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  カーボンオフセットだけでは無意味 05.18.2008
     



 最近になって、新聞などでもカーボンオフセットが紹介されるようになってきた。旅行に行く時、カーボンオフセットを推奨する傾向もでてきたようだ。

 全面的に悪いというつもりはないが、これだけですべて解決、というものではない。一つの限られた手法に過ぎない。同時に粛々とやることがあるのではないだろうか。

 さらに、古紙偽装以来、「環境偽装」なる言葉が出てきている。もしもカーボンオフセットをもちいた偽装をやる気になれば、極めて簡単にできてしまう。このような偽装を絶対にできないようなシステムを構築することが、まず、カーボンオフセットを普及させる以前に重要なことではないだろうか。


C先生:前回のHPでご紹介したように、オーストラリアのエアーズロックに出かけていた。明らかに2トン近いCO2を排出した。特に、行きのフライトはガラガラだったので、もしも人数割にされたら、とんでもない量のCO2を出したことになるのではないだろか。

A君:2008年の年賀はがきにもカーボンオフセットをうたうものがありました。通常50円の年賀はがきには、寄付金付きの55円のものもありますが、カーボンオフセットのものは、この5円の寄付金を排出権の購入に使うもの。

B君:もともとカーボンオフセットを発明したのは、英国。環境担当の大臣であったモーレイ氏が創始者だとされているが、はたして本当か?

A君:eicネットが2005年にこんな記事をだしていますから、本当なのでは。
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=10981

C先生:モーレイ氏が最初に考え付いたかどうか、それは分からないが、イギリスが発明したビジネスであることは間違いのないところだろう。その後、イギリスでは、排出権取引に係るさまざまな仕組みが成立している。これで次の時代にもロンドンを金融の中心地としての地位を確保したいのだろう。

A君:飛行機に乗るときのCO2発生を相殺するのが、メジャーのような気がしますね。

B君:それはそうだ。なんといっても、一度、海外旅行をしたら、それこそ、日本人の個人としての平均的な排出量に近い排出量を一気にだしてしまうので。

C先生:Carbon Neutral という会社のHPに、飛行機でのCO2排出量の相殺に必要な金額を算出するサイトがある。
http://www.carbonneutral.com/cncalculators/flightcalculator.asp
 そこで、先日のエアーズロックへのフライトの計算をしてみた。エアーズロックに直接行くフライトがある訳もないので、乗継をどのように取り扱っているのか、それは疑問。それはそれとして、こんなメッセージが出た。
 Your flight will cover 14964 Km and produce 1.6 tonnes of CO2
 たしかに多い。日本人の年間CO2発生量は、全発生量を人口で割れば、大体10トンにもなるが、そのうち、個人生活に直接原因があるものは、年間2.2トンぐらいだ。

A君:2回海外旅行をしたら、いくら省エネを頑張っても無理。飛行船を復活させれば、かなり省エネ海外旅行が可能になるかもしれないですが。

B君:飛行機の燃費は、自動車を一人でそこまで運転するぐらいだと思えば良い。そのメッセージでも分かるように、往復15000km。これは、自動車で行ったら、大変な距離だが、飛行機なら片道9時間。

C先生:このCarbon Neutralという会社の面白いところは、いきなりオフセットに必要な金額がでることだ。しかも、2種類出てくる。
(1)Futures portfolio cost - £ 22.40
This package helps bring about new technologies, and save the CO2 equivalent to your flight.
(2)International communities portfolio cost - £ 12.00
With this package, you'll be helping some great projects in developing countries which will save the same amount of CO2 as your flight produces.

A君:要するに、(1)だと、新しい技術を開発するためのコストを負担せよ。(2)は、途上国での二酸化炭素排出量を削減するコストを負担せよ。

B君:(1)に付随している説明によれば、インドで、マイクロ水力のプロジェクトを遂行して、CO2の削減をするというもので、CDM(clean development mechanism)に相当すると書いてあった。
 一方、(2)の方は、このところ地震で大変な四川省にダムを建設して、その電力で石炭火力を減らすことによって、CO2も削減できるという説明だ。

A君:マイクロ水力をインドで、というものがFuture Projectというのも若干妙なような気がしますね。四川省のダムがInternational Communitiesというのもなんとなく妙なような。

