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   エネルギーでも官邸に忖度 06.23.2018
        忖度政治の害はほぼ全域に及ぶようだ

               




 6月18日に配達された日経朝刊のトップ記事であった。その内容は、この記事のタイトルのようなもの。それによって起きることが、「思考停止が招く危機」だという。森友、加計に続く第3の大問題になるかと一瞬思ったのだけれど、この新聞を読んでから30分以内に、安倍内閣にとって幸運なことには、午前7時58分に、震度6+の強震が大阪を襲い、死者が出てしまった。そのためもあり、大きな話題にはなっていないようだ。もっとも、エネルギーに関して重大な関心を持っている日本人は極めて少ないので、地震がなくても、同様の反応であったかもしれない。

 もともとの記事(どうも有料会員限定)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31878360X10C18A6MM8000/
見出しに番号がついているので、シリーズもののようだ。
 エネルギー日本の選択(1) 思考停止が招く危機 原発「国策民営」の限界
 これが、6月18日の見出しでした。
 そして、6月19日から、一面の囲み記事になり、そのタイトルは以下の通り。
6月19日 環境後進国 脱せるか
6月20日 核のごみ 行き場なく
6月21日 CO2減 技術力問う
6月22日 送電網に既得権の壁


C先生:この記事は、「原発の国民的受容度が上がらないのが問題だ。もしこのまま行けば、2050年末に運転できている原発の基数は、最大でも18基。2070年までに完全にゼロになる」、という内容。日経は、誰が「思考停止をしている」と言いたいのだろう。この記事を見たときに最初に思ったのは、このこと。その答えは、様々な議論をしてからでないと明らかにできないみたいだ。それぐらいのあいまいな新聞記事だった。日本人は概してエネルギー問題に無関心だと言えるので、刺激を与えるための方便として使った、というのが今の段階での感触ではあるのだけれど。

A君:エネルギー問題について日本人の関心が薄い本当の理由は、この記事のサブタイトル「原発『国策民営』の限界」なのだけれど、加えて、政治も行政も、社会に対して、「どうしたら良いと思いますか」、と聞いていないからではないですか。さらに事態は深刻で、社会に十分な情報が出回っていないので、関心が薄いの当然、というのが実態

B君:そうだな。さらに悪い影響を与えているのが、様々なポピュリズム政治家が、反原発を謳った方が票を取れるもので、そう主張すること。原発は完全に安全なものではないけれど、福島第一原発の事故は、すぐにお役御免になる老朽原発に対して、東電が本当に僅かな安全投資をしなかったから起きたと思っている。

A君:原発に限らず、あらゆる大きなエネルギー源は危険。水力発電だって、ダムが決壊することがありますからね。

B君:ただし、原発の場合について言えば、原発というものがそもそもどのようなものなのか、説明が全く不足。特に、福島第一事故の本当の原因について、しっかりした説明が行われているとは思えない。

A君:確かにその通りですね。福島原発事故の本当の原因は、起きる可能性が無いとは言えない状況であったにも関わらず、僅かな投資をしなかった東電のスタンスでした。そもそも、核分裂の連鎖反応が連続的に起きるからエネルギーを取り出すことができるのですが、地震を検知すると、制御棒が強制的に入り、連鎖反応が止まります。これは原子炉スクラム(Scram)と呼ばれますが、制御棒が入り終わるまでにどのぐらいの時間がかかると思いますか読者の皆さんへの質問です)。

B君:その答えは、2秒ぐらい(日本語のWikiでは4秒と記述)。地震の場合、P波(縦波:初期微動)がまず来てから、強いS波(横波)が来るが、直下の断層が動くと、2秒以内にS波が来るので、これは流石に困る。そこで、原発の直下の断層の存在については、厳しい検査が行われている。

A君:原子炉スクラムで核分裂は止まります。しかし、分裂した原子核は不安定なものが多いので、徐々に熱を出しながら安定な核種に変わって行きます。その熱を冷やさないと、福島第一事故のときのように、非常に高融点(1855℃)の金属であるジルコニウムで作られた燃料棒の鞘が溶けてしまうのです。

B君:冷やすには、水が必要。当然、それを送るポンプが必要。ポンプを運転するには電力が必要、ということになる。

A君:簡単なことなのに、そのあたりの説明が全く不十分。このような説明ができないのは、東電を守ろうとする国策派が居るからなのでしょうね。「なんでこんな簡単なことが対応できなかったのか」と言われるのが当然のことですから。再稼働原発には、給水車と電源車がそれこそ何台も用意されているのに、福島第一には無かったのでは。

B君:原子力規制委員会の対応が厳しいので、再稼働原発は、この水と電気の供給を確実にすることと、敷地内に津波が入り込まないように防潮堤を嵩上げすること、などなどの当たり前ではあるが、非常に費用の掛かることを再稼働の条件にしている。

