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  途上国の環境人材育成 01.13.2008
     



 環境省は、2007年度からの新予算で、アジア地域における大学院などでの環境人材の育成、すなわち、どんな種類の人材が必要であるか、それをどうやって育てるかといった検討を行っている。

 国連大学での議論などから、その考察を行ってみたいが、実は、この議論は、環境人材に限った話ではなくて、社会を農業社会から工業化する際に必須の条件のようだ。


C先生:今月末、環境省の委員会で、このような報告を行う必要があるために、そのための考え方の整理をしたい。

A君:環境人材といっても、様々な種類がありそうに思います。日本の例を見ても、どのような人材が居るのか。

B君:環境大臣から学生まで様々。
*国・自治体レベルでの環境対応方針を決める人材
−外交交渉の場での担当者
−過去の環境問題によって引き起こされた問題への対応
−未来に起きそうな環境問題への事前対応
*環境分野別の専門家・NPO
−汚染状況などを計測する実務家
−生態系資源の持続的利用の実務家
−廃棄物処理の実務家
−地球レベル環境問題への技術開発者
−企業における環境対応
−環境コンサルタント
*環境教育者・研究者
−大学・大学院レベル
−小・中・高
−生涯学習
*市民活動・学生活動
−オピニオンリーダー

A君:恐らく、現時点での日本に存在している専門家は、その国の発展段階に応じてニーズが変化はするものの、最終的にはいずれ必要になる。それが発展段階に応じてどのように変化するか、という議論が必要なのでは。

C先生:経済の発展段階と環境問題とは極めて密接に関係する。自給自足段階−>自然採取段階−>農業段階−>軽工業段階−>重工業段階−>精密工業段階−>設計工業段階−>サービス化段階、といった発展段階を経るのが普通だろうか。

A君:そして、それぞれの段階で決まるとは言うものの、経済規模によっても発生しがちな環境問題は変わる。自然採取段階も、木材の輸出といった産業が盛んになれば、森林資源の枯渇が問題になる。

B君:農業段階で問題になるのは、土地利用変化、水資源問題、地下水汚染問題、農薬などのPOPs問題。

A君:軽工業段階で公害型の環境汚染がスタート。しかし、この段階に至ると、水道などの整備が行われる。そして、公害も精密工業段階になると、ほぼ解決。

B君:ただし、重工業段階から、エネルギー型の環境問題、すなわち、大規模大気汚染が始まり、温室効果ガスの放出が急増する。同じことではあるが、資源の大量使用が起きる。

C先生:そんな発展段階だろうが、必要な人材を議論するとなると、日本から現地に進出した企業での環境人材を対象とするのか、それとも、それほど豊かな予算がない途上国内からの人材育成を目的とするのか、それで話も異なる。

A君:もう少々具体的に言えば、日本人を対象として、途上国の現地に派遣する環境人材を考えるのか、それとも、途上国内で日本人が行う現地人を対象とした人材育成なのか、それによっても考え方が違う。

B君:まずは、日本から途上国に派遣されて、そこで、活躍できる人材を最初に、それから、途上国内で国際機関・支援機関・企業などが行う人材育成について考えるべきだろう。

C先生:そうしよう。まずは、日本から派遣され、現地で活躍できる人材。
 すでに例示されたように、それぞれの領域での専門家は勿論必要なのだが、それ以外にも人材が必要。それは、各国の開発段階に応じて、起きそうな問題を予め予測し対応するということが必須だからだ。ところが、このような包括的なものの見かたができるには、それなりの発展を遂げた国の発展の過程を見ていることが条件のようだ。

