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  温暖化対策を巡る東京都と経済界 2007.11.11
     



 東京都は都内の大規模事業所に対して、Cap&Tradeを含むCO2削減策を2010年から開始したい意向。

 一方、経済界からは反対する意向表明が続出している。

 国が全く動けない現在、東京都は、温暖化を巡って、21世紀文明論争の先陣を切ろうとしている。

C先生:東京都は、2020年までに2000年比で、CO2排出量を25%削減するという目標を公表している(2007年6月1日)。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2007/06/DATA/70h61201.pdf

A君:これは、世界の大都市との協調のもとで作成されたものとも言える。

B君:米国ですら、カリフォルニア州をはじめとする州や、都市の意識はかなり中央政府の意識とは違う。

A君:東京都のCO2排出量の増加量は、日本全体からみても、かなり膨大。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2006/10/60gah200.htm
都内の04年度のCO2排出量は、6600万トンで、これは90年比で15%増。日本全体での7.8%増に比べると倍ぐらいの増加量。

B君:日本全体の2006年度の国内排出量は、暖冬とガソリン高騰の影響で、90年比6.4%増と2005年度の排出から1.3%減少したとのことだが、東京都のデータはまだ見つからない。

C先生:まずは、業務部門からの排出とは何を意味するのか、ということの解明から行おう。
 データを見ると、東京都のCO2排出量の内訳は、かなり日本全体とは当然のことながら違っている。製造業などの産業部門からの排出量が大幅に減っている。1990年度には、産業部門からの排出量が17.4%を占めていたのに、2004年度には、9.6%と目に見えて排出量が減っている。

A君:その差分である約8%分を誰が増やしたのか、というと、運輸部門は、34.7%から34.8%へ0.1%増、家庭部門が23.3%から24.0%へ0.7%増、そして、オフィスなどの業務部門が24.7%から31.6%へと6.9%増となっている。要するに、オフィスや商業施設、さらには、劇場などのエネルギー消費量が増えた。

B君:もっとも、オフィスビルの面積は増えているから、効率が悪くなったとも言いがたい。
 財団法人日本不動産研究所によれば、
http://www.reinet.or.jp/jreidata/topics/pdf_file/j_off0607.pdf
「2005年12月末現在の全都市(本調査の対象都市である東京23区及び政令指定都市)のオフィスビルのストック規模は、床面積78,187,370u、4,417棟である。地域別の内訳は東京5区の床面積39,130,650u(1,965棟)、東京18区の床面積8,529,080u(278棟)、政令指定都市の床面積30,527,640u(2,174棟)である。床面積の構成比をみると、東京5区(50.0%)が最も多く全都市の半分を占め、東京18区(10.9%)とあわせると、約6割を超える。政令指定都市は39.0%である。都市別に構成比をみると、東京5区の港区(16.2%)が最も多く、次いで千代田区(14.7%)、大阪市(14.0%)、中央区(9.3%)、新宿区(6.3%)、名古屋市(5.1%)、の順となる。」

 別のデータによれば、
http://www.regionalplanning.net/seta/enshu2001/gyomu_mid.pdf
東京都区部のオフィス面積は、1990年に、東京5区で3600(単位不明)から1999年には5000(単位不明)と40%増加したとされている。前の文章から推定すると、恐らく単位はha=1万平米なのだが、これだと、上述の記述とあわない。

A君:2000年までは、オフィスビルの供給過剰という現象があったが、その後、大規模オフィスが供給され、空室率もなんとかなっている。最大の供給量があったのが2003年で、六本木再開発、汐留地区、品川駅東口、などなどが一気に供給されている。

C先生:直接的データが見つからないのか。まあ、壊されたビルの面積が良く分からないからかもしれない。
 しかし、
http://www.reinet.or.jp/jreidata/topics/pdf_file/j_off0710.pdf
の図3にあるオフィスビル建築動向を見ると、都区部の毎年の面積増加量が120〜130万平米ぐらいだから、17年間では、2000平米程度の増加。都区部の面積は、先ほどの文章から見ると4800万平米ぐらい。全部で70%増加ぐらいと推計するのが妥当なのではないか。

A君:とすると、業務部門のCO2排出量は、1990年から+46%。これは面積が70%増えたとすると、面積あたりでは多少良くなっているとも言えるのだろうか。

B君:オフィスのエネルギー消費は、建築学会によれば、
http://www.anuht.or.jp/hp/uhf/uhf1804_2.pdf
空調用が圧倒的で47%、照明用が32%。その他21%

