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    各国のエネルギー・CO2事情 
  11.02.2014
               米大陸編:2020年以降の枠組み予想




 先週の記事に書きましたが、やっと2020年以降の温室効果ガス排出削減への対応を検討する合同専門家会議が動き出しました。

 そして、EUは早くも1990年比で2030年までに40%の削減を合意したようです。そのために、27%を再生可能エネルギーに、エネルギー効率の向上も27%という目標値も示されました。

 EUの次にこのような草案を提出する国はどこなのでしょうか。来年12月にパリで行われるCOP21で新たな枠組みが採択されるので、各国は自らの削減計画草案をできるだけ早く提出することが求められています。可能な国は来年の3月末という望ましい期限もあるようです。

 日本政府の対応は、9月23日にニューヨークの国連本部で行われた「気候サミット」での安倍総理の演説で概要が述べられています。第一次安倍内閣のとき(2007年)に述べられた「クールアース」が基本で、3つの方針が柱となっています。

(1)途上国支援:今後3年間で、気候変動分野で14,000人の人材育成を行う。「適応イニシアティブ」を立ち上げ、第三回国連防災会議への協力を訴える。
(2)技術革新と普及:「Innovation for Cool Earth Forum」の第一回会合を開催する。省エネルギーの国際的なハブを東京に設置。二国間クレジット制度(JCM)を着実に実施。衛生を打ち上げ、温室効果ガス排出量データを世界規模で相互活用。
(3)国際的枠組み:COP19の決定を踏まえ、約束草案をできるだけ早期に提出することを目指す。緑の気候基金(GCF)については、その受入れ体制など必要な環境が整った際に、応分の貢献をするべく検討。


 さて、EUはすでに走りだした。各国の対応はどうなるのだろうかを検討してみたいと思います。



C先生:まずは、気候サミットで、EU以外の国が何を言ったのか。そして、それぞれの国のエネルギー事情と温室効果ガス排出事情はどうなっているのか、それを明らかにすべく検討してみたい。

A君:国連気候サミットでの約束草案に関する各国の発言ですが、米国、ロシア、中国、オーストラリアは発言しているのですが、カナダ、インドは何も表明していないようです。

C先生:まず、米大陸の各国のエネルギー事情を検討し、それぞれの国が考えなければならない状況を推量する。そして、約束がどのような方向になるかを検討してみよう。米大陸が終わったら、アジアを取り上げよう。

A君:了解。それでは、先週の記事でヨーロッパについて示したものと同じまとめですが、まずは、米大陸について次の表を示します。


表1 米大陸でのエネルギー事情

B君:米大陸のエネルギー事情を見て、すぐに分かることは、前回のヨーロッパ、それに、次の表に出てくるアジアと比較すると、エネルギーの自給率がかなり高いということ。この表では、アメリカの自給率が81%になっているけれど、最近のシェールガスの開発によって、100%自給は当然として、輸出もできるような状況に近づいている。

A君:米国がエネルギーを100%自給できるようになることは確実で、これが、オバマ大統領が中東における軍事行動を抑える方向になっていることを深く関係していますね。

B君:米国は、エネルギー安全保障を極めて重要な問題として考えてきた国なので、自給ができるという状況になったということは、極めて大きな変化なのだ。財政的な限界がかなり厳しいので、これを契機として、世界全体を考える米国から、自分のことだけを考える米国に変化する可能性が高い。

A君:カナダは、気候サミットでもダンマリを通したようですが、もともと資源国。しかし、カナダの資源は、オイルサンドのような採掘費用が高いものが多かった。採掘費用とは、石油を得るために必要なエネルギー量も多いということを意味するので、京都議定書の第一約束期間であった2008〜2012年の削減目標値が7%であったのですが、実際には、30%プラスぐらいになってしまって、最終的には離脱。目標を放棄した形になりました。

B君:カナダは、一人あたりの一次エネルギー供給量も一人あたりのCO2排出量も米国とそれほど違わないのに、単位GDPあたりのエネルギー投入量が多い。

A君:米国のエネルギー効率は、というと低い国という理解が一般的なのですが、それは、世界全体を見た時にはそうなのですが、米大陸の諸国と比較すると、最良の国なのですね。結構、驚きです。

