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      COP21は何を決定するか?     08.02.2015
                    




 しばらくの間、エネルギーとか気候変動とかいった話題から若干の距離を置きたくなって、このところ循環とかギリシャ問題とか、他の問題を取り扱ってきました。

 しかし、7月17日に日本の約束草案(INDC)がUNFCCCに提出されました。現時点で22ヶ国(EUを含む)からのINDCを読むことができます。
http://www4.unfccc.int/submissions/indc/Submission%20Pages/submissions.aspx

 主要国としての先進国としては、オーストラリアを残す程度。その他の重要国としては、インド、インドネシア、ブラジルやサウジなどの産油国が未提出です。

 さて、これらの約束草案を元にして、11月末からパリで開催されるCOP21では、何が議論されるのでしょうか。そろそろ、そのための準備をして置かなければ、ということで、本日は、その話題に戻ります。



C先生:しばらく、距離を置いてきたエネルギー・気候変動の話題に戻らないとならない情勢のようだ。それも、7月17日に日本の約束草案がUNFCCC(国連気候変動枠組条約)の事務局に提出されたからだ。
 いくつかの情勢の変化もあったので、予備的な議論を、少々、やってみたい。

A君:そうですね。まずは、INDCの提出状況から行きますか。
 8月2日現在で、最後に提出されたのが、7月29日のモナコです。これが22番目になります。22番目というと少ないようですが、EUが1つにまとまっているために、大体50ヶ国が提出したという計算になりますか。

B君:重要な国で残っているのは、アジアだと上述のインド、インドネシアなどの他に、排出量の規模としては小さいが、気候変動の被害を受けそうな国々、例えば、バングラデシュとか、他に、島嶼諸国とかがどのような記述を含むINDCを出してくるのだろうか、注目しておくことが必要。

A君:今回は、個別の国のINDCを議論する前に、そもそも、COP21で何が議論されるか、といった事実の確認と、最終的に何を結論とするだろうか、をチェックして見ることになるのでしょうか。

C先生:まあ、現時点では、そんな理解で進めよう。取り敢えず、最初の入り口としては、先日、ドイツで行われたエルマウ・サミットでの議論からやるか。

A君:はい。しかし、その前に、COP21でどのような議論をやるか、について、公的な機関の文書などを参考に確認だけしておきたいと思います。

B君:まずは、若干の歴史的な記述をしようか。2020年までの枠組みは、ご存知のように2008年から2012年までの第一約束期間を決めた京都でのCOP3の枠組みだった。そして、2020年までの枠組みは、各国がこの期間の削減目標・行動を掲げ、それに対する取り組みに国際的なレビューと分析を行うことになっていた。しかし、日本は、一部の先進国のみが削減義務を負う第一約束期間の枠組みを固定化するような第二約束期間の設定は受け入れられない、と表明した。

A君:実際のところ、2011年3月の東日本大震災によって、日本におけるエネルギー供給構造が全く変わってしまったから、第二約束期間で強制的な目標値があったとしても、困っただけでしょうね。

B君:そして、実際のところ、第二約束期間は強制力の無い枠組みになった。

A君:日本が実は削減目標を持っているということを知らない人が多いでしょうね。

B君:2020年までの削減目標は、実は、しっかり有るのだ。COP19(ワルシャワ2013年)に向けた温室効果ガス削減目標について、という文書があって、
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai27/siryou1_1.pdf
2020年における排出量は、2005年比で3.8%減とする」、と記述されているが、ほとんど誰も気にしていない。少なくとも、メディアに取り上げられることはないものだった。

A君:東日本大震災のためもあって、それどころではない、という感触が、社会全体として非常に強かったですね。

B君:ということもあって、日本全体での地球温暖化・気候変動に対する関心も、大きく低下していた、と言える。しかし、残念なことに、気候変動はフィクションではないので、ターニングポイントが遅れれば遅れるほど、将来世代に対する被害が大きなものになってしまう。

A君:最近、地球温暖化・気候変動がフィクションだ、という発言をほとんど聞かないのですが、それは、さすがに武田邦彦氏でも、今、そのような本をいくら書いても、誰も買わないからでしょうね。

B君:一方で、IPCCのAR5が公表され、社会の一部では、大変な時代になることが定量的に明らかになった。とは言っても、未来を見る人がどんどんと減っている現状では、インパクトはかなり低いものだった。

C先生:さて、そんなところで、エルマウ・サミットの結論などに行こう。

A君:了解。エルマウ・サミットは、2015年6月7日から8日の2日間、ドイツのメルケル首相がホストになって、開催されました。
 出席者は、独:メルケル首相、伊:レンツィ首相、加:ハーパー首相、仏:オランド大統領、米:オバマ大統領,英:キャメロン首相、EU:トゥスク欧州理事会議長及びユンカー欧州委員会委員長、そして、日本からは,当然、安倍総理。

B君:今回、ロシアは不参加。G7だった。そして、議題は、
6月7日(日曜日)
セッション1:世界経済,成長,G7の価値観
セッション2:貿易,サプライ・チェーンにおける基準
ワーキング・ディナー:外交政策
6月8日(月曜日)
セッション3:気候変動,エネルギー
セッション4:テロ(アウトリーチ)
ワーキング・ランチ:開発,女性,保健,アフリカ(アウトリーチ)

