-------


   CO排出抑制技術の進展 
 2011.12.11
           12月9日のCRESTシンポジウム 



 12月9日、日本科学未来館のミライCANホールで開催されたシンポジウムのご紹介で。

 これは、科学技術振興機構JSTのCRESTと呼ばれる枠組みで行われている研究プロジェクトのシンポジウムで、14課題が「CO2排出抑制のための革新的技術」の確立を目指して、個別の重要な未来的課題に挑戦中である。

 詳細は、
http://www.co2-crest.jst.go.jp/
をご覧頂きたいが、筆者が研究総括を努め、領域アドバイザーとして、様々な分野からの豪華メンバーを揃えている。
http://www.co2-crest.jst.go.jp/soukatsu/index.html

 通常のCREST領域では、ある比較的狭い研究分野を領域と定めて、その領域での先端的な研究を行なっている研究者を集める。ある領域内での競争と協調を加速するという手法で、活性化を目指すものである。

 しかし、このCO2領域では、そもそも目指すものが違うから当然なのであるが、全く違った方針で研究課題を集めた。すなわち、達成されるべき社会像(=ゴール)をまず決め、そのために必要であると想定されるあらゆる分野から、CO2排出抑制に資するような技術を集め、それぞれの技術の極限的な可能性と実現性とを見極めるという手法である。これが同時に、この領域全体の目標にもなっている。

 したがって、集まってきた研究者は、科学の様々な分野に所属するの研究者であって、お互いに顔見知りでは無かったと思われる。他の分野がどのようなことをやっているか、この研究分野に参画して、はじめて知ったという人も多いのではないだろうか。

 この領域が目指していることは、こんなことになるだろう。まず可能性のありそうな先端技術のポートフォリオを作ることが第一段階。そして、異なる分野間の情報交換を行いつつ、2030年程度からの実用が可能になりそうな技術はどれかを見極めるのが、第二段階。そして、最終的に達成すべきゴールは極めて困難なものなので、使える技術はすべて使うということが必要であることは明白なので、次の第三段階では、それらをどのような組み合わせるべきかを検討する。そして、最終的には、2050年程度における技術の可能性を見極めつつ、ありそうな組み合わせの提案などを行うことが領域全体の目標である。

 平成20年から採択が始まり、3年間で15課題を採択した。完全なポートフォリオとするために、海洋エネルギーの開発に関する課題や、省エネや電力網に関係する良い課題がもっと欲しかったのだが、残念ながら、そのような領域での研究者があまり存在していないようで、採択できなかった。

 現時点の状況だが、1つの課題が最先端の若手枠に移動したため、以下の14課題が活動中である。

 この領域のシンポジウムは、毎年、かなり刺激的である。様々な研究の進展を、領域を超えて俯瞰的に見ることができるからだと思われる。今回も「みらいCANホール」での開催となったが、実は、この場所は、多くの参加者を集めることが難しいところなのであるが、最後のパネルディスカッションまで、そしてさらにその後の交流会まで、多数の方々に残っていただいた。

 この領域では、以下のような編成で研究を進めている。●は今回のシンポジウムで口頭発表が行われたものであり、■は今回ポスター発表が行われたものである。

 それぞれの課題の内容については、
http://www.co2-crest.jst.go.jp/kadai/index.html
に多少の説明がある。もっともHPの内容は、各チームによってバラバラなので、さらに詳しい内容を知りたいということであれば、個別に問い合わせていただく以外には無いかもしれない。


【H20年度採択課題】
●「低炭素社会のためのs−ブロック金属電池」 内本 喜晴 (京都大学 大学院人間・環境学研究科 教授)
■「高効率熱電変換材料・システムの開発」 河本 邦仁 (名古屋大学 大学院工学研究科 教授)
■「熱帯泥炭の保全と造林による木質バイオマス生産」 小島 克己 (東京大学 アジア生物資源環境研究センター 教授)
■「有機薄膜太陽電池の高効率化に関する研究」 吉川 暹 (京都大学 エネルギー理工学研究所 特任教授)
■「オイル産生緑藻類Botryococcus(ボトリオコッカス)高アルカリ株の高度利用技術」 渡邉 信 (筑波大学 大学院生命環境科学研究科 教授)