A君:別のデータによれば、
http://www.jyuri.co.jp/main_Frame/05_Thesis/pdf/025.PDF (2000年)
空調用が46%(冷房17%、暖房10%、空調動力19%)、照明18%、OA機器類16%、その他、ミッドレンジ以上のコンピュータなどによるOA関係が3%ぐらい。そして、その他17%

B君:その他には、電話交換機、自動販売機、給湯器、給茶器、空気清浄機、などなどが入るということか。

A君:この2つのデータは一致している訳ではない。

C先生:国連大学の給湯器は、やはり電気だから、給湯などの寄与はかなり大きいのではないかなあ。

A君:いずれにしても、1990年当時に比べて、技術的な進歩が見られているのは、空調機器の効率。家庭用に比べると、業務用の効率の向上は遅かったのだけど、それでも1990年から2004年程度までには、かなり向上したのではないだろうか。

B君:照明も、蛍光灯であることに違いはないけれど、高周波点灯、三波長型蛍光灯などの省エネは進んだ。

C先生:ただ、1990年だとまだパソコンが十分には普及していない。そのかわりメインフレームとかオフィスコンピュータは存在していた。

A君:日立パソコンの歩み(年表)が面白いですね。
http://www.hitachiwebcafe.com/siryo_prius.htm
 パソコンで日本語が実用的なレベルで使えるようになったのは実質上PC−9801からか。これが1982年発売。しかし、まだまだそれこそ一太郎の世界。それ以前は、日本語ワープロの世界だった。

C先生:当時、東芝のJ−3100なるラップトップを使っていた。ラップトップといっても、本当に重かった。仕様は覚えていないが、3kg以上だったのだろうか。もちろんバッテリーでは動かなかった。

A君:1989年にIBMがDOS/Vを発表して、IBM互換機で日本語が使えるようになって、というのが1990年の状況だから、まだまだ爆発的な普及以前。

B君:Windows3.1日本語版が発表されたのが1993年。そして、爆発的に普及したのが、Windows95。当然1995年。

C先生:当時のCPUはまだクロックが200MHzといったところで、消費電力もそれほど多くなくて、それほど熱くなるということもなかった。しかし、モニターはCRTだったから。

A君:結果的には、OA関係の消費電力が増えて、冷房の電力などに直接影響しはじめたのだが、その後、液晶ディスプレイやノートパソコンを使用することになって、最近では多少ましかもしれない。

B君:1990年に比較すれば、OA機器やコンピュータによる消費電力はかなり増えたのだろう。

C先生:本日の本当の話題である東京都の新しい取り組みに対して、朝日新聞の記事が11月8日にでた。この記事で、オフィスビル関係の団体である不動産協会は、「オフィスビルは今後10年間程度増え続ける。無理な削減義務は不合理で過度な規制。日本経済の中心である東京の役割を十分に認識すべきだ」と述べている。

A君:なんとも。何が言いたいのか良く分からない。無理でない削減義務ならば受け入れるとも読めるが、本音は全く別という感じの表現。

B君:やはり、経済成長を阻害すると言いたいのだろう。

C先生:まあ、そんなところだろう。他の業務部門の検討をしてみよう。

B君:業務部門というと、オフィス関係だけではなくて、デパートやスーパー、さらには、コンビニなどの商業施設、ホテルなど、そして、劇場などもある。

A君:デパートなどは、照明をかなり省エネ化したりして、原単位(単位面積・営業時間)では、改善しているという。

B君:しかし、コンビニの24時間営業が始まったのはいつのことだ。調べてみよう。

A君:コンビニの定義は、面積が250平米以下、営業時間が14時間以上/日、だということを始めて知った。

B君:分かった。
http://www.sej.co.jp/company/enkaku.html
セブンイレブンが1974年に第一号店を東京都江東区豊洲に出店して、その翌年の1975年には、福島県郡山市で24時間営業を開始している。