A君:エルマウという街は、オーストリアにもありますが、このエルマウサミットが行われたのは、Schloss Elmau、すなわち、エルマウ城という名称の高級リゾートだったようでして、それはドイツにあります。

B君:ドイツのエルマウはElmauでオーストリーのエルマウはEllmauでスペルが違うようだ。

A君:そうか、スペルが違うのだ。気付かなかった。

B君:さてさて、「気候変動、エネルギー、環境」という議題で語られたことは、外務省によって以下のようにまとめられている。仮訳とのこと。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000084024.pdf

気候変動

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第 5 次評価報告書において示されたように,気候変動に対処するために,緊急かつ具体的な行動が必要である。我々は,今年 12 月にパリで行われる気候変動枠組条約第 21 回締約国会議(COP21)において,野心的,強固,包括的かつ変化する国の状況を反映し,国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で全ての締約国に適用される議定書,他の法的文書又は法的効力を有する合意成果を採択するという,我々の強い決意を確認する。

 この合意は,時間の経過に伴い野心の向上を促進する目標の達成に向けた進展をたどるために,その中核としての拘束力のあるルールを含め,透明性と説明責任を強化するべきである。これにより,全ての国が,世界の平均気温の上昇を摂氏2度未満に抑えるという世界全体の目標に沿って,低炭素かつ強じんな開発の道を進むことが可能となる。

 我々は,この目標に留意し,最新の IPCC の結果を考慮しつつ,今世紀中の世界経済の脱炭素化のため,世界全体の温室効果ガス排出の大幅な削減が必要であることを強調する。それに応じて,我々は世界全体での対応によってのみこの課題に対処できることを認識しつつ,世界全体の温室効果ガス排出削減目標に向けた共通のビジョンとして,2050 年までに 2010 年比で最新のIPCC 提案の 40%から 70%の幅の上方の削減とすることを UNFCCC の全締約国と共有することを支持する。我々は,2050 年までにエネルギー部門の変革を図ることにより,革新的な技術の開発と導入を含め,長期的にグローバルな低炭素経済を実現するために自らの役割を果たすことにコミットするとともに,全ての国に対して我々のこの試みに参加することを招請する。このため,我々はまた,長期的な各国の低炭素戦略を策定することにコミットする。

A君:かなり強い表現になっていますが、これは、メルケル首相をはじめとするEUの強い意志の表明なのでしょうね。

B君:オバマ大統領も結構意欲的なので、このぐらいの表現が適当なのだろう。

A君:日本政府も、これに合意したのです。G7の一つとしての正式な目標になりました。特に、2050年の2010年比でIPCCの提案の40から70%の幅の上方の削減という目標は、結構、経済界の、特に、経団連から、強い反対を受けることになるでしょうね。

B君:特に、第三パラグラフの次の部分が重要なのですね。
「2050 年までに 2010 年比で最新のIPCC 提案の 40%から 70%の幅の上方の削減とすることを UNFCCC の全締約国と共有することを支持する」。

A君:今回、2030年までで日本は26%の削減を約束草案に書き込みました。ところが、これはゴールではないのですね。2050年には、2007年に安倍第一次内閣が発意し、その後G8で合意された、「先進国は80%削減」が待っていたのですが、それとほぼ中味が同じ記述が、今回のエルマウサミットで日本政府としての目標にもなった、ということですね。。

B君:今から2030年までの15年間で26%削減。その後、20年間で54%削減。まあ、2倍ぐらいの削減か、と思うと、これが全く違うのだ。

A君:それはそうですね。2013年の排出量が14億トンだとして、2030年までに26%削減するとして、この同じ割合で、削減を続けていったとして、2050年のゴールである80%削減を達成したときの排出量は2.8億トンです。

B君:14億トン×0.74=10.36億トン、次が、10.36億トン×0.74という掛け算を何回やれば、80%削減のゴールに到達するのか、ということを考えなければならない。
 その答えは、5回1回が15年だとすると、75年掛かることを20年でやることになる。
 当然のことながら、これは、例えば、製鉄業にとって見れば、この時期になると、先進国において、鉄はもはや不要なのだというメッセージに読めてしまうのだろう。

A君:鉄ですが、現実に、2050年時点で、どのぐらいの鉄が必要だということになっているのか、これはかなり重要な疑問です。なぜならば、一人あたり10トンの鉄の蓄積が必要だとして、そのときの世界人口を90億、として、蓄積量が900億トンになれば、それで大体満足できるレベル。鉄の製造能力は、中国の莫大な生産能力の増大によって、なんと15億トンにもなった。最近、生産能力の調整を行っているものの、これだけの生産を40年間続ければ、合計600億トンもの鉄が作られる。

