「社会的受容性獲得のための情報伝達技術開発」(口頭発表:抜粋)


今回はCREST安井班の研究を進める上での予備的な調査を行ったのでその結果とともに報告する。

 

<調査の概要>

7月21日から8月6日まで開催された「21世紀夢の技術展」の東京大学生産技術研究所のブース内で協力を呼びかけ、それに応じていただいた方を対象とした。調査はパソコンを使用し、ビジュアルベーシック(VB)を用いた自動集計方式で行った。調査テーマは8個用意し、回答者に自由にテーマ選択してもらった。各テーマで3〜4枚の情報(画面)を与え、それぞれの画面ごとに回答してもらった。

 

<回答方法>

各テーマの回答方法を具体的に説明する。たとえばテーマが「手洗いと自動食器洗浄乾燥機」の場合、まず最初に「食器洗い機は手間を省く」「4人分の食器を洗う場合どちらがよいか」といった一般的な情報が記載された画面(図1)を出し、どちらがよいかの割合を手洗いと食器洗い乾燥機の合計点数が10点になるように回答を要求する。回答の便宜を図るため、点数の合計が10点になるように「数値変更バー」を設定している。点数をつけた後、「次へ」をクリックし2枚目の画面(図2)に移る。ここでは環境の情報を示し、再び手洗いと食器洗い乾燥機のそれぞれに点数をつけていただく。以下、同様に何種類かの画面を示し、点数をつけていただくことを繰り返し、最後に個人属性に関する質問に答えていただいて回答を完了する。

 

 

 

 

 

 


1 1枚目の画面

 

 

 

 

 

 

 

 

 


2 2枚目の画面

 

<調査結果の概要>

総回答数は5117件、有効回答数は3690件で有効回答率は72%であった。回答者の属性を見てみると、男性が68%、女性が32%で男性の方が多かった。また年齢別に見てみると若い世代に偏っている。職業別ではサラリーマンが44%、学生が35%、主婦が8%となっている。家族構成は、二世帯が52%、単身が25%であった。

回答するテーマの数には制限を設けなかったが、1つだけ答えた人が78%、いくつかのテーマに答えた人が22%だった。

質問項目の最後に、「日常生活でどの程度環境を意識しているか」と各自の環境意識を尋ねたところ、「かなり意識している」「まあ意識している」と答えた人が81%、「あまり意識しない」「意識しない」と答えた人が19%で、思っていたよりも環境を意識している人の数が多かった。質問のしかたを検討する必要があると感じている。

 

<テーマと意見変更割合>

テーマ(表1)は8個あるが、今回はライフサイクルインベントリー(LCI)のデータを示した2テーマ(「普通米と無洗米」、「手洗いと食器洗い機」)に絞って報告する。また、各テーマで情報を数画面提示してその都度点数を回答していただいたが、今回はそのなかから最初の画面に対して2番目の画面の点数が変更されたか否か(以下「意見変更状況」とする)についてのみ検討した。

1 テーマと意見変更の割合

テーマ

情報の種類

意見変更

割合:%

回答数

:件

普通米 v.s. 無洗米

LCI

64

318

水道水 v.s. ミネラルウォータ

CO2排出量

62

655

生ごみ焼却 v.s. コンポスト

CO2排出量

57

386

手洗い v.s. 食器洗い乾燥機

LCI

56

382

缶ビール v.s. びんビール

LCI

55

500

再生紙 v.s. 新生紙

CO2排出量

50

345

飛行機 v.s. 新幹線

CO2排出量等

47

828

ガラスコップ v.s. 紙コップ

CO2排出量

47

276

56

3690

 

LCIと総合判断の比較>

LCI情報を一般市民は受け入れられないのではないかとの予想を基に、「普通米と無洗米」のテーマについて、「LCI」情報に対する意見変更状況を調べた。ランダムに回答者を半分に分け、一方には「LCI」情報を、もう一方には比較対象として「総合判断」情報を示した。

LCI」情報は、水消費量、エネルギー消費量、固形廃棄物量といった9項目について、それぞれ精米1kgあたりの消費量・排出量を表に示し、「主要な環境負荷項目は無洗米の方が小さい」との言葉を添えた。「総合判断」情報は、「環境の観点から両者の最も大きな違いは水質汚濁物質の排出である・・(中略)・・無洗米は研ぎ汁(日本全体の排出量の数%を占める)がまったくでないため水質汚濁物質排出に著しい効果がある」といった言葉とともに、日本国民一日一人あたりのBOD排出量割合の内訳を図を示した。