B君:トンあたりの二酸化炭素の価格にしてみると、幅があって、途上国との協力で1530円/トン、未来プロジェクトで2850円/トン。


C先生:いずれにしても、カーボンオフセットを行うには、どこかで実際にCO2の削減を行うプロジェクトが必要で、それを大別すると大体、次のようになるのかもしれない。
(a)植林プロジェクト
(b)自然エネルギー利用
(c)CDM型
(d)未来投資型
 このCDM型や未来投資型という分類は、その中身が多様で、自然エネルギーを含んだりするものだから、単純な分類ではないが。このCabon Neutral社のように、未来プロジェクトへの投資といった形のものもあって、様々だ。

A君:未来への投資だと、この投資によって、本当に二酸化炭素の排出が削減されるかどうか、必ずしも明らかではないことになってしまう。

B君:どこまで信頼して良いものか、なかなか分かりにくい。

C先生:カーボンオフセットも、まあ、英国が発明した商売なものだから、商売となると、まさにどこまで信頼性が確保されているのかどうか、これがもっとも重要だということになる。

A君:個人的には、カーボンオフセットをやるのは良いが、それで満足してはダメだ。もっと他にやることがあるだろう、という感じなのですが。

B君:それは、自分自身できちんと省エネをしろ、ということか。その通り。確かに、海外旅行を一度やってしまったら、多少の省エネでは取り返すことが不可能だ。しかし、そこでカーボンオフセットを実行して、いくばくかのお金を払って、そして自分は無罪だという免罪符を買うことで終わりだったら、何の意味もない。

C先生:まずは、自分の行動にかかわる二酸化炭素排出量を意識することが重要だ。これを最近では、「見える化」と呼ばれているようだ。自分の行動で、どのぐらいの排出量があるのか、その意識なしに、排出量の抑制などはできないから。

A君:基本的なCO2排出量の計算のやり方を教育すべきなのではないだろうか。

B君:それはその通り。かなり前の話になるが、ライフサイエンスが大学に普及しはじめたころ、米国ではとんでもないことをやった。理系文系を問わず、すべての大学生に、ライフサイエンスの基本を教えるということを原則とした。

A君:日本の大学では、すべての学生にCO2排出量を自分で算出できるような技量を身につけさせることをやってみたらどうだろう。

C先生:実は、現在、文部科学省「現代GP」の枠組みの中で、
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/gp/004.htm
昨年採択分の一覧がここにあるが、
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/07/07072005/003/004.htm
上智大学が獲得したプロジェクトに協力していて、文系理系の学生を問わず、自分でCO2発生量を計算で出すことができる、また、LCAというものの概念を理解できる、という講義に協力している。

A君:まずは、自らの行動の「見える化」からですね。これは必要でしょう。しかし、できる人は、文系にはほぼ皆無。

B君:まあ、当然でしょうよ。

C先生:当初、文系の学生諸君のレベルが分からなくて、苦労をしたのだが、やはり予想通りということがいくつかあった。その一つが、電気の使用量(電力量)というものをどういう単位で測っているかを知らなかったこと。下宿などをして一人で生活していれば、自分で使った電気代が何を基準にして課金されているかを知らないということだから、困ったものだとも言える。

A君:kWh(キロワット時)という単位を知らないことは、まあ、当然なのでは。

B君:携帯電話でネットなどをアクセスすれば、パケットという量でその課金が決まることは知っているだろう。

A君:パケットというものがどのぐらいの量なのか、本当に知っていますかね。

B君:まあ、kWhよりは知っているのでは。なぜか、と言えば、ケータイの場合だと、多く使ったと思えば、料金にもろに跳ね返るから。電気代だと、まあ、適当に使ってそれで多少高くついても、見えないから仕方がない。

C先生:そんな感じだろう。使った電気量は見えないようだった。次に驚いたのが、効率という概念が分かっていないことだった。電力量に比べれば、はるかに一般的な概念だから、当然、分かっていると思ったのだが、実は、効率というものが有効な仕事/時間、有効な仕事/エネルギー、有効な仕事/金額などというように割り算で表現できる量であることが分かっていなかったような感じだった。

A君:いったい何をどうやって教えたのか、そのうち、本HPでも公表をする必要があるのでは。

C先生:そのうち努力をしてみるか。実は、先週、LCAの基本概念をやっとやって、次回が、カーボンオフセットとフードマイレージをやる予定なのだ。

B君:本日のHPの底が割れた。

C先生:すでに述べたが、カーボンオフセットは、ひとつの方法ではあるが、これですべて解決というものではない。その前にやることをやって、そして、どうしても省エネができない場合には、仕方がないからカーボンオフセットというスタンスであるべき。

