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    気候変動防止国際交渉の予想 
  07.12.2014
             2015年3月末が一つの締め切り期限




 今年の夏から冬に掛けて心配な状況がいくつかある。
 まずは、エルニーニョが弱くなったようなので、今年の夏は猛暑かもしれない。この夏の電力不足が本当に心配になってきたこと。特に、気象災害と組み合わさると、最悪の結果も覚悟しなければならないかもしれない。
 もう一つは、気候変動防止に関わる国際的な枠組みに対して、日本が準備時間の不足に陥って悪い結果を生むのではないか、ということで、これも極めて心配。
 夏の電力不足の話は、情報不足から心配しているという話なので、残念ながら、記事が書けない。
 そこで、今回は、気候変動防止に関する国際交渉がどうなるか、その予想をしてみたい。

 参考資料は、経済産業省産業技術環境局からの審議会資料である。
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/sangyougijutsu/pdf/001_05_00.pdf

C先生:まずは、温室効果ガスの排出量の推移からいくか。

A君:これは、JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)の情報です。
http://www.jccca.org/chart/chart04_01.html



図1 1990年からの排出量の推移。

B君:1990年というものと基準年というものが両方でているが、1990年が基準年だったのでは。COしか入っていないのは変だが。

A君:1990年のデータにはないけれど、基準年用には、当然、フロン類が入っている。その違い。後は、日本は年度ベース、他の国は年ベースの違いがあるのでは。

C先生:実は、極めて細かいことだが、そうではないのだ。その説明は、国立環境研のこのページにある。
http://www-gio.nies.go.jp/faq/ans/outfaq3a-j.html
 要するに、基準年については、色々と細かいルールがある。HFC、PFC、SF6については、1995年の排出量を用いても良いとか、などなどだ。それらの基準に基づいて、日本政府は、2006年8月に、基準年の排出量を1,261,331,418トンとすると申告していている。なんと、最後の1トンまで明示していて、有効数字が10桁あるのだ。

A君:なるほど。そんな事情だったのですね。そのページを見ると、各年度の細かい排出量は、日本国温室効果ガスインベントリ報告書というものが正式のもので、このアドレスからダウンロードできます。
http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html

B君:京都議定書マイナス6%の第一約束期間の実績について、若干説明を。

A君:このあたりの状況が、経産省の審議会資料のp4にあるもので、こんな図になります。



図2 京都議定書のマイナス6%達成状況

B君:この図は分かりやすい。2008年から2012年の排出量を先ほどの基準年における排出量からマイナス6%した値にすることが義務だった。5年間なので、59.27億トンがターゲット。紫ピンクの線がそれ。
 実際の排出量は、63.93億トンだったが、これから森林吸収分というある種のプレゼント3.9%分=2.45億トンを減らしてもまだ目標にはとどかない。日本政府が海外から購入したクレジットが0.9749億トン分あったので、それを償却しても、まだ目標には届かなかった。最後に、電事連が購入したクレジットが2730億トン分あったので、これを償却すると、57.77億トンを排出した勘定になって、目標値である59.27億トンを1.5億トンほど下回って、目的達成したということになった。6%削減するという目標に対して、8.4%の削減を実現したことになった。

B君:ところで、政府が持っていたクレジットが0.9749億トンあったというけれど、この取得のための購入費はいくら掛かったのだろうか。

A君:このページの記述が正しいのではないですか。
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/credit/mat.pdf
それによれば、平成18年から平成24年度の予算で、それぞれ、49億、122億,303億、429億、424億、159億、76億円の予算措置があったようで。合計金額は、1562億円。

B君:ということは、1トンあたり、1601円。チェコから4000万トンを500億円のホットエアを買う(2009年度と2010年度)ということを、
http://www.yasuienv.net/ETradeTokyo.htm
で記述しているけれど、これが1250円/トン。もともとの情報源は、
http://jp.reuters.com/article/jpEnvtNews/idJPJAPAN-37154020090325
だった。

A君:最初のころは、排出権がかなり高かったのですよね。最後の最後に買えば、もっと安かったかもしれないですが。例えば、
http://www.dir.co.jp/research/report/esg/esg-report/20130823_007598.pdf
によれば、EUAの価格は、2012年8月から10月ぐらいまでは、9ユーロぐらい。それから徐々に低下して、2013年には4ユーロ代になって、それからまずまず横ばいだったらしいです。

B君:電事連の購入金額もほぼ同一金額だろうね。

A君:まあそうなのでしょう。

B君:さて、排出量の話に戻るけど、さきほどの図2に2005年の排出量の数値が出ている。これが基準になって、日本の2020年の自主目標として、マイナス3.5%を提出した。もしも、2005年レベルの排出量が第一目標期間の5年間継続したら、京都議定書の目標の達成など、程遠い話だった。ところが、2008年に発生したリーマンショックによって、世界の景気ががたがたになって、2009年、2010年の排出量が相当に下がったもので、なんとか達成できたというのが本当のところ。