B君:21世紀になったときに、どのぐらいの国で鉄がすでに満ち足りているか、ということになると、EUの人口、アメリカの人口、日本、韓国の人口、そして中国の人口半分の合計とすれば、5.0億、3.2億、1.25億、0.5億、6億を足して約20億人。これだけで200億トン分ぐらいの蓄積量があると想定してもそれほど間違っていないだろう。その他にも、インフラがある国も増えているだろう。ということは、今後、600〜650億トンほど作れば、世界中に鉄は満ち足りるということを意味するのではないだろうか。

A君:その後は、リサイクルのみで行けるということですね。やはり、2050年から2060年という年は、様々なものが大きく変わってしまう時代なのでしょうね。

B君:鉄を作っているのは、主として途上国になっているものと思われる。なぜならば、鉄を作る場所としては、1.原料産出地(鉄鉱石)、2.還元剤産出地(今は石炭、そのうち、加えて若干の水素)、3.需要地。以上の三種の地域の合理性が高くて、それ以外の土地では、高級仕様の薄板などを多少作ること可能なだけではないか。

A君:しかし、そう考えることができないと、やはり、二酸化炭素排出量削減そのものが理解を超えてしまうでしょうね。

C先生:まあ、その通りなのだ。しかし、G7が、COP21に対して渾身の支援を表明した形になっている。もともとフランス政府自身のEUによる削減への支援はかなり強力なので、COP21の議論は、鉄鋼業などにとって、かなり厳しいものになることを意味するだろう。

A君:さて、どんなことになるのか、ですが、昨年のCOP20で合意された、COP21での交渉の宿題が、次のようになっています。

・ 各国間の差異化のあり方(「共通だが差異ある責任」原則の反映のさせ方)
・ 各国の目標はまず各国が定める「各国提案方式」で、いかに実効性を確保するか
「参加」と「野心」のジレンマ)。
・ 「適応」の取り扱い。
・ 「資金」、「技術」、「能力構築」の扱い。
「透明性」(報告、評価)の仕組み
・ 合意の法的形式(議定書、その他)

B君:ここに「参加」と「野心」のジレンマと書かれているけれど、全員の参加を目指せば、野心的な削減策が合意されるのは難しく、野心的な削減策を求めれば、全員参加が難しくなる。

A君:日本は、約束草案に関して、次のような意見を国連に対して提出しています。

約束草案について、
■全ての国は、以下の義務を負うべき。
@約束草案の提出
A約束達成に向けた対策の実施
B約束の実施に関するレビューを受けること

B君:日本のような真面目な国は、約束をしたとなれば、その通りに実施するのだけれど、それを他の国にも義務として認識せよという提案だ。

A君:Bのレビューですが、より厳密には、MRVとしばしば呼ばれているさらなる透明性も要求しています。
透明性について、
■既存の算定・報告・検証(MRV)の仕組みから得られる経験や教訓を踏まえ、全ての国に適用される単一かつ共通、効果的、効率的、促進的な事後評価のプロセスが必要。

C先生:さて、このような国際交渉が行われるのだが、国際交渉は国際交渉でしかないとも言える。実際に問題解決につながるのは、どのぐらいの削減を可能にする技術開発とそのために必要な費用だと思う。

A君:費用については、比較的良い状況にあるという評価がエルマウ・サミットのまとめの文書にありますね。目標が1000億米ドルとのこと。12.5兆円ということでしょうか。これに加えて、民間の資金が動くことを期待しているということでしょう。これらが、途上国支援に使われる。

B君:削減を可能にする技術開発だけれど、しばしばイノベーションという言葉で語られている。イノベーションが比較的起こりにくいジャンルが重厚長大型のエネルギー分野なのだけれど、いくつかのキーとなる技術開発は進んでいるような印象だ。

A君:2050年に完成したのでは間に合わないということでもないので、様々な努力が継続的に行われることが重要なのでしょう。

B君:日本でもいくつかのイノベーションのための活動があるのだけれど、やはり、短期的な利潤がどうのという話になると、産業によっては、重厚長大という性格が邪魔になることが多い。

A君:それでもトヨタFCVのミライとか、先端的なものがあります。これが必要になるのは、カリフォルニア州の政策が変わっているからなのですが、「変人」というもののイノベーションを加速することもあるので、ある意味で、貴重品ですね。

B君:カリフォルニア州の大気の質に関するこだわりはすごい。かつてスモッグで悩み、今は干魃で大変な目にあっているので、当然とも言えるのだけれど。

A君:カリフォルニア人は、原発は嫌いのようですね。やはり自由人だからでしょうか。

B君:多分そうだ。むしろ、権威主義者であるドイツ人がなぜ原発が嫌いなのか、よく分からない。

C先生:ドイツ人も、自分が権威主義者なだけに、他の権威主義者が嫌いなのだと思うよ。原発は、なんとなく権威主義的だというのはわかるような気もする。もっとも、フランスがなぜ原発大国になったのか、に疑問を持たないか? 答えは、彼らの合理性にあると思うのだけれどね。
 まあ、それはそれとして、これから11月末までの間は、あっという間にすぎることだろう。
 それまでの間に、10月にはICEFがあって、この国際会議は、COP21の技術面での議論をある部分引き受けようということを目指しても居る。10月7、8日の二日間なので、すべて英語のみで行われる会議であることを厭わなければ、是非、参加申し込みをお願いします。