A君:すなわち、それなりの包括的なものの見方ができる人材が必要。

B君:行政経験があれば、大体そのような訓練は出来ている。なぜならば、同じ部署に在籍する期間は2年ぐらいで、様々な部署を回されるから。

C先生:それでも、人によっては、ある専門に近い部署を小さく回る場合もある。だから、最初から意図的に大きく回す人材を作る必要があるだろう。

A君:日本の環境を専門とする大学院レベルでの人材育成は、昔からの二文字学部の研究者とそれほど変わらない方法が取られている。したがって、包括的なものの見方を育成するには、それなりのプログラムが必要

C先生:それが国連大学に赴任してすぐに始めたサマースクールの狙いだった。「鳥瞰型環境エクスパート養成講座」、という感じで、様々な状況を見極めて、環境の政策を決めることができる人材を育てることを目的としていた。

A君:よくこのHPで主張しているように、もっとも悪くは無い政策を選択できる人材の育成。

B君:環境問題の解決とは、基本的にリスクの最小化が基準になる。そして、主なリスクとしては、個々人の生命・健康のリスクと、種としてのヒトの持続性に係わるリスクに分けることができる。

C先生:その話は、昨年の環境科学会のときの記事にした。もう少々整理ができたら、再度議論してみたいが。
http://www.yasuienv.net/SEnvStudiesNagasaki.htm

A君:いずれにしても、リスクのような包括的に使える概念を用いて、発展段階を整理し、その時点におけるもっとも必要な対策を考えることが必要だということでしょう。

B君:日本から途上国に誰かを派遣するとして、十分な人数を派遣するほどの予算は無い可能性が高い。となると、現地で、指導者レベルを対象として指導能力を高めるためのコースなどを開催し、間接的に学生などへの指導内容が高まることが望ましい。それがもっとも効率的だからだ。

C先生:それは国連大学の目的の一つだ。先進国から途上国への知識移転を如何に効率的に行うか、どの方法がベストなのか。これが国連大学の挑戦課題だ。最近、様々な試みを行った結果、大学の先生達に新規情報や新規のスキルを伝達するのが有効なのではないか、という結論に到達している。

A君:例えば、どんな情報やスキルを伝達するのですか。

C先生:温暖化防止対策をいくらやったところで、どうしても、いささかの温度上昇は起きる。となると、適応策が必要。例えば降水の分布は変わる可能性が高い。また、ヒマラヤなどの降雪を水源にしている地域では、利用可能な農業用水の季節依存が変わって、必要なときに必要な水が得られなくなる可能性もある。また、山岳地帯においては、突然の豪雨で瞬間的な洪水が起きるということもある。ということで、降雨を正確に予測することが重要。

A君:天気予報。長期予報。警戒警報。

C先生:そう言ってしまえばその通り。地球全体の気候変動をある地域の気象にダウンスケールして計算する。あるいは、豪雨の予報を行う。こんな技術を必要と思われる途上国の専門家や大学教授に移転する試みをバンコクのアジア工科大学を会場に借りて、第一期をすでに行った。データは、GISを用いて表現する。このような技術やノウハウを伝達して、自分達で技能を磨いて貰う。さらに、降雨センサーなどの設置も行ってもらう。

B君:ソフトウェア技術であれば、コンピュータさえあれば可能だけど、降雨センサーを設置したり、それからのデータを自動的に収集するといった技術は、伝達したとしても、機器頼みのところが多いので、旨く動作するとは限らない

A君:日本製の高級機器などを使うと、万一故障したときに、その保守にカネが掛かるし、また、部品の入手に数ヶ月掛かることもありえますね。

C先生:そろそろ、次の話題に移行する段階になったようだ。日本から人材を派遣して、現地で何をやるかとなると、このような話になるが、さらに話を進める必要があるのは、途上国において必要な環境人材を育成するためのハードウェア面での工夫などの話だ。

A君:教育だけの話、すなわち、単に教育を受け、能力があったとしても、それだけで十分という訳ではないという話になりつつある。

C先生:最近だと、先進国からの援助が浸透しているから、例えば、水道の機器にしても、あるいは、分析用の機器にしても高級なものが途上国にも入っている。しかし、それを運用する段になると、消耗品が高いために有効活用されない、といった問題もあるが、それよりも決定的に問題なのは、機器が故障するとその修理に相当の時間が掛かること。その間のバックアップ用の装置があるケースは少ない