C先生:かなり早い時期から7−11ではなかったのか。

A君:ローソンが一部の店舗で、24時間営業の見直しを行うとのこと。深夜勤務の店員のことを考えると、深夜の売り上げの少ない店は、閉鎖した方が良いに決まっている。

B君:売り上げで競争するからいけない。利益で判断すれば、深夜営業の採算性が低いのならば、深夜は閉店した方が良いということになるだろう。

C先生:東京都のCO2排出規制に対して、日本百貨店協会は「省エネ型照明器具への交換を進め、単位面積・時間あたりのエネルギー消費量を90年比で7%減らした。総量規制では、店舗拡大や営業時間の延長ができなくなる。高いハードルでは、意欲を失う」、と述べている。

A君:デパートは、まだまだ営業時間を延ばそうというのだろうか。

C先生:昔は、デパートは朝10時〜夜6時ぐらいだった。それが7時まで、8時まで、9時までと延びている。

A君:人々の買い物のやり方が変わった。しかも、バブルがはじけてから、デパートで買い物するのはむしろ特殊な階層になった。

B君:デパートは、やはり高級指向の方が似合うのだが、一時期ユニクロに代表される値段優先を世の中が受け入れた。

C先生:流通業は、どうも消費者のわがままを受け入れないと商売にならない、という思い込みが強いようだ。北欧などにいくと、「店が開いていない。買い物できない」、という現実に直面して、「日本という国の凄さ」「そうやらないと生きることができないという思い込みの惨めさ」を同時に感じるのだ。

A君:話をホテルに移して、ホテルの消費エネルギーは、なんでしょうか。

B君:ワシントンホテルは省エネに熱心なことで有名だが、そこに報告書がある。
http://www.washingtonhotel.co.jp/eco/index.htm

A君:ただ、このデータだと良く分からない。換算をしてみると、電力関連で、年間5000トンぐらいのCO2発生。A重油、都市ガスで4700トンぐらい。電力は、冷房と照明。燃料系で、暖房と厨房でしょうか。

B君:いやいや。ワシントンホテルは、リン酸型の燃料電池を入れたり、コジェネなどもやっているので、難しいところだ。

C先生:ホテルの難しいところは、省エネも顧客次第という部分があることだろうか。エネルギー発生側での工夫は、ワシントンホテルはすべてやっているようだ。

A君:水力発電をもっている軽井沢の星野リゾートのような特殊な例があれば別ですが。

B君:多少の流れがあれば、マイクロハイドロの導入はしてみたいところ。

C先生:ホテルやリゾートは客商売だから見えないとことでの勝負というところか。

A君:いわゆる高級ホテルだと、顧客もわがままだろうから、自分の快適性を損なうような省エネなどということを受け入れない。

B君:ゴージャスという言葉と浪費とは本当は違うのだが、日本の似非セレブの連中には、その違いが分からないかもしれない。

C先生:まあ、大分長くなったが、業務部門というもののエネルギー消費関係の常識としては、大体こんなものだろう。

A君:映画館などでは、映写機なども電気ですが、まあ、大したことはなさそう。

B君:まあ、遊園地などは大分違うだろうし、学校も相当違う。大学の研究所なども相当違う。しかし、例外的ということでよいだろう。しかし、様々な消費電力も重要だが、それよりも重要なのは建築物の構造が変わることによる冷房・暖房負荷の削減のデータは無いものだろうか。

C先生:日建設計などは、断熱設計などの省エネ設計にかなり努力をしている。また、JAXAのビルのように光ダクトなどの導入もしている。照明のエネルギーが1/3になるようだ。

A君:ということは、多くのオフィスビルでも、断熱構造をしっかりと作りこむこと。特に、窓からの熱の流出・流入が多いのは常識なので、窓を最低でも二重にする必要はある。

B君:北海道あたりはそうなっているかもしれないが、東京あたりではまだまだだろう。

C先生:オフィスビルの寿命は60年以上あることを考えると、エネルギー機器は、途中で機器の寿命が来てしまうだろうから、改善も可能だが、ビル本体の断熱構造などをもっとしっかりとやって欲しいところだ。

A君:しかし、デザイナーで断熱に熱心な人などは極少数派でしょう。

B君:六本木ヒルズ森タワーなどに入る種族は、断熱よりも、米国型大型車型の趣味の人達でしょうからね。

C先生:さてさて、やっと東京都の話題に入る。しかしすぐ終わる。なぜならば、比較的単純なのだ。

概要を述べよう。
まず、東京都の04年度でのCO2排出量は約6600万トンで1990年比で15%増。うち、オフィスビルなどの業務部門が35%をしめ、その部分は、90年比で46%も増えている。