A君:ですから、再稼働原発は、地震、津波があっても、冷温停止まで行ける条件を満足したと言えるでしょう。勿論、想定の範囲内の地震と津波が対象であって、未来永劫、絶対に起きないということではないですが、想定される事故発生確率はほぼゼロになった。再稼働原発の発電コストが、現在の化石燃料燃焼による発電よりは、まだ安価のようで、再稼働ができれば、電力料金は下がります。再生可能エネルギーは、特に、砂漠における太陽光発電と、偏西風が一定に吹いているヨーロッパの海上の風力は、非常に安価になりました。しかし、日本では、残念ながら、再生可能エネルギーが安価になる可能性は無いですね。太陽光発電は、日本の場合には十分な未利用地が無い。風力発電は風況が地形が複雑なために余りにも悪い。海が急に深くなっているため、洋上風力が難しい。

B君:小泉進次郎氏は、次のような提案をしている。福島第二原発の廃炉が遅すぎたというのが、論点なのだけれど、福島県には県内の電力需要の100%以上を再生可能エネルギー化するという計画がある。これを早くやれば、復興も早くなったという主張だ。
 小泉進次郎議員が原発離脱提案
 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31824550V10C18A6EA3000/

A君:小泉元首相は、安倍首相は無理だが、後継の「ポスト安倍」が脱原発を表明することを期待しているようですね。
 小泉元首相の原発離脱提案
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27815200X00C18A3PP8000/
 まあ、再生可能エネルギーがどのぐらい現実性があるのか、それを明らかにすること。いずれにしても、停電リスクは非常に大きいですからね。それ同時に、再稼働原発がどのぐらいのリスクがあるのか、感情的になるのではなく、リスクを定量的に比較してエネルギーを使うという態度にならないと、日本経済は潰れますね。
 そう言えば、しばしばC先生が色々な機会に、人々に質問していますね。
質問1:「地震が起きると、原発はそれを感知して、制御棒を入れて、核分裂を止めます。感知してから制御棒が完全に入って、核分裂が止まるまでにどのぐらいの時間が掛ると思いますか?」。
質問2:「実は、核分裂が止まるだけではダメなのです。確実に停止状態にするには、満たすべき重大な条件があります。それはなんでしょう」。
 これらにはは、すでに答えがでたけれど、まだ続きの質問がある。
質問3:「日本の国土と人口などを前提としたとき、自然エネルギーだけでエネルギーを供給すると、自給率は何%ぐらいになると思いますか」。 答=恐らく50%前後。

A君:さらに続きの質問がありますね。
質問4:「自給率が100%に行かないとしたら、エネルギーを輸入しなければなりません。パリ協定を遵守すると、2050年にはCOの排出量を80%カットしなければならないので、石油・石炭・天然ガスの輸入はほぼゼロにしなければならないのです。何を輸入しますか」。答えは考えて下さい。

B君:まだまだ質問は続く。
質問5:「省エネで行けるのだ、という主張もありますが、今後、どのようなところで省エネができると思いますか。例えば、冷蔵庫はどうですか。エアコンは?」。

A君:一般社会が原発や電力業界、省エネなどの実態に対して感覚的(≒既得権益?)に反対していることを知ってか知らずか、経団連は、新しい原発、例えば高温ガス炉の開発をやるべきだ、という考え方のようです。ただし、果たして、その能力が日本にあると思っているのか、という疑問が湧きます。

B君:現時点だと、残念ながら、開発能力が十分だとは思えない。それに、新しい原発だということになると、社会もなかなか容認しないので、実用上難しいのではないか。

A君:むしろ、これはいつもの論調なのですが、現在は、「パリ協定」の無理解が日本という国の環境分野での最大の国際的リスク。プラスチックの海洋への影響などの無理解がその次のリスク。

B君:そして、そろそろ最大のリスクになろうとしているものとして、大量に所持しているプルトニウムがある。これも、「パリ協定」にも関連するリスクなのだけれど。

A君:記事の中に、2030年にパリ協定の日本の約束(正式には、日本の脱COの貢献)を守るのであるば、原発は30基が動かなければ難しい。現在動いている原発は9基。特に、東日本に多い沸騰水型と呼ばれるタイプの原発では、動いているものが無い状況。

B君:繰り返しになるが、再稼働原発の発電コストは安い。すなわち、30基が再稼働すれば、電力コストは安くなる。

B君:原発30基を動かすことは、国民的には電力コストの大幅低下になるのだけれど、この日経の記事によれば、そのような方向の政策であることを安倍政権はアナウンスをする気は毛頭ないということ。

A君:実際の記述は、「安倍政権はエネルギー問題でリスクをとるつもりはない」(政府関係者)。すなわち、この記事の本当の狙いは、先日、決定されたエネルギー基本計画が、前のバージョンから全く進展しなかったのは、大問題だと言いたい。すなわち、このような事態になったのは、経産省、特に、資源エネルギー庁が、官邸の意向を汲み取り、原発を争点にするのは避ける方が賢明という過度な忖度が働いたという見方。

B君:さらに記事の記述は続いて、再生可能エネルギー22〜24%、石炭や天然ガスの火力は56%とする目標値も据え置いた。しかし、それには、前提があって、原発で20〜22%の発電量を達成できなければ、エネルギー供給が不安定になることはかなり確実。そうしたリスクも、今回のエネルギー基本計画では言及されていない。