B君:それもある意味で当たり前で、米国には、未だに製鉄も若干はあるけれど、製造業としては、飛行機、自動車などの高付加価値産業が中心。さらに、ICT関係だって、アップルのように自分で製造している訳ではない。
 一方、カナダは、GDP(PPP)が4万ドルを超す国なので、エネルギー消費量も多くなる。エネルギー消費量がさらに多くなる重要な要素である(1)寒い国、(2)大きな国、(3)エネルギー輸出国という3つ要素をすべて満たすので、こうなるのも当然。

A君:アメリカはかなり意欲的な目標値を提案してくるという観測が流れているのですが、どうでしょう。

B君:11月4日に行われる中間選挙で、民主党は負けると言われている。上下両院とも、共和党が多数派になる。共和党は、気候変動対策に反対というよりも、未だに、温暖化懐疑論の塊のような政治勢力なので、いくらオバマ大統領が先進的な削減策を発表したとしても、ほんとんど実施されないのではないか、と懸念している。

A君:それって、京都議定書ができた1997年のときに、ゴア副大統領が日本を説得してマイナス6%を飲ませたけれど、そのとき米国の戦略は、7%削減を京都では飲んで、その後、批准しない可能性が非常に高いということを、ゴア氏は分かっていたのだと言われていますね。その流れを結局覆せなかった。

B君:カナダにしても、京都議定書で7%を飲んで、しかも、正直に批准してみたけれど、エネルギー事情が大きく変わって、オイルサンドが産業化するとは思っていなかった。

A君:今回、カナダも、さすがに、アメリカが出してくる案と現実に2020年以降に取るであろう対策のギャップをしっかり見極めて来るでしょう。

B君:そうなるだろう。なぜなら、中間選挙では、気候変動政策については、オバマを支持しないということを表明している民主党の候補者もいるようだし。

A君:共和党系の茶会派Tea Partyは、自分の利益しか考えない集団。とても地球全体のことを考えるとは思えない。そもそも共和党系の温暖化懐疑論者の論理というものが、すごいです。『神は地球を創造し、その上に人類を創造した。万能である神は、自らの創造物である人類が何をやっても、地球が破壊されるような創り方をしてはいない。したがって、地球温暖化は仮説であって実際には起きない』。まあ、キリスト教原理主義ですね。一方、日本のビジネスマンで気候変動を信じない人は、単なる無知+科学音痴なだけですが。

B君:こんな共和党が中間選挙で大きく勝利するということは、民主党によって景気が悪くなったとか、医療保険制度改革などが気に入らないという単純な理由が本音の主なものだろうけど、理由はとにかくとして、敗北すると、オバマがレームダック(元の意味は、足の悪いアヒル:死に体)になるのは同じ。

A君:結論としては、米国は非常に意欲的な案を作ってくるけれど、世界全体は、特に、前回痛い目を見たカナダは、「それを信用しない」、という結論で良いでしょうか。

C先生:アメリカ、カナダの関係はそんなもので良いのではないか。それ以外の国を見ると、エネルギー自給率が高い。しかし、チリが例外で、エネルギー自給率が28%しかない現状の日本の5倍ぐらいはあるけれど。チリは、地震とか津波で、日本との類似性の高い国だ。このような災害が起きる地形の国は、エネルギー資源がない。

A君:チリは、地下資源の国ですが、エネルギー自給率がこれほど低かったのは、知りませんでしたね。といっても、日本の状況に比べれば、まだまし。

B君:チリは、国が南北に長い。まあ、日本も長い。稚内から佐多岬を車で走ると2800kmぐらい。チリは、なんと5000kmもある。すなわち、熱帯からもうちょっとで南極圏という長さ。面積も日本の2倍もあるのに、人口は1760万ぐらいと少ない。銅などの鉱業、農水産業、食品加工、木材加工で生きている国。エネルギー自給率は低いけれど、自然エネルギーの可能性は高い。現在、電力の32%を水力が占めているが、まだまだいくらでもありそう。しかし、長い長い送電線を作るのに、相当のお金が掛かりそうだ。

A君:原油の輸入が多いのですが、中東ではなく、ブラジル、コロンビア、エクアドルからの輸入が主のようです。
 将来、電力の輸出を考えているのか、アンデス諸国間の送電網連結を課題にしています。

B君:チリの例を除くと、ほぼエネルギー自給率がまずまずというのが南アメリカの大体の状況。ということは、石油などの消費が減る可能のある温室効果ガスの排出規制につながる枠組みに対しては、基本的に反対と見て良いのではないか。