【H21年度採択課題】
■「CO2固定の新規促進機構を活用したバイオマテリアルの増産技術開発」 小川 健一(岡山県農林水産総合センター生物科学研究所 植物レドックス制御研究グループ グループ長)
■「海洋性藻類からのバイオエタノール生産技術の開発」 近藤 昭彦(神戸大学 大学院工学研究科 教授)
■ 「海洋微細藻類の高層化培養によるバイオディーゼル生産」 田中 剛(東京農工大学 大学院工学研究院 准教授)
■「異種接合GaN 横型トランジスタのインバータ展開」 橋詰 保(北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授)
■「プロトン型大容量電気化学キャパシタの研究」 宮山 勝(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)

【平成22年度採択課題】
●「固体界面を制御した全固体二次電池の創製」 辰巳砂 昌弘 (大阪府立大学 大学院工学研究科 教授)
●「革新的全固体型アルカリ燃料電池開発のための高性能OH-イオン伝導膜の創生と燃料電池システム設計基盤の構築」 山口 猛央 (東京工業大学 資源化学研究所 教授)●「高選択的触媒反応によるカーボンニュートラルなエネルギー変換サイクルの開発」 山内 美穂 (北海道大学 触媒化学研究センター 准教授)
●「超低損失パワーデバイス実現のための基盤構築」 山崎 聡 ((独)産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門 主幹研究員)


 今回のシンポジウムの直接的な狙いは、平成22年度の採択課題の、最初の1年間での成果の発表をしてもらうことであったが、その内容が、どちらかと言えば電池、燃料電池、デバイスといったものであったため、平成20年採択課題ではあり、2年先輩である内本チームにも口頭発表をしていただく、という構成になっていた。


口頭発表から受けた印象をできるだけ短く表現すれば、以下のようになる。

「低炭素社会のためのs−ブロック金属電池」 内本 喜晴 (京都大学 大学院人間・環境学研究科 教授)

印象:リチウム電池に変わる次の電池を開発することが目的だが、もともと極めて困難な課題である。しかし、この課題で提案されているマグネシウム電池によって、何か道筋が見え始めたような気がする。2030年頃の電気自動車にはマグネシウム電池が搭載されていて、道路交通の姿は大きく変わっているのかもしれない。
 しかし、その実現には、電池の構成要素のあらゆる面での検討を急ぐ必要がある。また、日本の未来の産業競争力のタネになりそうなので、この面での配慮が必要のように思える。


「固体界面を制御した全固体二次電池の創製」 辰巳砂 昌弘 (大阪府立大学 大学院工学研究科 教授)

印象:さすがに、この分野での長年の研究キャリアを感じさせる発表であった。1年間でどのぐらい進化したのかは定かでは無かったので、進歩のスピードがよく分からなかったが、現状で、壁にぶつかっているという印象は無かった。となると、2020年ぐらいには、ポータブルデバイス用のリチウム電池はこのタイプになっていても不思議ではない。電気自動車用が本命とのことではあるのだが、この用途では、10年といった寿命が必要になるので、さらなる研究が必要であるものとも思われる。


「革新的全固体型アルカリ燃料電池開発のための高性能OH-イオン伝導膜の創生と燃料電池システム設計基盤の構築」 山口 猛央 (東京工業大学 資源化学研究所 教授)
印象:これまで実現できていないアルカリ燃料電池に使われる新しいイオン伝導膜材料を開発するという意欲的な研究であるため、全く新しいブレイクスルーが必要である。このような公開の場では、現時点での成果のすべてを発表できていない可能性が高い。それは知財権などを確保してからの発表をすべきだからである。そのような状況であるのかどうか、現場を訪問してから、見極める必要がありそうである。


