。

A君:民間ベースで、というよりも、官民一体として、新幹線なども売り込めれば、これも排出量の削減になる。

B君:すべて民間ベースというのも寂しい。

A君:まあ、かつて日本は国際援助大国だった。

B君:その通り。かなり減少してしまったとは言っても、現時点でも日本のODAは世界第5位で、7000億円程度だ。だから、ODAも、省エネや自然エネルギー導入、さらには、森林の再生などとからめることによって、排出削減の支援と見なすことが可能になるだろうと思うのだ。

A君:JICAあたりがその気になるかどうか。

B君:JICAは、最近箱物援助から、教育的な援助にシフトしているのではないか。

A君:人材育成に低炭素社会の実現をからめることも必要不可欠ですよ。

B君:どんな金額になると言えるのか。

A君:まあ、良く分からないですが、二酸化炭素換算で1トンの削減に1000円程度掛かるとすれば、13億トンの削減には1兆3000億円掛かることになります。

B君:うーむ。まあ民間ベースとODAを活用することによって、全く不可能とは言えないだろう。

C先生:今後のエネルギー価格の変動を考慮すれば、いかなる国においても、省エネや自然エネルギーの技術の導入が、将来、必須になるとの理解はあるだろう。これを上手く活用することだろう

A君:となると、政府としても、新成長戦略に書き込んだ以上、具体的な検討を進める必要がありますね。当然のことながら、コペンハーゲン合意が次世代の枠組みになることを前提として、その検討を途上国と共同して始める。相手国を適切に選択すれば、COP16や来年のCOP17の場でも、さらには、その間でも、日本の主張に味方となる国々が増えることになるのでは。

C先生:現時点、経済産業省を中心に、そのような試みが行われているようだ。しかし、余り公表されていないように思うのだ。その意図と成果をもっと日本国内でも公表し、まずは日本国内に理解者を増やすことが必要だ。
 そして、海外に日本という国が地球レベルでの排出量削減と途上国支援の両立を目指す国であることを示し、味方となってくれる国を増やすことが重要な戦略だと思う。