A君:となると、対策は日本製の製品を修理をする能力を身に着けた人材を用意することだ、と言いたくなるが、実際にはそうは行かない。なぜならば、そのような高度な専門知識を身につけると、給与が高い先進国に出て行ってしまう。なぜならば、途上国に高級な機器が多く存在している訳ではないので、途上国に留まっていても、技量を活かす機会が少なく、したがって給与も低い。

B君:いわゆるブレインドレイン。頭脳流出だ。先進国向けの技術を身につけると、途上国に留まることは無い。

C先生:その通りで、途上国で技術を身につけるとしたら、その途上国で活用できるレベルの技術を身につけることが必要。

A君:途上国では、大学などに、それほど高級な機器は入っていない。となると、結局、30〜40年前の日本のように、手作りの装置を使って分析をやるといった能力を伝授することが必要

B君:単機能の電子機器、例えば、電圧計などといったものは故障しにくい。パソコン類も、部品を自分で調達し、予備部品をいくつか用意すれば、完全に駄目になるという可能性を下げることが可能。

A君:真空装置にしても、ボタンを一つ押せば自動的に真空になるといった先進国向けの装置ではなくて、全部手動で操作といったものにすれば、比較的安価に作ることも可能。

B君:最近の日本の大学に導入されている装置は、自動化が進みすぎている。日本でならばメンテナンスにそれほど時間が掛からないから、これでも良いが、これを途上国に導入することは、余り適当ではない。

C先生:自作の機器で環境分析・測定などを行うことができる。そんな技術力をもった実務者を途上国に育てることが重要なのではないか、という結論は正しい、と思う。

A君:自作の装置であれば、保守点検も完璧にできるはず。となれば、稼働率も確保ができる。

B君:しかし、日本には自動装置しか製品として存在していないのでは。

C先生:新規装置を入れたら、廃棄する古い装置は、どこかに集めてチェックし、そして使用可能な部品を選択して、部品レベルで輸出するといった仕組みを整備することが重要なのかもしれない。

B君:以前のODAなどでは、最新の機器をなにがなんでも輸出して、それが十分に活用されるかどうかは二の次といったものもあった。

A君:それを基本的な技術というか、装置を自作できるような基本知識と基本的な部品を供与するという形に変更して、途上国支援をすれば、それが本当の意味での技術力を構築することになるのでは。

B君:なにごとも一足飛びには行かない。途上国援助も、本当の意味での技術力が付くような形にしないと、将来の自律的な発展が期待できない。

C先生:過去を振り返れば、日本の研究能力の向上のために、日本の企業が生産した研究装置が多大な貢献したと言えるだろう。例えば、電子顕微鏡でありX線回折装置、NMRであり各種CT類など。半導体などの製造装置にしてもそうだ。途上国が本当の意味で先進国を凌駕することは、自分達で世界にない装置を作ることができないと、実現は不可能だろう。技術移転は重要だが、既存の先端的技術の移転だけではなくて、根本的な、あるいは、地味だけど基本的な技術を移転することが重要なのではないか、と信じる次第。

A君:中国も、現在はまだ日本や欧州からの装置を使って製造業をやっている。

B君:中国が自製の装置を作って製造業を営み、そして、そのような装置を世界に売るようになって、やっと本物だと言える。

C先生:北京の精華大学に行っていたが、研究装置がどんどんと輸入されていて、すごい勢いを感じることができた。しかし、その装置は大部分が外国製で、まだまだ中国製は少ない様子だった。金に飽かして世界から装置を買って先端研究を進めることは可能だが、そのレベルの先に何があるかを考えることが必要だ。これからの中国の問題点も、そこだろう。