「高選択的触媒反応によるカーボンニュートラルなエネルギー変換サイクルの開発」 山内 美穂 (北海道大学 触媒化学研究センター 准教授)

印象:燃料を完全に燃やしてCO2にしてしまうのではなく、元の燃料に戻す再生が可能な段階までで反応を止めて、光合成プロセスを変形したプロセスで、元の燃料に戻すというカーボン・ニュートラルサイクル=CNサイクルの提案。具体的には、燃料電池でエチレングリコールを燃料として使うが、シュウ酸に酸化するところで止めて、エネルギーを得る。次に、このシュウ酸を人工光合成というか光触媒というか、そのような技術で還元して、元のエチレングリコールまで還元する。今まで、触媒関係の研究者が考えたこともないこのCNサイクルの成功の鍵は、電極と触媒。
 極めてチャレンジングな課題を提案し、具体的な研究を開始してまだ1年間であるが、なんとかCNサイクルが回り始めたとも言える段階に到達している。今後、だんだんと難しくなるだろうが、この進化の速度がどこまで維持できるかに興味がある。


「超低損失パワーデバイス実現のための基盤構築」 山崎 聡 ((独)産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門 主幹研究員)

印象:研究の進展が相当な速度で行われているようで、ダイヤモンド素材で、世界ではじめてバイポーラ型のトランジスタが作動し、増幅率10が得られた。
 http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20110902_2/pr20110902_2.html
 ダイヤモンドは、非常に抵抗の高い絶縁体であるが、不純物を大量に導入することによって半導体化すると同時に、他の半導体程度に抵抗値を下げることに成功している。
 もしもダイヤモンドが大電流用パワーデバイスに使えるようになれば、現時点で使われているシリコンを置き換えるだけでなく、次世代半導体と言われているSiCやGaNを飛び越えて、一気にダイヤモンド時代が来る可能性もある。なぜなら、極めて耐熱性が高いので、大電流デバイスとして理想的だからであることと、SiCやGaNであれば、引き上げ法などによって単結晶を作ることが必要であるが、ダイヤモンドであれば、薄膜形成プロセスを使って製造することが可能である。というよりも、これ以外に方法はない。
 2020年はまだ無理だろうが、2030年までには、電気自動車のパワーデバイスはダイヤモンドになっていないとも言えない。


パネル・ディスカッション

 毎回、領域アドバイザーがかなりキワドイ雑談をするということで、この領域の名物になっているパネル・ディスカッションである。今回の参加者は、以下の各氏。

領域アドバイザーとして、
◆岡島 博司(オカジマ ヒロシ)
トヨタ自動車株式会社 技術統括部 主査
◆小久見 善八(オグミ ゼンパチ)
京都大学 産官学連携本部 京都大学名誉教授・産官学連携本部特任教授
◆桑野 幸徳(クワノ ユキノリ)
太陽光発電技術研究組合 理事長
◆山地 憲治(ヤマジ ケンジ)
財団法人 地球環境産業技術研究機構 理事・研究所長
◆湯原 哲夫(ユハラ テツオ)
一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 理事・研究主幹

 加えて、今回のパネルディスカッションにおける最大のインパクトが、環境エネルギー関係の研究開発に関わる文部科学省と経済産業省の原課の課長お二人に参加していただけたことである。
◆田口 康 氏
文部科学省研究開発局環境エネルギー課課長
◆福島 洋 氏
経済産業省産業技術環境局研究開発課課長

 さて、パネルディスカッションは、以下のように進行した。

第一段階:領域アドバイザーの技術に関するコメント。

 それぞれのアドバイザーが、自らの関連する自動車、電池、太陽電池、エネルギー全般、温暖化、技術開発の全体像などについて、将来の動向と実現すべき技術のイメージについて短いプレゼンテーションを行った。