A君:その通りで、景気が回復すると、どうしても温室効果ガスの発生量が増えてしまう産業構造・社会構造になっているということです。

B君:もっとも、現時点では、製造業がかなり海外に移転してしまった。今後、さらに海外移転が進むとしたら、産業構造ではなく、国内の消費構造によって、排出量が増えるという説明になるのだろう。例えば、大型の自家用車が増える、消費が拡大するのでモノの輸送が増えるとか。

A君:次に行きます。京都議定書の第二約束期間の状況について説明します。日本は自主的に目標を設定しましたが、東日本大震災からの復興を優先するとして、第二約束期間には参加していません。

B君:各国の状況説明が次の図で、1997年の京都議定書の採択時と2010年の排出量シェアを比較してみると、結果的に米国は批准しなかったのだが、採択時には、世界の59%の排出量がカバーされていた。それに対して、第二約束期間に参加して排出削減義務を持っている国からの排出量がわずか15.6%になっている。そのうち、EUが12.1%を占めている。



図3 京都議定書採択時と2010年での排出量のシェアを比較


A君:日本の排出量も、1997年には、世界の5%と言われていたものが、今や4%を切るようになった。それもこれも、中国、インド、など途上国からの排出量が増大したことが原因。

B君:ということで、2020年以降の枠組みは、すべての国の参加による対策の実施を早急に緊急に加速強化する必要性が確認された。これをカンクン合意と呼ぶ。カンクンは、メキシコの大西洋側にあるリゾート地。

A君:ちなみに、1990年の世界全体でのCO2排出量は、203億トンだった。しかし、2011年にはそれが300億トンになり、2035年には、357億トンになると予想されています。

B君:IPCCのAR5・WG1の排出シナリオだと、RCP4.5とRCP6.0がその程度の排出量に相当している。ということは、もしも2035年時点から減少に向かえば、2.5℃上昇ぐらいのシナリオで、もし、その後も直線的に増加するようなら、4℃シナリオだということになる。

A君:4℃シナリオは、気候変動の許容限界を超していると思いますね。ということは、2030年以降の目標値として、真剣に考えるのであれば、各国ともかなりハイレベルの削減シナリオを提案してくるのではないか、と思うのですが。

C先生:そうなのだ。日本は、東日本大震災を言い訳にして、考えてこなかった。2020年までの目標は、世界的にまあ勘弁してやろうということだったけれど、2020年以降の目標になると、これは厳しく見られてしまう。

B君:それなら、まずは、2020年の削減目標の比較から示しますかね。



図4 2020年の削減目標:主要国の比較

A君:日本の目標値は、2050年比でマイナス3.8%とかなり控え目の値になっているように見えるのですが、先に議論したように、この目標の実現すら危ういのです。2012年度は、かなり省エネマインドがまだまだ強かった年ですが、その年でもマイナス0.5%にしかなっていないのです。

B君:その後、アベノミクスで景気が回復し、さらに、東京オリンピックが決まり、もちろん継続している東北復興での大量のセメントの使用や土木工事。

A君:なかなか厳しい状況ですね。

B君:米国は、2020年の自主目標を2005年比でマイナス17%と言っていたのですが、こちらもどうも無理では。自国産の化石燃料、主としてシェール・ガス関係でエネルギー自給が可能になりつつあって、中東からのエネルギーの輸入に配慮する必要がなくなった。そのため、エネルギー・セキュリティー上重要だとされてきた原発を昔ほど重視していないようにも見える。廃棄物もワンスルーを重視しているのではないか。勿論、公式発言では、政策は変わらないとしているけれど。

A君:米国は、国土が広いですから、原発の回りに空間を確保することも可能だし、使用済み核燃料の一時保管にしても、スペースの確保という意味から言えば、簡単。もともと、地震があるのは、西海岸などごく限られた場所だけなので、この面でも日本の状況とは比較にならない。

B君:それにしても、数値目標を決めても、状況がどんどん変わってしまうというのが、エネルギーと温室効果ガスの世界。

A君:ここあたりから今後の交渉の進捗予定と予想の本論です。2020年から先の排出量の削減量をどうやって決めるのか、と言えば、まず、2020年からの枠組みは、すべての国が参加する法的な枠組みを作ることが目的であることをCOP19で再確認していて、そのため、各国が自主的に約束草案(intended nationally determined contributions)を提出することになっていますね。

B君:となると、本当の話、どうやって合意をするのだろうか。勝手に出したら、それで終わり??

A君:各国が約束草案を提出した後の協議プロセスについては、具体化が進んでいないようです。

B君:ということは、最終的にはどのような約束草案であろうと、認めざるをえない状況になるのではないだろうか。

A君:普通考えればそうなるのですが、そこで、なんらかの圧力を加えることがあり得るか、です。例えば、被害が明らかに起きるであろう島嶼諸国が、低めの約束草案を出した国を声を揃えて非難する。それを他の途上国が支援をする。それに同調して、EUと英国は高い目標を出すと思われていますが、そこが、なんらかの発言をする。そして、低い目標値の国の国際交渉力が落ちる。

B君:どのぐらい国際交渉力が落ちるか、となると、なんとも難しいけれど、どちらかというと、譲るという国際交渉が基本だった日本のような国は、かなり難しい交渉をすることになりそうだ。後述する武器、JCMが有効に作用すれば話は別。

A君:そして、問題は、その約束草案の提出期限ですが、交渉期限は当然COP21で、2015年の12月にパリで開催されるときなのですが、2015年の第一四半期までに約束草案を出すことを「招請」されている。

B君:招請の英語は? 