A君:経産省も再生可能エネルギーを「主力電源化する」としたものの、その覚悟を文章の中に入れ込めなかった。

B君:欧州は、再生可能エネルギーの導入が急速に進展しているという報道は多いものの、その実態をよく見ると、火力48%、再エネ26%、に加え、原子力26%。その原発の多くを抱えるフランスが他国の電力不足を補う供給能力を維持している

C先生:要するに、安倍内閣は、長期的なエネルギー対策のような重大な問題であっても、選挙民の関心が低く、むしろ原発ゼロといった方が、選挙で勝てるのが事実なので、原発を擁護して、支持率を下げるつもりはまったくない、ということが本音であるということ。
 要するに、国策民営であった原発も、もはや、国策ではないという判断を安倍内閣はしているということだろう。

A君:忖度政治が普通になってしまった現状であるため、ここでも再び、この国の未来を全く考えず短期的な判断しかない決断が行われてしまった。

B君:世界の政治家で、トランプ大統領がもっとも短期的な視野しか持っていない政権であるのは確実だけれど、G7の中では、その次が安倍内閣であることは確実。

A君:勿論、原発がもはや今世紀後半といった遠い未来の向けての解では無いのも事実。この日経の記事では、「ある米投資銀行の試算によると、安全対策費用がかさむ新設の原発の発電コストは約16円/kWhに上昇しているが、一方で、急速な普及と技術革新が進む風力や太陽光は世界で5セント程度まで低下。すでに原発を逆転した」。となっているのですが、再稼働原発の場合には、そんなことは無いですね。このあたりの記述も不十分な記事です。

B君:その先に、「原発には1兆円単位の巨額の投資がかかる」、との記述があるのですが、それは新設の場合。日本ではこのぐらいで済むのですが、英国だと、これが2兆円を遥かに超したとのこと。それは、もしも万一原発が事故を起こして放射性物質を放出したとすると、偏西風に乗って、ヨーロッパ全域に拡散する。となると、被害補償の金額が計算もできないぐらい多額になる。そのため、資金を提供する投資側がプレミアムを求めている。そのため、2兆円を超した。実際、英国のように地震の無い国だと、そのような確率は極めてゼロに近いのだけれど、投資サイドにしてみれば、そのようなリスクは犯したくないので、こんなことになっているのでだろう。

A君:日本の場合だと、新設に英国ほどの費用が掛る訳ではないのだけれど、もう一つ大きな問題があることを忘れてはいけない。それが、プルトニウム問題。これが北朝鮮の核からの離脱と関係するのですね。

B君:日本は現時点で46〜7トンぐらいのプルトニウムを持っている。もっともほとんどは欧州に預けてある。しかし、北朝鮮の核問題が順調に解決すると、この大量のプルトニウムが次の核関係の問題になることは、ほぼ確実。となると、このプルトニウムをどうやって処理するのか、その方法論を日本が自分で持たなければならない。

A君:長崎に落とされた原爆はプルトニウム爆弾だけれど、その中に入っていたプルトニウムは、たったの6.2kg。40トンのプルトニウムがあったとすると、長崎原爆を6500発作れるということです。恐ろしい。

B君:パリ協定も気候正義という言葉によって、ヨーロッパは、この協定を守らない国に対して、「不正義の国」というラベルを貼ろうとしている。そして、その次あたりに来るのが、「プルトニウム不正義」というラベルなのではないだろうか。特に、ドイツなどのプロテスタント国がそうなのだけれど、人間活動は、若干不自由な方が適切な状態なのだという基本的理解がある。要するに、なんでも自由にすると人類というものは、目先の利益だけで動いてしまって、これが不正義な事態を引き起こすのだというキリスト教思想を持っている。

A君:パリ協定の本当の怖さは、そこにある。欧州は、パリ協定を無視する国に対して、「気候不正義」だとして経済封鎖に近い状態を作り上げることを目指している

B君:要するに、今回の日経の記事は、「安倍内閣は、自分の不利になることは一切やらないという態度だが、これは、政治家としては不正義だ。もっと国の未来のことを考えろ」、ということを主張しているように読める。

C先生:かなり過激な結論だけれど、実際、現時点の日本の政治家で、パリ協定の怖さとか、プルトニウム不正義の怖さとかを本当に理解している人が何%ぐらい居るのだろう。少なくとも、安倍内閣が強制したように見える忖度政治は、正義だとは思えない。政治家だけではないが、日本人にとって苦手な言葉の最大のものである「正義」を使うことが、パリ協定以来、国際社会では常識になった。これがパリ協定の最大の影響だと思う。これが、どうやら成功しそうな情勢なので(例外が対トランプ大統領で、米国では効きが悪いのは事実だが)、またまた正義を使って次の戦略に取り組みそうな国々、それが欧州各国だ。日本が関連するものとしての最大のものがプルトニウム。どうやってこの所持量を減らすのか、そのために真剣に考えなければならないのだが、今のところ、政治家の誰もが真剣に取り組んでいるようには思えない。国民・国益重視よりも、政治家個人益(再選)重視になっているので。