 一方、石原都知事は、独自の温室効果ガス削減目標として、2020年に、2000年比で25%削減といった目標を掲げている。このままでは、目標に到達しないことはほぼ見えている。

 一般にはあまり知られていないと思うが、東京都は、大規模事業所の二酸化炭素排出量を把握するために、すでに、「東京都環境確保条例」を制定し、100年後の地球と人類の存続をかけたという「地球温暖化対策計画書制度」なるものを平成17年度からすでに運用中である。そして、自主削減努力を評価しているが、中間の点に至らない計画が半数であった。そのため、東京都は「自主的な努力では、削減を達成できない」としている


 この条例をもう少々詳しく見てみよう。まず、目的は次のように説明されている。
「温室効果ガスの排出量の大きい事業所を対象とした温室効果ガス排出量の削減を目的とする」。

 対象は排出量の大きな事業所とされており、燃料、熱、電気の使用量を原油に換算した合計量が、年間1500kL以上のもの。
 ただし、熱、電気は他人から供給されたものに限り、かつ、再生可能エネルギーを変換して得られたものを除く。
 業種で分けると、対象事業所としては、次のようなものがある。
 鉱業・製造業などの工場、清掃工場、地域熱供給事業者、上下水道施設、オフィスビル(テナントビルを含む)、デパート、ホテル、病院、学校、庁舎、計算センター、ホール、劇場、研究施設など。国や自治体の公共施設を含む。ただし、電気供給事業者の発電施設については、別の枠組みを適用する。

 要するに、電気供給事業者を除くとほとんどすべての事業所ということになる。そして、該当する事業所総数が約1300ヶ所。都内の業務・産業部門の排出量の約4割をカバーする」。

C先生:これまで、5段階評価で最上のAA評価を取っている事業者は、
http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/ondanka/data/h17keikakusyo-press/press-tennpu.pdf
にリストになっているが、残念ながら、東京都におけるCO2排出ワースト10、すなわち、
(1)東京大学本郷キャンパス
(2)日本空港ビルティング
(3)サンシャインシティ
(4)恵比寿ガーデンプレイス
(5)六本木ヒルズ森タワー
(6)防衛庁市ヶ谷庁舎
(7)ホテルニューオータニ
(8)東京ドーム
(9)日本放送協会
(10)品川プリンスホテル
のうちで、AA評価になっているのは、
(4)恵比寿ガーデンプレイス
(7)ホテルニューオータニ

の2事業所だけ。

A君:当然、他の8箇所にも努力をして貰いたい。

B君:これに対して、様々な反対がある訳だ。六本木ヒルズ森タワーだとこんな記述が朝日新聞に出ている。
 「約2万人が働くビルに入るのは、IT企業や外資系金融機関。高性能サーバーが多くの電力を消費し、CO2排出量は05年度で6万597トンだった」。森ビルも「小さい数字ではない」と認める。一方で、03年開業時から床面積50平米ごとの温度センサー設置などの効率的なエネルギーシステムを導入。「経済を引っ張る先端企業が入居している。これ以上の削減は厳しい」と言う。

A君:ヒルズのエネルギー源は、かなり凝った省エネ仕様になっていて、通常の20%削減ぐらいは実現できている。しかし、入っているテナントが、省エネとは縁の無い人々だというところが大きい。

B君:「日本経済の成長」を支える企業群が入っているのだから、CO2排出量が多いことぐらいでガタガタ言うな、という感じなのだろう。

C先生:そして、簡単に結論に行く。東京都がどんな仕組みを提案するか、それはまだまだ良く分からない。しかし、東京都の意図とそれに反対する産業界のメンタリティーを解釈すれば、「二つの文明観の衝突」だとも言える。すなわち、20世紀の米国型文明観と、21世紀地球型文明観との衝突である。未来が見える人達には、21世紀地球型文明観が優先されるべき時代になっていることが明らかに分かるはずだ。
 「過去から今」の価値観「今から未来」の価値観。このような衝突は、どのような時代にでも起きたことなのだが、今回のものは、もっとも厳しい。なぜならば、「20世紀が指数関数的上昇の世紀」だったが、「21世紀は、上に凸の曲線の世紀」であって、この右肩下がりをどのように受け入れるか、という大きな問題があるから。
 日本は、すでに、右肩下がりを始める時期が近くなっているのだが、多くの人々には、どう受け入れたものか、その方法論が分からないのだろう。