A君:中でも、ベネズエラは、石油資源が非常に豊富に残っている国なので、温室効果ガス削減には、反対だろう。

B君:エネルギー自給率が100%を切っているブラジルだけれど、海底油田の開発を進めようとしている。それに、やはり水力が豊富で、電力の75%以上が水力。それに、サトウキビを原料とするバイオエタノールが車の燃料になっている。この国は、本当は、再生可能エネルギーだけでやれる国だとは思うけれど、原子力が少しある。しかし、新設に関しては、福島の事故を受けて、見直すようだ。いずれにしても、エネルギーの輸出を考えると、可採埋蔵量があるとはいっても、20年程度なので、自国内での消費量を下げるのが賢い選択だ。そのため、エネルギー効率は高めることは効果的だと考える可能性がある。

A君:となると、ブラジルは、比較的意欲的な案を持ってくる可能性があって、その替りとして、先進国からの支援を強力に主張する可能性がある。

B君:日本としては、支援の実体がブラジル産のバイオエタノールを買うのであれば、まあまあなのかもしれない。

A君:もう一つの大国がメキシコ。このところ、自動車の生産などで結構産業活力がある。この国もエネルギー自給率が100を超している。しかし、石油・天然ガスについては、可採埋蔵量が多くはない。石油が10年、天然ガスはそれより短い。

B君:そのため、現在でもちょっとだけ存在している原子力を増やしたいと考えているようだ。同時に、再生可能エネルギーの増加も政策の一部になっている。しかし、水力のポテンシャルはほとんど無いので、風力と太陽光が主たるものになると考えている。

A君:このような状況の国であれば、実際には、ほぼ先進国への境界線を超えた国であっても、さらなる支援を求めてくる可能性がある。そして、実は、日本が現時点で進めている二国間クレジット制度JCMの12ヶ国の調印国の一つがメキシコ。実は、米大陸にもう一つあって、それがコスタリカ。

B君:メキシコは、工業国としての成立ちを追求して、米大陸の中国を目指すのではないか、と考えられるので、日本からの技術支援が魅力的なのだろう。メキシコを支援することは良い方向性を見出す可能性が大きいと思う。

A君:一方、コスタリカはエネルギー関連のデータが無いのですね。せめて、GDP(PPP)ぐらいは示さないと。世界79位で、14344ドル。世界平均とほぼ同じ。アジアだとタイのすぐ上。

B君:コスタリカは、もともとは、農業、特に、コーヒーやバナナなどが中心であったが、1998年にインテルがマイクロプロセッサの製造工場を投資したことから、外国企業の進出が相次いだ。その他、エコツーリズムで有名な国である。

A君:となると、日本の省エネ技術を米大陸に広める国として、メキシコとコスタリカの2ヶ国が現時点であることになりますね。

B君:JCMは現在、次の十二カ国なのだ。モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ。
 そして、工業国になりうるという点から言えば、メキシコ、コスタリカ、ベトナムぐらいなので、日本流の省エネ技術を米大陸に広める役割を果たしてくれるのが、当面、メキシコ、コスタリカということになるか。

A君:メキシコと行った経産省とNEDOのフィージビリティースタディーが、CCSだったようですよ。

B君:ということは、メキシコの産油地付近で、CCSをやって、それによる削減量の一部をクレジットにするという考え方なのか。

A君:あれ、チリともJCMフィージビリティースタディーをやっていますね。項目は、「発電効率の向上」ですが。ということは、何か燃料が必要。チリだと自給率が低い国なので、輸入の石炭と天然ガスによる火力発電でしょうか。

B君:本当のところは、水力発電あたりをやるのが良いように思うけど。水力だと、ダムを建設することはやりたくない感じもある。MRVとの整合性もどうやるのだろう。

A君:JCMの絶対的な条件が、MRV。すなわち、Measurement、Reporting、Verficationなので、日本の貢献によって、これまでよりも新しい技術を導入した直接的効果が測定できて、報告し、検証されたものだけが、クレジットになるので。