A君:どうやらこれですか。
all Parties should initiate or intensify domestic preparations for their intended nationally determined contributions, and communicate them well in advance of COP21.....

B君:まあ、shouldということか。shallではないので、「招請」と訳されているのだろう。

A君:今年の9月23日には、バン・キムン国連事務総長が「気候変動に関する首脳会議(気候サミット)をニューヨークで開催することを決めた。これは国連総会の前日に行われるもので、UNFCCCのための交渉であるCOPから独立した位置づけになっている。次の図に、2015年末までの主要スケジュールを示します。



図5 2015年末までの主要スケジュール

B君:バン・キムン氏が事務総長なのだから、韓国がすごく頑張るということを表明すると、若干、インパクトがあるかもしれない。しかし、あり得ないような気もする。

A君:その後、10月8日には、ICEF(Innovation for Cool Earth Forum、安倍首相の主導による気候変動防止のイノベーションをための国際フォーラム)が、椿山荘で開催されます。
http://www.icef-forum.org/

B君:そして、IPCCが10月27日に第5次統合報告書を発表予定、12月1日〜12日に、チリのリマでCOP20が開催されるという予定になっている。

A君:それで、EUなどはどう動くのか。2030年の目標として、1990年比でマイナス40%とすることを提案したけれど、チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキアは、域内の負担配分を早く決めるべきこと、低所得国が目標達成のために必要となる負担を補償すべきことを主張。

B君:まあ当然だ。再生可能エネルギーの導入量が問題になるけれど、EU全体で27%とするけれど、各国には割り振らないという方針らしい。

A君:再生可能エネルギーの導入量を27%にしたとして、まだ、CCSは導入しないだろうから、その他の方策は、省エネか燃料転換。ドイツが脱原発をしながら、どのぐらいの数値を言うのか、言わないのか。これはなかなかの見ものですね。

B君:米国はどうなっていくだろうか。まずは、2014年の11月に米国議会の中間選挙があって、ここでの結果が大きなターニングポイントになるかもしれない。どちらかに大きく振れると、次の大統領を決めてしまいそう。

A君:米国EPAは、米国内での火力発電部門からのCO排出量を2030年までに2005年比で30%削減するというClean Power Planを公表しましたが、これが本当に実施できるかどうか。

B君:米国の場合に怖いのは、というか、しばしば起きることなのだけれど、大統領は高い目標を掲げることでCOPを乗り切る。しかし、議会がそれを承認しなければ、京都議定書のように、現実には何も起きない。

A君:そんなメカニズムを最初から有効活用する意図も絶対に無いとは言えない。

B君:中国は、環境政策の優先順位を上げてはいる。しかし、大気汚染との関係がむしろ政治的に重大なのではないか。それによって、石炭の消費レベルを大幅に下げるという方針を示すかも知れないけど、あり得ないような気もする。

A君:まあ、大気汚染は重要政策課題ですけど、温暖化ガス削減となると、中国でも、最後には党が反対して、否決されるということがあり得るのかもしれない。EUだって、28ヶ国の集まりなので、ある国の政府が無視をするという可能性も皆無ではない。

B君:一方、日本の場合には、そんなメカニズムは無いので、政府が言ったら、その通り決まる。

A君:こんな厳しい状況で、日本が持っている交渉の武器は、となると、JCM=二国間オフセット・クレジット制度。官民合わせた途上国支援で2013年から3年間で1兆6000億円。

B君:日本の強みを持つ技術を途上国で活用して、その貢献分を日本の寄与として認めてもらう。例えば、石炭火力、天然ガスなどの高効率発電技術、自動車技術、デバイス技術、断熱技術などなど。

A君:現在のところ、モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジアとJCMに関する二国間文書に署名が終わっています。今後、あと4ヶ国程度を増加することを目指して、COPでの味方になってもらうという方針のようです。

B君:まあ、他の国々が何と言うかが問題で、それには、日本からの技術的な貢献を、測定・報告・検証(MRV)の方法論を適用し、定量的に適切に評価できるかどうか。このMRVの方法論が認められるかどうか、それが大きなポイントになるだろう。

A君:これが実現すれば、その途中のプロセスで、途上国での人材育成への貢献にもなるし、非常に良い試みだと思うのだけれど、果たして、世界の国々が、素直にそれを認めてくれるかどうか。特に、中国・韓国が何を言うかなどが心配なところで、日本の交渉力が試されるという感じでしょうか。

C先生:まあ、こんなところだろうが、国際交渉というものは、なかなか難しい。正しいこと、良いことなどを提案しても、それがその通りに認められるかどうか、いつでも裏を読む必要がある。特に、最近の東アジア情勢は、そう簡単ではないので。