結果を表2に示す。総合判断を示したグループは61%LCIを示したグループは67%の人が意見を変えた。予想に反してLCIを示したグループの意見変更の割合が若干多いが、有意といえるほどの差はなかった(クラマーの関連係数とχ2検定した結果参照)。しかし、この結果をさらに詳しくみると女性と男性でまったく逆の傾向を示すことがわかった。女性はLCIの情報で、男性は総合判断の情報でそれぞれより意見を変更しやすい傾向がある。検定結果から、すくなくとも「女性は総合的判断よりもLCIを示すと意見を変更しやすい」といえる。

2 性別、提示データ別の意見変更状況(%)

 

総合

LCI

女性

男性

総合

LCI

総合

LCI

不変

39

33

44

24

34

35

42

38

36

変更

61

67

56

76

66

65

58

62

64

(回答数)

100

(165)

100

(153)

100

(70)

100

(82)

100

(152)

100

(95)

100

(71)

100

(166)

100

(318)

関連係数

0.06

0.23 (5%有意)

0.09

 

 

LCIと換算データの比較>

次に、LCIのデータを分かりやすく加工したことによる影響があるかどうかを調べた。テーマは「手洗いと食器洗い乾燥機」を利用し、上記の「普通米と無洗米」と同様に、回答者をランダムに半分にわけ、一方にはLCIのデータ(5項目)をそのまま示し(例えば二酸化炭素排出量をg-C、エネルギー消費をkcal)、もう一方にはデータを加工して示した(例えば二酸化炭素排出量をドラム缶換算で何本分にあたるか、エネルギー消費をガソリン換算で何リットルにあたるか)。解説文は両方とも全く同じものを用いた。

結果を表3に示す。LCIそのままの情報を示したグループは57%、換算情報を示したグループは56%の人が意見を変更し、ほとんど違いが無いことがわかった。しかし、さらに詳しく見てみると、LCIのデータに対して環境意識派と無意識派では逆の傾向を示していることがわかった。ここで、環境意識派とは、「日常生活でどの程度環境を意識していますか」との問いに対して、「かなり意識している」「まあ意識している」と答えた人、環境無意識派とは、「あまり意識していない」「意識していない」と答えた人とする。LCIのデータをそのまま見せると、環境無意識派は意見をあまり変えないが、環境意識派は逆に意見を変更する人が多かった。検定結果から、少なくとも「環境無意識派はLCIのデータそのものよりも換算したデータで意見変更する」と言える。

さらに、表の一部を変えたことで意見変更状況が異なるということは、LCIデータに対して一般市民が何らかの理解を示していることを意味する。展覧会という回答者の積極的な取り組みがあまり期待できない状況下でこういった結果が出ていることは特筆に価すると考える。

3 環境意識別、提示データ別の意見変更状況(%)

 

LCI

換算

環境意識派

環境無意識派

LCI

換算

LCI

換算

不変

43

45

39

45

42

69

42

32

44

変更

57

56

61

55

58

31

58

27

56

(回答数)

100

(187)

100

(195)

100

(161)

100

(162)

100

(323)

100

(26)

100

(33)

100

(59)

100

(382)

関連係数

0.02

0.07

0.27 (5%有意)

 

 

 

<まとめ>

 一般市民の環境情報に対する反応の予備的調査を行った。その結果、

1)LCIデータに対し、特定のグループが反応する可能性が示唆された。例えば、女性は総合的な判断を示すよりLCIに反応するケースがあり、また環境をあまり意識していない人はLCIそのままのデータより換算データに反応するケースがそれぞれ認められた。環境情報を一般市民に公開する場合は、どのような人々を対象にするかによって表示方法を工夫する必要があることが示唆される。

2)従来、LCIのデータ(タイプVラベル等)は一般市民には理解されないとの見解が多く示されていたが、上記結果からその見解は誤りである可能性がある。一般市民はLCIのデータを認知し、なんらかの理解を示すと考えられる。


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