 その後、両課長からの感想などを聞いて、このCREST領域での成果を、どのようにしてさらに発展させるか。そして、イノベーションに繋げるために、どのような仕組みが必要かを議論した。

 そこには、伏線として、昼食時の雑談があった。主として、小久見先生と田口課長と議論をしていたのだが、こんな話であった。

 最近の研究費の枠組みでは、あまりにも短期的な研究成果、特に、論文化を求めすぎている。そのため、大学や研究独法などに所属する研究者が、このCRESTのような新しいアイディアを出すことが使命である研究を分担すると、その期間内に、論文を多数書くことが求められて、本来であれば、有力な知的所有権のタネになることも、論文として早期に発表しなければならない状態に追い込まれているのが現状である。

 加えて、開発のある段階で、どうしてもやらなくてはならない絨毯爆撃のような研究手法を実施する必要があることも多いのだが、もともと絨毯爆撃型研究などをしている人材的時間的余裕が大学・研究所にはないため、可能性を十分に検討しつくしたという状況になることが難しい。

 この二つの状況によって、本来、もっと多数得られるはずである将来の戦闘力となる知的財産権や無形のノウハウなどが、十分に出せていない。

 しかも最近の情勢は変わった。中国の方が大学における基礎研究への投資額が多いだけでなく、絨毯爆撃的な研究手法は、もともと中国のような人口の多い国の得意技であるので、そのうち、どの分野の研究開発でも勝てなくなるだろう。

 その他の事情として、この分野の研究のように、実際に企業が商品化するのは、20年後といったことになれば、研究成果をすぐに知的所有権化しても、商品化されたときには知的所有権が切れていたといった状況になることも考えられる。そのためには、本当に鍵になる成果は発表しないで、ある時間冷凍状態にして貯めておくといったことも重要であるかもしれない。

 このような状況を打ち破るにはどのような枠組みが必要なのだろうか。一つの対応の仕方は、ある長期的な枠組みを設定して、その中で研究が進行している5年間程度の期間は、成果の論文化を強制しないで、十分な数の知的財産権となりうるネタを創り上げることを目的とするような新たな研究プロジェクトの枠組みを作ることではないか。

 しかし、大学人などの公的研究者にとって、研究成果を発表することは自らのポジションを高めるために必須の行為であり、同時に、社会的にも求められている。発表を5年間も止める、あるいは、発表件数を減らすことは、研究者としての生命を危うくすることでもある。

 そのためには、大学における研究者の評価システムも大幅に変えてしまうような枠組みが必要なのではないか。

 すなわち、この新しい枠組み、例えば、論文発表禁止・知的財産化型とでも命名できる新プロジェクトで、担当の研究代表者に指名されること自体、社会貢献に資するという意味からも大変な名誉であって、その事実だけで所属機関は代表者を高く評価しなければならないだろう。このような評価基準を作ることが必要不可欠になるだろう。

 最近、イノベーションというものの進め方について若干考えるところもあるのだが、やはりイノベーションには、これまでの枠組みというか、その世界の常識を含めた価値観のようなものを、相当程度ひっくり返すことが必要不可欠なのではないか、と思っている。この日の思いも全く同じであった。

 ある意味で破壊的とも言えるような枠組みをどこかに提案してみたいと思い、パネルディスカッションの参加者、会場に来られた人々に賛否を問うてみたところ、かなりの賛同を得られたように思える。さてどうしよう。

 現在、経済産業省と文部科学省が合同で、グリーンイノベーションをどのように実現するか、そのために大学と産業界がどのように協力すべきか、どのような課題を取り上げるべきか、などを検討する委員会が始まっていて、その座長を務めされていただいている。そこで、この委員会の成果になるかどうか、さらに詳細に渡って検討を進め、提案事項の一つにすることができるかどうか試みてみたいと思っている。