A君:まずは、「見える化」。そして、その支払ったお金で何をおこなわれるのか。その実体と意味を理解することが重要

B君:植林型が日本だと受けるのではないだろうか。日本のカーボンオフセットはどうなっているのだろう。

A君:まあ、特に、学生だと単純に森林がCO2を吸収すると思っているでしょうからね。

B君:googleでカーボンオフセットを検索して上位からカーボンオフセットを実行でしるページを見てみるか。

(1)日本カーボンオフセット
http://www.co-j.jp/home/

概要:
 末吉竹二郎氏が理事長で、運営委託会社が株式会社イースクエア
 まあ、理事にもなじみの顔が並んでいる。
計算:
 家庭、交通について、このサイトで計算ができる。
 ここにも、フライトによるCO2発生量の計算ソフトがある。
成田−エアーズロック往復での計算
距離 13,636km CO2排出量 4,006kg

*羽田−成田往復での計算
距離 2,082km CO2排出量 838kg
 どうやら英国のものよりも、排出量が2倍以上に算出されるが、その理由は、航空を飛ぶジェット機が排出する水分も、温室効果が強く、約2倍というファクターを掛けているためと思われる。

対象:
 国連によって認定され、京都議定書の目標達成に活用できるタイプの排出権(クリーン開発メカニズム=CDM事業から生み出された排出権)を取得し、オフセットに活用します。

価格:
 残念ながら、実際に登録するまで分からない。(その後、実際にオフセットをしてみた。その経緯は、日経エココミーのコラムに上げたので、そちらを参照して欲しい)。http://eco.nikkei.co.jp/


(2)カーボンオフセット
http://www.carbonoffset.jp/
概要:
 CO2吸収林管理団体:NPO法人Woodsman Workshop
代表 水野雅夫さん(岐阜県林業作業士)

カーボンオフセット募金では、以下の算出式にもとづいて1本の木のC02吸収量を設定しています。

対象:
 募金1000円で、ヒノキ3本を1年間育てると75kgのCO2。( ヒノキ1本の年間吸収量=25kg )

※算出式
CO2吸収量=幹材積成長量×拡大係数×容積密度×炭素含有率×(44/12)

価格:
 13300円/トン

(3)カーボンパス
http://carbonpass.jp/

計算:
 ここでも様々なものが計算できる。

 9000マイルの飛行で1512kg。この価格が6048円と算出された。

対象:
 「CDMに係る京都クレジットに充当される」という。

価格:
 4000円/トン


C先生:いろいろな形態があるようで、まだ、これが決定的というものでもなさそうだ。

A君:いずれにしても、カーボンオフセットで免罪符を買うのは悪いとは言わないが、それで、日常的な省エネを忘れてしまったら、何にもならない。

B君:ちょっと調べてみたら、環境省もいよいよカーボンオフセットに取り組み始めたようだ。2008年2月に報告書を出している。これは後ほど検討を要する。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset/guideline.html


C先生:さすがにきちっとした検討をしている。
 基本的な認識として、次のような指摘がされている。

(1) オフセットの対象となる活動に伴う排出量を一定の精度で算定する必要があること
(2) オフセットに用いられるクレジットを生み出すプロジェクトの排出削減・吸収の確実性・永続性を確保する必要があること
(3) オフセットに用いられるクレジットのもととなる排出削減・吸収量が正確に算定される必要があること
(4) オフセットに用いられるクレジットのダブルカウント(同一のクレジットが複数のカーボン・オフセットの取組に用いられること)を回避する必要があること
(5) オフセット・プロバイダーの活動の透明性を確保する必要があること
(6) オフセットが、自ら排出削減を行わないことの正当化に利用されるべきではないとの認識が共有される必要があること


A君:その通りですね。特に、最後の6番目の記述は、非常に重要。

B君:それに、もしも加えることがあるのならば、現在の京都議定書の枠組みの中では、飛行機による排出量は、どこの国にも属していない。したがって、現時点では、むしろ、国内での排出量削減が優先されるべきかもしれない。
 ポスト京都の枠組みでは、EUは、発着国の割り当てる予定のようだ。本当は、乗っている乗客の国籍に割り振るべきだと思うが。

C先生:カーボンオフセットは、なんとなくロハス的な匂いがする。自らの行動を本当に解析的に見て、そして、可能な省エネを着々とやる、という地味だけど確実なアプローチから多少距離があって、ムード的に温暖化抑制ができたような気になれる、という感触がある。現時点の日本で流行るのは、したがって、功罪相半ばするようにも思える。むしろ、「全員にLCAを教え込む」といったような活動の方が良さそうに思えるのだが。