B君:いずれにしても、コスタリカでは、これからどの技術分野でJCMが進行するのか、余り明確にはなっていないということ。

A君:いやいや調べたら出てきました。コスタリカとやるJCMは、電気自動車をタクシーに使うというプロジェクト。

B君:コスタリカは九州と四国を合わせたぐらいの面積の国なので、タクシーを電気自動車にするのもありかもしれない。

A君:本当のことを言えば、バッテリーを機械的に積み替えることができるタイプのタイクシー専用車を開発して、コスタリカあたりで実証実験するのが良いと思うのですが。

B君:リチウムバッテリーを作っている側に聞けば、そのような乱暴な取扱をされたくない、と言われるのが現状かもしれない。

A君:なるほど。しかし、なにはともあれ、コスタリカは、なんとなく信頼できる国ですね。

C先生:エコツアーだけではなくて、元大統領のオスカル・アリアス・サンチェス博士がノーベル平和賞を受賞していたり、常備軍を禁止した憲法を持っていたで、中米ではもっとも安定している国なのかもしれない。平和賞授与の理由は、中米和平合意成立の功績だとされているけれど。

A君:コスタリカは、サッカーのワールドカップ2014では、衝撃的な活躍だったですね。予選をトップで通過して、ギリシャを破り、準々決勝は、PK戦でオランダに負けましたが。

B君:たった人口が480万人しかない国なのに、なぜサッカーが強いのか、非常に不思議。

A君:これで、米大陸のカバーが大体終わりました。全く話に出てこなかった国がいくつかありますが。

C先生:まあ、仕方がない。さて、結論をどうまとめるか。
 ヨーロッパのような極めてタイトな規制的色彩の強い草案が米大陸の諸国から出てくることは考えにくい米国はかなり厳しい先進的な案を出してくる可能性が無いとは言えないが、11月4日の中間選挙の結果、オバマ大統領がレームダック状態になる確率がかなり高いので、いくら厳しい草案を出しても、世界的な信頼を得ることは難しいだろう。
 他の国々は、かなりエネルギー自給率が高い国なので、特に、エネルギーの輸出国にとっては、余り厳しい案を出すことは経済的な理由からあり得ない。
 結論として、米大陸から厳しい削減のメッセージがでるとは思いにくい。そこで、もう一度、EUの削減草案を再点検しよう。

A君:EUの数字が余りにもショッキングだったので、先週発表されたEUの数字をもう一度検討してみるにしました。40%削減という目標は、一見すると、かなり無茶とも言える数字だと思れます。しかし、先週の図2(下に再掲する図1)をじっくりみると、英国では、1990年の一人あたりの排出量で14t−CO2/人が2005年に11トンぐらいまで低下。この間、22%削減。その後、2013年までに9トンぐらいまで低下。これが18%低下しているのです。1990年〜2013年の通しだと、35%ぐらいの削減に相当しています。だから、これから5%減らせば、40%が達成できるという勘定になって、目標をみても、すでにかなりできているということで、全く不可能な数値ではないとの印象でした。



図1 各国の温室効果ガス排出量 単位は一人あたりのt-CO2Eq.

B君:日本の状況をチェックしてみると、実は、1990年から、2013年の間で、排出量が全く減っていないどころか、増えているのだ。この事実も、日本国民に全く認識されていないものと思う。

C先生:EU全体でどうか、とかんがえると、EUには多種多様な国が混じっている。EU28ヶ国には、2013年に加盟したクロアチア、2007年に加盟したブルガリアとルーマニア、2004年に加盟したチェコ、ポーランド、キプロスなどの10ヶ国を含む。これらの国は、まだ経済発展過程にあるから、という理由もあって、エネルギー使用量が増える可能性と、エネルギー効率が低いから改善可能という両面があるが、恐らく、自然体では、それほど削減することはできないだろうと思える。しかし、EU28ヶ国でみても、2008年ぐらいから、排出量が下がっている

A君:いずれにしても、米大陸の国々は、そのようなことにはならない。ただし、米国のデータを見ると、明らかに2007年ぐらいから排出量が急激に下がっています。だからといって、この傾向を今後10年に渡って継続するのは不可能でしょう。米国は、コスト面の問題があって、恐らく、原発の新設をしないでしょうから。

B君:カナダは、現時点で1990年程度まで排出量が戻ったので、2005年を基準として、25%削減ぐらいは言ってくるかもしれない。2030年までだと、まだ15年あるので。

A君:製造業が増えることを目指している国は、例えば、メキシコは、まだ途上国であることを理由にして、GDPあたりの排出量を下げるという言い方になるのではないですか。

C先生:ブラジルなどは、いずれにしても、先進国の出資を求めてくることは確実。さて、日本はJCMを通じて、出資をすることが大方針になっている。JCMの調印国がどこまで増えるか。その実績をどのように表現して、日本の目標を書くか、これは相当に高度な検討を行って、高精度で各国の状況を解析することが必要だ。なかなか難しい作業になりそうだ。